動き出す王国
27.動き出す王国
南の地方都市を管轄する貴族からの紹介で、ある貴族に魔石商品の導入を終えた、帰りの馬車での話・・
主要なメンバーは、僕と大商会会長、パソナである。
大商会の会長も、商業ギルドのギルドマスターも、非常に忙しいのだが、相手は貴族、可能なら二人とも、少なくとも必ずどちらかが同席するようにしている。
「お二人とも、お疲れさまでした」
設置場所の確認、搬入、設置、基本的な使い方の説明して、実際に使用してもらい、問題がない事を確認する。
大抵は一泊ないしは二泊の仕事となる。
「いえいえ、パソナさんも、大商会の会長もご苦労様でした」
「私など、お二人に比べれば、貴族と喋っていただけですから」
「「いや、それが一番大変ですって」」
魔道具は、どのような物が欲しいかヒアリングして、事前に物を作って置き、運び入れて設置するだけだ。
その辺は家令たちの指示に従うだけなので、商業ギルド側でやってくれる。
僕がやるのは、移動で壊れていないかの動作確認と、使用方法の説明ぐらいである。
お互いが労を労い、話が一段落したところで、パソナが聞いてくる。
「マッヘンさん、聞きましたよ?」
「何をです?」
「新しい魔道具を、冒険者ギルドに頼んだと」
「・・・」
「情報が早いですね。その通りです」
何処からの情報かは分からないが、冒険者ギルドの評議会の中だけの話が、商業ギルドに流れている。
沈黙していると言う事は、大商会の会長もすでに認識している事だろう。
そしてここで切り出す事も、事前に双方で話し合われた可能性もある。
「何故今回は、冒険者ギルドに?」
「そうですね・・。理由としては商業ギルドと大商会のため、でしょうか?」
「「えっ!?」」
流石にこの一言に、二人は驚いたようだ。
「ど、どういう事でしょうか?」
「魔道具は、僕や、大商会、商業ギルドに大きな益をもたらしました。反面、色々な問題を抱え、対策に莫大な時間やお金をかけました」
「そうですね」
「しかし冒険者ギルドは高みの見物、それどころか棚からぼた餅・・美味しいところだけ得てきました」
「それは・・」
商業ギルドの職員は言葉を濁したが、殆どの関係者がそれを感じているはずだ。
「そこで数を絞りつつ、冒険者ギルドに管理を委ねました」
「きっとゴタゴタするのでしょうね・・」
「はい。今回の魔導書は、正真正銘の魔法を使えるようにする魔道具なんです」
「「・・・ ・・えっ!?」」
冒険者ギルドの評議会で説明したことを繰り返す。
「先天的な・・病気、ですか」
「それが解決される魔道具・・、画期的ですな・・」
二人の表情から、是非ともこちらでやりたかったと顔に書いてある。
「手書きする魔道具は、一発勝負のやり直しがききません。一枚こっきりのスクロールとは違い、本と言う事でかなりの生産性に問題があります」
「確かに・・」
「何より他の魔道具ならいざ知らず、魔導書を王国が、魔法至上主義者が黙って見過ごすと思いますか?」
「「あっ!?」」
大商会の会長と、パソナの気付きの驚きの声が重なる。
魔導書と他の魔道具の違いは歴然としている。
画一的ではあるが、正真正銘、自力で魔法を使う事ができるようになる魔導書。
貴族と平民の差がなくなる・・
魔法とは貴族至上主義の原点、自分たちのアイデンティティを揺るがす代物だ。
「ヤバいですね・・」
「これは王国と真正面から激突するな・・」
「大商会と商業ギルドのためになったでしょう?」
意地悪い笑顔を浮かべる僕の言葉に、二人は無言で頷くしかない。
冒険者ギルドの対応如何では、こちらにも飛び火してくる大問題である。
「先んじて、手を打っておく必要があるな・・」
「しかし王国と貴族がどう動くか不明ですね・・」
魔導書は、あくまでも冒険者ギルドと考えてくれるか・・
魔道具として、全てを叩きに来るか・・
「「こういう事はもっと早く教えて下さい!」」
「えっー!? 僕のせいですか?」
二人は腹いせのつもりなのか、僕を責めてくる。
僕だって分かるんだから、大商会の会長も、商業ギルドも気づくと思ったんだけど・・
国王貴族派と庶民派の違いは、魔法が使える使えないの差だと思われがちだ。
モンスターの多くは、魔法に弱く、魔法使いたちの活躍が著しかったことは事実。
現在国を治める者たちは、国の再建に携わった者たちの末裔である。
これが魔法至上主義の原点であり、今なお色濃く残る理由でもある。
「ふむ・・」
豪華に設えられた玉座に腰掛ける王が呟く。
謁見の魔には、国を司る貴族たちが立ち並び、目の前には、従者が恭しく掲げた一冊の本が差し出されている。
「これが魔導書と呼ばれる、魔道具なのか?」
「その通りです、陛下」
その本に手を伸ばそうとするのを、貴族たちが警告する。
「お待ち下さい、陛下! 誤って中を見てしまうと、その魔法しか使えなくなります!」
その叫び声に、国王は伸ばしかけた手を戻す。
「それは、誠か?」
「いえ、試したものはおりませんので・・。その魔法が使える・・、裏を返せば、その魔法しか使えなくなるのではと言う噂です」
「なる程のぉ・・」
その魔法を使えない者が、使えるようになるならまだ良い。
その魔法しか使えなくなるでは、貴族たちにとって致命的で、誰も試したがらないのは当然だ。
ドン!
王は怒りに満ちた表情で、従者が手にしていた王笏で魔導書を叩きつける。
たいした力ではないが、驚いて従者が魔導書を落してしまう。
「庶民どもの分際で!」
拾おうとした従者を手で制して、魔導書をそのままに下がらせる。
「すぐに魔道具の、禁止令並びに焚書令を発令する!」
「お待ち下さい、陛下!」
「何故じゃ!」
短絡的に禁止しようとする国王を諫める。
「多くのダンジョンを攻略してから世は平和になりましたが、権力を奪おうとする魔法使いたちが台頭してきております」
「そんな事は承知しておる!」
「他の魔法使いたちは、庶民に媚を売り、魔道具をこよなく愛する者たちが多いと聞き及んでおります」
そこまで聞くと、王は苦々し気に口をへの字にする。
「内戦か・・」
「御意」
勿論、権力を誇示し、守るためならば内戦も致し方ないと思う。
しかし庶民如きのために、無駄な消耗は望ましくはない。
「しかも出所に問題がありまして・・」
「何処からじゃ?」
「冒険者ギルドの幹部連・・、評議会からのようです」
「ぐぅ・・、よもや冒険者ギルドからか・・」
冒険者は全国におり、王国の守りの要の一つでもある。
魔法使いと冒険者・・、正面切って戦って負けるとは思わない。
しかし常に魔物や対人戦の経験を積み、奇襲に絡め手、戦略などは侮れない。
また自分たち魔法使いの先兵をしているのは、冒険者ギルドに他ならない。
「ぬぅぅぅ・・、手も足も出んのか、たかが庶民に・・」
「陛下、一つ手がございます」
歯噛みする国王に、一人の貴族が提言する。
他の貴族たちが驚かないところ見ると、既に事前に話し合われていたのだろう。
「どのような方法じゃ!?」
貴族の言葉に、国王は飛びついてくる。
「我々が調べた限り、魔道具は、たった一人の人間によってもたらされた事が分かっております」
「たった・・一人の人間じゃと?」
自分たちに今もたらされている騒動が、たった一人の人間によるものと聞いて驚く。
「陛下、勇者召喚の際に、一人異物が紛れ込んでいたのを覚えてはおられませんか?」
「異物・・?」
「魔法の能力がなく、アイテムクリエーションと言う能力を持っていた者です」
「・・記憶にないのぉ」
どうでもいい人間の事など、国王は記憶に残す事はしない。
話を切り出した貴族はそうだろうなと思いつつも、話を繋げて続ける。
「その者が、能力を使って魔道具を生み出しているのです」
「そうであったか・・。で、如何する?」
内戦も、ギルドとの正面衝突を避ける方法は、どのようなものなのかと先を急かす。
「確かに魔道具を失うのは惜しいですが、内戦と正面衝突を回避して、我らの誇りと権威を取り戻す方法はただ一つ・・」
「それは?」
「その者に、病死や事故死して貰えば良いかと」
貴族は、満面の笑みを浮かべて提案する。
「・・病死か事故死。なる程、それは仕方ないのぉ」
貴族同士でも表立てない際、良くやる手法に国王もニヤリと笑みを浮かべて応える。
「ただ召喚に紛れ込んだとはいえ、神と敵対する事になりかねません」
「むっ!? そうじゃの。その点は如何する?」
「勿論、勇者たち殿にお願いするのがよろしいかと・・」
「何!? 勇者たちにか! ・・確かに良さそうな案じゃ」
勇者を召喚した際に、神と交わした誓約が存在する。
それをすり抜ける方法を、簡単に吟味して良しと判断する。
「しかし勇者たちを動かす理由、それ相応の大義名分が必要ではないか?」
「そうですなぁ・・。神から受けた能力を使って、世を乱そうとしている、と言うのは如何でしょうか?」
「騒乱罪か! 良いアイデアじゃ!」
魔法至上主義を脅かす者・・、世の平和を乱そうとするものを処罰する。
これほどふさわしい罪状はないと考える。
「うむ! すぐに勇者たちを呼べ」
「御意」
魔道具を潰すため、国王貴族派が動き始める。
僕の目の前には、南の地方都市の冒険者ギルドのジュドがいる。
腰を折り、深々と頭を下げている。
「頼む・・、北のギルドマスターを、ノルドを助けてやってくれ」
彼は早朝一番、僕の自宅兼店舗を訪れた。
中に入ると開口一番、こう言って頭を下げてきたのだ。
「いきなり頼むと言われて、頭を下げられましても・・」
「そうか・・、そうだな済まん・・」
椅子を勧め座ってもらうと、悩まし気に話し始める。
「魔導書・・、初めて評議会に持ち込んだ時の事を覚えているか?」
「えっ!? ええ、もちろん・・」
「その時ノルドがやらかした・・、まあ自分で選んだんだが、生活魔法を身に付けた」
「そうですね」
彼は魔道具に良い思いを持っていなかった。
だから適当に余っていた魔導書に手を出した。
結果、自分の短絡的で愚かな行いで、未来を閉ざしたと落ち込んでいると言う。
「特に魔導書が出始めてから、ギルドマスターたちも魔法を身に付けていると話題になり、北の地方都市のギルドマスターは?となって、生活魔法を・・となった」
「それが何か?」
「何の道具もなしに魔法を使える事は凄い事だ。誰も彼も褒めたたえたが、彼自身は無能と攻め立てられているように感じてしまっていてな」
他の地方都市のギルドマスターたちは、初級とは言え四属性魔法を身に付けている。
それと自分の生活魔法を比べられると、何と自分は惨めなのだろうと決めつけたのだ。
自分でそう感じていれば、善意も悪意に受取ってしまう事がある。
「ギルドマスターとは言え人間、人格者なんかじゃない」
「・・・」
まあ南のギルドマスターを見れば、頷ける言葉である。
「周囲の人間にそんな言葉や態度はないとは思うが、その時から荒れまくっていてな・・」
「実際に陰口ぐらいはあるかもしれませんね・・」
「ああ・・、そうだな」
冒険者たちは移動する、移動先でそう言った話になり、徐々に広まっていく。
敏感になっている者には、些細な変化であっても、誤解して受け取ってしまう。
「でもギルドマスター同士のオークションで、入手は可能ですよね?」
「ギルドマスターとは言っても、給料がそんなに良い訳じゃない・・」
ギルドマスターの報酬より、現場の冒険者の方が稼ぎは良いらしい。
沢山稼いだ人とか、成果を残した人とか、やりたい人?がやる名誉職なんだとか。
「あの時は魔導書を奪い合っていたが、同じギルドマスターであり、冒険者であり、仲間でもある。・・正直見ていられなくてな」
「それで、助けて欲しいと?」
「ああ。何とかしてやれないか?」
「それはギルドマスター一人のお考えですか?」
今までの事が積み重なっていて、悪いが彼の言葉を疑う。
彼を助けると言いながら、自分で使う可能性がある。
「いやノルドを除く、四人のギルドマスターたちの総意だ」
「・・えっ!?」
これは驚いた。まさか本当に心配していたとは・・
「つい最近も、評議会があったんだが・・、見ていられなかった。噂はあくまでも噂だと思ったんだが、事あるごとに四大魔法が偉いのかとか、お前たちもそう思っているのだろうとか、見下すように俺を見るなとかな・・。会合にならなかった上に、途中で逃げるように出ていってしまった」
「それは・・」
実際に見た訳ではないが、本当ならこれはシャレにならない・・。
五冊別の物を持って行った僕が責任を感じてしまう。
同じものを持って行けば、このような事態に陥る事はなかった。
「正直に言います」
「ああ・・」
「本当に使えるか・・、二つ目、三つ目、中級、上級と覚えられるか・・、この一点に関して全く分からないんです。必ず成功するか、本当に・・」
こうは言ったが、魔導書を上書きでも、複数でも覚えられるようにする事は可能だ。
しかしこのタイミングは非常に運が良い。
わざと失敗する魔導書を用意する事で、僕ができる最善の予防策を用意できる。
北の地方都市のギルドマスターを救う事は、魔導書に対する期待が一気に跳ね上がる。
特に南の地方都市のギルドマスターは、特に裏や陰で手を出してくるに違いない。
しかし成功と失敗の条件が分からなければ、そう簡単に手出しはできないはずだ。
「構わない! あいつに使ってやってくれ! 頼む・・」
「先程も言いましたが、失敗する可能性も・・」
「試すだけ試してくれ・・、可能性があるなら! 頼む!」
次回の評議会までに何とか準備すると、必死な姿のジュドに約束する。




