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路地裏の雑貨屋さん  作者: まる
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拠点を決める

8.拠点を決める




南の地方都市も、他の町と同様に問題なく城門を通過する。


前にも述べたが、本来はこんな事は殆どないと言う。


いくら商人が雇って、商人が信頼し、保証しようが、町には全く関係ない事なのだ。

人足、護衛すべての身分証明を一人一人行っていくのが普通である。


それが終われば、荷物の確認である。

違法品や盗品、毒物、危険物などが無いか、一つ一つ丹念調べていく。


この一連を町に入る前にやるのだから、時間がかかって当然である。


そして検査を受けるのは、自分たちだけではなく、自分たちより前に到着した者たちも行われるので、待たされる事になり、どんどん時間だけが過ぎていく。


「しかし、本当に今回の商いは運が良い!」


ホクホク顔で、商人が語り掛けてくる。


時間がかかって当たり前の、審査に殆ど時間を取られず、町の中に入れたのだ。


「ダンジョンの大量発生の危機により、商人の足が南の地方都市から遠ざかりつつあると言う噂が何より大きいですな」


ダンジョンが増え、モンスターが溢れ出せば、自分たちの生活や生命が脅かされる。


商人だって商売のチャンスとは言え、遠慮したいだろう。

当然、そこに来ようと希望する人足も減り、護衛の仕事も減っていく。


物流が停滞気味で、物資も不足がち・・


多少の問題は目を瞑って、どんどん商人を受け入れ、人と物を回す方を選ぶ。

城門の衛兵の数を増やし、検査を簡略し、スムーズに町に入れるようにしたのだ。


「さあ、もうひと仕事ですよ。皆さん!」


乗合馬車にであれば、町に着けば『はい、さようなら』で済む。


しかし今回は商隊の人足として雇われている以上、商人の店に行き、最後の荷卸しをして、給金をもらうまでが仕事である。


「皆さん、ご苦労様でした! よろしければ帰りもお願いしますよ!」


商人は声を張り上げ、労い賃金を支払っていく。


「皆さん、色々お世話になりました!」


僕もこの商隊に雇ってくれた事を感謝し、人足一人一人に礼を言って別れを告げる。






僕がこの南の地方都市に到着したならば、次に向かうべき場所は、当然商業ギルドである。


「すごく助かっちゃったなぁー」


商業ギルドへ向かう道すがら、思わず呟いてしまう。


王都から、南の地方都市まで徒歩なら十日ほど、乗合馬車でその半分となる。

商隊はどの町を通るかによってマチマチであるが、今回は二つの町に寄って半月であった。


ちなみにこの世界は、一週間が八日であり、一か月は八週間、八か月で一年である。


人足の雇い方は様々あり、僕は日当払いで、その日その日を自分で宿を決め、食事を決め、次の日の準備をするタイプだった。


今回の商売が日々順調だったため、僅かではあるが日当に心付けがあった。

最終日の今日は、特に割増の日当が支払われたのである。


普通に旅すれば、宿代に食事代で完全にマイナスになるはずだった。


人足と言う仕事をしながらではあるが、護衛付きの安全な旅で、賃金も支払われて旅費は完全にプラスである。


そのため王城で役人からもらった当座のお金にも、一切手を付けていない。

更には『神様のお駄賃』で一日銀貨一枚も、半月分が貯まっている。


「皆にこんなに良くしてもらったんだ。早いところ世界管理者のお願いに取り掛からなくっちゃね」


この世界は魔法が使えるか使えないで、人が差別される。

世界管理者のお願いは、この差別を少しでも無くすために、だれでも魔法を使えるようにする事だ。


商人に教えてもらった通りに、商業ギルドへの道を進んでいく。




南の地方にはダンジョンが多いだけあって、流石に冒険者の数が多い。

また軍隊の寄宿舎や訓練施設も、至る所に点在していた。


そういう人たちを支えるための、生産系の仕事と言うのも多くある。


「王都の商業ギルドも大きかったけど、負けず劣らす此処のも大きいなぁ・・」


当然の事ながら、生産系の仕事を持つ人たちを纏める商業ギルドも大きくなる。


ちなみに王都の中に商業ギルドは、いくつもの支店がある。


これは地方にはない細かなギルドが王都には存在し、また王都には必要のないギルドも存在するためだ。

数多くのギルドそれを統括するのが商業ギルドの役割であり、役割によって支店が違ってくる。



例えば・・


王都は王都故に美観を意識しており、好き勝手に屋台を出す事はできない。

また勝手に花売りをする事も許されていない。

この屋台を管理するのが屋台ギルドで、花売りを管理するのが花屋ギルドとなるが、地方は商業ギルドが、一括して代行している。


美観と言えば、ゴミ拾いやドブ攫いを行う清掃ギルドもあるが、いつも人手不足のためか、冒険者ギルドや、他のギルドにも依頼される事が多いと言う。


ただ王都には不要と思われる漁業ギルドや鉱山ギルドが存在する。

これは統計や報告などの事務方の支店と言う意味合いが強い。


その他に農業、酪農、狩人、鍛治、布職人、革職人、木工、薬師、道具などなど・・、ギルドは職人の種類だけ存在するので、これらのギルドを統括するのが商業ギルドである。


また商人にはギルドに収める額によってランクと言うものが存在するが、高ランク、つまり大手商会専用の支店が王都の商業ギルドには存在し、一般人はもとより、並の商人では立ち入る事すら許されない。


勿論商人を目指す人や、低ランクの商人用の窓口もあり、マッヘンが王城の役人に教えられたのが、この窓口のある商業ギルドの支店である。


地方都市が大きいとは言え、都市の中だけのギルドを管理すれば良いので、主に一つ、あとは精々支店が一つあれば十分事足りる。



深呼吸を一つ、意を決して、商業ギルドの建物の中に足を踏み入れる。


南の地方都市の商業ギルドも、王都と同じで職員や人々でごった返していた。


「(うーん、王都より明らかに人が多い・・)」


王都の商業ギルドは、当然仕事が多いので、役割でいくつもの支店に分かれている。

この南の地方都市は結構大きいが、一つしかないので、人々が集中してしまうの。


並んで待っていると、自分の順番がやってくる。


「ようこそ、商業ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「実は・・」


自己紹介で、パソナと言った職員にも、王都の商業ギルドで話したと同じ話をする。


「なる程、そうでしたか・・。大変ひどい目に合われましたね。ご安心下さい! 王都の方でも言われたように、商業ギルドが全力を持ってサポート致します!」

「はぁ・・、お願いします・・」


これまた王都と同じように、力強く宣言される。


話を聞けば、南の地方はダンジョンが多く、ダンジョンやモンスターの討伐する機会が、他と比べると各段に多い。

となると、必然的にスタンピードの危険性が高まり、ダンジョンの攻略のためには、魔法使いたちの協力は必須である。


民衆を助け無いと言う事はないが、やはり高慢、高圧的な態度や厭味ったらしい物言いをする者が多いそうだ。

助けてもらっている以上、なかなか強く言えない現状もあると言う。


何もしない王都の魔法至上主義者たちと比べれば、まだましな部類ではあるらしい。


「お話を聞く限り、道具作り、もしくは細工師的なお仕事がよろしいですね?」

「はい、その予定です」

「残念ながら、どちらの関係でも、今はお弟子さんの募集はないみたいですね・・」


いくつもの棚の中から、求人の台帳を持って来て、ペラペラと捲っていく。


「それに今の年齢的には難しいでしょうし・・」

「年齢も問題になるのですか?」

「ええ。もちろん飛び込みで、お弟子さんになる方もいますが、余程の才能がないと大成できません」

「そう言うものでしょうか?」

「必ずという訳ではありませんが、職人系の技術と言うのは、小さい頃からの経験がものを言います」

「なる程・・」


見ただけ、聞いただけで、師匠を超えられる天才と言うのは、ほんの一握りだ。


向き不向きと言った程度の振り分けは必要となるが、技術の習得というのは、日々の繰り返しと積み重ねの成果である。


「成否は一旦置いておくとして、ご自身一人で成し得る技術はありますか?」

「一応やってみたい事はあります」

「となりますと後は金銭的な問題でしょうか」


たった一人で一から何かを始めるには、生活基盤が整っている事はもとより、道具や材料といった必要経費も馬鹿にならない。


成否を置いておかれるのは困るが、あくまでも下準備が整っていなければ、失敗するのは目に見えている。


「一応、城を追い出される際に、支度金と言う名目で、口止め料的なものはもらっていますので、これでお店を開こうと思っています」

「分かりました。ある程度のお金があるのであれば問題ありませんね。あとは商業ギルドに登録していただきます。が、お店を持つのは時期尚早では?」

「城での仕事で培ったノウハウを生かしたいと思いますので、現時点では他の人にその技術を知られたくないと言いますか・・」


技術云々ではなく、僕のギフトの秘匿性の問題なんだけど。


「ふむ、なる程。そういう事でしたら・・」


職人の持っている技術の秘匿性は、商業ギルドに関わらず、どのギルドでも当然の事なので簡単に納得してもらえる。


「不躾ですが、資金は十分でしょうか? 支度金として如何ほどお持ちでしょうか?」

「これでどうでしょうか?」


城の役人からもらった金属の板を手渡す。


「・・えっ!? こ、これって、王家御用達カードじゃないですか!?」

「王家御用達カード? 何ですかそれは?」

「王族や貴族が、各ギルドや大商人に支払いに使うためのカードなんです」


個人が大金を持って歩くのは危険で、荷物にもなるので、安全性や利便性をよく考えられている。


高額硬貨もあるが、結局は枚数が必要になり、嵩張り重くもなる。

カードなら金額を書き込むだけなので、一枚で済むという訳だ。


偽造を防ぐために、限られた人々だけで流通し、いつどこで誰にどのような目的で発行されたか確認した上で換金、と言った面倒なやり取りが多いんだとか。


まあ王家御用達カードにしろ、高額硬貨にしろ盗まれれば終わりではあるが・・


「では確認しますね。・・えっ!?」


額面を確認した瞬間、職員がピタリと動かなくなる。


「この金額って、本当ですか? って言うか本当ですよね!?」


驚きの声と共に再び動き出すと、カードを指さし僕を凝視する。


「これだけあれば、借家じゃなくて、購入も可能ですよ! どんなお店が良いとかご希望はありますか?」

「そうですね・・。住むスペースと作業場とか店舗のくっついた家ってありますか?」

「住む場所プラス作業場、もしくは住む場所プラス店舗の物件は多いのですが、三つ揃っているとなりますと・・、ちょっとお待ち下さいね」


ギルドで押さえている物件を調べ始める。


「流石に表通りとなりますと、空いていませんが、ちょっと裏通りなら、選り取り見取りな上に、お釣りが来て、機材に資材が十分賄えます」

「そうですね・・、お世話になる事が多いと思うので、商業ギルドと冒険者ギルドの近くぐらいでありませんか?」

「冒険者ギルドですか、何故です?」

「僕が製造販売しようとしている道具類は、冒険者向けな部分が多いと思っていますので」

「ふむふむ、それは重要ですね・・。おおっ!? ラッキーですね。二つのギルドの丁度真ん中辺に空き店舗が一つありますね!」


二階建ての店舗で、一階部分が店舗部分と台所やトイレ、風呂と言った水回り部分で、二階が作業部屋と自室や書斎、寝室と言った居住部分と言う。


「じゃあ、その物件でお願いします」

「しかしラッキーですね」

「何がですか?」

「ここ空き家になってからしばらく経つので、つい先日値下げしたばかりなんですよね」

「それは本当に幸運ですね」


職員が僕の商業ギルド登録しつつ、物件の登録をするために席を外す。


「(ラッキー・・、幸運・・。あり得るのか、此処までの幸運が?)」


あまりにも幸運な出来事が続きすぎている事を、この時間を使って考える。


タラントには、『災い転じて福となす』と、幸運(小)。

アビリティには、『星の巡り合わせ』と、幸運(中)。


二つの幸運(小)と(中)を合わせて、一日銀貨が一枚もしくはそれ相当の幸運。


「(良い商人に出会えた事で『星の巡り合わせ』と、割増賃金で二つの幸運(小)と(中)は使い切ったはずだよなぁ。『災い転じて福となす』だと、家が見つかっただけで十分じゃないか?)」


あまりにも過分な幸運が、どうして自分に起きるのか首を傾げる。


「(どうして、タイミング良く値引きまでされていたんだ?)」


いくら考えても答えは出ないし、この先もずっと分からない事なのだが、実はこの能力を考え違いをしていたらしい。


これは前の世界の世界管理者、『転生セミナー』の女性の話から、この能力は乞食や奴隷、命乞いなど、プライドを切り捨てなくては得られないと思い込んでしまっていた。


しかしそれは、あくまでも最低限の発動条件の例でしかなかった。


『星の巡り合わせ』や『災い転じて福となす』と言う能力は、機会がなければお金で、機会があれば、いくらでも幸運が舞い込んでくるものだったのである。


何でかなぁ、何でだろうなぁと、止めどもなく、そんな事をダラダラと考えていると職員のパソナさんが戻ってくる。


「お待たせしました。こちらが登録証になります」

「ありがとうございます」


王家御用達カードと同じ大きさ、色合いのカードが渡される。

違いは微細な加工ぐらいで、王家御用達カードが、文字や紋章が浮き出るように鋳造されているのに対して、ギルドカードの方は直接文字が彫られている。


「それでは店舗の方にご案内しますね」

「お願いします」


これから魔道具マジックアイテムを作り出す拠点へと向かう。





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