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路地裏の雑貨屋さん  作者: まる
30/31

王国の出来事と南のギルドマスター

30.王国の出来事と南のギルドマスター




国王は、報告に来た貴族の言葉に、静かな怒りを掻き立てられていた。


「勇者たちは帰ってきたのだよな?」

「はい、たった今戻りました・・」

「三名ではなく?」

「はい、四名で戻りました・・」


勇者パーティは、勇者、聖女、賢者の三人パーティである。

それが四人・・、余計な一名が付いてきたと言う事だ。


「誰だ?」

「マッヘンのようです・・」

「殺さずに? 生かしたまま? 余の前にか?」

「勇者曰く、悪事の証拠を示して欲しいと・・」

「言われた事を、黙ってやっていれば飼い殺しにしてやったものを・・」


国王の顔から、徐々に表情が消えていく。


「余は無駄な時間を過ごすつもりはない」

「はっ・・」

「準備せよ」

「畏まりました・・」


あまりの怒りに、先日の貴族たちから、神の怒りを買うと止められていた事を忘れて、自分たちでマッヘンを手にかける計画を進めてしまう。




控室で、王との謁見を、今か今かと待ちわびる四人。

準備が整いましたと、謁見の間に案内され、王の入場を待つ。


勇者パーティの三人が前、マッヘンがその後ろという形で立っていると、王の入場がある。


召喚者たちは神の代理人として、召喚者は王と対等とされ、礼儀作法や無礼な言動も許されているからできる事だ。


「待たせたな、勇者たち・・」

「王様、ただいま戻りました」

「ご苦労であった。して、一名多いようじゃが?」


報告のあった通りの状況に、苛立ちを隠せない国王が尋ねてくる。


「彼がマッヘン殿、王様より処刑の願いのあった人物です」

「・・尋ねるが、何故生きておる?」

「マッヘン殿から、自分が裁かれる理由が知りたいと申し出がありましたので」

「・・そうか。余の言葉を疑うと?」

「疑う・・、そうかもしれません。今までは人々を害するモンスターを退治するため、さして理由は考えませんでしたが、流石に一人の人となりますと」


勇者は、マッヘンに諭された言葉を、国王に問いかける。


「それで余の言葉が正しいか、証拠を示せと・・?」

「その通りです」


国王は、まるで汚物を見るかのような目で、四人を蔑むと、視線と僅かな顔の動作で、前もって決めていた行動を指示する。


勇者たちから見れば、ほんの些細な、少し考える動作程度にしか見えない。



ドン!



三人の後ろから聞こえた、突然の物音に驚いて振り返る。


「「なっ!?」」


マッヘンの胸から剣先が突き出ており、徐々に胸元を深紅に染め始める様子に、勇者と聖女が驚きの声を上げる。


賢者一人が予想通りと言う感じで、冷静に事態を見ていた。


「・・どいつもこいつも余に逆らいをって!」


勇者が一撃で、不埒者を吹き飛ばし、聖女が慌てて、マッヘンに駆け寄り治療をする。


「王! 一体これは!? それに今の言葉は!?」

「ふん! 最初からこうすればよかったのじゃ! たかが神如き恐れずに! ・・えっ?」


国王の歓喜の咆哮が、目の前の状況に驚きの声に変わる。


「・・な、何じゃ・・これは?」


倒れているはずのマッヘンの姿が賢者となり、立っている賢者の姿がマッヘンとなる。


「マッヘン殿は恐れていました・・、冤罪で殺される事を。そのため賢者の身代わりの魔法で、姿を入れ替えていたのです」

「ちっ! 余計な事を!」


あっさりとマッヘンの策略に嵌まってしまった事に、怒りを掻き立てられる国王。


「余計・・? あなたは何をしたのか分かっているのですか?」

「ぬぉ・・」


勇者が怒気と共に、途轍もないオーラを噴出させる姿に、国王は恐れ戦く。


「私の心が叫んでいる。正当な裁きもせずに、人を殺める事が正義かと。ましてや神を罵り、神の遣いを手にかけた・・、これが正義なのかと!」

「な、何をするつもりじゃ・・」


今更ながらに、貴族たちが必死に止めた事、自分が仕出かした事の重大さを思い知る。


「勇者とは、正義を守る盾・・」


勇者が何やら、自分の世界に入りつつ、何かの準備を始める。


「さあ、マッヘン殿。今守りの魔法をかけます」


聖女に肩を借りて、近づいてきた賢者が手をかざすと、黄金の膜に包まれる。


「これであなたを誰も傷つける事はできません。物理攻撃も魔法攻撃も」

「あ、ありがとうございます・・」


いきなり、賢者のとんでもない魔法を見せつけられる。

まあ自分も同じような能力を貰ってはいるのだが・・


「勇者とは、この世の悪を滅ぼす剣・・」


勇者のオーラが、更に高まりつつ、凝縮されていく。


「マッヘン殿、この度は大変失礼いたしました。後ほど改めてお詫びにお伺いいたしますので、この場は私たちに任せてお帰り下さい」

「・・わ、分かりました」


聖女もとんでもない事を言い出すが、何をするのかまで聞く勇気はなかった。


「では、よろしくお願いします」

「「「お任せを!」」」


勇者パーティの言葉を背中で聞きながら、そそくさと逃げ出す事にする。


途中何やら攻撃されたようだが、パキン、パキンと言う音がするだけで、自身には何も届く事はなかった。




勇者パーティの面々は、僕が王城から逃げ出すのを待っていてくれたのか、王城を守る堀にかかる橋を渡り終えた瞬間、天からもの凄い光が降り注いだ。


後に聞いた話だが、王城のあった場所には、底が見えないほどの大穴が空いているそうだ。


中に居たと思われる人たちは、大怪我こそないが、皆ボロボロになって王都の外に投げ出されていたと言う・・これも勇者パーティの力なのか? 怖えぇ。


人々は、神の怒りか、魔王の呪いかと噂している。


そして勇者一行も、その時を境に王都から姿を消した。






王都での出来事が片付いたと思ったら、今度は南の地方都市の問題である・・


「何度も言うが、魔導書の量産に入れ。多くのデータを得たいのだろう?」

「魔導書の制作には、手間と時間がどうしても必要なんですよ?」

「だから量産しろと言うんだ!」

「商業ギルドや、大商会にですか?」

「馬鹿か! 違うだろう! 冒険者ギルドの息のかかった者たちにだ」


絶対に冒険者ギルドから、手放さないという態度だ。


「問題が起こっても、知らん顔してる人を信じろと?」

「あれは冒険者ギルドには無関係の話だったからな・・。魔導書は違う、冒険者ギルドで主導している以上、きちんと責任はとる」

「・・分かりました、まずは評議会で了承を取って、ルールを固めて下さい」

「それは・・」


南の地方都市で、冒険者ギルドのギルドマスターであるジュド自身が独占したいのに、ルールを作っては元も子もないので、言葉を詰まらせる。


ジュドが欲しがっている、アドバンストのスクロールや魔石、付与装備や付与家財は、僕が、ギルドマスターを頼る度に渡す事になっている。


魔導書の紹介の一件以降、何も手に入れられず、やきもきしているのだろう。

ギルドマスターが、何か俺にできる事はないかと、聞きに来るくらいだから。


更には魔道具で優越感を得るべく、焦ってせっついているようにも感じる。




ただこの状況は、僕の判断ミスが原因でもある。

魔法至上主義者たちが、冒険者ギルドに何らかの介入があると思っていたが、直接僕のところへ暗殺者、勇者の御一行様を送ってきた。


そのため冒険者ギルドは、何の不利益も受けていない。

そんな時、自宅兼店舗に、幸運を招き寄せる非常に珍しい来客があった。


「えっ・・? 北の地方都市のギルドマスター?」

「久しぶりだなマッヘン殿、あの一件以来か・・」


北の地方都市のギルドマスターであるノルドのために、魔導書を用意して、復活を願った先日の事以来だ。


「今日は、どういったご用件でしょうか?」

「いや、礼を言いにな」

「礼・・、ですか?」

「あの時の魔導書は、俺のためにワザワザ用意してくれた物だろう?」

「いや・・、別に・・。そういう訳では・・」


用意、と言う言葉の中に、作ったと言うニュアンスが含まれるのを感じた。


「安心してくれ。王都や他の都市のギルドマスターから聞いている」


僕が言葉を濁した事を、気遣って説明してくれる。


「王都のギルドマスターどころから、誰にも言っていないはずなんですがね・・」

「よくよく考えたら分かる事だ。世に広まりつつ魔道具マジックアイテム・・、そんなタイミング的に新しい魔道具マジックアイテムを持って来たお前・・」

「なる程、ある程度は予想がついていたんですね」

「まあな」


流石は、幾千幾万の冒険者を束ねるギルドマスターたちだ。

まあ、僕が間抜けなのかもしれないが・・


ニヒルに笑うノルドに、思わずため息を吐く。


「そうですか・・、ギルドマスターの全員が、僕が制作者であると知っていると・・」

「うん、どうした? 知られると何か問題でもあるのか?」

「いや、実のところですね・・」


南の地方都市のギルドのギルドマスター、ジュドとの一件を伝える。


「ふむ、そのような事があったのか・・。ギルドマスター全員が同じようになるのではないかと、今後を心配しているのだな?」

「まあ、そういう事です」

「ならば俺に任せてくれないか?」

「・・えっ!?」

「マッヘン殿には多大な恩がある。決して悪いようにはしない」


そう言って、止める間のなく店を飛び出して行ってしまう。




それ以降、ジュドの突撃はピタリと収まった・・




ここからの事は、僕には一切知らされなかった話だ。


「緊急の評議会を開会する」


王都のギルドマスターの言葉に、今回の趣旨を聞かされていない南の地方都市のギルドマスターのジュドは首を傾げる。


「(緊急って、一体何事だ?)」


評議会には、通常のものと、話し合いが不十分な場合に行う臨時がある。

その他に、急を要する話し合いが発生した場合、このような緊急評議会が行われる。


「先日、北のギルドマスターのノルドが、ある人物に礼を言いに行った話の時の事だ・・」

「(ん? ある人物に礼?)」

「我らの暗黙の了解として、彼が魔導書の作成者である事を伏せておったが、我らのあずかり知らぬところで、勝手に動いている輩が居ったようじゃ・・」

「っ!?」


ジュドは、他の都市のギルドマスターを見ると、全員自分の方を見ている。


「(ま、まさか・・)」

「魔導書の件に関して、機密性から正式な取り決めはしておらなかった。暗黙の了解と全員が受け入れていると思っておったのじゃがのぉ・・、甘かったか?」


作成者は不問、入手方法も不問、量も不問、全て相手に任せて、手出しをしないと言ったローカルルールだった。


生産業の少ない冒険者ギルドにとって、唯一無二の生産業といえる魔導書・・

そして魔法を使えない庶民が、己の力で魔法を使えるようになる唯一無二の存在・・


「南のギルドマスターのジュド・・、何か言う事はないか?」

「ちょっと待ってくれ、俺はまだ何も・・」

「まだ? やっておれば、この程度では済まされん」

「ぐっ・・、た、確かに催促はしたが・・」

「彼はまず、評議会で話し合い、ルールを作ってくれと言ったはずだが? お主は前向きではなかった・・何故じゃ?」


評議会で量産するのと、ジュドの息のかかったものが量産する。

この差から生み出される利益は、明らかすぎるほど明らかだ。


「・・・」


自分が勝手に動いた目的は、バレバレであっても口にする事はできない。


「まあ良い。未遂で終わって大事に至ってはおらん」

「そ、そうだ、まだ未遂だ・・」

「とは言え、このまま彼の傍に置いておくのは如何かと思うが?」

「「「異議なし」」」


三人のギルドマスターが、王都のギルドマスターの言葉に賛成する。


「ちょっと待ってくれ・・」

「お主は何も分かっておらんのぉ・・。魔導書を商業ギルドに回されたらどうなると思う?」

「そんな事はさせん。俺の・・、冒険者ギルドの息のかかった・・」

「彼がそんな事を認めると? ここまで信頼を失っておるのにか?」

「あいつは絶対に俺を頼る・・」

「その結果が、ノルドを頼ったのじゃがのぉ。それで緊急評議会になったと理解できんのか?」

「っ!?」

「これ以上、マッヘン殿の信頼を損なう訳にはいかん。しかしお主をギルドマスターから更迭するほどの事を犯している訳でもない・・」

「そうだ、そうだろう・・」

「故に配置換えが適しておると考えたわけじゃ。距離的に遠い北と南のな」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! それじゃあ・・」


自分の行いが、自分にすべて返ってきた事に気づけていない。


「念のため言っておくが・・、グランドマスターの了承も得ておるぞ?」

「なっ!?」


グランドマスター・・

正真正銘の冒険者のトップであり、ギルドマスターの統括者、彼の了承は絶対である。


「では、このような過ちを繰り返さぬうちに、魔導書に関してルールを作るとしよう」


こうして南の地方都市のギルドマスターの突撃はピタリと収まった・・。


ギルドマスターが変わったのだから当然だろう。

こんな事は滅多にないそうだが、これも僕の幸運が影響したのかもしれない。





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