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路地裏の雑貨屋さん  作者: まる
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スクロールのお披露目

11.スクロールのお披露目




商業ギルドの職員、パソナさんの驚いた声と表情は当然の事だろう。


この世界では、魔法を使えるのは王族、貴族だけである。

形だけとなりつつあるが、彼らが中心となってダンジョンの攻略をする。


その結果、魔法至上主義が生まれ、人々の間に差別が出来上がっているのだから。


「マッヘンさん・・、商品を売りたい気持ちは誰にでもあります」

「そうですね」

「しかし嘘はだめです、嘘は。商いとは人々の信頼を勝ち得る事でもあり、一時的な売れ行きのために、その後の商いを棒に振るような真似は・・」


淡々と、切々と、商いの基本を語ってくる。


「まあ信じられないのは当たり前ですよねぇ」

「信じるとか信じないとかの話ではありません。商業ギルドとしても明らかに偽物を売るような事を黙って見過ごすわけにはいきませんから」

「弱ったなぁ・・」


実は弱っても、困っても居ない。

パソナのように誰かが来てくれ、このように問題視して欲しかったのだから。


スクロールなんて、見たことも聞いた事もない人は、一瞥して首を捻るだけで、店に足を踏み入れる事はない。

さりとて魔法が誰にでも使えますなんて看板を出しても、パソナさんのように胡散臭がられるだけでかえって印象が悪い。


誰でも良いから店に入って、スクロールって何と言ってくれる生贄・・じゃなくて、関心を持ってくれる人が必要だったのだ。


「どうしたら信じてもらえますか?」

「マッヘンさん、まだ言いますか・・」


かなりご立腹な表情を浮かべ、ならばと一つの提案をしてくる。


「誰にでも魔法が使えるのであれば、確かに冒険者たちに有益でしょう」

「勿論です」

「冒険者ギルドで、デモンストレーションを行うと言うのは如何ですか?」

「なる程、実演と言う事ですね?」

「その通りです。多くの人の前で証明するのです」


パソナさんの考えは、こうやって脅すことで、ありもしない物を売ろうとする自分の考えを改めさせることだろう。


しかしスクロールが本物である以上、このチャンスを逃す手はない、実に運が良い。


「分かりました! ぜひやらせて下さい!」


深々と頭を下げてお礼を言う僕の頭上で、ため息が聞こえる。


「はぁー・・、分かりました。こちらでスケジュール調整をします。日程が決まりましたら、改めてご連絡します」


冷たくそれだけ言うと、とっとと店を出ていてしまう。




お世話になったパソナさんは、かなりご立腹の様子だったが、第一段階はクリアだ。


「どういう結果になるかは分からないけれど、これで魔道具マジックアイテムが世の人々の目に留まると言う、一大イベントとなるわけだ」


二階への階段を登りながら、目下の問題の事を考える。


「あとは実演の前にテストか。四属性魔法の初級のスクロールとは言え攻撃魔法、何処でテストをしたものか・・」


攻撃魔法を街中でぶっ放すわけにはいかない。

さりとて戦闘能力がない自分が、町の外に行って試す程勇気はない。


「流石にぶっつけ本番で失敗したら、笑い者じゃすまなそうだし」


パソナさんの、静かな怒りを思い返しながら、弱ったなぁと作業机に向かう。






数日後、パソナさんから日時が決まったと連絡をもらう、正確には・・


「えっ!? い、今からですか?」

「何か不都合な事でも?」

「い、いいえ・・」


かなりご立腹なのだろう。

本来なら何日か前に事前連絡があると思われるのだが、あまりにも唐突に切り出された。


「公平公正を期すために、デモンストレーションの日時を隠しておりました」

「あの・・、公平公正と言うか、準備期間も必要と言うお考えは?」

「それだけの中から、いくつか持っていけばいいんじゃありませんか?」


パソナさんは、顎で棚の中のスクロールを示す。


「なる程、あれが飾りでないのであれば問題ないだろうとおっしゃるのですね?」

「・・・」


この場合の無言は肯定と取るべきだろう。


「分かりました」


棚の中から、いくつか適当に選んでカバンの中に詰め込んでいく。

実演には天恵ギフトによって創り出した物をと思って、作業場に置いてあった。


店頭に置いてあるのは、正真正銘僕の手書きの品々である。


「では行きましょうか」


一発勝負か・・と思いながらも、準備ができた事を伝え店を出る。




デモンストレーションを行う場所へ向かいながら、パソナさんが声をかけてくる。


「今ならばまだ間に合います。変な意地を張らず、正直に困っていると相談していただけませんか?」


何がしかの期待を込めて、パソナさんが僕の方を見てくる。


「それでは実演が終わった後、相談に乗っていただけますか?」

「はぁ・・、後・・ですか。分かりました、もう何も言いません」


これ見よがしにため息を吐くと、そのままスタスタと先を進んでいく。


「ちなみに、どちらまで?」


実際にデモンストレーションをどこでやるのか気になったので尋ねる。


魔道具マジックアイテムが本当のものであれば、場所を確保できるのは冒険者ギルドの訓練施設以外にありません」

「つまり冒険者ギルドへ?」

「その通りです」

「それは丁度良かった」

「丁度・・良かった? どういう意味ですか?」

「いや、冒険者ギルドにアイテムの採取の依頼をしているもので」

「そうですか・・」


さしたる興味も湧かなかったのか、それ以降は何も聞いてこない。


ちょっとギスギスした雰囲気も手伝って、お互いに何もしゃべらず冒険者ギルドへと到着する。






冒険者ギルドの中に入ると、受付の女性から声をかけられる。


「あっ! マッヘンさん、ご依頼の物が入荷していますよ」

「そうですか! パソナさん、デモンストレーションの前に確認しても?」

「ええ、それくらいの時間はあります」


二人揃ってギルドの買い取りの窓口に向かい、男性職員に声をかける。


「ん? お前さんがマッヘンか?」

「そうです」

「これが依頼の品だ。確認してくれ」


ドンと木箱が目の前に置かれると、蓋を開けて中を確認する。


「何が入っているのですか・・って、クズ石じゃないですか!?」

「クズ石って、まあそう呼ばれていますが、僕は魔石と呼びますがね」

「何だってこんなものを!?」


中に入れられた様々のサイズの魔石を見て、パソナさんも呆れた風に驚く。


「そう思うよなぁ・・。でもこいつは、そのクズ石を集めるのに金を払ったんだぜ?」

「採取依頼をしてまで、集める必要があったのですか!?」

「今の時点では何とも・・」


男性職員とパソナさんの言葉に、今のところはそう返さざろう得ない。


「はぁー・・、あなたのやる事はすべて理解不可能です」

「あははは・・」


パソナさんの冷たい視線と言葉とため息に苦笑いする。


「最後の勧告です。ごめんなさいして、これを持って回れ右をして帰るなら、後はこちらで話を纏めます」

「いえいえ。是非とも実演させて下さい」

「分かりました・・」


再び受付に戻ると職員に、今日予約していたデモンストレーションの話を告げる。


「はいはい、聞いています。なんでも新製品の実演だとか。では訓練場でお待ちください。あっ、訓練場は分かりますか?」

「ええ、分かります」


パソナさんは、そう答えると先陣を切って入り口とは反対の方へと向かう。




しばらく進み扉を開けると、広々とした広場のようなところに出る。


「ここが訓練場・・」

「ええ、冒険者になりたての方や、戦闘技能向上、昇級試験などに使われます」

「昇級試験ですか?」


聞きなれない言葉に、思わず聞き返してしまう。


「マッヘンさんは店持ちですので、細かな話はしていませんでしたが、各ギルドにはランクが存在します」

「ランクですか?」


またまた知らない言葉が飛び出してくる。


「その人の功績によって、ランクがあります」

「例えば?」

「商業ギルドでは、年会費と言うのが存在しますよね?」

「ええ」

「収める額によって、ランクが上がっていくんですよ」

「ちなみにメリットはあるんですか?」


先日と同じように不躾な質問をしてしまう、お金が絡むから許して欲しい。


「高額の年会費は、その商人の信頼の証と商業ギルドでは考えています」

「つまり高額の年会費は、大商人の証であると?」

「その通りです。ギルドから信頼されれば、領主、ギルドといった組織から依頼が舞い込むでしょう。またオークションへの参加や、王族、貴族への出入りも許されるでしょう」

「・・オークション?」

「オークションとは、珍しい品々、貴重な品々など、競売します。商人としての知名度、莫大なお金が手に入るでしょう」

「なる程、それがランク・・」


確かに大店と呼ばれる大商人を目指すのであれば、必須のネームバリューとなるだろう。


「冒険者の中では強さの証明にもなりますし、他のギルドでは技術力でしょうか」

「ふむふむ」

「冒険者ギルドでは、強さの証明として昇級試験があるんですよ」

「納得しました」

「納得してもらったところで、デモンストレーションを始めるか」

「「えっ!?」」


話している僕たちの背後から、声がかけられ、そちらの方を振り返ると男性が立っていた。


「ジュ、ジュドさん!? 今日はギルドマスター自らですか!?よろしくお願いします」

「ジュドさん? ギルドマスター?」

「ああ、俺がジュド、この南の地方都市の冒険者ギルドのギルドマスターだ」


ジュドと名乗ったギルドマスターの他には、誰も見当たらない。


「あのー、他に見ていただく方は?」

「俺だけだ。どんな商品か分らんのに他の奴に見せられん。もし俺を馬鹿にするような物だとしても、俺の時間を無駄にした罰として一発殴るだけで腹に収めてやる」

「ありがとうございます」


すまし顔で感謝を伝えるパソナさんの顔をチラリと見れば、プイッと顔を背ける。


なる程、どうりで何度も中止を促してきた訳だ。

どうやら二人の間で簡単な話は出来上がっているのだろう。


逆に言えばこれはチャンスである。


失礼な言い方をすれば、下っ端が何人試すよりも、大物一人に見てもらった方が話は早く進むだろう。


「分かりました。よろしくお願いします!」

「・・おう」


そう言って深々と頭を下げる。






持ってきた荷物を降ろし、その中から一つスクロールを持って二人の前に立つ。


「これが今回僕が開発したアイテム、スクロールと言うものです」

「「・・・」」


ジュドさんと、パソナさんは沈黙のまま。


「スクロールは、誰にでも簡単に魔法を使えるようにする魔道具マジックアイテムです」

「ちょっと良いか?」

「どうぞ」


ジュドさんが手を挙げて、質問をしてくる。


「この世界には魔法が使える人間と使えない人間の二通りしかいねぇ。魔法が使えない事で辛酸を舐めてきた俺たちが魔法にあこがれる気持ちは十分に理解できる。魔法を使えない奴らに魔法を使わせたいって気持ちも十分に理解できる」


一旦言葉を切り、腕を組み、静かな怒気をぶつけてくる。


「だが嘘はいけねぇ・・。お前の気持ちは分かる。御免なさいだ、その一言で良い。それで今日の事は目を瞑ってやる」


ギルドマスターの優しさはありがたいが、此処で引くわけにはいかない。


「ジュドさんは、文字が読めますか?」

「ああん? お前は俺を馬鹿にしてんのか?」

「読めれば結構です」


そう言って、ギルドマスターの手にスクロールを持たせる。


「あの的にするロールを向けて、スクロールの封に書かれている文字を読んで下さい。騙されたと思って、一度だけ」

「・・・チッ」


舌打ちをすると、スクロールを十五歩ほど離れた的に向ける。


「あー、何だ? ファイヤバレット?」


手にしていたスクロールが一瞬で粒子と化す。

そして手の前に、拳大の火の玉が生み出されるや否や、的へ向かって飛んでいく。



ボォーン!!



爆音と共に的が燃え上がる。


ファイヤバレットは、四属性魔法の火の初級魔法で、的に当たるとそのまま、一定の大きさに燃え広がるのだ。


燃える的を呆然と見続ける、ギルドマスターに新たなスクロールを手渡す。


「もう一度どうぞ」

「お、おう。ストーンバレット!」


先程同じように構えて、スクロールを燃える的に向け、封のキーワードを唱える。



ドゴーン!



こぶし大のとがった石の塊が、燃える的に飛んでいき破壊する。

ストーンバレットは、四属性魔法の土の初級魔法である。


その間にスクロールを商業ギルドの職員の目の前に差し出す。


「パソナさんも如何ですか?」

「えっ!? 私? 私にも魔法が?」

「誰にでも魔法を使えるようにする、それが魔道具マジックアイテムです」


そこまで言うと、スクロールをひったくって的に向ける。


「ウォーターバレット!」


やはり拳大の大きさなのだが、火と土とは違い、高速で回転する水の塊だ。



バン!



単に的を水浸しにするだけではなく、それ相応の破壊力を持っている。


「私にも・・魔法が使えた・・」

「これがスクロール・・」


パソナさんとジュドさんの呟きにが重なり、その声に僕が答える。


「はい、これがスクロール。誰にでも魔法が使えるようになる魔道具マジックアイテムです」


ジュドさんが、持ってきた残りのスクロールに目をやる。


「残りのスクロールは俺が全部買い取る」

「いえいえ、デモンストレーションですから、お持ちした分は無料で試していただいて構いませんよ」

「わ、私も! もっとやりたいです!」

「だめだ・・、俺が全部使う」

「はぁ!? 何言ってるんですか! 独り占めは良くないと思います!」

「どうやら大成功・・かな?」


二人のギャーギャー言い合いを見ながら、気づかれないように、ホッとため息を吐く。





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