付与装備を売り込んでみる
25.付与装備を売り込んでみる
一言の後、魔法犯罪者の特別取締部隊「アインハイト」たちは沈黙に包まれる。
「これが魔法を、武器や防具と言った装備に付与した力です」
「・・魔法の、付与・・装備・・」
呆然とリーダーが呟きながら、剣を鞘に戻して返してくれる。
「ああ、やっぱり駄目ですね」
「何が・・だ?」
「ほら、これ・・、流石に丸太五本は無理がありました」
鞘から剣を抜くと、ボロボロの刃を皆に見せる。
鋭さは増しているが、鉄そのものの硬さは変わっていない。
勿論、ハード(硬質)の付与もできるが、二つも魔法を付与すれば、寿命はその分短くなってしまうので、今回は一つだけだ。
「いや、鉄製の剣で丸太切りすれば当然だぞ?」
付与していない鉄製の剣も、同様に刃はボロボロになっていた。
しかし切れ味の差には、格段の差があったのは明白である。
「それで今回は鉄製でしたが、皆さんの要望に合わせて、カスタマイズします。それの使い勝手や、問題点の洗い出しをして欲しいんですよ」
「それは構わんが、俺たちにそんな金は出せんぞ?」
冒険者ギルドのギルドマスターが選んだ冒険者たち。
彼らは高ランカーであり、そうそう金に困っている人たちではない。
しかし現時点で使い捨てに近い装備には、お金はつぎ込みたくはないだろう。
「皆さんはモニターなのですから、お金はこちらで持ちます。そうですね、きちんと依頼という形でお願いしても構いません」
「おいおい、そんな安請け合いして良いのか?」
「ほら、アインハイトに使っていたワランティがありますので」
「うむ・・、それならば・・」
リーダーと契約の話を進める中、メンバーの一人が聞いてくる。
「もう一本あるみたいっすけど、俺っちも試して良いすか!」
「あっ、それは! ちょっと待って下さい」
そう言うと、簡単な使い方を耳打ちする。
メンバーは驚いたように目を見開き、うんうんと頷いてくれる。
「じゃあ、いくっす!」
と言うが早いか、剣を抜いて皆の方を向く。
「・・おい、ちょっと待て。お前、俺たちに切りかかってくるつもりじゃ・・」
すでに用意した的は使い切っている。
嫌われているとは思わないが、これ幸いと亡き者にしようと思っているのか・・
そんな思いがリーダーの頭をよぎったのかもしれない。
メンバーはにやぁーと、ちょっと危ない笑みを浮かべる。
「ファイヤブレード!」
教えておいた発動キーワードを唱えると、刀身を炎が覆う。
そして一振りすると、ヴォンと言う炎が駆ける音と、熱気が彼らを襲う。
「なっ!?」
そしてそのまま剣を鞘に仕舞う。
「あちちぃぃ!?」
鞘を持っていた左手が、火で炙られ剣を落してしまう。
「これ仕舞う時の事、考えた方が良いすね」
「なる程! そういう意見を集めて、ブラシュアップしたいんですよ」
「ちょっと待て!」
「はい?」
呆然としていたリーダーが再起動して、慌てて質問してくる。
「今のは一体なんだ!?」
「鉄製の剣に、炎を纏う魔法を付与した物です」
「いや、そう簡単に言われても・・。つまり今のも付与装備だと?」
「はい。物理攻撃の効き難いモンスターにも有効となります」
メンバーから剣を無理やり取り上げると、リーダーは剣を調べ始める。
「鞘は焦げた跡があるが、刀身は熱くも、焦げたり溶けたりした跡はないか・・」
「そこは先程の指摘もありましたが、改善点の一つですね」
「他に何を考えているんだ?」
「コストパフォーマンスが悪いんですけど、矢に魔法を仕掛けようかと」
「それのどんな意味が?」
「シェルやシールドを超えて、相手や何かにぶつかると魔法が発動とか?」
「なっ!?」
シェルやシールドはあくまで魔法防御で、物理攻撃はすり抜ける。
ならばすり抜けた後に、魔法が発動できれば容易にダメージを与えられる。
「武器プラス魔石で、シェルやシールドに武器をねじ込んで魔法を発動すると言った、奇襲や先制攻撃ができるようにしたりとか?」
「・・やばいな、それ」
普通の武器と思って油断したところに、魔法攻撃・・、躱しようがないだろう。
切っ先などから発動する距離の差、モーションの盗み難さ、意外性に突発性は比ではない。
「それらの使い勝手のテストや、新たなアイデアの洗い出しが、俺たちの仕事だで良いんだな?」
「今のところは。何かあれば随時更新と言う事で」
リーダーは一旦、パーティの面々の方を見て、頷くのを確認する。
「分かった、喜んでやらせてもらおう」
幸いな事に彼らの了承が得られる・・、と言うかワクワク感で一杯の様子だ。
きちんと依頼をするため、受付の方へと全員で向かう事にする。
冒険者ギルドのギルドマスターは、自分が出るタイミングを完全に逸していた。
「馬鹿な・・、今の剣はなんだ・・」
訓練場に通じる入り口の物陰で、身を顰めてアドバンストのスクロールなり、魔石を使うのを今か今かと待っていた。
マッヘンは、三本の・・多分鉄製の剣を手にしていたのは不思議だった。
魔法のテストに、武器は必要ない。
それとも武器に関連する魔法が、アドバンストにはあるのだろうか?
そんな事を考えながら見ていると、試し切りの丸太の台が用意される。
「何だ? どうしてあんなものが・・」
そう言っている内に、五本の丸太の内、半分ほどまで切り込む。
「ふむ、流石だ。たかが鉄製の剣であそこまでとは」
元魔法犯罪者の特別取締部隊のリーダーの技量を褒める。
そして二本目の鉄製の剣・・
「馬鹿な!? 何故五本ともぶった切れるんだ!?」
確か刀身が青白く輝いたのまでは見えたが、何が起きたのかさっぱり分からない。
同じ事をさせて、違う結果が出た以上、マッヘンが何かをしたのだろう。
この距離では声は良く聞こえないので、何をしたのかまでは聞き取れない。
事細かに彼らと情報共有をしていれば、身体強化の魔法の存在と思ったかもしれないが、それすらないので、『何かをした』ぐらいしか分からないのだ。
彼らが何かをしゃべっていると、もう一本の剣を抜いて構える。
「同じ事するのか? しかし的はもうないぞ・・」
そう思った瞬間、刀身が炎に包まれる。
「なっ!? あ、あれは何だ!?」
そして振り回して、さやに仕舞おうとして落として、再び剣を抜いて調べている。
「何なんだ・・、何が起こっているんだ・・」
自分の想像の及ばない出来事が、目の前で起こっている。
そして分かった事が一つ、確実にあった。
「マッヘン・・。俺の誘いを断ったのは、まだ隠し玉を持っていたからか・・」
彼らがこちらに向かってくるのを見ると、そそくさと執務室へと逃げ込む。
「くそくそくそ・・。マッヘンにごり押しすべきじゃなかったんだ・・」
自分は悪くないと思いつつも、関係を悪化させている自分の失策を呪う。
「アインハイトが無くなったのに、何であいつらつるんでやがるんだ?」
ふと浮かんだ考えに、首を傾げる。
解散した以上、彼らが仲良くする理由がない。
「きっと後ろめたい事をしているに違いない・・、そこを突っつけば・・」
彼らがギルドからいなくなった頃合いを見て、彼らが何をしたのか受付へと向かう。
「どうしました、ギルドマスター?」
「マッヘンたちが来ていたみたいなんでな。何かしていったのか?」
「ええ、指名依頼をされていきましたね」
「指名依頼だと!?」
ギルドマスターは、自分が大きな間違いを犯した事をまたしても悟る。
一冒険者を指名して依頼をするのが指名依頼だ。
これならば彼らが何をしようが、こちらから口を挟む事はできない。
完全に自分の手から離れてしまったのである。
「ええ、何でもマッヘンさんのお作りなった道具を試すのだとか。普通に依頼をこなす際に使ってもらうと言う事で、良いお小遣い稼ぎになると」
「むぅ・・」
「それからマッヘンさんが、ギルドマスターへの送金を止めてくれ言われましたので、止めましたけど?」
「っ! そ、そうか・・分かった」
すぐに頭を下げに来るだろうと思って、ワランティの口座からの引き落としを止めていなかった。
その金で彼らを雇うのだろう・・、あの莫大なワランティで。
受付の職員の話を聞いた後、魂が抜けたようにフラフラと執務室に戻る。
「まだ手はある、手はあるはずだ・・、きっと・・いや、必ず・・。金も、魔法も、名声も・・」
がっくりと項垂れ、呟く事しかできないギルドマスターだった。
アインハイトへの、指名依頼を済ませてから、色々な付与装備を準備する。
「おっ!? そろそろ時間か?」
町に用意された時を告げる鐘が、必要な数を打ち鳴らす。
町の人々には、日の出と日の入り以外、共通で時を知る術がない。
そこでそれぞれの町では、日時計、水時計、砂時計、燃焼時計など、複数の時を図る道具を使い、一定の時間に鐘を鳴らして知らせてくれるのだ。
「さて、じゃあ出かけるか・・」
大商会の会長と商業ギルドのギルドマスターと、定期的な会合を持つようになった。
勿論、魔道具の貴族対策のためである。
またスクロールの横流しや密売の状況を報告してくれる。
何にせよ、孫娘の時とは比べ物にならないほど、密な連携である。
流石にどちらもトップ、自分の所に来るのは非常に難しいのは仕方がない。
「今のところ魔道具に関しては、貴族たちに受け入れられていると思って構わないでしょう」
「うむ。かなり高額でぼっておるのじゃが、喜んで飛びついてきおる」
大商会会長と、商業ギルドのギルドマスターが大笑いをしての弁である。
「特に混乱もなく、受け入れられているのは好ましいですね」
「・・お主は気が楽でよいのぉ」
「はぁ・・、全くですな」
「えっ!?」
確かに貴族との折衝を行い、無理な注文を躱し、優先順位を付けて僕に仕事を回してくる。
僕の隠れ蓑として、日々の努力には感謝している・・、感謝が足りない?
裏方の僕には分からない貴族たちの圧力は、もの凄いものがあるようだ。
「特に何もなければ、今日の会合は終了としようかのぉ」
「そうですね」
「あ、あのぉー」
「どうしたのかね、マッヘン?」
「何か気になる事があれば聞いてくれ」
そこで開発段階の付与装備をお披露目・・売り込んでみる事にする。
「貴族たちって、収集癖ってありますかね?」
「収集癖かね? 大いにあるぞい」
「では、集めた物を人にあげる事で喜ぶ人たちは?」
「見栄っ張りですから、良くありますな」
僕が何を言おうとしているのか、先が気になるのか二人は口を揃って聞いてくる。
「「それで?」」
「いえ、あの・・、こんな者を創ったんですが・・」
持ち物の中から、ダガーを取り出して二人の前に置く。
「ふむ、何の変哲もない青銅製のダガーのようじゃが・・」
「スクロールに見られる魔法陣が、転写されているようですな・・」
刀身を鞘から抜いて、一通り調べてから、期待に満ちた目で渡してくる。
「ファイヤブレード」
発動のキーワードを唱えると、炎が刀身に纏わりつくように現れる。
「「なっ!?」」
「これは(フォン)付与装備と(フォン)言いまして(フォン)・・」
しゃべりながらダガーを振る事十回で、青銅製のダガーが砕け散る。
「「こ、これは・・?」」
二人が一連の出来事の説明を、視線で求めてくる。
「これは武器や防具に、魔法を付与した魔道具で、そのまま付与装備と名付けています」
「「付与装備・・」」
「しかしご覧いただいたように、魔道具の多くは、周囲の魔素を吸収する際、魔法陣の書かれた素材自身の魔素も吸収してしまうため、青銅製のダガーもスクロールや魔石のように使用回数に制限があります」
アインハイトの皆に説明した事を繰り返し伝える。
「使用制限か・・」
「刀身が砕ける理由ですね・・」
彼らは眉を顰め、表情が曇る。
言いたい事は手に取るように分かる・・、使い捨て品に貴族は見向きもしないと。
「で、」
「「んん?」」
「スクロールや魔石、付与装備の研究の中で分かったのですが、高価、希少、貴重な素材であるほど、魔素の吸収に対して抵抗があり、耐久性が高いです」
「そう言えば、魔石の魔法陣転写の仕組みは金箔を貼った・・」
「何故わざわざ高価なものを使っているのか、どうして原板が無くならないのか不思議に思っていたのですが、そういう事だったのですか・・」
高価で、希少で、貴重な素材の付与装備なら、持続性が高い・・。
「全ての素材で試したわけではありませんが、魔石の研究から・・」
もう一本ダガーを取り出す。
しかし普通の物ではなく、柄と鍔の部分まで黄金で出来ている。
「「・・まさか」」
「金銀・・、特に金の安定性は高く、永続性が見込めます」
ダガーを鞘から抜くと、刀身まで黄金で出来ている。
「このダガーには、鋭利化と硬質化の最上級と効果映像が付与されており・・、エフェクト、シャープマキシ、ハードネスマキシ」
「「おおっ!? これは・・」」
発動のキーワードを唱えると、雷が纏わりつく刀身に驚嘆する。
そして徐にテーブルを切りつける
「「なっ!? 黄金製のダガーなど・・ ・・・そ、そんな馬鹿な・・」」
黄金は柔らかいので、テーブルを切りつければグニャリと曲がると思ったのだろう。
しかしスパン! と言う小気味良い音と共に、スッパリとテーブルの端が切り落とされた事実に愕然とする。
「この刀身の雷は、ライトの魔法の応用で、単に光がそれっぽく動いているだけです」
僕が刀身に触れてみて、衝撃を受けていないのを確認すると、二人は恐る恐る手を差し出す。
「「おお・・、確かに」」
「あっ! 刃には触れないようにして下さい! 非常に切れ味が増していますので」
「「ああ、分かった」」
注意深く二人が、黄金のダガーを調べると、ため息を吐く。
「庶民は高価なものは手に入れられないため、使い捨てとなるでしょう・・」
「それに対して、貴族たちは永続もしくはそれに近いともなれば・・」
二人は顔を見合わせて、お互い非常に良い商品だと言って、とても悪い・・良い顔をする。
「「芸術性も付加すれば、正に貴族相手には打ってつけの商品じゃな」」
再び鞘に納められた黄金のダガーを見る二人の笑みに、僕はヤバいと思って引きまくっていた。




