最後の魔道具
26.最後の魔道具
最近お披露目した付与装備は、魔石の商品以上に数を絞っているため、南の地方都市の貴族にオークションを持ちかけた。
先の僕の言葉の上げ足を取って、「性能が示せなば売れまい」と、まず自分からと言い張って聞かなかった。
仕方なく、常に身に着けられる短剣と、剣と槍の三種を、格安でお譲りした。
見せびらかす分は必要だろうなーと思っていたので、予想の範疇ではあったが・・
結果として、ヤバい雰囲気が漂っているらしい。
とっととオークションを開催しないと、南の地方都市の貴族が暗殺されるぐらいに。
それなのに、目の前の男は何を望んているのだろうか?
「おっしゃっている事が、さっぱり分からないのですが?」
「部屋に籠りっきりで頭がマヒしたのか? もう一度言う、時間は十分に与えた。俺に頭を下げて、魔法犯罪者の特別取締部隊「アインハイト」の復活を頼め」
「・・・」
「ワランティの権利とアドバンストのスクロールや魔石を持って来い。大分待ってやったんだ、定期的に付与装備を渡せ。ついでにフリーザーやコンロ、バスも、俺の家に取り付けるんだ、分かったな?」
目の前の男性、冒険者ギルドのギルドマスターは意味不明な事を、一方的に喋ってくる。
「分かりませんね。何故、アインハイトの復活を頼む必要があるんですか? しかも僕が?」
「スクロールや魔石による犯罪が増えている。その抑止力だと言っただろう」
「既に幾つかは製造方法もオープンにしています。もしかして僕に全国規模で結成される魔法犯罪者の特別取締部隊の資金を出せと?」
「そこまでは・・」
「南の地方都市だけ贔屓にしろと? 他の町の犯罪を見て見ぬふりをしろと?」
「・・・」
南の冒険者ギルドのギルドマスターである、ジュドの言っている事は矛盾し始めている。
大商会の孫娘エンケのトラブルの際と、言っている事が真逆であり、彼女と同じような事を言い始めた。
「大商会の方で責任をもって、防御系スクロールを販売し、横流し品や偽物は商業ギルドの方で取り締まりを強化しています」
「お前の責任は、知らんぷりか?」
「確かに魔道具を生み出した責任はあるでしょう」
「そうだ! その責任を・・」
「しかしギルドマスター一個人に頼むレベルの問題ではなくなっていると思いませんか? いくつかの組織と連携して、事に当たる必要があるとは思いませんか?」
「ぐっ・・」
アドバンストのスクロールや魔石、百歩譲って付与装備が必要なら分かる。
しかし魔石のフリーザーやコンロ、風呂はテロ集団やレジスタンスには不要だ。
「(つまりギルドマスターは、そういう人間だった訳か・・)」
内心、冒険者ギルドのギルドマスターの人間性を評価する。
彼は貴族たちと同じに、周囲の人々から優越感を得たかったのだろう。
「(これは、平行線だろうなぁ・・、待てよ)」
お互いにじっと睨み合いつつ、どうやってお引き取り願うが考えているときに、良いアイデアが思い浮かぶ。
「ギルドマスター?」
「・・何だ?」
「抑止力云々は別で、僕に便宜を図ってくれれば、報酬としてそれらはご相談に乗りますけど?」
「・・どんな便宜だ」
あっさりと喰い付いてくる事に、やっぱりと思う。
「まだ世に出していない魔道具があるんです。しかし大商会も、商業ギルドもてんてこ舞いで」
「それでその新しい魔道具を、俺に頼みたいと?」
にやりと笑うギルドマスターの言葉を否定する。
「いいえ。ギルドマスターにお願いすると、何かあった場合、また抑止力やらなにやら言い出しかねませんので」
「・・ちっ、・・それで?」
まだ新しい魔道具が存在し、再び自分の失敗を悟って顔を顰める。
「冒険者ギルドのトップが集まる会合ってないですか?」
「ある事はあるが・・」
「そこでお披露目して、冒険者ギルド全体での取り扱いにしたいと考えているんです」
「・・・分かった、やってみよう」
どんな手段を使っても、新しい魔道具を、自分が占有する事は難しいならばと、手に入る物で我慢するしかないと、そちらを選んだようだ。
運よく近々会合があるとの事なので、そこに出席させてもらえる事になった。
ギルドとは、組合であり、同じ技術を有する職人が、技術を高め、秘匿し、仕事を分かち合うと言った相互扶助の場である。
その町だけのギルドもあれば、全国規模のギルドも存在する。
冒険者ギルドと言えば、全国に存在するギルドの一つである。
ただ町と町の間の距離は遠く、おいそれとは代表が集まって話し合う事はできない。
通常は手紙などでやり取りをするのだが、それでも定期的に集まって、重要な話し合いの場が持たれる事がある。
数年に一度の行われる総会、各地方毎で集まる地域会、そして王都周辺や各地方都市のトップが集まる評議会である。
「では次の議題に入る。南の地方都市のギルドマスターのジュドから」
「ああ、新しい魔道具が開発されたと言う情報を掴んだ」
僕が開発している事を隠すために、遠回しな形で紹介する事にしてあった。
「チッ! また魔道具かよ。いい加減にして欲しいもんだ」
「ノルド・・、何か?」
北のギルドマスターであるノルドの愚痴に、王都のギルドマスターが問いかける。
「魔道具だか何だが知らねぇが、こっちはいい迷惑してるんだ」
「どう言う事だ?」
「北の地方はいつも魔道具が品薄だ。それなのに護衛はスクロール必須だ、他の地方から買い占めに来やがる、他の地方の冒険者は、こっちの冒険者を脅迫したり攻撃したり、野盗や強盗がこっちに逃げてくる上、大商会は知らぬ存ぜぬだ」
一気に捲し立てるノルド。
魔道具の一部が公開され、誰でも作れるようになった今でも、どうやら一度も魔道具を見たり、使った事がないようだ。
発祥の地である南の地方に比べると、王都や東西の地方は、一歩か二歩反応が遅くなる。
更に遠い北の地方では、二歩も三歩も対応が悪くなっているのだろう。
エンケの父親である総支店長が、必死に全国行脚しても、どうしても意識の差は出てくる。
魔道具の負の部分が、全て北の地方に流れる形なのかもしれない。
「それに関しては、ジュドが何度も警告をしてきたはずだが?」
「警告だぁ!? はん!」
「その様子だと、何のメリットもないと、対応してこなかったのだろう?」
王都のギルドマスターの問いに、不貞腐れた態度をする所を見ると、そのようだ。
しかしこれは北のギルドマスター、ノルドだけが悪いわけではない。
十分に行き渡っていない魔道具の恩恵を得ず、ただ問題とその対応だけを言われても、納得できないはずだ。
「ノルドの気持ちも分からないではない」
ジュドが、他のギルドマスターの言い争いを止める。
「先程も情報を掴んだと言ったが、大商会や商業ギルドを抑えて、今回は冒険者ギルドが、魔道具を取り扱える」
「「「ほお!」」」
魔道具に疑心暗鬼な、北のギルドマスターの以外の三人が、感嘆の声を上げる。
詳しくはこいつから説明させると、僕を偽名でギルドマスターたちに紹介する。
「今回抑えました魔道具は、道具もなしに魔法を使えるようになる魔道具、魔導書と呼ばれるものです」
「・・うん? どういう意味かね?」
僕の言っている事が理解できなかったのだろう、もう一度噛み砕いて言う。
「一度使えば、それ以降魔道具を必要とせず、己の力だけで魔法を使える事が可能となります」
「何だとぉ・・」
庶民たちの夢をかなえる魔道具の登場に、驚きの声を上げる。
「魔道具を開発した人は、魔法を使える者と魔法を使えない者の差が先天性の病気である事を発見しました」
「先天性の・・、つまり生まれつきと言う事か?」
「はい。魔法には、周囲の魔素を吸収し、魔力に変換、貯蔵、魔法として体の外に放出という流れがあります」
「聞いた事がある・・、まさか!?」
「そうです。このどれか一つ、もしくは複数の欠損した状態が先天的に起こるのです。そのため魔法を使えません。魔導書は、その流れを人工的に創り出す魔道具です」
世界管理者(幼女)から送られた、僕がこの世界に来てから最初にして最後の手紙に書かれていた事。
目の前に取り出した、薄い本を五冊取り出す。
「ただデメリットがない訳ではありません」
「・・どのようなデメリットが?」
「まずこのような本の形状です。スクロールと同様、一か所でも間違えると、今までの苦労が水の泡であり、製造が非常に難しい上、時間もかかります」
「それは仕方があるまい」
誰もが魔法を使える魔道具なのだ。
その辺は当たり前として受け入れられる。
「今の段階では、生活魔法と四属性魔法の初級の計五種のみです」
「これからに期待であろう・・」
「それができない可能性があります」
「何!?」
せっかく魔法が使えると言うのに、これでは物足りないと思ったのだろう。
「初級魔法しかないため、分からないのと、実際に試した人がいないからと言うのが正確なのですが、魔導書は強制的に魔法の流れ、魔法回路を作ります」
「ふむふむ」
「今のところ、魔法回路が上書きできるのか、複数持てるのか分からないのです」
「なる程・・」
「今後何十人、何百人と言う多くの人々の協力で、クリアになるかもしれません」
「ならば町の人たちの協力を得て・・」
「残念ながら魔導書の製造工程から、それほど数は揃えられないでしょう」
「むぅ・・」
こちらと立てれば、あちらが立たずの堂々巡り・・
勿論、複数の魔法を使えるように、魔導書は創る事は容易なのだが、今の時点で中級魔法の存在を匂わせたくはないので、このように伝えておく。
「もう一つ。魔法回路の一部欠損と言いましたが、他は他の随従を許さないほど優れた人が居たとします」
「まあ、可能性はあるな」
「魔法回路の上書きは、百回使えたはずの人が、例えば十回しか使えなくなります」
「むぅ・・」
「しかし逆に、一回しか使えなかった人も、十回使えると言う事になります」
これに関しては、個々の症状を見て魔導書を創れば良いのだが、僕にそんな能力は備わっていないし、僕が居なくなった後もできなくなってしまう。
そのため決められた魔法回路を、体内に作るという形にしたのだ。
「この五冊に関しては、作成者の方のご厚意でいただいた試供品です。皆さんどうされますか? 使わないなら僕が・・」
「「「「・・・」」」」
ジュドは、僕がこの先も色々な魔道具を作るだろう、と言う事は考えているはずだ。
しかし先ほど言っていた、入手が難しい、作成が困難なのは事実なの上に、多くの人の検証を経て次のステップに移る必要がある事も分かるばずだ。
しかし他のギルドマスターたちが手を伸ばすので、釣られて手を出してしまう。
「俺が火を貰う!」
「待て、俺が先に・・」
「ならば俺は風を・・」
「お前には生活魔法がお似合いだ!」
お互い取り合い奪い合う醜い争いが起こる。
そんな中、ずーっと冷めた目で見ていた北のギルドマスターが、残った生活魔法の魔導書を手にする。
「けっ! どいつもこいつも・・」
そう言って、ペラペラとページを捲っていく。
「あっ、待って! 読む必要はないんです! 今みたいにゆっくりペラペラと見ていくだけで・・」
最後まで読み切ると、魔導書はスクロールと同じく、粒子となって砕け散る。
「何!? ・・むっ」
まさか何の説明もしない内に、勝手に魔導書を読んでしまうとは・・
しかも体調の異変を感じ取っているようだ。
「どうされましたか?」
「いや・・、頭の中に、ライト、ドリク、イグニ、エイドと。何だ・・体中から、下っ腹の辺りに何か集まるような・・」
「ふむふむ、それで?」
創るだけの人間としては、実体験の言葉は非常に重要である。
「特に・・、それだけだ・・な」
「体中の魔素を集めて魔力に変換して、貯めていると思われますね」
「な、なる程・・」
「生活魔法は、それほど魔力を使いませんので、試しに何か一つ・・、そうですね、ライトを使ってもらえますか?」
「分かった・・。ライト ・・むっ!? おおっ!?」
ノルドの目の前に、灯りが生まれる。
他のギルドマスターたちも、一旦争いを止めて固唾を飲んで見守っている。
「どうしました?」
「いや・・、体の中から何かが抜けたような・・」
「体内の魔力が、魔法となる際に抜けたのでしょう」
「それよりも・・本当に、俺が魔法を・・」
目の前の、自分が生み出した灯りにしばし呆然とする。
「・・待てよ、俺はなんて無駄な事を・・」
魔道具からの恩恵を受けておらず、見ても使ってもいない。
たった今、自分で魔法を使った事が、全ての価値観をひっくり返してしまう。
魔導書はめったに手に入らず、上書きも複数覚えられるかも分からない。
初級とは言え四属性魔法のどれかを覚えられる、最後のチャンスだった・・最後?
そう思ったのか分からないが、奪い合って机に残っていた魔導書に手を伸ばす。
「「「「おい!」」」」
四人のギルドマスターが、察知してそれぞれ一冊ずつ手に取ってしまう。
「た、頼む! 魔道具から何の恩恵も受けていない俺が、今更生活魔法なんて・・」
「それはお前の失態だ。俺たちには関係ない」
「頼む! 実験台になる! だから・・」
「実験台云々の前に、そもそもの数が少ないんだぞ!」
「その通りだ! そんな事させられるか!」
ギルドマスターとは思えぬほどの、狂乱ぶりだった。
しかしどんな嘆願にも応じてもらえず、ギルドマスターたちは、それぞれ手にした魔導書を読み、それぞれ魔法を習得していってしまう。
「ああ・・」
ノルドは他のギルドマスターの魔法を、絶望するかのように呻きながら見ていた。
そんな彼を他所に、魔導書が入手されれば、ギルドマスター評議会で取り扱う事と、価格はギルドマスターの間で、オークション形式でと言う形で決定される。




