周りが騒ぎ出す
28.周りが騒ぎ出す
−BAR 堕天使−
日々感謝の言葉を捧げてくれるマッヘンに、ニマニマするのが抑えられない世界管理者(幼女)。
ここは自分以外の世界管理者が、いつ来るか分からないBAR、しかも気づかないふりをしている店員だっている。
ちょっと引いてしまう言動と言うのは、慎むべきだが仕方がないようだ。
しかし感謝の言葉よりも、最近は詫びる言葉が増え、その姿に小さな胸を痛めている事も事実。
「頼んだのはこちらじゃと言うのに・・。全く持って頭の下がる思いじゃのぉ・・」
彼女はマッヘンを責めるどころか、マッヘン同様、彼へ詫びる気持ちで一杯だった。
「魔道具・・。確かに誰でも使えると言う事は、善悪に関わらず使う事ができると言う事・・。世界管理者として予想してしかるべきじゃった・・」
深くため息を吐き出す。
「これは世界管理者たるワシの考えが至らなかったため・・。マッヘンよ、そなたが責任を感じる事ではないぞ・・」
届くはずもない世界にいる彼に向かい、口にしなくては気が済まなかった。
「それに引き換え、勇者たちを使ってマッヘンを暗殺じゃと・・?」
勇者たちには、マッヘンの言葉を素直に受け入れるよう細工が組み込まれている。
「勇者たちの方は大丈夫じゃが・・。国王に貴族とも・・、大馬鹿どもが良い度胸じゃ! しかしダンジョンの設定を操作できるようにしておけば・・悔やまれるのぉ」
勇者や魔王と言うシステムは、自分の高慢さ故取り入れなかった。
当然ダンジョンに関しても設定変更の機能がなく、当初設定した魔法が高い効果を示す仕組みであり、魔法至上主義の根幹である。
そして魔道具導入の切欠でもある。
「何にせよ、自分たちの罪を民に洗いざらい、包み隠さず告げるのは当然やってもらうからな?」
それはそれは良い笑顔であった。
少し前なら、疲れ果てた表情を浮かべたはずだ。
「失敗しても、さらなる未来がある・・。これは何と素晴らしき事か・・」
しかし今は違い、マッヘンによって持ち込まれた魔道具によって、生活水準は格段に向上している。
これは魔法を持つ者と持たざる者の新たなる融合、新しい世界観の誕生の兆し・・。
世界管理者(幼女)は、そう期待してしまうのだ。
今更ながら、上司の言葉を理解する。
「・・ん? 何じゃ?」
感慨深く目を瞑り、深く思考の海を漂っていたのに、何かによって邪魔される。
「自分の世界から・・か? これは・・ワシを呼ぶ声?」
透明な板を取り出し、自分の世界を覗いた瞬間、狂気の笑顔に顔が染まる・・
「ほぉ・・勇者を寄こせ? ちゃんと送っておるだろう、既に・・って、勇者が裏切った? 予定通りじゃが、どれどれ・・」
少し過去の出来事を、透明な板で調べてみる。
「・・なる程。暗殺に向かったはずの勇者たちが、マッヘンの言葉でコロッと寝返ったと・・。おいおいそれは最悪手じゃぞ・・って、ああ・・やりおったか」
勇者たちの前で、マッヘンの身代わりを剣で刺し貫く映像が映し出される。
そして勇者たちの怒りを買って、王城が徹底的に破壊され、四人で王都を離れる。
「・・それで新しい勇者が欲しいと? くっくっく・・片腹痛いわ! この愚か者どもが!」
BARと言う場所も弁えず、思いっきり立ち上がり、怒鳴り声を上げる。
「よぉー・・く分かった。今、きっちり話をつけよう・・な?」
全力をもって感情を抑え込んでいるが、目をむき、頬を引く付かせ、唇が片方吊り上げた表情でBARを出ていく。
「ありがとうございました」
一人残された店員は、何もなかったかのように、笑顔で送り出す。
幼女の席に残されたグラスにも、そこにはいない別の誰かが笑顔を浮かべていた。
勇者、聖女、賢者の三人パーティが、召喚されてからすぐに国王から与えられた仕事は、モンスター退治である。
「勇者の諸君、そなたたちは来るべき時、すなわち強力なダンジョンが誕生した有事に備えて欲しい」
「「「はい」」」
「しかしながら、世にはダンジョン以外にもモンスターは多く存在する。そのモンスターは、日々民衆の生活の脅威となっている」
モンスターの強さに関わらず、日々モンスターを倒す必要があると国王は言う。
勇者一行も、国王の言う事は尤もだと思った。
国王や貴族たちの本音は、実のところ違う。
次の権力者になろうと企てる、地方の領主・・、つまり魔法使いたちへの牽制だ。
庶民の歓心を買おうと日々努める貴族たちの領土に、勇者たちを送っては、率先的にモンスターを討伐していかせているのだ。
こうやって現権力者たちの存在を、アピールするのが目的であった。
その国王からの使いとして、至急戻るように手紙を受け取ったのは、そんな討伐のために、何回目かの地方巡りをしているときの事だった。
「何事だろうか?」
「モンスター討伐を中断してまでっていう事は・・」
「そうですね・・、強力なダンジョンが誕生したかもしれません」
「「っ!?」」
勇者と聖女は、賢者の言葉に思わず息を呑む。
王城に戻るとすぐに、謁見の間に通される。
「王様、至急の帰還と言う事で戻りました」
「うむ、勇者たちよ・・。すまぬ」
「モンスターの討伐を差し置いての帰還命令・・、何があったのでしょうか?」
その言葉に、国王は顔を曇らせる。
内心は勇者たちを、上手く使うための演技とせせら笑っているのだが・・
「・・王様?」
自分たちの問いに、何も答えない国王を不審に思って問いかける。
「いや、すまぬ。そなたたち三人が召喚された際、もう一人いたのを覚えておるか?」
「・・えっ? ええ、覚えていますが?」
「彼の能力はアイテムクリエーションと言って、道具を作り出す能力であった」
「そう言えば・・、そんな話も聞きました」
「戦闘能力の持たない者に、そなたたちと同じ任務は厳しいと余は考え、生産職となる事を勧めたのじゃ・・」
「尤もだと思います」
自分たちも日々モンスターと戦っているが、決して楽な任務ではない。
いつ発生するか分からないダンジョンに気を張り、生まれれば生まれたで、深く深く潜っていき戦わなくてはならない。
確かに生産職系の能力しかないのであれば、別の道を勧めるべきだろう。
「ところが、せっかく神より授かった能力を、悪用しておるのじゃ・・」
「「「えっ!?」」」
あまりに突然の告白に、三人の驚きが重なる。
「神は多分、そなたたちの装備を創るようにと言う目的で、彼を一緒に送り出されたのだろう」
「なる程」
「しかしまだ未熟な上、城にある装備の方が格上と言う事もあったので、町で修業をしてはどうかと勧め、彼も受け入れてくれた、と思っておった・・」
「違うのですか?」
「神より遣わされた者にも関わらず、城にある装備の方が上と言われたことが気に入らなかったのかもしれぬ」
「・・逆恨み、ですか?」
王は痛々しい表情で、分からぬと首を振り演技を続ける。
「神より授かった能力で装備を作り、野盗や強盗、レジスタンスやテロ集団に渡し始めたのじゃ。確かに城の装備よりは落ちるが、町の物よりは格上の装備・・」
「っ!? なんて事を・・」
「彼を捕らえるべきとも考えたが、神に頼み、大事にせよとの言葉と一緒に与えられた者を、我らが傷つけた事で神の怒りを買うのでは、と皆が皆、躊躇しておる」
「神はそのような不公平なお方ではないと思いますが・・」
「そうかもしれぬが、恐れは拭えぬ」
神との約定は、彼らにとって神聖な物なのだろう。
「ましてや神の使徒が悪事を働いていると民に知れ渡れば、神への信仰が揺らいでしまうであろう・・」
「それは・・」
「そこで、お主たちに秘密裏に彼を・・、頼めぬであろうか?」
これ以上は言わさないでくれと言わんばかりの、悲痛な表情を作り上げる国王。
三人は黙って顔を見合わせ頷く。
自分たちを送った神を、心から信じる民を苦しめると言う王の言葉は理解できる。
「分かりました」
召喚された者同士、改心を求めたい。
しかしその場逃れの嘘、再度罪を犯す可能性は懸念される。
その間に犠牲者が増えてしまう。
「お任せ下さい。王様・・」
ならば自分たちの手で、神の御許に送り返すのが役割と覚悟を決める。
どんな組織も完全なものはあり得ない。
常に話し合いを行い、必要に応じては臨時の集会を持つ事がある。
冒険者ギルドと言えど、それは当たり前だ。
正確には前回の評議会の途中で、北の地方都市のギルドマスターが離脱してしまい、会合として成り立たなくなってしまったため、再度招集された・・建前で。
「南の地方都市のギルドマスターも、判断に迷う事を言い残していくよなぁ・・」
『何時でも臨時の評議会を招集するから、できるだけ早急に準備して欲しい』
これは北の地方都市のギルドマスターを、心配する気持ちとも取れる。
逆に、どれだけ僕に生産能力があるか図るためとも取れてしまう。
そもそも此処まで信頼を落したギルドマスターの責任の部分が多いのだが・・
しかし話に聞いた限りでは、かなり北の地方都市のギルドマスターが心配なのは確かだ。
先日頼まれた時、作り途中と言っておいたし、失敗するのは早めに見ておいてもらった方が良いかもと言う気持ちもある。
・・という訳で、再び冒険者ギルドの評議会の場に参加している。
しかし評議会は開会を前に、たった一人の人間によって荒れ始めていた。
「これより臨時評議会を開催する・・」
「臨時、臨時ってうるせぇよ! 俺が前回途中で抜けたせいだって言えば良いだろう!」
開会の宣言を遮って、北の地方都市のギルドマスターのノルドが割り込んでくる。
「黙って座れ・・」
「ああ!? うるせえか? うるせえよな? じゃあ、俺を呼ぶな!」
「評議会は、王都、東西南北の五人が揃うと言う取り決めがある・・」
「だったら俺をギルドマスターから引きずりおろせ! お前らと違って四属性魔法を使えない無能な俺をな!」
四人は顔顰めてじっと我慢しているが、終始このありさまである。
本当に関係のない一言一言までも、自分への悪意と受け取ってしまっているようだ。
「いい加減にしろ、ノルドよ。黙って座るんだ・・」
「うるせぇ! 俺に指図すんな!」
こう言っては部屋を出ていこうとして、他のギルドマスターたちに止められる。
バンッ!
僕は魔導書をテーブルに叩きつける。
全員の視線が一旦、こちらへと集まる。
部外者としてやり取りを聞いていたが、此処まで北の地方都市のギルドマスターが、荒れているとは予想だにしなかった。
他の四人のギルドマスターが早急に手を打ちたいと言う気持ちも十分理解できる。
僕は視線が集まっているこの隙にと思い、王都のギルドマスターに黙って頷くと、彼も黙って頷き返して話始める。
「話が進みませんのでとっとと言いますが、四属性魔法の魔導書が二冊手に入りました。それと・・中級魔法が一冊です」
叩きつけた魔導書の中から、一冊を手にする。
その後を、王都のギルドマスターが引き継いで話をする。
「そこでこの五人のギルドマスターの内、実験台となる者を探している」
「・・えっ!?」
話の伝わっていないノルドだけが、驚きの声を上げる。
「ちょっと・・待てよ・・。魔導書はオークションでって・・」
「黙れ、ノルド! 話の腰を折るな!」
北の地方都市のギルドマスターが、疑問を挟むことを許さない。
彼の言おうとしている事は正しく、今まで厳しく守られてきていた。
一度でも例外を認めてしまうと、ルールがルールとして機能しなくなる危険がある。
しかし今は、今だけはその指摘をさせてはならないと、これが黙らせた経緯だ。
「既にいくつかの魔導書が世に出て、そして中級魔法の魔導書が出来上がった今、その先について話し合う必要がある。それが今回の臨時評議会の趣旨じゃ!」
王都のギルドマスターが言い切ると、僕に向かって顎で合図する。
「では説明してもらおうか」
僕が創っている事を表向き隠しているため、あくまでも見つけたと言う立場にしてあるのでこのように指示される。
「ついに中級魔法の魔導書の試作品が入手できました。しかしオークションで誰かに渡った場合、その後どうなるか分かりません」
「尤もじゃ」
王都のギルドマスターが、これ見よがしに頷いて同意する。
「複数の魔法を覚えられるのか? アドバンストの魔法は覚えられるのか? これは最低限確認しておくべきと考えます」
「魔導書は非常に希少だ。事前に調査するに越した事はない」
北の地方都市のギルドマスターの前に、ひたすら建前を並べていく。
「では希望者を募る。挙手を・・」
「ちょ、ちょっと待て! アドバンスドの魔導書だぞ!? ・・えっ?」
話を勝手に進める王都のギルドマスターに、ノルドが待ったをかける。
しかし彼も含めて誰も手を上げるない。
「うん? 希望者はおらんのか? もう一度・・」
「・・ちょっと・・待ってくれ・・」
ノルドの言葉を無視して、王都のギルドマスターは再度希望を呼びかける。
しかし他の三人は、腕を組んだまま微動だにしない。
その光景にノルドは、今回の評議会の真の目的を悟る。
「俺に・・やらせてくれ・・」
「おお! 希望者がいて何よりじゃ!」
何度も何度も済まんと呟きながら、そっと彼は挙手する。
王都のギルドマスターは、ノルドの手が上がりきる前に指名してしまう。
そして僕にとっては、これからが本番である。




