商業ギルド
7.商業ギルド
町の中の行きかう人々を捕まえて、商業ギルドまでの道を聞く。
「(さっきの衛兵に聞いておけばよかったって話だよね、失敗失敗)」
そんな事を思いながら、目の前の商業ギルドの建物の扉を潜る。
ざっと周囲を見渡すと、長いカウンターがあり、席数は五ほど用意されている上に、立ち話ができるような場所もある。
中は人でごった返していて、カウンターはすべて埋まっており、そのすぐ奥に、職員が仕事をするのであろう机が五つあるが、職員は誰も居ない。
「(さて、どうしたものか・・)」
そう思った瞬間、一人の女性職員の手が空き、自分に気づいて声をかけてくれる。
「ようこそ商業ギルドへ。どうぞこちらへ」
「あっ、はい」
手で指示されるままの席へ移動して座る。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ご用件・・」
職員の笑顔の質問に対して、僕の表情は凍り付く。
「(・・不味い、なんて答えよう)」
ふと思う・・
『僕は異世界から召喚された者ですが、魔法が使えない役立たずだと、城を追い出されてきました、あはは・・』
「(言えない、こんな事絶対に言えない!)」
国王たちは、勇者召喚の成功に傷がつくと、僕を追い出したのだ。
さっきもらったお金には、口止め料も含まれていると考えた方が良い。
レジスタンスもいると言うから、変な事に巻き込まれかねない。
「えーっとですね、実は城から追い出されまして・・」
「・・どういう、事でしょうか?」
女性職員の顔が曇り、僕の言葉が聞こえたのか、周辺の職員もこちらを見る。
職員だけではなく、カウンターにいた人たちもこちらを見る。
「え、えーっと・・」
突如変わった周囲の雰囲気に戸惑いながらも、言葉を濁しながら説明する。
「詳しい事は申し上げられないのですが、城である事業(勇者召喚)の仕事(巻き込まれる)がありまして、仕事が終わった(役に立たない)から出て行けと・・」
「ほぉー・・、そんな事が」
目の前の女性から表情が消え、周囲の職員や人々から殺意に似たナニカが噴き出てくる。
「(・・えっ!? な、何か間違えた!?)」
予想外の出来事に周囲を見回しながら、内心冷や汗が滝のように流れ始める。
「これだから、あのクソ魔法至上主義者どもが!」
女性らしからぬ鬼気迫る表情を浮かべ、乱暴な言葉が出てきて、ちょっと引いてしまう。
「あっ・・、コホン。失礼しました・・」
僕の態度に気づいたのだろう、咳ばらいを一つして先程の笑顔に戻す。
「えーっと、魔法至上主義者とは?」
「あの魔法使いども、私たち平民を犬のように扱う、クソでクズで、ゴミな貴族たちの事ですよ!」
ドンッ! とカウンターを叩けば、他のの職員や人々もみんな頷いている。
貴族と言う割には、あまりに酷い言い方で、女性が口にするような言葉ではない。
「あなたもそうだったのでしょう! 何も聞かされず、いきなり城に引っ張っていかれて、無理やり働かされて、用が済めばポイ捨て・・、違いますか!」
「・・・その通りです」
ちょっと状況は違うし、誤解もあるが、この場は黙って頷いている事にしよう。
「それで・・、あっ、お名前をまだ聞いていませんでしたね」
「マッヘンと言います」
「ではマッヘンさんは、本日はどのようなご用件で、当商業ギルドへ?」
「実は、城で物作りのような事をしていたので、そのような仕事がないかと思いまして」
「なる程なる程・・」
女性職員と職員たちは頷いている。
「大変なご苦労と、痛みを背負わされたのですよね」
「・・えっ!?」
「皆まで言わなくても分かります! マッヘンさんが城に連れて行かれる時、全てを壊され、あなたは最初っから居ない者とされたのですよね!」
「ええっ!?」
「帰る場所がなければ、城で働くしかない・・。正にクソ魔法至上主義者どものやりそうな事です」
全員がハンカチを目に当てて、僕の境遇に涙を拭う仕草をしているし・・
「マッヘンさんは、早急に王都を離れる必要があります!」
「ど、どういう事でしょうか?」
「城から追い出した人間が、城下町をうろついていると分かれば、絶対に難癖をつけにやってきます、必ず! 下手をすれば暗殺者さえ差し向けられます!」
「ま、まさか・・」
流石にそこまでとは思わなかったが、職員が全員とも他の場所へ行く事を勧める雰囲気で一致しているので、それ以上言葉に出せない。
「お任せ下さい。マッヘンさんに適した場所をお探します。挫けず頑張りましょう」
「はぁ・・」
火のない所に煙は立たないと言いつつも、噂話には尾ひれ背びれが付き物だ。
なのにこんなに恨まれているなんて・・、この世界の国王とか貴族は何やってんだ?
カウンターの下の方で、ゴソゴソしたかと思うと、一枚の大きめの羊皮紙を取り出す。
「殆どご覧になったことがないでしょうが、これがこの世界の略地図です」
「へぇー」
地図と言うのは軍事目的や、何処かへ頻繁に出かける際に必要になる。
自分の生まれによっては、村から一歩もない生活もある。
出かけたとしても、精々が近隣の村や町で、地図を必要としない。
「一番大きな丸が、私たちが住む大地で、中央の一番小さな丸が王都、二番目の丸が王都周辺の農業地帯となります」
羊皮紙一杯に描かれた円に、中央に小さな丸、その丸を覆うような大きな丸を指さす。
「このバッテンは、この世界を東西南北に分けたものです」
一番小さな丸を通るように、羊皮紙の端から端まで×が引かれている。
「この小さな丸は?」
世界の端っこと、王都を結んだ、大体真ん中辺の東西南北の四か所に丸がある。
「こちらは四つの地方を管轄する都市となります」
「なる程」
広い大陸を管理するのに、地方都市が必要となるのだろう。
「大雑把にですが、北には湖沼が多く漁業が盛んです。東には山脈があり鉱山が多く、金属加工の仕事が盛んで、西は全体が森となり狩りが盛んですので、物作りには東へ向かわれる方が良いでしょう」
「南は?」
「・・荒野と砂漠です。他の地方に比べ生産できるものが限られ、ダンジョンの数も比較にならないほど多いです」
「つまり危険な場所と言う事ですね」
「はい、その通りです。なのでお勧めはできません」
僕の目的は、この世界の魔法を使えない人たちに、魔法の恩恵をもたらす事。
もっとも効果的なのは、実際に戦闘に使ってもらうのが分かりやすい。
となれば、向かうべきはダンジョンが多く、魔法の活躍の場が多い南となる。
「分かりました、東の地方で職人になろうと思います」
「それが良いと思います。向こうの商業ギルドに行って、王都での出来事を話せば、必ず力になってくれます」
「何から何までありがとうございます」
「旅費の方の貸し出しは必要ですか?」
うわぁー、見も知らぬ人に、ギルドは金を貸すのか?
そこまで貴族・・、魔法至上主義者の被害があるわけ?
・・待てよ? もしかして・・
「どうしてそこまで助けて下さるんですか?」
そう言うと女性職員は、手招きして小声で囁く。
「大きな声では言えませんが、貴族の中には、魔法至上主義者とは一線を画す方々がいて、被害にあわれた人の支援をして下さっているんです」
「なる程、そうでしたか・・」
やっぱり、と思う。
魔法使い同士の喧嘩・・、魔法の優劣が権力に結びつくとは言え、民衆を無碍にしては国は成り立たない、と考える者もいて当然だ。
貴族の中には、民衆の支持を得るために救済をしたり、レジスタンスの支援をしたりする事もありえる。
「路銀の件は追い出される際に、幾ばくかはいただいていますので大丈夫です」
「分かりました。困った事があれば、すぐにご相談下さい」
もらえる物ならもらっておこうと思うが、借金ではなぁーと辞退する。
地方都市までの陸路の説明や、地方都市周辺の町や村の存在の説明を受ける。
帰り際には、全職員やその場にいた人々からも、激励の言葉をかけられてしまう。
やっとの事で解放され、南の地方へと向かう駅馬車の乗り合い場へとやってくる。
王都と地方都市の間は、街道が整備されているが、一人旅はやはり危険なので、乗合馬車を使う事を、強く勧められていた。
「(お金がもったいないとは思うが、安全第一で行こう)」
地方都市まで一直線で向かう乗合馬車はある事はあるが、基本は一日で行ける範囲の町までの往復となる。
乗合馬車を当てにした村が、やがて宿場町と大きくなっていく。
「(とは言ったものの、乗合馬車が明日の朝出発な上、満席じゃあなぁ・・)」
毎日乗合馬車が出るとは言っても、そうそう地方都市へ向かう人はいない。
頻繁に移動する人の多くは、商人であり、大抵は商隊を組むので、乗合馬車は使わない。
となれば最寄りの町まで、精々一日一本と言ったところで十分事足りるのだろう。
夜間は危険度が高くなるので、多くは朝一番の出発となるが、大抵の人は前日に予約を済ませてしまう。
「(はてさて、どうしたものか・・)」
「あんちゃん、さては乗合馬車に乗りそびれたな?」
「えっ!? ええ、その通りです。よく分かりましたね」
「見ていれば分かるってもんよ」
声をかけられた方を見ると、数人組の男性が立っていた。
「どうだ、あんちゃん。俺たちと一緒に行かないか?」
「一緒に、ですか? 何処へ?」
男たちにいきなり一緒に行かないかと言われて、はいそうですかとはいかない。
「ああ、悪ぃ悪ぃ。いやな、俺たちは、明日南の都市に出発する商隊の人足なんだ。あと一人二人ぐら増えたって構わねぇ。まあ方向が合えばの話だがな」
「そうでしたか、助かります。丁度南へ向かうつもりだったので」
「そうか! んじゃ行くか!」
「えーっと、何処へ?」
「んなの決まってらぁ。自己紹介も兼ねて一杯ひっかけにだ!」
バンバンと肩を叩きながら、手でグラスを傾ける仕草をする。
そのまま彼らの行きつけの安酒場へと連行される。
「安心しろ、これから旅立とうって奴の懐を当てにしねぇよ! まあ、宿代だけは頼むがな! ガハハハッ!」
その場はごちそうになり、その後も彼らの御用達の素泊まりの宿に一緒に泊まる。
一部屋の左右の壁に三段ベッドがあるだけの安宿。
他のベッドからは、もうイビキが聞こえてきている。
「乗合馬車代が浮いて、晩御飯代が浮いちゃった。いい人たちにも巡り合えたなぁ」
運が良いの一言では済まないほどの幸運である。
その幸運は翌日まで続くのである。
昨日僕に声をかけてくれた人足を束ねる役の男が、商人に話をする。
「乗合馬車に乗れなかった? それはまた残念でしたな」
そう言うと笑いながら、あっさりと人足として雇ってくれる。
商隊の護衛たちも、特に気にした様子もない。
「ちょ、ちょっと待って下さい。おかしいでしょう!」
信頼のおける人足たちの紹介とは言え、すんなり雇われるとは思ってもみなかった。
「例えば、僕がどこかの強盗団や野盗のスパイだったらどうするんですか?」
「スパイかぁ・・、そういえば考えもしなかったなぁ」
「親方の紹介でしたので、特に気にも留めませんでした」
二人して首を捻っている・・。
大丈夫なのか? 今まで良くぞ無事でと思ってしまう。
「そんな事を心配する奴は、たいてい大丈夫なパターンが多いな」
護衛役の人たちまで、そんな事を言い始める。
「いやいやいや。護衛の人たちが言っちゃだめでしょう・・」
「だってなぁ、雇い主が決めた事だし・・」
それでも一言ぐらいは、注意喚起すべきでしょう・・
雇われる側の僕が言えば言う程、君なら大丈夫的な、和やかな流れになっていく。
「(なんだかなぁ・・)」
心配するのが馬鹿らしくなってくるが、普通ならこんな事はないという彼らの言葉に、単に運が良かったと思う事にする。
ただ人手不足は事実のようで、国王がダンジョンの大量発生の危険性から、勇者召喚を行うと告知してから、特に南の地方へ行きたがる人々が激減したと言う。
「(危険と言う事は、魔法の需要も高いと言える・・)」
これから僕が製造、販売しようとしている、魔道具には持って来いの場所に違いない。
もっともダンジョンの大量発生の危機や、勇者召喚は、魔法至上主義を高めるための国王や貴族たちの方便でしかないのだが・・
商隊は、早朝出発に合わせて、大まかな荷物はすでに荷車に載せられており、最終確認を済ませれば、すぐに出立である。
これも当然の事ながら、安全な旅程には、街道を通ろうが、護衛が居ようが、昼間が適している事に他ならない。
「出立ーっ!」
商人の掛け声とともに、人足、護衛、荷車が一斉に動き始める。
道程は非常に順調で、護衛の人たちも驚いていた。
「いくら街道を使って、昼間に移動しようとも、大概は一回か二回戦闘があるもんなんだ。野盗や強盗だったり、はぐれモンスターなんかが出てな」
その言葉通り、南の地方都市に着くまで、一度も戦闘のシーンはなかった。
「非常に今回の商いは順調です」
更には、商人や人足たちのこの言葉である。
「大抵は町の入り口で揉め事があって、一日や二日伸びる事があります。また商品が売れない、欲しい商品が手に入らないといって待たなくちゃいけないすらあるんです」
「その度に俺らは、荷物の揚げ降ろしを何度もしなくちゃいけねぇんだが、今回はそれが一回もねぇんだ」
皆が皆、今回の商いは大成功、非常に幸運に恵まれていたと口々に言う。
風景が徐々に木々や草原から、荒野と砂漠に代わり、南の地方都市の城壁がよく見えるようになる。
「さあ、皆さん! もうひと頑張りです!」
「「「おう!」」」
商人の掛け声に、全員が声を一つにして応える。




