終わり良ければ・・
31.終わり良ければ・・
王城を失った魔法至上主義者たちで、本当に困っているのは国王一家だけである。
王城で暮らす彼らだけは、家がなくなったからだ。
勿論、働いていた人々は、職を失ったのだから困ってはいるだろう。
が、それでもまだ帰るべき家は残されている。
仕方なく国王一家は、自分の血筋に近い貴族の屋敷に世話になる羽目になった。
そして、そこで今後の方針を話し合う事になる。
「どうすべきか・・」
国王の弱々しい声に、周囲の貴族たちの反応も薄い。
自分たちの権威の回復、王城の立て直し・・、これだけでも容易ではない。
尚悪い事に、勇者パーティが完全に敵対し、出奔してしまった。
この状況に至っても多少の間違いを犯したが、自分たちは正しいと思っている。
となると・・
「陛下、やはりここは神を呼び求めるべきかと。勇者を・・」
と言い始める貴族が沸いてくる訳だ。
「勇者たちが闇落ちしてしまった今、新たな勇者を召喚すべきです」
「なる程・・、良いアイデアじゃ。早速取り掛かれ!」
彼らの中には、被害者意識すらあるようだ。
多少とも神の責任を突っつけば、必ず助けが受けられるとさえ思っている。
当然の事ながら、そんな事で授けられるのは勇者ではなく・・神の怒りである。
今の時代に、二回目となる勇者召喚の儀式を行うと、すぐに声がある。
『勇者を求める者は誰か? 我を呼ぶ者は誰か?』
召喚の儀式の際に聞いた声を、国王は再び聞く。
「おお! 我らが神よ! 今一度、勇者をお与えください!」
『勇者は生きておる。何故、勇者が必要なのか?』
「実は勇者たち四名が、私たちを裏切り、闇落ち致しました・・」
その言葉に、世界管理者(幼女)は、身も心も凍てつかせるほど冷たい声で問う。
『何故、闇落ちしたと思う?』
「それは・・」
ふと正直に話せば、自分の立場はどうなるかを思い、国王は言葉に詰まる。
『よもや、神たる私を罵ってはおらぬな?』
「も、勿論でございます・・」
『世に魔道具を広めようとした無実の者を、処分するために勇者を差し向け、真実を知った勇者の怒りを買った・・と言う事はあるまいな?』
「・・ど、どうしてそれを?」
まるで目の前で見ていたかのような、神の言葉に驚いてしまう。
『まさか神たる私が、自ら創りし世界に、何の興味も示さないと思ったのか?』
「い、いいえ・・」
その言葉を聞いた国王や貴族たちは、自分たちの言動が筒抜けである事を悟る。
『神たる私の言葉をよくよく理解して、心の底から自らの行いを顧みよ』
「お、お待ちください・・、」
『お主たちが得られるのは、祝福か? それとも滅亡か?』
「何も知らなかったのです・・」
あくまでも知らぬ存ぜぬ、嘘に嘘を重ねて、自分たちの身を守ろうとする。
すべてが神に知られているのに、いまだ誤魔化せると思っているのだろうか。
『与えし者は我が代理、決して疎かにせぬよう厳命す』
「えっ・・」
『約束を違えし時、我はこの国にあらゆる厄災をもたらそう』
「そ、それは・・」
『よもや知らぬ存ぜぬ、忘れたとは言わさん。どうしようもなく腐り果てておるお主らに、真の悔い改めにはどのような方法が最適であろうか・・、楽しみにしておれ! アッハッハッハー』
神とは思えぬような高笑いと共に、声は聞こえなくなる。
「お、お待ち下さい、我らが神よ!」
既に神との会話は終わり、何度声をかけても答えはない。
「我らは・・、一体どうすれば・・」
神すら完全に敵に回した国王の呟きに、誰も答えらない。
ただ茫然と、その場に佇んでいる他は・・
現在、魔道具がどうなったか、整理をしておこう。
先ずはスクロールから・・・
生活魔法と初級魔法に関しては、秘密保持など、全く考えていなかった。
「寧ろ偽物や模倣品は、認知度を上げるために大歓迎だったんだけどなぁ・・」
しかし不良品は望ましくない。
「せっかくの魔道具の盛り上がりに、水を差しちゃうし・・」
初級魔法のスクロールに関しては、誰でも作れるように、製造方法を公開した。
その上で初級魔法の防御系スクロールの、シェルとシールドで対抗手段を用意する。
念のため、合わせて中級魔法のベーシックも販売した。
防御系、中級魔法のベーシックのスクロールは、糊付けして真似できないようにもした。
「この時までは、エンケさんもちゃんとしていたように見えたんだよねぇ・・」
でも情報漏洩なのか、横流しなのかは分からないけど、中級魔法のベーシックのスクロールや防御系スクロールの悪用の噂があった。
この辺りから、エンケは販売だけに注力して、犯罪には知らんぷりしつつあった。
「すぐに新しい魔道具を創ったのが良くなかったか・・」
その後に、魔石に魔法を組み込んだ魔道具をお披露目する。
これはエンケ商会とは別の商会に委託しようかと考えていたが、噛みついてきた。
しかしエンケの余りの愚かさに、縁を切るため、それらの権利を手放す事に。
「事は緊急性を要するから、大商会の助力を得る事にしたんだよね・・」
流石は大商会の会長、事の重大さを理解していて、すぐに動いてくれた。
「中級魔法のベーシックの、防御系スクロールを託して良かったよ・・」
エンケ商会と言うタガが外れて、今度は自分がと思ったのだろうか・・
「今度は、南の地方都市のギルドマスターがおかしくなっちゃったし・・」
抑止力って言葉に振り回されて、悪い想像を掻き立てられて、貴族を味方に付けるよう動く羽目になった。
正式名称はまだなくて、付与家財と呼んでる、魔石で動く付与ライト、コンロ、フリーザー、バスを、味方になりそうな貴族に販売する事にした。
これは大商会や商業ギルドが取り計らってくれて、上手く動いている。
今では貴族や金持ちたちの中で必須、高級なレストランでも導入されつつある。
「結局分からず仕舞いだけど、着服してたのかなぁ、ギルドマスター」
後々の彼の態度で、どうやら魔道具で、周囲から優越感を得たかったんじゃないか、と思っている。
魔法犯罪者の特別取締部隊「アインハイト」の資金の一部や、無償で提供していた数々のスクロールの一部を横流ししていた雰囲気がある。
「ちょっと懲らしめてやるつもりで、魔導書を冒険者ギルドに持ち込んだ訳だけど、まさか直接僕を狙いに来るなんて・・」
流石に魔導書に激怒した国王が、冒険者ギルドじゃなくて、勇者を使って、僕を抹殺するとは考えもしなかった。
「本当に上手く丸め込めてよかったよ・・」
彼らは素直に僕の言葉を聞いてくれて、一緒に王都に行って、王様に謁見して・・、王様たちは、勇者の怒りを買ってしまったと。
戻ってきたら戻ってきたで、南のギルドマスターのうざい事うざい事・・
「北の地方都市のギルドマスターに相談したら、それ以来音沙汰がなくなったんだよね」
これはギルドマスターが変わったからなのだが、それを知ったのはだいぶ先の話だった。
魔導書に関しては、厳しく規約が取り決められて、しっかり管理されているみたいだ。
全てがうまく回り始めた。
あとは世界管理者(幼女)のお願いの通り、後継者の育成。
全てがうまく回り始めた・・はずだった。
あとは世界管理者(幼女)のお願いの通り、後継者の育成・・をすれば良いと思ってた。
自宅兼店舗の店側で、商業ギルドの職員のパソナさんと話していると、聖女が我が物顔で入ってくる。
「・・聖女さん、入るときは裏口からと・・」
「いいじゃない。そんな固いこと言わず」
引き戸を開け居住区へ。
そのまま試作の魔石フリーザーを開け、手にしていた飲み物を入れる。
「聖女さん、昨日も何か入れてましたよね?」
「昨日の分は、これから飲むのよ。お風呂上りにね」
そう言うと、お風呂に行ってしまう。
彼女は毎日、試作の魔石バスを使いにやってくる、僕の護衛を出汁にして・・
その後で、勇者が裏口から入ってくる。
「賢者、頼まれた物買って来たぞ」
「そうか、じゃあ晩飯を作るか」
勇者から食材を受け取ると、一部を魔石フリーザーへ、残りを調理に使う賢者・・
彼らは王都で何やらやらかしてしまい、僕を追って南の地方都市へとやってきた。
どうやら僕への謝罪のつもりで、僕の護衛を買って出てくれた。
真実は数々の魔石商品が便利すぎて、僕の自宅兼店舗に入り浸っているのが現状だ。
「お話は終わってませんよ、マッヘンさん!」
「あっ!? はい、すみません」
呆然と勇者パーティの行動を見守っていると、パソナがきつい口調で言ってくる。
「・・続きから、三日後に魔石フリーザー馬車の外殻が組みあがります」
「分かりました、完成後すぐに付与をしに行きます」
「お願いします。それからこれが次の魔石商品を導入する貴族です。あと二件ほど貴族が続いて、商会が一つ、そのあと・・」
「はい・・」
自慢に自慢をして大変気分を良くした、南の地方都市の有力貴族が、大盤振る舞いを始めたため、魔石商品の注文が増えつつある。
「それからオークション向けの、付与装備ですがこちらになります」
「・・オークションって何でしたっけ?」
注文書を受け取りながら、何の事だったか聞き返す。
「大商会と商業ギルトが、南の地方都市の有力貴族を焚き付けて、この地方都市でオークションをするようにしたのです・・お忘れですか?」
「わ、忘れていませんよ・・あはははは・・」
「主催者はその貴族にして、付与装備を自分の持ち物から出品という扱いにしました」
聞いた事がない。いや、あるかもしれないが、てんてこ舞いで聞き流していたかも・・
有力貴族のご機嫌な理由の一つで、南の地方都市の経済が活性化の一因でもあると言う。
それなら・・、仕方ないないか・・
「中級魔法のエンハンストや上級魔法のスクロール、中級魔法のベーシックの魔石と言った、アドバンストの魔道具ですが・・」
「ちょ、ちょっと待って下さい!? 何ですそれ!? 聞いてませんよ!?」
本当にこれは全く聞いていない、寝耳に水だ。
「ええ、これからその話し合いになりますので」
「どういう事ですか!?」
「勇者様が・・」
居住区でゆったりし始めた勇者が、ビクッと体を震わせ、こっちを申し訳なさそうに見る。
「し、仕方ないじゃないか・・。誰でもダンジョンを攻略できるようにする仕組みを考えたら・・」
勇者御一行様が来て、僕に土下座をして、この世界の現状をきちんと話し合った。
魔法が有効なダンジョンと、魔法至上主義の世界を・・
そうしたら勇者たちが・・キレた。
が、勇者たちは、魔法でダンジョンを攻略しても、庶民のためにならないと話して、全部のダンジョンを潰すのは踏み止まってくれた。
そうしたら知らぬ間に、冒険者ギルドや商業ギルドと話し合いを勝手に進めていたようだ。
僕の護衛何だろう、余計な事をしてくれるなよ・・と思う。
「もし悪用されたらどうするんですか?」
「そのために私たちのギルドが立ち上がったんだよ」
「・・ギルドが立ち上がる? 新しいギルドができた?」
「その通り」
料理の手を休める事無く、賢者が口を挟んでくる。
「ど、どういう事ですか!?」
「勇者様のパーティがギルドマスター、元犯罪者の特別取締部隊の面々が最初のメンバーとなります」
「いやいやいや、そういう事じゃなくて・・」
「私たちの新しいギルドは、対魔法犯罪者組織、アンチマジック(仮)と言う、犯罪者の特別取締部隊「アインハイト」の全国版だね」
勇者の提案を受け入れた、冒険者ギルドと商業ギルドが取り纏めて、製造、販売、使用の規則を作ったそうだ。
一応言い出しっぺが、使用の厳格な制限や、悪用への対応を行うようだ。
勇者パーティ自体を敵に回す馬鹿はいないだろうから、正真正銘の抑止力になる。
「スクロールにしろ、魔石にしろ、付与装備にしろ、多くの商会が取り扱えるようになる。頼むぞマッヘン殿」
「頼むぞ・・って、丸投げかよ!? 賢者さん」
規則に誓約した商会に、原本を渡す事になるし、上級魔法までとなると、かなりの数の原本を創り出さなくてはならない。
「うぃーす」
「こんにちはっす」
最悪のタイミングで、「アインハイト」の面々が、勝手に入ってくる。
「あっ、やっぱりっす」
「ギルドマスター居た居た! せめて誰かはギルドのホームに居て下さいよ・・」
「まあ、ここに居ると言うのが分かっているなら構わないでしょう? で、皆さん、新しいスクロールは如何でした?」
そのまま僕をスルーして、賢者の料理を見守る勇者のところへ行く。
「ギルドマスターのアイデアですが、やっぱりある程度使いこなしてないと難しいですね。ばっちり合えば、効果は凄いんですがね」
「組み合わせるにも、いくつかのスクロールを増やす必要もあるっす」
「そうですか・・、やはりメンバーを増やしつつ、訓練の時間も増やしつつ、魔道具も増やしつつ・・」
そんなことを言い合いながら、勇者と賢者がこちらをチラリと見てくる。
「マッヘン殿、お時間が空きましたら、また、ご相談に乗っていただきたい事が・・」
大量生産品に関しては、原本を僕が創り出せば、他の商会が作る事はできる。
しかし今存在しない魔道具は、どうしても僕が創り出す必要がある。
勘弁してくれ。この上カスタマイズも求められたら・・
これは僕一人だけ、僕が生きている時間だけでどうにかなる物じゃない。
「マッヘンさん、まだこちらの話は途中ですよ!」
僕は一人しかいない、両方の耳から別の話をされても無理です。
「ふぅー・・、相変わらず良いお湯だったわ。ぷっふぁー・・」
聖女が腰に手を当て、魔石フリーザーから飲み物を取り出し、ぐぃーッと飲む。
「聖女さん、うまそっすね。俺にも良いっすか!?」
「ええ、構わないわよ」
アインハイトのメンバーが、上手そうに飲む聖女にたかっている。
魔道具を創り出せる後継者って可能なんだろうか・・?
神様、世界管理者(幼女)様、助けて下さい!
・・すまんが、頑張ってくれ・・
ふと、そんな声が聞こえたような気がした・・マジか!?
END




