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 アーニランは、今日も、泣いていた。藤原アーニランは、エジプト系の母との二人暮らし。母子家庭で育った。そのエキゾチックな面立ちは、遥か中東に由来する彼女の遺伝子を容易に推定させる。しかし、異質性を排除しがちなムラ社会の特性にはしばしば悩まされ、さらに思春期特有の自己嫌悪がこれを増幅させて、アーニランは常に孤独を感じていた。

 仕事が忙しい母親に代わって、そんなアーニランを慰めてくれるのは、一匹のミニチュア・ダックスフントだ。アーニランはこの小犬をこいぬ座の一等星から「プロキオン」と名付けていた。

 アーニランが、自分と同じ色の毛並みをブラシで整えて耳の後ろでふたつに結わえてやると、プロキオンはまるで女の子のようだった。こんな優しい目をしているプロキオンの全身に、野兎の首の根を抑えつけるほどの勇敢な血が流れていることなど、アーニランにとっては図鑑だけのつまらない情報にすぎなかった。なぜなら、アーニランの手で、この小犬を自分好みにしつけたから。

 ひとりぼっちの天文部の活動を終えた後、いつも十八時ちょうどに帰宅していたアーニランは、英語塾の講師の仕事をしている母親が帰宅するまでの時間を、プロキオンと過ごすことになっていた。

 ところが、明日から夏休みだという七月二十日。いつもなら、愛らしく玄関まで出迎えてくれていた彼が出てこない。家の中はもちろんのこと、いつもの散歩コースや心当たりの限りを探してみたものの、結局プロキオンは見つからなかった。

 唯一の友達を失ったアーニランは、いつも以上の強い孤独感にさいなまれ塞ぎこんでしまった。食事もせず、布団をかぶってしばらく泣いていると、そのまま眠ってしまう。

 そこに、妖しげな光を放つ水兵が枕元に立って、

「アーニランよ、心配しないで。来年の一月九日には、愛するプロキオンはこの場所に戻ってくるでしょう。その日まで待ちきれないというのならば、明日の朝早くに新潟から出る北海道行きのフェリーに乗りなさい。その大船で出会う勇者が、プロキオンの足跡を見つけ出してくれるでしょう。」



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