新規顧客の取り込み
22.新規顧客の取り込み
商業ギルドでは、いつもの職員のパソナではなく、ギルドマスターへの面談をお願いする。
運よく手隙と言う事で、すぐに会う事ができた。
「最近は色々悩んでおるとの事じゃな。して、今日は何の用かな?」
「一つお聞きしたいんですが、中級魔法のエンハンストや上級魔法のスクロール、魔石のアドバンストの開発は必要でしょうか?」
「ふむ・・。商売上は、あるに越した事はないが、それが何か?」
「冒険者ギルドのギルドマスターが、先ほど来て、開発を続けて欲しいと」
「開発を望む理由は言っておったか?」
「全てに対する、抑止力と」
「・・抑止力か、冒険者ギルドのギルドマスターとしては仕方のない事ではないか?」
「いいえ、抑止力と言う事は、持っていると言う事を知らしめる事です」
そう、おかしいと思った理由はこれ・・
犯罪者たちにわざわざ、存在をオープンにする理由が現時点ではない。
存在がばれてしまえば、横流しと言う問題が付いて回る。
知性のあるモンスターも居るが、殆どは抑止力の意味がない。
スタンピード対策なら、僕が非常用に持っていればいい。
この南の地方都市にだけあっても、抑止力にはならない。
一冒険者ギルドのギルドマスターが、全世界規模を管理できるとは思えない。
「なる程・・。非常手段ではないところに違和感を覚えるのぉ。単なる言い間違いか?」
「一応、裏を取ろうと思ってご相談に着た次第でして・・」
「そうか、分かった。ちと、調べてみるとしよう」
「ありがとうございます」
「なあに礼には及ばん。不穏な動きは早めに掴んでおくに越した事はない。逆に知らせてくれた事を感謝したいぐらいじゃわい」
この手の情報は顔の広さが物を言うので、商業ギルドのギルドマスターに一任する。
集まった人々は、目の前で起きた出来事を、苦々しそうに見つめている。
「以上が、スクロールと呼ばれる魔道具となります」
「・・そうか」
部下たちの一連の説明と、実演が終わった後、人々の一部は別室へと移動する。
全員が着席するや否や、一人がテーブルを叩き、声を張り上げて怒鳴る。
「庶民どもが頭に乗り追って!」
その声を受けて、他の一人が口を開く。
「魔道具か・・。よもや庶民が、我らの猿真似のような事を仕出かすとは思わなかった」
そうだ、そうだ、と周囲の人々が騒ぎ立てる中、スクロールの話を持ち込んだ人物が言う。
「今見てもらったのは、此処で罵り合うためではない。これからの対策を考えるためだ」
「然り! 魔法を使える者が国政を司り、人々を管理、支配する。この世界の仕組みの根幹が揺らいでおる」
「その通り。我らが与えられれておる爵位は、魔法の強さによって決められている」
大きな括りではあるが、初級魔法で騎士、中級のベーシックで子爵や男爵、エンハンストで伯爵、上級で侯爵、最上級で公爵である。
一人で使える魔法の上限が、最上級魔法とされているが、せいぜい一回使えるかどうか。
ならば集団でより強力な魔法を使える組織を持つと言う事が公爵の条件である。
「話によれば、中級のベーシックを封じるスクロールが存在すると言うぞ」
「由々しき事態よのぉ・・」
「いくらお灸をすえるとは言え、街中で中級魔法のエンハンスト、ましてや上級魔法をぶっ放す訳にもいくまいて・・」
魔法至上主義者とは言え、国政を預かる者たち。
最低限の良識ぐらいは持ち合わせているようだ。
「反国王勢力は、町の中にも、城の中にも、自分の部下の中にもいるだろう。いついかなる場所からでも仕掛けられる訳だ」
炊事、洗濯、掃除、食事と言った、自分たちの身の回りの世話の、ほぼ百%が庶民の手によるものだ。
魔法の力で、庶民を守ると言う大義名分故に、不満を抑え込んでおり、反乱されれば自分たちの首を絞める事になる。
「しかも庶民は、魔道具によって、四属性魔法以外の、生活に密着するような魔法も手に入れておるようじゃ」
「確かに我らの存在意義にも、沽券にも関わってくる・・」
「ただでさえ不満分子は多くおり、常に小競り合いのある状況だ」
この集団にスクロールの話を持ち込んだ人物が、薄ら笑いを浮かべて浅はかな提案をする。
「良いアイデアがある」
「どのような?」
「奴らはまだ上級魔法どころか、中級のエンハンストさえ手に入れておらん」
「そのようだな」
「我らの強さ、偉大さを思い知らせてやれば良い」
「待て待て待て!? いくら何でも無辜の民を傷つけると言うのは・・」
幾ら強さを見せつけるとは言え、流石に無駄な流血は望むべきではない。
「テロ集団や、レジスタンスどもであれば?」
「むぅ・・。レジスタンスどもは民衆の支持を得ている面もあるが、テロ集団どもは庶民も眉を顰めていると言うな・・」
「くっくっく・・実際にテロ集団や、レジスタンスが居る必要はない」
「・・どういう事だ?」
「区画整理のために、スラム街や廃屋に使えば良い。住民たちは、事前に極秘裏に逃がしておくのだ。どうせ上級魔法なら死体など残らん」
わざわざテロ集団やレジスタンスの根城を探す手間が省ける。
区画整理のために、廃屋をいっぺんに整理できる。
庶民どもに、上級魔法の凄さを知らしめると言う意味が重要なのだ。
「一石三鳥か・・、いやもっと効果が得られるやもしれぬ」
「ではそのように取り図ろう」
その場にいた全員が頷き、了承する。
しばらくして、王都のスラム街や立ち退きを迫られていた家々などが、轟音や爆炎、砂塵と共に消滅する事になる。
しかしながらその結果として、上級魔法のスクロールへの開発への期待が高まってしまう事に彼らは気づかない。
商業ギルドのギルドマスターから、手渡された資料に目を通す。
「冒険者ギルドのギルドマスターの抑止力、と言う言葉から推察すると、考えられるのはその事件じゃなぁ」
「そうですか・・、テロ集団の殲滅・・」
「うむ、スラム街や、王都の一部が更地と化したようじゃ」
レジスタンスは庶民たちの不満に対するガス抜きと、国王貴族派たちは、そう捉える面があったと言う。
しかしテロは別だろうし、これは法ととして正しい行為だったはず。
それを危険視して、抑止力に必要だと言うには、些か行き過ぎだろう。
「冒険者ギルドのギルドマスターが、それを知って上級魔法を欲しがった?」
「タイミング的には、魔道具に対する牽制と言う意味合いが強いと思われるので、どうもしっくりせんのじゃ」
「そうですね・・」
あまりにも急にテロ集団やレジスタンスが見つかり殲滅・・都合が良すぎる。
過ぎた見せしめは、逆に反感を生み出す。
ただ、と一旦切ってギルドマスターは、ある推測をする。
「冒険者ギルドのギルドマスターとは言え人間じゃ。テロに与する事も考えられる」
「・・なる程」
僕たちの全く知らない話だが、この時点で魔法至上主義者たちは、区画整理のためであり、一人の犠牲者も出していない。
しかし貴族とテロ集団たちは口を揃えて、何十人テロリストを倒した、仲間が死んだと、誇大して煽っていた。
「無論、彼がレジスタンスに所属しており、自分たちにもと危機が及ぶと感じたのかもしれん」
「レジスタンスもスクロールを使うだろうと言う、貴族たちの牽制からですね」
「その通りじゃ。しかも中級のベーシックは無効化されるとなれば・・」
魔法至上主義者たちは、自分たちの立場を守るために、強硬策を取ったと考えられる。
「尤も、それらの危惧は一切なく、スクロール発祥の地のギルドマスターであり、自分をチヤホヤして欲しくてやっているとも考えられるがのぉ」
「それは・・、ありですね」
「ん? 何か心当たりでもあるのか?」
魔法犯罪者の特別取締部隊「アインハイト」としてのノウハウを当てにする、他の町のギルドマスターは多いだろう。
そう言えば、彼ら用のスクロールはギルドマスターに預けていたんだけど、横流ししていたりして・・
その懸念を、商業ギルドのギルドマスターに話してみる。
「あー・・、あり得るわい。市販されてしまったからのぉ。再び自分がチヤホヤされるためには、その上が欲しくなって当然じゃ」
「やっぱり・・」
しかしこれら全ては、錯綜する情報の中で、僕たちの結論はあくまでも推測である。
「だったら上級魔法のスクロールなんて必要ないですよね」
「うむ、必要はない。が、魔道具をこれからも先、世に広めるためには代わりの物が必要かもしれん」
「代わりの物、と言いますと?」
「例えば四属性魔法ではなく、バレル(大樽)のように生活必需品などで、国王貴族派が欲しがるような魔道具と言ったものじゃな」
「なる程・・」
前の世界にあったファンタジー小説ネタで言えば、パッと思い浮かぶのが、ライトアップとコンロと冷蔵庫にお風呂かな。
「魔法至上主義者と言うが、国王貴族派以外にも魔法使いである貴族がが存在するのを知っておるか?」
「そう言えば、王都の商業ギルドでそんな話を聞きましたね」
魔法至上主義者とは一線を画す貴族たちがいると。
庶民の人気を支援したり、レジスタンスのパトロンになったりと、次の国の主要ポストを狙うべく裏で暗躍する魔法使いたちの事だ。
「いくら魔法至上主義者とは言え、本来は庶民を守るのが役目であり、常に内乱などしてはおられん。となると魔法以外に自分たちの権力を示す小道具が必要じゃ」
「例えば?」
「単純に貴金属や宝石の有無や、その土地土地の特産、名産品や観光、避暑地などの豊かな土地と言った財力が挙げられるのぉ」
「その中に、他の貴族たちが持っておらず、かつ金がかかり、見せびらかせてほくそ笑む魔道具をぶち込むと言う事ですね」
「その通りじゃ」
確かに庶民に味方する貴族たちなら、敵対勢力に対する手段として懐柔しやすいだろう。
「分かりました。良いアイデアがあります」
「ほお! そうかね」
「つきましては、貴族を招いて、簡単な食事会をできる家をお借りできませんか?」
「それくらいは簡単じゃが、一体何をするつもりか?」
「今は秘密です。それから大商会の会長の協力を得たいのですが?」
「大商会の? 何故じゃ?」
「僕の新商品発表より、遥かにネームバリューを持った方の招待の方が効果的かと」
庶民の味方の貴族とは言え、魔法至上主義者には変わらない。
路傍の石如き存在の僕からの招待では、誰も来てくれないだろう。
今回は食事会と言うより、内覧会であり、まずは来て見てもらわなくては意味がない。
「なる程、尤もじゃ。すぐに手配しよう」
「お願いします」
商業ギルドのギルドマスターも納得して、善は急げと、すぐに大商会の会長にアポイントメントを取ってくれる。
「秘密と言っておったが、用意する家で何をするつもりじゃ?」
「うーん、そもそもお見せするものがなくては意味がありませんから」
「確かに、空絵だけでは仕方がないか・・」
口で説明するだけでは、どのような物か想像がつかない場合もあるし、実際にできるのかと問われるくらいなら、できたものを見せる方が良い。
そんな話し合いの中、執務室の扉がノックされ職員の一人が顔を見せる。
「どうした?」
「先程の大商会会長とのアポイントメントの件ですが・・」
「おお、早いのぉ! それで何時なら都合が良いと?」
「いやそれが・・」
「失礼する」
「「えっ!?」」
突然の大商会会長の登場に、僕とギルドマスターが驚き固まる。
「魔道具の件で、私どもに協力できることがあると聞き、飛んでまいりました」
「いや、・・そうか」
「ありがとうございます・・」
「私どもは、どのような事をお手伝いすればよいのですか?」
あまりにもトントン拍子に話が進む幸運に驚きながらも、大商会の会長にも、今まで話し合った事を伝える。
「攻撃系の魔道具ではなく、人々の生活に密着した魔道具に転換する、ですか」
「魔道具を、敵視する貴族たちが増えているようですので・・」
「それにどうもきな臭い話も絡んできそうでな・・」
「きな臭い話とは?」
冒険者ギルドのギルドマスターのやり取りを、掻い摘んで話す。
「うむむぅ、何とも推測でしかありませんなぁ・・」
「確かに憶測ではあるが、一応予防策にもなるかと。自分たちの陣営に、一部の貴族を取り込んでしまおうとな考えたわけじゃよ」
「なる程、分かりました。できる限りご協力しましょう」
運よく、商業ギルドのギルドマスターと、大商会の会長を味方につける事ができた。




