表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
路地裏の雑貨屋さん  作者: まる
27/31

動き出す王国

27.動き出す王国




南の地方都市を管轄する貴族からの紹介で、ある貴族に魔石商品の導入を終えた、帰りの馬車での話・・


主要なメンバーは、僕と大商会会長、パソナである。


大商会の会長も、商業ギルドのギルドマスターも、非常に忙しいのだが、相手は貴族、可能なら二人とも、少なくとも必ずどちらかが同席するようにしている。


「お二人とも、お疲れさまでした」


設置場所の確認、搬入、設置、基本的な使い方の説明して、実際に使用してもらい、問題がない事を確認する。

大抵は一泊ないしは二泊の仕事となる。


「いえいえ、パソナさんも、大商会の会長もご苦労様でした」

「私など、お二人に比べれば、貴族と喋っていただけですから」

「「いや、それが一番大変ですって」」


魔道具マジックアイテムは、どのような物が欲しいかヒアリングして、事前に物を作って置き、運び入れて設置するだけだ。

その辺は家令たちの指示に従うだけなので、商業ギルド側でやってくれる。


僕がやるのは、移動で壊れていないかの動作確認と、使用方法の説明ぐらいである。




お互いが労を労い、話が一段落したところで、パソナが聞いてくる。


「マッヘンさん、聞きましたよ?」

「何をです?」

「新しい魔道具マジックアイテムを、冒険者ギルドに頼んだと」

「・・・」

「情報が早いですね。その通りです」


何処からの情報かは分からないが、冒険者ギルドの評議会の中だけの話が、商業ギルドに流れている。


沈黙していると言う事は、大商会の会長もすでに認識している事だろう。

そしてここで切り出す事も、事前に双方で話し合われた可能性もある。


「何故今回は、冒険者ギルドに?」

「そうですね・・。理由としては商業ギルドと大商会のため、でしょうか?」

「「えっ!?」」


流石にこの一言に、二人は驚いたようだ。


「ど、どういう事でしょうか?」

魔道具マジックアイテムは、僕や、大商会、商業ギルドに大きな益をもたらしました。反面、色々な問題を抱え、対策に莫大な時間やお金をかけました」

「そうですね」

「しかし冒険者ギルドは高みの見物、それどころか棚からぼた餅・・美味しいところだけ得てきました」

「それは・・」


商業ギルドの職員は言葉を濁したが、殆どの関係者がそれを感じているはずだ。


「そこで数を絞りつつ、冒険者ギルドに管理を委ねました」

「きっとゴタゴタするのでしょうね・・」

「はい。今回の魔導書は、正真正銘の魔法を使えるようにする魔道具マジックアイテムなんです」

「「・・・ ・・えっ!?」」


冒険者ギルドの評議会で説明したことを繰り返す。


「先天的な・・病気、ですか」

「それが解決される魔道具マジックアイテム・・、画期的ですな・・」


二人の表情から、是非ともこちらでやりたかったと顔に書いてある。


「手書きする魔道具マジックアイテムは、一発勝負のやり直しがききません。一枚こっきりのスクロールとは違い、本と言う事でかなりの生産性に問題があります」

「確かに・・」

「何より他の魔道具マジックアイテムならいざ知らず、魔導書を王国が、魔法至上主義者が黙って見過ごすと思いますか?」

「「あっ!?」」


大商会の会長と、パソナの気付きの驚きの声が重なる。


魔導書と他の魔道具マジックアイテムの違いは歴然としている。

画一的ではあるが、正真正銘、自力で魔法を使う事ができるようになる魔導書。


貴族と平民の差がなくなる・・

魔法とは貴族至上主義の原点、自分たちのアイデンティティを揺るがす代物だ。


「ヤバいですね・・」

「これは王国と真正面から激突するな・・」

「大商会と商業ギルドのためになったでしょう?」


意地悪い笑顔を浮かべる僕の言葉に、二人は無言で頷くしかない。


冒険者ギルドの対応如何では、こちらにも飛び火してくる大問題である。


「先んじて、手を打っておく必要があるな・・」

「しかし王国と貴族がどう動くか不明ですね・・」


魔導書は、あくまでも冒険者ギルドと考えてくれるか・・

魔道具マジックアイテムとして、全てを叩きに来るか・・


「「こういう事はもっと早く教えて下さい!」」

「えっー!? 僕のせいですか?」


二人は腹いせのつもりなのか、僕を責めてくる。


僕だって分かるんだから、大商会の会長も、商業ギルドも気づくと思ったんだけど・・






国王貴族派と庶民派の違いは、魔法が使える使えないの差だと思われがちだ。


モンスターの多くは、魔法に弱く、魔法使いたちの活躍が著しかったことは事実。

現在国を治める者たちは、国の再建に携わった者たちの末裔である。


これが魔法至上主義の原点であり、今なお色濃く残る理由でもある。


「ふむ・・」


豪華に設えられた玉座に腰掛ける王が呟く。


謁見の魔には、国を司る貴族たちが立ち並び、目の前には、従者が恭しく掲げた一冊の本が差し出されている。


「これが魔導書と呼ばれる、魔道具マジックアイテムなのか?」

「その通りです、陛下」


その本に手を伸ばそうとするのを、貴族たちが警告する。


「お待ち下さい、陛下! 誤って中を見てしまうと、その魔法しか使えなくなります!」


その叫び声に、国王は伸ばしかけた手を戻す。


「それは、誠か?」

「いえ、試したものはおりませんので・・。その魔法が使える・・、裏を返せば、その魔法しか使えなくなるのではと言う噂です」

「なる程のぉ・・」


その魔法を使えない者が、使えるようになるならまだ良い。

その魔法しか使えなくなるでは、貴族たちにとって致命的で、誰も試したがらないのは当然だ。



ドン!



王は怒りに満ちた表情で、従者が手にしていた王笏で魔導書を叩きつける。

たいした力ではないが、驚いて従者が魔導書を落してしまう。


「庶民どもの分際で!」


拾おうとした従者を手で制して、魔導書をそのままに下がらせる。


「すぐに魔道具マジックアイテムの、禁止令並びに焚書令を発令する!」

「お待ち下さい、陛下!」

「何故じゃ!」


短絡的に禁止しようとする国王を諫める。


「多くのダンジョンを攻略してから世は平和になりましたが、権力を奪おうとする魔法使いたちが台頭してきております」

「そんな事は承知しておる!」

「他の魔法使いたちは、庶民に媚を売り、魔道具マジックアイテムをこよなく愛する者たちが多いと聞き及んでおります」


そこまで聞くと、王は苦々し気に口をへの字にする。


「内戦か・・」

「御意」


勿論、権力を誇示し、守るためならば内戦も致し方ないと思う。

しかし庶民如きのために、無駄な消耗は望ましくはない。


「しかも出所に問題がありまして・・」

「何処からじゃ?」

「冒険者ギルドの幹部連・・、評議会からのようです」

「ぐぅ・・、よもや冒険者ギルドからか・・」


冒険者は全国におり、王国の守りの要の一つでもある。


魔法使いと冒険者・・、正面切って戦って負けるとは思わない。

しかし常に魔物や対人戦の経験を積み、奇襲に絡め手、戦略などは侮れない。


また自分たち魔法使いの先兵をしているのは、冒険者ギルドに他ならない。


「ぬぅぅぅ・・、手も足も出んのか、たかが庶民に・・」

「陛下、一つ手がございます」


歯噛みする国王に、一人の貴族が提言する。

他の貴族たちが驚かないところ見ると、既に事前に話し合われていたのだろう。


「どのような方法じゃ!?」


貴族の言葉に、国王は飛びついてくる。


「我々が調べた限り、魔道具マジックアイテムは、たった一人の人間によってもたらされた事が分かっております」

「たった・・一人の人間じゃと?」


自分たちに今もたらされている騒動が、たった一人の人間によるものと聞いて驚く。


「陛下、勇者召喚の際に、一人異物が紛れ込んでいたのを覚えてはおられませんか?」

「異物・・?」

「魔法の能力がなく、アイテムクリエーションと言う能力を持っていた者です」

「・・記憶にないのぉ」


どうでもいい人間の事など、国王は記憶に残す事はしない。


話を切り出した貴族はそうだろうなと思いつつも、話を繋げて続ける。


「その者が、能力を使って魔道具マジックアイテムを生み出しているのです」

「そうであったか・・。で、如何する?」


内戦も、ギルドとの正面衝突を避ける方法は、どのようなものなのかと先を急かす。


「確かに魔道具マジックアイテムを失うのは惜しいですが、内戦と正面衝突を回避して、我らの誇りと権威を取り戻す方法はただ一つ・・」

「それは?」

「その者に、病死や事故死して貰えば良いかと」


貴族は、満面の笑みを浮かべて提案する。


「・・病死か事故死。なる程、それは仕方ないのぉ」


貴族同士でも表立てない際、良くやる手法に国王もニヤリと笑みを浮かべて応える。


「ただ召喚に紛れ込んだとはいえ、神と敵対する事になりかねません」

「むっ!? そうじゃの。その点は如何する?」

「勿論、勇者たち殿にお願いするのがよろしいかと・・」

「何!? 勇者たちにか! ・・確かに良さそうな案じゃ」


勇者を召喚した際に、神と交わした誓約が存在する。

それをすり抜ける方法を、簡単に吟味して良しと判断する。


「しかし勇者たちを動かす理由、それ相応の大義名分が必要ではないか?」

「そうですなぁ・・。神から受けた能力を使って、世を乱そうとしている、と言うのは如何でしょうか?」

「騒乱罪か! 良いアイデアじゃ!」


魔法至上主義を脅かす者・・、世の平和を乱そうとするものを処罰する。

これほどふさわしい罪状はないと考える。


「うむ! すぐに勇者たちを呼べ」

「御意」


魔道具マジックアイテムを潰すため、国王貴族派が動き始める。






僕の目の前には、南の地方都市の冒険者ギルドのジュドがいる。

腰を折り、深々と頭を下げている。


「頼む・・、北のギルドマスターを、ノルドを助けてやってくれ」


彼は早朝一番、僕の自宅兼店舗を訪れた。

中に入ると開口一番、こう言って頭を下げてきたのだ。


「いきなり頼むと言われて、頭を下げられましても・・」

「そうか・・、そうだな済まん・・」


椅子を勧め座ってもらうと、悩まし気に話し始める。


「魔導書・・、初めて評議会に持ち込んだ時の事を覚えているか?」

「えっ!? ええ、もちろん・・」

「その時ノルドがやらかした・・、まあ自分で選んだんだが、生活魔法を身に付けた」

「そうですね」


彼は魔道具マジックアイテムに良い思いを持っていなかった。

だから適当に余っていた魔導書に手を出した。


結果、自分の短絡的で愚かな行いで、未来を閉ざしたと落ち込んでいると言う。


「特に魔導書が出始めてから、ギルドマスターたちも魔法を身に付けていると話題になり、北の地方都市のギルドマスターは?となって、生活魔法を・・となった」

「それが何か?」

「何の道具もなしに魔法を使える事は凄い事だ。誰も彼も褒めたたえたが、彼自身は無能と攻め立てられているように感じてしまっていてな」


他の地方都市のギルドマスターたちは、初級とは言え四属性魔法を身に付けている。

それと自分の生活魔法を比べられると、何と自分は惨めなのだろうと決めつけたのだ。


自分でそう感じていれば、善意も悪意に受取ってしまう事がある。


「ギルドマスターとは言え人間、人格者なんかじゃない」

「・・・」


まあ南のギルドマスターを見れば、頷ける言葉である。


「周囲の人間にそんな言葉や態度はないとは思うが、その時から荒れまくっていてな・・」

「実際に陰口ぐらいはあるかもしれませんね・・」

「ああ・・、そうだな」


冒険者たちは移動する、移動先でそう言った話になり、徐々に広まっていく。

敏感になっている者には、些細な変化であっても、誤解して受け取ってしまう。


「でもギルドマスター同士のオークションで、入手は可能ですよね?」

「ギルドマスターとは言っても、給料がそんなに良い訳じゃない・・」


ギルドマスターの報酬より、現場の冒険者の方が稼ぎは良いらしい。

沢山稼いだ人とか、成果を残した人とか、やりたい人?がやる名誉職なんだとか。


「あの時は魔導書を奪い合っていたが、同じギルドマスターであり、冒険者であり、仲間でもある。・・正直見ていられなくてな」

「それで、助けて欲しいと?」

「ああ。何とかしてやれないか?」

「それはギルドマスター一人のお考えですか?」


今までの事が積み重なっていて、悪いが彼の言葉を疑う。

彼を助けると言いながら、自分で使う可能性がある。


「いやノルドを除く、四人のギルドマスターたちの総意だ」

「・・えっ!?」


これは驚いた。まさか本当に心配していたとは・・


「つい最近も、評議会があったんだが・・、見ていられなかった。噂はあくまでも噂だと思ったんだが、事あるごとに四大魔法が偉いのかとか、お前たちもそう思っているのだろうとか、見下すように俺を見るなとかな・・。会合にならなかった上に、途中で逃げるように出ていってしまった」

「それは・・」


実際に見た訳ではないが、本当ならこれはシャレにならない・・。


五冊別の物を持って行った僕が責任を感じてしまう。

同じものを持って行けば、このような事態に陥る事はなかった。


「正直に言います」

「ああ・・」

「本当に使えるか・・、二つ目、三つ目、中級、上級と覚えられるか・・、この一点に関して全く分からないんです。必ず成功するか、本当に・・」


こうは言ったが、魔導書を上書きでも、複数でも覚えられるようにする事は可能だ。


しかしこのタイミングは非常に運が良い。

わざと失敗する魔導書を用意する事で、僕ができる最善の予防策を用意できる。


北の地方都市のギルドマスターを救う事は、魔導書に対する期待が一気に跳ね上がる。


特に南の地方都市のギルドマスターは、特に裏や陰で手を出してくるに違いない。

しかし成功と失敗の条件が分からなければ、そう簡単に手出しはできないはずだ。


「構わない! あいつに使ってやってくれ! 頼む・・」

「先程も言いましたが、失敗する可能性も・・」

「試すだけ試してくれ・・、可能性があるなら! 頼む!」


次回の評議会までに何とか準備すると、必死な姿のジュドに約束する。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ