魔石の新たな姿
23.魔石の新たな姿
準備が整うと、商業ギルドギルドマスターと大商会会長の連名で、貴族向け新商品の発表と言う形で、南の地方都市を管轄する貴族を招待する。
最初、僕は手あたり次第に貴族に声をかけると思っていた。
しかし二人から、まずは魔道具に理解のある貴族を取り込み、足場を固め、そこから手を伸ばした方が良いとの事だったので、その助言に従った。
南の地方都市の城門で貴族を出迎え、宿に案内して、大商会会長が中心となって、そこで簡単な説明をしておく。
「我々の招待をお受け下さり、心から感謝しております、閣下」
「いや構わぬ。南の地方都市の発展は、ワシが心から望む事だからな」
がっはっはっはぁーと、豪快な笑い声の貴族に、二つの意味で顔を顰める。
一つはその笑い声の大きさから。
もう一つは・・単にフリであった。
「ん? どうした、浮かぬ顔をして?」
「実はこの度の新商品、南の地方都市の発展に、あまり貢献できないと思われるのです」
「・・どういう事だ?」
大商会は全土に支店を持ち、取り扱う品々や財力の影響力は計り知れない。
ましてやここ最近のスクロールと呼ばれる、魔道具だ。
彼が新商品と言う物が、南の地方都市の発展に結びつかない事を訝しむ。
「商品としてはかなり優れたものであるのは確かなのですが・・」
「ふむ、それならば問題がなかろう?」
「少々・・、正直に申し上げますと、かなり値が張ります。つまり『選ばれた方々』しか、ご購入いただけないと言う事になるかと・・」
「確かにそれでは、南の地方都市の発展には厳しいか・・」
選ばれた方々の部分を殊更強調すると、逆に貴族は興味を強く持ち出す。
「しかも一つ一つの生産に時間がかかり、職人も限られており、そう簡単に数を出せる物でもございません」
「なる程のぉ・・」
貴族は大商会会長の言葉を値踏みするように、目を細め、顎に手をやって考える素振りをする。
庶民側の貴族とは言え、魔法至上主義者であり、選民意識は非常に高い。
購入には金がかかり、少量生産とくれば、自慢の種には持ってこい。
後は貴族たる自分の目に適うものかどうかだけ・・
「とは言え、庶民の発想でしかなく、閣下のお眼鏡にかなうかどうか確かめていただきたくお呼びした次第です」
「委細承知した。しっかりこの目で確かめてやろう」
いとも簡単に、こちらの策にズッポリと嵌まってくれた。
時刻は夕方、これから暗くなる時間に宿を出て、馬車で目的地に向かう。
「このような時間でよいのか? もっと明るい方が良くはないか?」
「お夕食をご用意しておりますの、召し上がっていただきながら見ていただく趣向にございます」
「うむ、左様か」
普段なら新商品を見て、新商品の事で盛り上がりながら、食事と歓談をするのが常だ。
まあ、偶にはこういう変わった趣向もありかと、貴族は納得する。
馬車が目的の屋敷に就くと、日は落ちる寸前で、夜の帳がおり始めていた。
「どうぞ、こちらになります」
「うむ、暗いな。灯りを頼む」
「はっ」
馬車を下りると、薄らと建物は分かるが、道ははっきりと見えない。
貴族同士の夜会であれば、この問題を解決するために、通常は建物の入り口まで馬車で乗り付ける。
僕が進み出て、玄関までの道のりに設置した棒の上に、ライトの魔法をかけていく。
「・・な、何をしておるのだ?」
「棒の上部にはカンテラやランプの代わりに、四角い箱を取り付け、内側に銀紙を張り付けてあります。その中にライトの魔法をかける事で、道を照らしております」
「な、何故そのような事を・・」
「もう少しお待ちくださいますか。後ほどご説明いたしますので」
「そ、そうか・・」
夜なにの煌々と照らし出された石畳を、玄関に向かってゆっくりと歩き出す。
行く先に合わせて、庭の所々に設置された棒にライトを唱えて、夜景を映し出す。
「これは美しいな・・」
「更には・・」
その声に合わせて、玄関と建物を照らすようにライトを発動する。
「おおっ! これは・・」
「貴族同士の夜会ですと、ご自慢の庭や建物を見せる機会は少ないと思いまして」
「そうだな!」
今までにはない光景に、興奮した面持ちで答える。
「松灯りやカンテラですと、どうしても匂いや煙が発生し、やや光力に不足が出ますが、ライトの魔法ですとそのような問題はございません」
「これが後で説明すると言っていた事か? 新商品とは、夜景を創り出す仕組みなのだな?」
「いえいえ、これは閣下の歓迎の意でございます」
玄関を潜り、中に入るとホールに設えたシャンデリアに貴族は驚きの声を上げる。
「何と荘厳な・・」
「高品質な蝋燭の代わりに、ライトの魔法で代用した物です。蝋燭を乗せる必要がありませんので、細工を優先にする事が可能です。」
「そう言えば、部屋や廊下の灯りも・・」
「はい、蝋燭やランプではなくライトの魔法を併用した装飾でございます。では新商品をご覧に入れますので、どうぞこちらへ」
「ああ・・」
貴族は周囲を見回しながら、大商会会長の案内で先導される。
真っ白なテーブルクロスに、美しい食器が並べられた部屋に案内される。
「うん、何だあれは・・?」
「あれらが新商品になります」
テーブルの前には長い四角い台と、壁際に縦長の四角い箱が置かれていた。
「いや、そうではなくて・・、何故台の上に鍋やフライパンが置かれているのだ?」
「どうぞこちらへ」
大商会会長は、貴族に近くで見るように勧める。
「これこそが新商品の魔石コンロとなります」
「魔石・・コンロ?」
「薪や炭の竈ですと、煙や灰などの問題で、このような室内での調理ができませんが、魔石による魔法の炎であれば目の前で調理が可能で、食べ物の香りを無駄にしません」
「な、何だと!?」
とろ火で温められているスープや、目の前で肉を焼き、テーブルではなく、立食形式でその場で食べる形に変更してある。
「ある程度の料理は準備しておく必要がありますが、このように目の前での調理は度肝を抜かれるでしょう」
「そう・・だな」
「そろそろ飲み物をお出ししましょう」
「ああ、頼む・・」
コンロをガン見したまま、大商会会長の言葉に頷く。
「どうぞ」
「うむ・・、ぬぉ!? 冷たい!?」
グラスを手にした瞬間、あまりの冷たさに落としてしまう。
自分の手を呆然と見ている貴族に、大商会会長はもう一度壁際の四角い箱へと向かう。
貴族がしっかりと自分を見てくるのを意識しながら。
扉を開けると白い靄が出て、中から霜のはったボトルを取り出し、グラスに注ぐ。
そして貴族の前にグラスを差し出すと、今度はゆっくりとグラスに触れる。
「冷たい・・」
そっと持ち上げ、口を付けると。
「おお・・」
目を瞑り、深く味わうように天を仰ぎ、ため息と共に感嘆の声を上げる。
「大商会会長! これは一体・・」
「これが魔石フリーザーと呼ばれる新商品で、体験いただけたように、中にある物を冷やしたり凍らせたりできます」
「何だとぉ・・」
「どうぞこちらも」
そう言うと、凍らせた果実を取り出し、貴族にサーブする。
「ぬぉお!? う、旨い! 何だこれは」
「果実を凍らせた物で、今までにはないデザートでしょう」
「ああ・・」
凍った果実や、焼き立ての肉、良く冷えた飲み物・・、それらをもたらした魔石コンロに、魔石フリーザーを、代わる代わる見ていく。
「はは・・、変わる、変わるぞ! 夜会が! 料理が!」
そして口にはしなかったが、明らかに自分を見る他の貴族たちの目がと思ったに違いない。
「これで食事に関しては、全てとなります」
「そうか」
「閣下のお眼鏡にかないました事、何よりでございます」
「うむうむ、どれも素晴らしい物ばかりであったぞ」
「それでは宿の方にお戻りいただく前に、風呂に浸かりゆっくりなさて下さいませ」
「おお、浸かれる風呂か。それはありがたい」
魔道具がないこの世界では、薪でお湯を沸かすのが通常だ。
風呂は手間と時間がかかるため、水風呂か大きな桶に湯を貯めて入る。
浸かるほどの湯ともなれば、常に沸かし続けなければならず、金持ちの証でもある。
「何故二人が付いてくるのかね?」
「使用方法がお分かりにならないと思いまして」
商業ギルドのギルドマスターと、大商会の会長に案内されると違和感を覚える。
「大抵の風呂であれば分かるし、そのような事使用人に任せれば良いではないか?」
「まあまあ、そうおっしゃらずに」
そう言って案内された風呂場に、貴族は愕然とする。
かなりの広さの風呂場の半分が湯舟となっている。
壁際に何やら動物の頭を模った細工があり、口から湯がコンコンと湧き続けている。
「な、な、何だ・・、ここは、温泉でもあるのか!?」
この光景は、温泉源を持つ避暑地や観光地しかありえなかったから当然の反応だろう。
「これが、この屋敷自慢の魔石バスにございます」
「魔石バス・・? でも先程は新商品を全てと申していたではないか!?」
「はい、食事に関しましては、と申し上げました」
「むっ・・、そう言えばそうであったな」
大商会の会長の言葉を思い起こす。
「しかしこの湯量は一体どうやって・・」
「先ほど見ていただいたコンロと似たような仕組みで、常に湯を出せるのです」
「・・常に、湯を出せるだと?」
あんぐりと口を開けて、魔石バスを見つめる。
「こ、これが魔石を使った新商品の数々なのだな?」
「その通りでございます、閣下」
そこまで話を進めると、二人ともその場を辞して、ゆっくり寛いでもらう。
宿に戻ってくると、貴族は開口一番聞いてくる。
「これらの魔石の新商品を、どのように販売するつもりだ」
「閣下のご承認をいただけましたら、各貴族への売り込みを・・」
「ならん」
「「えっ!?」」
「な・ら・ん、と言っておるのだ」
大商会の会長と、商業ギルドのギルドマスターは驚きの声を上げる。
「閣下。どのような理由で、ご承認いただけないのでしょうか? 何か不都合な点やご不満の点がございましたでしょうか?」
「まずはワシの屋敷に取り入れよ。しかる後に、ワシの方から直々に貴族たちに声をかけてやる」
二人は顔を見合わせて、上手くいっている事を目で確認し合いながらも、敢えてごねる。
「しかし商機と言うものがございまして・・」
「煩い! これはお前たちのためでもあるのだぞ?」
「どういう事でしょうか?」
「生産に時間と手間がかかるのであれば、貴族たちからの催促に困るであろう」
「それは・・、そうでございますが・・」
僕の能力『アイテムクリエーション《魔道具限定》』を使えば、すぐにできてしまうのだが、敢えて品薄感を出して、貴族たちの競争心を煽る狙いもある。
「安心せよ。決してお前たちに損はさせん、ワシの名に誓ってもな」
「・・分かりました。閣下にお任せいたします」
「うむ、それで良い」
まずは満足気に頷く、南の地方都市を管轄する貴族の屋敷に、魔道具が導入される事となる。
その貴族が、お茶会や晩餐会、夜会を催して、他の貴族たちに見せびらか・・紹介して、貴族の推薦があって初めて導入できる手筈となった。
大商会や商業ギルドとしても、貴族からの推薦がなければと断れる。
喉から手が出るほど欲しい貴族たちは、南の地方都市を管轄する貴族に頭を下げる結果となり、大商会としては、言い値で魔道具を販売できる。
当然かなり吹っ掛けているのだが、そこは大商人、空気を読んで、誰々様のご紹介でもありますし、今後とも良いお付き合いをと、お勉強させていただく訳だ。
貴族を送り返して、僕と大商会の会長と、再び商業ギルドのギルドマスターの執務室に集まって、今後の事を三人で話し合う。
「はてさて、魔道具の商談はうまく行きそうじゃのう」
「ええ。あれだけの新商品を見せられて、何もしないような貴族はいないでしょう」
「あとは、あの貴族がどう動くかだけでしょうか?」
「「それは心配ない」」
僕の言葉に、二人は口を揃えてきっぱりと言う。
「よいか? 貴族は魔法使いであり、魔法至上主義者なのじゃ」
「顕示欲の塊である彼らが、指をくわえて黙っているはずがないのです」
「はぁ・・」
「まずは自分の寄子たちに、導入させるじゃろうなぁ」
「その上で、自分の敵対勢力に見せびらかせ、優越感を得ようとするでしょう」
僕にとっては分かり難い、特殊な価値観のようだが、簡単に上手く行く方に転がるらしい。
この辺は海千山千の彼らに任せておけば大丈夫だろう。
後日談だが、流石に貴族相手で、僕一人が対応するのは危険と判断され、商業ギルドと大商会から必ず一名ずつ付き添ってくれる事になった。
二人が交渉を行い、僕が技術的なアドバイザーと言う役割だ。
一番最初の時は、大商会会長と、商業ギルドのギルドマスターが付き添ってくれた。
「他の誰も真似できないような、もの凄い物を我が屋敷に設えよ」
当初、南の地方都市の貴族はこう言って憚らなかった。
付き添ってくれた二人が、どうするべきか僕の方を向いてくる。
「恐れながら、閣下に申し上げます」
「何じゃ?」
「一番最初に閣下のお屋敷に設えるのは、デモンストレーションで見ていただいたものがよろしいかと思われます」
「何故じゃ!?」
これから他の貴族にも紹介するのだから、それより格上で当然と思っているのだろう。
「まず先にご覧いただいた魔石の商品は、出来立てホヤホヤの技術です」
「新商品なのじゃから当然じゃな」
「これから先、どんどん新しい物が出てくる可能性があります」
「むっ・・」
貴族も分かったのだろう、今斬新な商品でも、すぐに型落ちとなる事が。
「そこで他の貴族の方々に紹介する際に、大商会が金がかかって売れないと泣きついて来たので、仕方なく我が屋敷に取り入れてやったと言うのです」
「・・ふむ、それで?」
「仕方ないから、新型が出るたびに買い替える約束をしてやったと言うのです」
「それは・・」
「勿論、お勉強させていただきまして」
「なる程・・。それで?」
流石に貴族とは言え、高価な代物を、そうちょくちょく買い替えるのは難しいのだろう。
しかし自分のところは常に最新設備だぞ、と自慢するように持って行く。
「色々な貴族が取り入れた情報をお流ししますので、常に閣下のお屋敷が最新の商品で満たされるようにされるのがよろしいかと」
「なる程のぉ・・」
「何よりも実際にお使いになられる事で、閣下からもこういう風にして欲しいと言ったご要望も出てくるのではないかと思います」
「尤もじゃな!」
自尊心を刺激されつつも、使ってみなければ分からないと言う僕の言葉にも、目を細め満足げに頷く。
後は大商会会長と、商業ギルドのギルドマスターが引き継いで、僕の考えを補強する。
結果、貴族はこちらの勧めに従って、デモンストレーションで見せた物と、同等品を導入する運びなった。




