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路地裏の雑貨屋さん  作者: まる
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転生相談

2.転生相談




女性は受付台の反対側に移ると、目の前の椅子に座るよう勧められる。


「どうぞ、お掛けください」

「あっ、すみません」


お互いは受付台を挟んで向かい合う格好である。


「本日は、当『転生セミナー』へようこそおいで下さいました」

「『転生セミナー』って言うのは・・、やっぱり?」

「はい、ご想像の通りです。お亡くなりになられた方々の、新しい人生に向けてのご説明する会となります」

「あー・・、いくつか質問しても?」

「えっ? ええ、構いませんよ。ご納得いただいて、人生の再スタートを切っていただくのが、当セミナーの目的ですので」


僕が質問するとは思わなかったのか、ちょっと吃驚した表情で首を傾げる。


「まあ、お答えできない事もありますが」

「答えられない事・・ですか? 例えば?」

「そうですね・・。代表的なものとしては、あなたの生前に関することでしょうか」

「僕の生前の事? どうしてですか?」


今度は僕が驚いて聞き返す。


「お尋ねしますが、あなたのお名前を覚えていらっしゃいますか?」

「僕の名前ですか? そりゃ当然・・覚えて・・、僕の名前は・・名前・・」

「そこまで!」

「えっ!?」


女性は、バンと僕の両肩に力強く両手を置く。


咄嗟に自分の名前が出てこなくて、必死に思い出そうとした僕を、女性が鋭く厳しい声で、思い出す事をやめるように言う。


「名前を思い出せなくて当然なんです。逆に言えば、思い出してはいけない」

「思い出してはいけない・・?」

「それが当『転生セミナー』の目的でもあるのです」

「どういう事ですか!?」


思い出させない事が、『転生セミナー』の目的とはどういう事だろうか?


「生前の事の事に強く縛られると、その人は第二の人生を踏み出せなくなります」

「どういう事なのかさっぱりわからないんですが!?」


一向に話が進まない事に、苛立ちを覚え、思わず立ち上がり詰め寄ってしまう。


「落ち着いて下さい。きちんと説明しますから」

「す、すみません」


女性はそんな僕に、毅然とした態度で、席に戻るように言う。


「当『転生セミナー』の目的は、最初に申し上げた通り、亡くなられた方に、気持ちよく新しい人生に旅立っていただくためです」

「はい、覚えています」

「裏を返せば、気持ちよく旅立てない方もいらっしゃるという事です」

「もしかして・・、死に方の問題?」

「その通りです」


僕のためらいがちの言葉に、女性は頷く。


「特殊な場合を除き、皆さんは自分が死んだ事に気が付きません」

「えっ!? そうなんですか?」

「似たような感覚ですと・・、夢の中で、これは夢だ、と気づく事でしょうか」

「ああ、何となく分かります」


僕も目が覚めてから、ああ、夢だったんだぁ、という経験しかない。

夢の中で、これは夢だと気づけるのは非常に稀な事だと聞いた事がある。


・・と言う事は、僕は特殊な事例と言う事になる。


「亡くなられた方の多くは、自分の身体に重なるように深く眠った状態だったり、自分の身体の近くにボーっと存在するだけだったり、当てもなく彷徨ったりしています」

「ふむふむ」

「そんな方々には、こちらから案内係を送りまして、スパッと現世から切り離して、こちらに来ていただいています」

「・・ああ、何となく・・」


今の一言から、漆黒のマントに身を包んだ、大きな鎌とか鋏を持つ白骨体を想像してしまった。


「そう言う方々は、深く眠ったり、ボーっとした状態のままが続きます」

「そういう場合は?」

「どのような素晴らしい転生を説明しても、ほとんど自分の意志による選択ができませんし、『転生セミナー』などによる次の人生相談は無理なんです」

「なる程・・」

「大変申し訳ありませんが、こちらで新しい人生をご用意させてもらっています」

「それは仕方ありませんよね」


話を聞ける状態ではなく、選択する事もできなければ、誰かに手助けしてもらうしかないのは仕方のない事だ。


「そんな案内係にしろ、私にしろ、できない事があるんです」

「できない事ですか?」

「はい。現世に強く縛られている方には、残念ながら効果が及びません。私たちには、特別な許可がない限り、現世の事に係る事を禁じられているからです」

「へぇー」

「例えば、事故で亡くなられた方は、その場にこびり付き、現世に影響を及ぼす存在になる事がありますし、恨み辛みを残した方は、晴らすためにずーっと他者に付いて回ったり、獲物を探して徘徊する事もあります」


ほんの僅かでも現世から、こちら側に来てもらえば救う手立てはあると言う。


「どうしても無理な場合は?」

「先程も申し上げました通り、私たちは現世の事に係れませんので、そういう方々を如何こうする事はできません。なので現世にいる方で、説得していただく他ありません」

「・・なる程」

「そうやって、現世との縁が切れた方のみ、私たちがご案内します」


何んとなーく、前世での怖い話の元ネタが分かったような気がする。




そこまで来て、ふと最初から持っていた疑問を聞いてみたくなる。


「では、僕が見ようとしたら真っ白になって何も見えなくなったり、聞こうとしたら、何も聞こえなくなったのも?」

「ああ、経験されたのですね。はい、名前や死因、記憶と同じで、何らかの切欠で、現世の事を強く思ってしまうと、せっかくこちら側にいるのに、向こう・・現世に戻ろうとしてしまうんです」

「やっぱり・・」


今までの話を聞いて、此処に来るまでの出来事は、そうなんじゃないかと思ったのだ。


「あっ! それで必死に思い出そうとしたのを止めたんですね」

「その通りです。あのままの状態が続くと、私はあなたから追い出されていました」


僕の名前は!? 僕は誰なんだ、どうして死んだんだと、現世の事に捕らわれると、自分の殻に閉じこもり、彼女たちの救いの手を払いのけるという。


「止めてくれて、ありがとうございます」

「いいえ、思い出すように試させたのは私ですから」


そう言うと、頭を下げて謝罪してくれる。


「それで、僕の場合は・・、特殊な事例なんですよね?」

「はい、死んでいることに気づき、ちゃんと死ぬための方法を探し回る。これはかなりのレアケースとなります」

「ちなみに、どうして僕がそうなったか分かりますか?」


特殊な事例、レアケースになった原因を訪ねてみる。


「そうですね・・、間違いなく・・ ・・偶然でしょう」

「・・へっ?」


夢の中で、これは夢だと気づく程度の問題だからと、偶然ですと言い切られてしまい、思わず間抜けな声が出てしまう。


「今回みたいに自主的にこちらに来ていただくか、あまりに時間がかかるようであれば、案内係が派遣された程度だと思います」

「あ・・、いや、その、あの・・レアケースなのに、対応が大雑把すぎませんか!?」

「こうやって『転生セミナー』をご用意しているのですから、それでご勘弁いただきたく・・」


申し訳なさそうにしつつも、笑みを浮かべ、何となく笑顔で誤魔化そうとしているような気がした。

絶対に何かしくじっていて、誤魔化そうとしている・・




まあ、もうこれ以上聞いても何も出てこないだろうと、半分諦め今後の話をする事に。


「じゃあ僕はこの後どうなるんですか?」

「勿論、あなたの望む人生を聞き出して、今用意されている人生の候補とマッチングするんです」

「例えば、大金持ちになりたいって言って、候補があれば、その人生を選べるんですか?」

「選べますよ」

「それは不公平じゃないんですか? さっきの眠っている例のような人たちには・・、その、言葉は悪いですが適当に人生を押し付けて・・」


起きない人は選べないから、と言うのでは納得できない。


「ああ、問題ありませんよ。あなたがその人生にふさわしくなければ、候補がないと言えば良いだけなんですから」

「・・なる程、そう言えばそうですね」


選ぶ権利は僕にあるが、候補を出すのは彼女の方だった。


「では、僕に提示される人生って、どんなのがあるんですか?」

「少々お待ちください。あなたの生前の履歴と、今ある人生の候補を見てみますから」


個人情報・・、僕が僕である事を知る情報で、現世に縛られる可能性があると言って、事務机まで行く。


僕から死角になっている引き出しから、何やら資料を取り出す。


「(本当に入っていたのか? それとも、どこからか取り出したのか?)」


そう思ったのは、引っ越してきたばかりの様な事務所に、僕だけの資料が引き出しに仕舞われているとは考え難いからだ。


左手には数ページの資料を、右手は分厚い資料が置かれている。


左右の資料を見比べながら、分厚い方の資料を捲っていくと、あるページで、女性の手が止まり、目が見開かれる。


「(何かあったのかな・・)」


彼女は丹念に見比べると、たった一台の電話機に手を伸ばし、何処かへ掛け始める。


「あー、もしもし。----の件の募集って、まだ有効かしら? 有効で間違いない? OKOK、ありがとう、それだけよ」


左手の資料を、分厚い資料のそのページに挟んで、パタンと閉じて、僕の前に戻ってくる。


「大変お待たせいたしました」

「いえいえ、何か良い人生候補はありましたか?」

「幾つか見つかりましたが、その前に少し確認させていただきたいのです」

「何をでしょうか?」


彼女の言葉によれば、手元の資料だけでは分からない事があるので、実際に話してみてマッチングを確認したいとの事だった。


確かに紙に書かれた事だけで、その人の人となりを判断するのは難しい。


「世界には、色々な理があります」

「理・・?」

「例えば農耕だけの世界、島しかなく周りは海で漁業のだけの世界、酪農だけの世界という、その世界毎の独自の決まり事です」

「へぇー」


僕の生前の事は思い出せないが、元居た世界にも、そう言った理があったのだろう。


「先程の例から引用しますと、農業や農耕と聞いて嫌悪感はありますか?」

「嫌悪感? いや無いけど?」

「では漁業と聞いては? 酪農と聞いては?」

「どちらも嫌悪感はないけれど?」

「それらだけの理の世界に行っても、ある程度は問題ないと言う事になります」

「なる程・・って、別の世界に行く事になるの?」


一瞬、異世界とか、別世界への転生と言う言葉が頭に浮かぶ。


「いえいえ、あくまでも世界の理を説明のための一例です」

「ああ、そういう事ですか」


分かりやすく説明するための、例え話だったようだ。


とは言え、生前の記憶がない以上、元の世界は例えに出てきた世界の理が含まれる可能性は高い。

もしくは地域毎で隔離されていて、場所場所で環境が大きく違う事も考えられる。


「医療が低かったり、生活水準が低かったり、衛生面が悪いと言うのは?」

「それは、できれば避けたいかなぁ」

「ふむ。戦争、もしくは争いや戦いについては?」

「うーん、それもできれば・・」


自分の前世の世界は思い出せないのに、そう言った知識は不思議と残っている。


「それでは科学と、魔法、どちらの言葉に惹かれますか?」

「うーん、どちらかと言えば・・魔法、かなぁ」

「ほぉ・・」


女性の目が、鋭く細められる。

まるで獲物を見つけたかのように、ギラッと光ったような感じさえする。


「例えばの話、魔法のある世界で、人々には魔法が使える人々と、使えない人々がいるとします」

「はあ・・」

「魔法が使える事で、使えない人を差別しているとします」

「はあ・・」

「あなたは魔法が使えない人々に、どうやって魔法を使えるようにさせますか?」

「僕がですか? そうですね・・」


何か・・いやに具体的な例のような気がする。

それでも、魔法が使えない人に、魔法を使えるようにさせる方法を考える。


「直接教えても、覚えられないとか、使えないんですよね?」

「はい、それができないため差別されています」

「ふむ、マジックアイテム、魔道具と言うのは如何でしょうか? もし魔法を使える人たちが使っていれば、意味はありませんけど・・」

「マジックアイテム・・、魔道具・・。例えばどの様な?」


ジーっと僕を値踏みするように、睨みつけるかのように見つめながら、訪ねてくる。


「えーっと、良くある巻物・・スクロールとか、魔石を使った道具・・、魔法を付与した道具・・、あっ、魔導書なんかもありますね」


僕がいくつか案、と言っても記憶の端に引っかかる数々の創作ストーリーネタを出すと、細められた目が更に細められる。


「なる程・・」


一通り話を聞き終わると、視線をあちらこちらに漂わせながら頷いている。


再び席を外すと、先ほどと同じように電話をかける。


「ああ、もしもし。今のは記録した? じゃあすぐに送って。・・・ ・・どう、先方は? うん、うん、じゃあOKなのね? 分かったわ」


そんな事をしゃべったかと思うと、電話を切って僕の前に戻ってくる。


「お待たせして申し訳ありません」

「それは構いませんが、何かありましたか?」

「はい。あなたの新しい人生の、最有力候補が見つかりました」


そう言うと真剣な表情を僕に向け、新しい人生について話し始める。





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