王国の出来事と南のギルドマスター
30.王国の出来事と南のギルドマスター
国王は、報告に来た貴族の言葉に、静かな怒りを掻き立てられていた。
「勇者たちは帰ってきたのだよな?」
「はい、たった今戻りました・・」
「三名ではなく?」
「はい、四名で戻りました・・」
勇者パーティは、勇者、聖女、賢者の三人パーティである。
それが四人・・、余計な一名が付いてきたと言う事だ。
「誰だ?」
「マッヘンのようです・・」
「殺さずに? 生かしたまま? 余の前にか?」
「勇者曰く、悪事の証拠を示して欲しいと・・」
「言われた事を、黙ってやっていれば飼い殺しにしてやったものを・・」
国王の顔から、徐々に表情が消えていく。
「余は無駄な時間を過ごすつもりはない」
「はっ・・」
「準備せよ」
「畏まりました・・」
あまりの怒りに、先日の貴族たちから、神の怒りを買うと止められていた事を忘れて、自分たちでマッヘンを手にかける計画を進めてしまう。
控室で、王との謁見を、今か今かと待ちわびる四人。
準備が整いましたと、謁見の間に案内され、王の入場を待つ。
勇者パーティの三人が前、マッヘンがその後ろという形で立っていると、王の入場がある。
召喚者たちは神の代理人として、召喚者は王と対等とされ、礼儀作法や無礼な言動も許されているからできる事だ。
「待たせたな、勇者たち・・」
「王様、ただいま戻りました」
「ご苦労であった。して、一名多いようじゃが?」
報告のあった通りの状況に、苛立ちを隠せない国王が尋ねてくる。
「彼がマッヘン殿、王様より処刑の願いのあった人物です」
「・・尋ねるが、何故生きておる?」
「マッヘン殿から、自分が裁かれる理由が知りたいと申し出がありましたので」
「・・そうか。余の言葉を疑うと?」
「疑う・・、そうかもしれません。今までは人々を害するモンスターを退治するため、さして理由は考えませんでしたが、流石に一人の人となりますと」
勇者は、マッヘンに諭された言葉を、国王に問いかける。
「それで余の言葉が正しいか、証拠を示せと・・?」
「その通りです」
国王は、まるで汚物を見るかのような目で、四人を蔑むと、視線と僅かな顔の動作で、前もって決めていた行動を指示する。
勇者たちから見れば、ほんの些細な、少し考える動作程度にしか見えない。
ドン!
三人の後ろから聞こえた、突然の物音に驚いて振り返る。
「「なっ!?」」
マッヘンの胸から剣先が突き出ており、徐々に胸元を深紅に染め始める様子に、勇者と聖女が驚きの声を上げる。
賢者一人が予想通りと言う感じで、冷静に事態を見ていた。
「・・どいつもこいつも余に逆らいをって!」
勇者が一撃で、不埒者を吹き飛ばし、聖女が慌てて、マッヘンに駆け寄り治療をする。
「王! 一体これは!? それに今の言葉は!?」
「ふん! 最初からこうすればよかったのじゃ! たかが神如き恐れずに! ・・えっ?」
国王の歓喜の咆哮が、目の前の状況に驚きの声に変わる。
「・・な、何じゃ・・これは?」
倒れているはずのマッヘンの姿が賢者となり、立っている賢者の姿がマッヘンとなる。
「マッヘン殿は恐れていました・・、冤罪で殺される事を。そのため賢者の身代わりの魔法で、姿を入れ替えていたのです」
「ちっ! 余計な事を!」
あっさりとマッヘンの策略に嵌まってしまった事に、怒りを掻き立てられる国王。
「余計・・? あなたは何をしたのか分かっているのですか?」
「ぬぉ・・」
勇者が怒気と共に、途轍もないオーラを噴出させる姿に、国王は恐れ戦く。
「私の心が叫んでいる。正当な裁きもせずに、人を殺める事が正義かと。ましてや神を罵り、神の遣いを手にかけた・・、これが正義なのかと!」
「な、何をするつもりじゃ・・」
今更ながらに、貴族たちが必死に止めた事、自分が仕出かした事の重大さを思い知る。
「勇者とは、正義を守る盾・・」
勇者が何やら、自分の世界に入りつつ、何かの準備を始める。
「さあ、マッヘン殿。今守りの魔法をかけます」
聖女に肩を借りて、近づいてきた賢者が手をかざすと、黄金の膜に包まれる。
「これであなたを誰も傷つける事はできません。物理攻撃も魔法攻撃も」
「あ、ありがとうございます・・」
いきなり、賢者のとんでもない魔法を見せつけられる。
まあ自分も同じような能力を貰ってはいるのだが・・
「勇者とは、この世の悪を滅ぼす剣・・」
勇者のオーラが、更に高まりつつ、凝縮されていく。
「マッヘン殿、この度は大変失礼いたしました。後ほど改めてお詫びにお伺いいたしますので、この場は私たちに任せてお帰り下さい」
「・・わ、分かりました」
聖女もとんでもない事を言い出すが、何をするのかまで聞く勇気はなかった。
「では、よろしくお願いします」
「「「お任せを!」」」
勇者パーティの言葉を背中で聞きながら、そそくさと逃げ出す事にする。
途中何やら攻撃されたようだが、パキン、パキンと言う音がするだけで、自身には何も届く事はなかった。
勇者パーティの面々は、僕が王城から逃げ出すのを待っていてくれたのか、王城を守る堀にかかる橋を渡り終えた瞬間、天からもの凄い光が降り注いだ。
後に聞いた話だが、王城のあった場所には、底が見えないほどの大穴が空いているそうだ。
中に居たと思われる人たちは、大怪我こそないが、皆ボロボロになって王都の外に投げ出されていたと言う・・これも勇者パーティの力なのか? 怖えぇ。
人々は、神の怒りか、魔王の呪いかと噂している。
そして勇者一行も、その時を境に王都から姿を消した。
王都での出来事が片付いたと思ったら、今度は南の地方都市の問題である・・
「何度も言うが、魔導書の量産に入れ。多くのデータを得たいのだろう?」
「魔導書の制作には、手間と時間がどうしても必要なんですよ?」
「だから量産しろと言うんだ!」
「商業ギルドや、大商会にですか?」
「馬鹿か! 違うだろう! 冒険者ギルドの息のかかった者たちにだ」
絶対に冒険者ギルドから、手放さないという態度だ。
「問題が起こっても、知らん顔してる人を信じろと?」
「あれは冒険者ギルドには無関係の話だったからな・・。魔導書は違う、冒険者ギルドで主導している以上、きちんと責任はとる」
「・・分かりました、まずは評議会で了承を取って、ルールを固めて下さい」
「それは・・」
南の地方都市で、冒険者ギルドのギルドマスターであるジュド自身が独占したいのに、ルールを作っては元も子もないので、言葉を詰まらせる。
ジュドが欲しがっている、アドバンストのスクロールや魔石、付与装備や付与家財は、僕が、ギルドマスターを頼る度に渡す事になっている。
魔導書の紹介の一件以降、何も手に入れられず、やきもきしているのだろう。
ギルドマスターが、何か俺にできる事はないかと、聞きに来るくらいだから。
更には魔道具で優越感を得るべく、焦ってせっついているようにも感じる。
ただこの状況は、僕の判断ミスが原因でもある。
魔法至上主義者たちが、冒険者ギルドに何らかの介入があると思っていたが、直接僕のところへ暗殺者、勇者の御一行様を送ってきた。
そのため冒険者ギルドは、何の不利益も受けていない。
そんな時、自宅兼店舗に、幸運を招き寄せる非常に珍しい来客があった。
「えっ・・? 北の地方都市のギルドマスター?」
「久しぶりだなマッヘン殿、あの一件以来か・・」
北の地方都市のギルドマスターであるノルドのために、魔導書を用意して、復活を願った先日の事以来だ。
「今日は、どういったご用件でしょうか?」
「いや、礼を言いにな」
「礼・・、ですか?」
「あの時の魔導書は、俺のためにワザワザ用意してくれた物だろう?」
「いや・・、別に・・。そういう訳では・・」
用意、と言う言葉の中に、作ったと言うニュアンスが含まれるのを感じた。
「安心してくれ。王都や他の都市のギルドマスターから聞いている」
僕が言葉を濁した事を、気遣って説明してくれる。
「王都のギルドマスターどころから、誰にも言っていないはずなんですがね・・」
「よくよく考えたら分かる事だ。世に広まりつつ魔道具・・、そんなタイミング的に新しい魔道具を持って来たお前・・」
「なる程、ある程度は予想がついていたんですね」
「まあな」
流石は、幾千幾万の冒険者を束ねるギルドマスターたちだ。
まあ、僕が間抜けなのかもしれないが・・
ニヒルに笑うノルドに、思わずため息を吐く。
「そうですか・・、ギルドマスターの全員が、僕が制作者であると知っていると・・」
「うん、どうした? 知られると何か問題でもあるのか?」
「いや、実のところですね・・」
南の地方都市のギルドのギルドマスター、ジュドとの一件を伝える。
「ふむ、そのような事があったのか・・。ギルドマスター全員が同じようになるのではないかと、今後を心配しているのだな?」
「まあ、そういう事です」
「ならば俺に任せてくれないか?」
「・・えっ!?」
「マッヘン殿には多大な恩がある。決して悪いようにはしない」
そう言って、止める間のなく店を飛び出して行ってしまう。
それ以降、ジュドの突撃はピタリと収まった・・
ここからの事は、僕には一切知らされなかった話だ。
「緊急の評議会を開会する」
王都のギルドマスターの言葉に、今回の趣旨を聞かされていない南の地方都市のギルドマスターのジュドは首を傾げる。
「(緊急って、一体何事だ?)」
評議会には、通常のものと、話し合いが不十分な場合に行う臨時がある。
その他に、急を要する話し合いが発生した場合、このような緊急評議会が行われる。
「先日、北のギルドマスターのノルドが、ある人物に礼を言いに行った話の時の事だ・・」
「(ん? ある人物に礼?)」
「我らの暗黙の了解として、彼が魔導書の作成者である事を伏せておったが、我らのあずかり知らぬところで、勝手に動いている輩が居ったようじゃ・・」
「っ!?」
ジュドは、他の都市のギルドマスターを見ると、全員自分の方を見ている。
「(ま、まさか・・)」
「魔導書の件に関して、機密性から正式な取り決めはしておらなかった。暗黙の了解と全員が受け入れていると思っておったのじゃがのぉ・・、甘かったか?」
作成者は不問、入手方法も不問、量も不問、全て相手に任せて、手出しをしないと言ったローカルルールだった。
生産業の少ない冒険者ギルドにとって、唯一無二の生産業といえる魔導書・・
そして魔法を使えない庶民が、己の力で魔法を使えるようになる唯一無二の存在・・
「南のギルドマスターのジュド・・、何か言う事はないか?」
「ちょっと待ってくれ、俺はまだ何も・・」
「まだ? やっておれば、この程度では済まされん」
「ぐっ・・、た、確かに催促はしたが・・」
「彼はまず、評議会で話し合い、ルールを作ってくれと言ったはずだが? お主は前向きではなかった・・何故じゃ?」
評議会で量産するのと、ジュドの息のかかったものが量産する。
この差から生み出される利益は、明らかすぎるほど明らかだ。
「・・・」
自分が勝手に動いた目的は、バレバレであっても口にする事はできない。
「まあ良い。未遂で終わって大事に至ってはおらん」
「そ、そうだ、まだ未遂だ・・」
「とは言え、このまま彼の傍に置いておくのは如何かと思うが?」
「「「異議なし」」」
三人のギルドマスターが、王都のギルドマスターの言葉に賛成する。
「ちょっと待ってくれ・・」
「お主は何も分かっておらんのぉ・・。魔導書を商業ギルドに回されたらどうなると思う?」
「そんな事はさせん。俺の・・、冒険者ギルドの息のかかった・・」
「彼がそんな事を認めると? ここまで信頼を失っておるのにか?」
「あいつは絶対に俺を頼る・・」
「その結果が、ノルドを頼ったのじゃがのぉ。それで緊急評議会になったと理解できんのか?」
「っ!?」
「これ以上、マッヘン殿の信頼を損なう訳にはいかん。しかしお主をギルドマスターから更迭するほどの事を犯している訳でもない・・」
「そうだ、そうだろう・・」
「故に配置換えが適しておると考えたわけじゃ。距離的に遠い北と南のな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! それじゃあ・・」
自分の行いが、自分にすべて返ってきた事に気づけていない。
「念のため言っておくが・・、グランドマスターの了承も得ておるぞ?」
「なっ!?」
グランドマスター・・
正真正銘の冒険者のトップであり、ギルドマスターの統括者、彼の了承は絶対である。
「では、このような過ちを繰り返さぬうちに、魔導書に関してルールを作るとしよう」
こうして南の地方都市のギルドマスターの突撃はピタリと収まった・・。
ギルドマスターが変わったのだから当然だろう。
こんな事は滅多にないそうだが、これも僕の幸運が影響したのかもしれない。




