召喚者狂騒曲
29.召喚者狂騒曲
話が決まったならと、南の地方都市のギルドマスターのジュドが問いかける。
「じゃあ早速始めるか・・、どれからやる?」
「その選択は、重要じゃのぉ・・」
僕としては、今回の二つ目の魔法を覚える事に関して、成功と失敗があるとしたい。
僕の手元にあるのは、必ず失敗する土の初級魔法と水の中級魔法の魔導書、そして必ず成功する水の初級魔法の魔導書だ。
なので・・
「先ずは初級からが良いかと思います。そして中級は水の魔法ですから、水の初級魔法の魔導書は後の方が良いかと」
「そうか・・そうじゃな。まずは土の初級魔法の魔導書から・・」
今世に出している初級の四大魔法の魔導書は、今のところ一回目は必ず覚えられるようにしてある。
周囲の人間たちも、一つ目は必ず覚えると薄々は気づいているはずだ。
では二つ目は? これは大きな関心事だろう。
情報がないから何とも言えないが、今のところ誰も試してはいないだろう、多分。
一般的な魔法は、中級の能力を得るには、初級と言う段階が必要と考えられている。
そのため幸いにも、いきなり中級の魔導書から試すと言う事にはならなかった。
北のギルドマスターのノルドの前に、必ず失敗する土の初級魔法の魔導書を置く。
「・・分かった」
それ以外は何も言わず、魔導書をペラペラと捲り、最後まで見ると魔導書は塵と化す。
「・・どうだ?」
誰ともなく、北のギルドマスターに問いかける。
「・・・いや、何も」
静かに首を横に振る姿に、やはり・・と、誰からともなくため息が出る。
まあ必ず失敗する魔導書だから当然なのだが、知っているのは僕だけだし・・
「じゃあ、今度は・・」
「待ってくれ、二回目が失敗した以上、次はないだろう・・」
水の初級の魔導書を取る王都のギルドマスターに、ノルドが待ったをかける。
「いや、もう一回だ。一回だけでは分からん。やるんだノルド」
「うむ。実験台なら、つべこべ言わずにやれ」
ジュドと、王都のギルドマスターが強く言う。
「分かった・・」
二人の言葉にノルドは受け取り、ページを捲れば、粒子と化す魔導書。
「どうだ・・」
「・・ウォーターバレット」
「「「「えっ!?」」」
誰かの問いに、手を伸ばし、魔法の発動キーで応える。
ノルドの手の先より、水の塊が放たれ、壁を破壊し、余波の飛沫がその場の全員にかかる。
「おお・・」
「おお・・、じゃねぇ! おお・・じゃ!」
「いきなり室内で魔法を発動するな!」
「水浸しじゃねぇか!」
「ワシらもずぶ濡れじゃ!」
自らの力で魔法を発動した事に感動しているノルドを、全員がタコ殴りを始める。
「す、すまん!」
「「「「すまんで許されるか!」」」
ノルドは謝りながら、黙って仲間の攻撃を受ける。
他のギルドマスターたちは、照れ隠しのように攻撃をしている。
パンパン!
僕は何時まで続くか分からないお祝いを、柏手を打って止める。
「今のでかなり魔導書について進展しました」
「うむ! 少なくても二つの魔法は覚えられる」
「ただ何かしらの条件があるのか、失敗する事もあるようだな」
これが分かった事で、冒険者ギルドは大きな成果だろうし、二つ目は成功も失敗もすると知ってもらったので、僕の思った通りの展開にもなった。
後はギルドの動きを見ながら、二つ目の魔法もしくは中級魔法の魔導書の成否のルールを決めていけば良い。
例えば、ちゃんとオークションにかけられれば必ず成功するようにする。
南の都市のギルドマスターが、個人的に無理強いする場合には、必ず失敗するとかだ。
・・手間だな、正直そう思ってしまった。
「では最後の一冊を・・」
「待ってくれ! 流石に中級の魔導書までは・・」
「ノルド。今誰か他のギルドマスターにやらせるのは、後々禍根を残す。最後まできっちりやるんだ」
「・・・分かった」
この場は、北のギルドマスターのため。
そのための魔導書であると、四人のギルドマスターたちは納得している。
中級の魔導書を受け取ると、ペラペラとページを捲る。
最後のページまで見終えると、魔導書は塵と消える。
「「「「どうだ!?」」」」
「・・・いや、何も・・、本当に・・何も」
何度も頭の中を確認しているようだが、本当に何もないと繰り返す。
「そうか・・」
四人はがっかりしたような、ホッとしたような雰囲気となる。
北のギルドマスターのため、とは言っても、一人だけ中級魔法を身に着けると言う事に、羨望しないはずがない。
「そうなると、三つ目の魔法は覚えらえないのか・・」
「中級魔法を覚える事に、何らかの条件があるのか・・」
「三つ目を覚えるためにも、何か条件があるのか・・」
「そもそも、その魔導書に問題がなかったのか・・」
ギルドマスターたちは、失敗した原因を話し合っている。
前例や事例が全くないのだから、いくら話し合っても答えは出ないだろうが。
僕としては、大成功の会合だった。
冒険者ギルドの評議会を無事に終えて、ジュドと一緒に馬車で帰ってくる。
初めて評議会に参加する時は、乗合馬車を乗り継いで、往復するのかと思っていた。
流石はギルドマスター、不在の時間は減らした方が良いと言う考えから、一応専用の馬車が用意されている。
大概、行きは魔導書の話を、どう持って行くかと言う話を詰めていく。
帰りは、特に量産の方法について色々と言ってくるので、少々ウンザリしていた。
しかし今回は、目の前で失敗しているので、量産の話は出てこない。
ただ終始なぜ失敗したのかばかり聞いてくるので、データが足りない、分からない事が多すぎると躱していた。
南の地方都市に到着し、別れ際、大量生産が必要だな、と言う一言が気がかりだ。
「ふぅ・・、やっと帰ってこれた。やっぱり馬車での移動は体が痛くなる・・」
ギルドマスター専用とは言え、決して豪華な造りではなく、いたって普通の馬車だ。
特に座りっぱなしの尻が痛く、強張った体をあちらこちらを伸ばしながら呟く。
もう少しで自宅兼店舗と言うところで、入り口の前で佇む、三人の人影を見つける。
「・・誰だろう?」
魔法犯罪者の特別取締部隊「アインハイト」のメンバーや商業、冒険者ギルドの誰かなら、不在と分かれば、いつまでも店先にいる事はない。
それ以外で店に用事がある人は居ない・・はず。
そんな事を考えながら近づくと、今となってはかなり前、この世界に一緒に召喚された三人、勇者パーティだった。
「皆さん、お久しぶりです。良くここが分かりましたね・・」
そこまで言って、自分の一言に戦慄する。
「(彼らは、どうしてこの場所が分かったんだ・・?)」
偶然この場所に辿り着いた可能性はなくはないだろうが、それよりも調べてここに来たと考えるべきだ。
何故か・・
「・・覚えていてくれたか。ありがたいと言うか、少々やり難いかな・・」
「やり難い? 何をですか?」
「すまないが、君には・・死んでもらいたい」
・・僕の存在が、非常に邪魔な人たちがいるのだろう。
「・・・(なる程ね、そうきたか)」
魔道具を取り扱う、大商会や、商業ギルド、冒険者ギルドと敵対するのではなく、一個人を直接狙う、単純明快な手段を打ってきたのだ。
自分が狙われると考えなかった訳じゃないが、正直考えたくなかった。
暗殺者ではなく、勇者パーティを派遣した理由までは分からないが・・
「そうですか。一つお聞きしても?」
「何かな? 答えられることであれば答えよう」
「どのような理由で、僕を殺そうと言うのですか?」
僕の質問は、当然あるべき質問と準備してあったのだろう、すらすらと出てくる。
「君は、神から与えられた能力、確かアイテムクリエーションだったか、を使って悪事を行っている」
「悪事・・ですか、どのような?」
「野盗や強盗、レジスタンス、そしてテロ集団に装備を渡し、莫大な利益を得つつ、無辜の民を傷つけ苦しめている」
「なる程、なる程」
今のやり取りで分かった、彼らはとてもお馬鹿さんだと言う事が。
「で、証拠は?」
「「「・・えっ!? 証拠?」」」
僕の言葉に、勇者パーティの三人が顔を見合わせ、間抜けにも声を揃えて驚く。
「まさかこれから殺されると言うのに、黙ってはいそうですかと言う人がいますか?」
「それは・・」
「百歩譲って、僕が悪事を本当に働いていたとして、素直に言うと思いますか?」
「むっ・・」
人を疑うには、それ相応の理由か証拠があってしかるべきだろう。
でなければ、世の中は冤罪で満ち溢れてしまう。
「あなた方を派遣した人が誰かはわかりません。しかしその人が言ったから、きちんと調べもせず、僕を犯罪者扱いにしたんですか?」
「いや、えーっと・・」
「三人もいるんですから、自分たちの足で情報を集め、証拠を集め・・」
「ちょっと・・」
「僕が、裏なり、闇なり、そういう人々と付き合いがあって・・」
「あの・・」
「悪事を働いている証拠を押さえているんですよね? もしくは今まさにその現場だったりする訳ですよね? 利益を得ている裏帳簿とか、二重帳簿が有ったり?」
「「「・・・」」」
「まさかとは思いますが、自分の目と耳と手足を使って調べていない? 確認もせず、証拠もない? それで僕を犯罪者扱いですか?」
「「「・・はい」」」
三人は僕の追い込みに、がっくりと項垂れ、自分たちの落ち度を認める。
言われるままにここに来て、事を済まそうとした・・僕が馬鹿者呼ばわりの理由である。
「では僕は殺される理由がないし、冤罪のために死ぬつもりもない」
「そ、それは・・」
「お引き取り願えますか?」
彼らが口を挟むことを許さず、ピシャリと出直しを命じる。
「ま、待ってくれ!」
「何ですか?」
「もしかしたら証拠集めの間に、君がどこかに逃げて雲隠れするかもしれない」
「先に調査しておかない、そちらの落ち度ですよね?」
「うっ・・」
僕の言葉に簡単に言い任されてしまう勇者たち。
「(・・これで勇者に、聖女に賢者って、大丈夫か? ちょっと心配になるぞ)」
彼らは今まで、国王の命令でモンスターを退治した事しかない。
つまり常に百%敵でしかなく、疑いを持って行動する事が徐々になくなってしまった。
これでは子供のお使いの方が、まだマシである。
「「「どうしよう・・」」」
三人が頭を突き合わせて、良いアイデアを絞り出そうとしている。
「(もしかして、上手く誘導すれば、彼らを味方にできるかも?)」
彼らは良く言えば、純朴で素直で、人の言葉に耳を傾ける事ができる。
正論で彼らを丸め込めるのではないかと考える。
「皆さんお困りのようですね。ほんの一瞬とは言え昔のよしみもありますから、一つ僕の案を考えてみませんか?」
「ど、どんなアイデアですか?」
少々追い詰められ気味の彼らに、良いアイデアが浮かばないのか喰い付いてくる。
「僕と皆さんで、あなた方に命じられた人と会いに行くんです」
「王都に? 王様とですか?」
あっ、やっぱり暗殺の指示は国王ですか・・
そうかなぁ、とは考えてはいたけど、思わぬ事で犯人が判明してしまう。
「そうそう王様と直接会って、誤解を解くんです」
「うーん・・」
「もしくは、実際に証拠を見せてもらうのはどうでしょうか?」
「「「なる程」」」
証拠もなく、僕も逃がさない案に、三人はあっさりと頷く。
「皆さんは両者の意見を聞いて、証拠を見て、どちらが正しいか判断して下さい」
「分かりました、一緒に王都に行き、王様に謁見しましょう」
四人で王都に向かい、王様と会う事が決まる。
「ただ一つ困った事がありまして・・」
「何でしょう。できる限りお手伝いしますよ」
「いや、もし王様たちが後ろめたい事があれば、問答無用で殺しに来ると思うんですよ」
「うーん・・、そうでしょうか?」
「勿論違うとは思いますが、もしもと言う事がありますし・・」
まあアビリティの『無病息災』があるから、全く問題ないとは思う。
だけどわざわざ危険と思われるところに、何の手立てもなく向かうつもりはない。
あっ! 帰りの手段もないや・・、どうしよう・・、と変な事まで思いつく。
「それなら私が責任を持ちます」
聖女が万が一の際の方法を提案してくる。
「私の聖魔法には、蘇生できる魔法があります。マッヘンさんの万が一の時には、責任を持って蘇らせましょう」
「・・却下です」
「えっ!? 何故ですか? どうしてですか!? やった事がないからですか!? 私がやってみたいと思っているからですか!?」
後半のセリフには戦慄を覚える。
・・やった事がない? 本当に生き返るか分からないじゃないか!?
仲間の勇者と賢者にも、若干ひかれているようだ。
「死んじゃった僕だと、蘇らせてくれたか分からないじゃないですか!?」
「だ・か・ら、私が責任を持って・・」
勇者パーティは元々のスペックが、史上最強クラスの能力を有する。
そこへモンスター討伐とは言え、雑魚相手では蘇生どころか、回復魔法を使う機会さえないの、とブチブチ文句を言っている。
ヤバい、実にヤバい思考が堂々巡りしている。
「・・俺に良い考えがある」
賢者が無益な会話を止めるために、打開策を申し出てくる。
聖女ただ一人、やりたかったのにぃー、とブツブツ文句を言っているが、三人は無視する。
「俺の支援魔法の中に、変わり身の魔法がある。これは俺と誰かの姿を入れ替える事ができるので、この状態で謁見したらどうだろうか?」
「おお! 最初から入れ替わっておけば良いんですね」
「その通りだ」
僕の理解に、賢者が頷く。
「それならば安心です。あとは皆さんの判断次第です」
その言葉に、再び三人が頭を突き合わせて相談し始めると、すぐに頷いて、変わり身の魔法で謁見する事が決定する。
これもまた、星野巡り合わせか、災い転じて福となすなのか・・
三人を上手く丸め込めたラッキーを、内心神様に感謝する。




