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路地裏の雑貨屋さん  作者: まる
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付与装備を創ってみる

24.付与装備を創ってみる




ライトやフリーザーにコンロ、バスと言った魔石を使った商品を、貴族の屋敷に納品した僕の方は一段落である。


しかし商業ギルドや大商会の方は、すでに問い合わせが殺到しててんてこ舞いらしい。

最初の話し合い通り、あくまでも南の地方都市を管轄する貴族の紹介が必要と、突っぱねてはいるが、問い合わせが後を絶たないと言う。


南の地方都市を管轄する貴族の方は、それはそれはご機嫌との事だ。


寄子は庇護を受けなくてはならない小さな貴族であり、例え寄親より自慢されても、おいそれとは導入はできないので、太鼓持ちに専念する。


まあ小さい貴族は、晩餐会や夜会に呼ばれる方なので、特に気にしなくても良いのだろう。


そして実際に導入できるのは、南の地方都市を管轄する貴族と同格かそれ以上。

格上の貴族が自分に頭を下げるのだから、機嫌が良く成って当然だろう。


頭を下げられない敵対関係の貴族は、歯噛みして指を咥えているしかない。

そして彼らが直接、商業ギルドや大商会に問い合わせてくるのである。


「じゃあ貴族向けに、もう一つ新商品を用意しますか」


目の前の作業机には、武器や防具が置かれている。


「となると彼らの協力が必要だけど、どうしても耐久性の問題がなぁ・・」


そんな事を考えていると、表玄関の方からノックの音が聞こえる。


「はーい、今行きまーす。・・って誰だろう?」


今考えていた魔法犯罪者の特別取締部隊「アインハイト」の面々か、大商会会長の遣いか、それとも商業ギルドの誰かか。


作業場から階段を下りて、玄関を開ける。


「お待たせしました・・」

「久しぶりだな」

「・・ギルドマスター?」


そこには南の冒険者ギルドのギルドマスター、ジュドが立っていた。




スクロールや魔石を使った魔道具マジックアイテムで、すぐにお茶でも用意しようかと思ったが、それを知らないギルドマスターは手短にと言って断る。


通常ならお茶を沸かすのは、ならかなりの時間を要するから仕方がない。


「それで、今日はどのようなご用件でしょうか?」

「中級魔法のエンハンスト、上級魔法のスクロール、魔石のアドバンストの作成の事を聞きに来た」

「その件は、先日お断りしたはずですが?」


この件でまた来るとは言っていたが、本当に来るとは思ってもみなかった。


「本当に良いのか? 断ったりして」

「・・どういう意味でしょうか?」

「中級魔法のベーシックの防御系スクロールをお互いに手にすれば、昔に戻って武器の戦いだろう」

「そうです、上級魔法なんて・・」

「つまりアインハイトの必要はない。解散となるな」

「・・・」


僕の沈黙をどう取ったか分からないが、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる。


「それで良いのか?」

「構いません」


そう反応するとは思わなかったのか、ニヤついていたギルドマスターの顔が強張る。


「・・・後悔する事になるぞ?」

「そうだ。ワランティの使用も停止をお願いしますね。解散なんですから」

「っ!?」


これはもっと予想外だったのだろう、しまったと言う顔をする。

もしテロ集団やレジスタンスに係って、ワランティを資金の一部として横流ししていれば、より苦しい立場になるはずだ。


「・・まあいい、アインハイトは解散は決定だ」

「分かりました」

「しかし、必要となればすぐに再開してやる」


捨て台詞のように言うと、冒険者ギルドのギルドマスターは店を出ていく。


「はぁー・・、何だかなぁ」


エンケの姿とだぶらせながら、ギルドマスターの後姿を見送る。






いつぞやの魔法至上主義者たちの集い、全員が全員眉を顰め、難しい顔をしている。


「庶民どもめ・・、我々への当てつけへのつもりか・・」

「上級魔法による警告を、このような形で躱してくるとは・・」


それぞれの頭の中には、今尚こびり付いている映像があった。


美しくライトアップされた庭や屋敷・・

目の前で調理される料理の数々・・

キンキンに冷やされた飲み物や、凍った果実と言うデザート・・

次から次へと溢れる湯量の風呂・・


魔法至上主義者たちは、一枚岩ではない。


ここに集まった者たちの中でも、南の地方都市を管轄する貴族と仲の良い者も居れば、仲の悪い者もいる。


晩餐会や夜会に呼ばれた彼らが、その屋敷で目にしたものは今までにはない物ばかり・・


真っ暗闇の入り口で降ろされ、オロオロしていると、突然庭がライトアップされ驚く。

光輝く道を進めば、同じように突然庭や屋敷がライトアップされ驚く。


中に入れば蝋燭ではない、豪華絢爛なシャンデリアで出迎えられる。


立食形式と言う事で、出来合いの冷めたものが出るのかと思えば、目の前で煙の出ないコンロで、出来立て熱々の料理が振舞われる。


サーブされる飲み物は、どれをとっても冷たく冷やされ、中には氷さえ浮かぶものもある。


泊って行かれては?の一言で見せられた、温泉の如き湯の溢れる風呂に止めを刺される。


「これら全てが、スクロールや魔石と言う魔道具マジックアイテムによって成り立っているとは・・」


最後の最後のネタバラシで、自分たちの失策を思い知らされる。

魔道具マジックアイテムは、この世界の未来と価値観を一気に変えた。


魔法力と経済力と言う二つの戦いの場を持つ貴族たちで、魔道具マジックアイテムは必須のアイテムと化している。


南の地方都市を管轄する貴族は、これらを持って国の中枢に、自分の存在感をアピールしている。


貴族たちの中でも、食通を称する者たちは、あっさり魔道具マジックアイテム側に付いてしまった。

魔法力優位の権力構造の中で、アナザーを研究し、色物として地方に飛ばされていた貴族たちも、自分たちの研究に通じると受け入れている。


「これでスクロールにせよ、魔石にせよ、魔道具マジックアイテムを禁止する事は難しくなった」


国王貴族派は魔法至上主義であり貴族至上主義を指している。


国王貴族派には、国の主要ポストを巡って、現中核派と次期中核派が存在する。

ここに魔道具マジックアイテムが入った事で、庶民の魔法禁止派と魔道具マジックアイテム擁護派が生まれてしまった。


一揆や内乱となれば、魔法至上主義として一致団結するだろうが、貴族対貴族、魔法使い対魔法使いの構図であり、もうバラバラ状態である。


「如何する?」


この集まりの中にさえ、表立っては言わなくても、魔道具マジックアイテムの品々を欲しいと考える者がいるだろう。

下手に今手を出せば、離反者や裏切り、スパイが生まれるやもしれない。


「しばらくすれば、事態も落ち着くであろう・・」

「うむ、しばしは静観が良かろう・・」


その場にいる全員が、日和った答えに満足するしかなかった。


しかしその答えは最悪手である。

落ち着いたころには、自分たちの発言力は下がり、自尊心は大いに傷つけられるのだから・・






お茶を用意しながら、先日の冒険者ギルドのギルドマスターが、僕の店を訪れた際の話をする。


「へぇー、そんな事があったのか」

「どうぞ」

「あっ、すまんな」


解散を告げられたアインハイトのリーダーが、後日店を訪れてくれた。


「すみません、こちらの都合で・・」

「いや、構わんよ。うちのギルドマスターの決めた事だし。それにしたって・・」

「何がです?」

「中級魔法のエンハンストとか、上級魔法なんか要らんと思うんだがなぁ」


彼らも解散の理由が、僕がアドバンストのスクロールや魔石を用意しなかった事と聞いたらしい。


「実際はどうなんですか?」

「そりゃあった方が良いさ。しかし中級魔法のアナザーを上手く使えば問題ないし、なまじ威力が強いと、使いどころを選ぶ」

「そうですよね・・」


魔法至上主義者たちの作り上げた魔法体系は、一にも二にも威力優先である。

防御系のスクロールは、中級のベーシックの四属性魔法にだけ効果がある。


どういう事かと言えば、ストーンバレットは防げても、投石は防げない。

アナザーの身体強化魔法で、強化した投石は、ストーンバレットの威力を上回る。


その他にも閃光や轟音で、相手の戦闘能力を著しく落とすことが可能だ。


アナザーの魔法の組み合わせで、効率よく犯罪者を無力化できる。

これこそが魔法犯罪者の特別取締部隊「アインハイト」の真骨頂である。


そして彼らは、それを良く分かってくれている。


「ギルドマスターは、抑止力って言っていたのですが・・」

「はぁ? 抑止力だ?」

「野盗や強盗、犯罪者、モンスターに対するって」

「人間ならまだしも、モンスターへの抑止力はあり得ねぇぞ?」

「僕もそう思いましたね。人間に関しては、どの町にもある必要があると思います」

「だな。となると管理する問題が出てくるだろう。何考えてるんだ?」


一つの町のギルドマスターが、全土に散ったスクロールを管理しきれるはずがない。


横流しの解決策がなければ、いずれは犯罪者に回る可能性がある。

孫娘の失敗から、ギルドマスターは何も学んでいない事になる。


僕とリーダーは、ギルドマスターの思考が理解できずため息を吐く。


ぬるくなったお茶を一気に飲み干すと、リーダーは席を立つ。


「皆さんはこれからどうされるのですか?

「んん? 俺たちはお払い箱だし・・。と言ってもやる事は変わらん、冒険者だからな」

「でしたら、ちょっとお願いがあるんですが」

「ん? どうした? 何かあるのか?」


帰りの身支度をする彼を、僕は引き留める。


魔道具マジックアイテムのモニターをお願いできないかと・・」

「・・・はぁ? どういう事だ?」


リーダーのパーティは、「アインハイト」の仕事が終わったはずだ。

にも関わらず、魔道具マジックアイテムのモニタリングが何故必要なのか、驚きの声を上げる。






ちょくちょくマッヘンの店に顔を出したいが、冒険者ギルドのギルドマスターともなれば、それほど暇ではない。


ランクの低い依頼は、受付の職員の判断で処理できるよう委任している。


しかし領主や町長、貴族からの依頼の重要度や、緊急性の高い依頼の判断は、ギルドマスターが行う必要がある。


個々の金銭やアイテムは職員に任せられるが、その日の全て金銭やアイテムの流れは、やはりギルドマスターが把握する必要がある。


他のギルドとの折衝や、他の町の冒険者ギルドとのやり取り、アイテムの価格調整などなど、ギルドを運営する全てはギルドマスターに掛かっている。


ましてや南の地方都市のギルドマスターともなれば、責任は重大である。

しかし名誉職の感が強く、実際に報酬も周りから思われているより少ない。




その日もギルドの執務室で雑務をこなし、一息つこうをと、ふと窓から見える訓練場を見ると、マッヘンとアインハイトの面々が居た。


「・・何故あいつらが訓練場に? 何故俺に声をかけない?」


中級魔法のエンハンスト、もしくは上級魔法の訓練だと思い込んでいた彼としては、まず自分に話があってしかるべきと考えたのだろう。


「ふん、頭を下げ難かったんだろう。まあ良い、顔を出して頼みやすくしてやろう」


しかし彼は、予想外の魔道具マジックアイテムに愕然とする事になる。






店から同じ武器を持って、僕はアインハイトの面々と冒険者ギルドの訓練場を訪れる。


「皆さんに持ってもらったのは、同じ鉄製の剣ですよね?」

「ああ、そうだな。刀身に変な文様は入っているが・・」


本当はもっと安い、青銅製の剣にしようと思ったのだが、魔法を付与して発動したら、素振りを数回しただけで刀身が砕けてしまった・・


「スクロールがどうして使い切りか分かりますか?」

「はん? いきなり何だ? 使い切りの理由・・、それは、何だ?」


話が突然変わり、戸惑いながらも、メンバーと顔を見合わせる。


「実はスクロールは、周囲の魔素を吸収するのですが、その際に樹皮紙に含まれる魔素も吸い取る事で、粉々の粒子と化してしまうんです」

「ほぉー、そんな事があったのか」

「理由として想像ですが、安い素材には魔素が吸収されることに抵抗する力が弱いのではないかと思っています」


これが青銅製の剣では、素振り程度の時間で壊れた理由である。


勿論回避策として、魔法陣の書きこまれた素材から吸収しないと文言を付け加えれば良いし、『炎を纏った青銅の剣』として最初から創造すれば良い。


これによってスクロールや魔石も使い捨てにしなくて済む事が分かった。


付与魔法を研究の段階で、これらは分かった事なのだが、スクロールと魔石は使い捨てであるべき物と僕の中でのアイデンティティにより、使い捨ては継続させてもらっている。


武器や防具に関しても、現段階では、その仕組みを流用している。


「武器や防具も同じで、スクロールのように、何らかの魔法を樹皮紙ではなく、武器や防具に付与する事ができます」

「何!? そうなのか!?」

「反面、先ほどの理由からどうしても武器や防具の寿命が縮みます」

「ふむ、それは難しいな・・」


たとえどんな強力な武器や防具でも、すぐに壊れては意味がない。

その場の戦いだけであれば問題はないかもしれないが、冒険者は無事に町に帰ってくるまで武器や防具が必要だからだ。


「勿論高価な素材や、今後の研究で負担の軽減はできるかもしれません」

「なる程・・、今後に期待か。それでどんな魔法がかかっているんだ?」


腕の太さ程の木を横に、五段並べた台を二つ用意する。

付与のある剣とない剣をリーダーに渡す。


「・・おいおい、まさか丸太切りをしようって言うのか? 鉄製の剣で・・」

「剣を抜いた状態でも、鞘に収めた状態でも構いません。シャープ(鋭利)と唱えて下さい。鞘に戻すと解除されます」

「分かった・・」


まずリーダーは付与のない剣を抜いて、上段に構える。


「はっ!」


深呼吸をして、一気に剣を振り下ろす。



ガギィ!



鉄製の剣は三段目の途中で止まる。


続いて付与のある剣を抜いて、同じく上段に構える。


「シャープ」


上段に構えているリーダーには見えないだろうが、他の面々は刀身が仄かに青白く光るのが見えて息を呑む。


「はっ!」


再び深呼吸をすると、上から下へと一振りする。



ザシィン!



誰かが呟く。


「・・そんな・・馬鹿な・・」


鉄製の剣は、五本の丸太を切り裂き、地面に食い込んでいた。





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