第二話
錆びた蝶番がギギギギギと音を立て厚めの扉が開く。
廊下に出て周りを確認する。廊下も部屋と同じような石壁作りで幅は6m程。
廊下の壁の光源も弱く奥まで見通せない。
見える範囲でところどころ壁が亀裂が入ったり一部崩れている。
「多少傷んでいるが天井等には影響が無いレベルだな。これ以上は崩れる心配はなさそうだ。」
そう判断し廊下に出て通路の両方を見てみると右手は5mほど先で行き止まり。
左手は先が暗くよく見えないが奥に続いているようだ。
この部屋もそうだが、通路も含め空気は澱んでいないので空気はどこからか
入ってきていそうだ。
左手に向かい歩を進め100mほど進むと奥の方に壁が見えてくる。
正面は壁の様だが右側が若干明るい。どうやら右曲りになっているようだ。
曲がり角まで近づき様子をうかがうが気配は特に感じない。
角を曲がり通路を確認すると、今通ってきた通路と同じような一直線が
奥まで続いている。ただ先ほど違う点は通路左手に部屋らしき入り口がみえることだ。
注意しつつ部屋の入り口まで近づき、何か手掛かりがないか部屋の中を確認する。
そこは入り口から1m手前まで崩れた壁石と土砂で埋まっており使えない状態となっていた。
自然災害か崩落かわからんが、土の渇きぐらいといい大分年月がたっているようだ。
「土砂の先に出口があって土砂が流れ込んできたのならお手上げだな。」
念のため端のほうも見るが木片が散らばっているだけで何もないため、
諦めた俺は部屋を出て先に歩を進める。
30分ほど歩いているが、T字路など分岐するところはあるものの、
道が崩れて片側が不通となっており一本道を進むようなものだ。
また、途中には20坪から30坪程度の広さの部屋が所々にあったが、
何もないか壁が崩れて半分程度埋まっている部屋などが有るばかりで今のところ
何も発見できないでいる。
そんな状況がさらに4時間ほど歩いただろうか、数えて19部屋目の入り口を
見つけ近づいたところ中から気配を感じる。
俺は、剣を抜いて警戒しながらゆっくりと部屋に近づいて入口から様子を伺う。
そこは今までの部屋より1回りほど大きく、壊れた木片がところどころ散乱していた。
「ガサ、グチャグチャグチャグチャ…」
部屋の右奥手から聞こえてくる音のほうを注意深く見ると、
壁際にイノシシぐらいの大きさの生物がもぞもぞと動いているのが見える。
何かを食べているのだろうか。後姿しか見えないためよくわからない。
「グチャグチャ……グルゥゥゥゥ」
その生物は俺の気配を感じ、食べるのをやめ威嚇するように唸りながら
こちらを向く。
カピバラか?いや、似ているが違うな。あんな鋭い前爪はなかったはずだ。
様子を見ていると、突然それは俺に向かって飛び掛かってくる。
「グルゥゥゥゥアァァァッァ」
体形に似合わず動きは速いが、この程度なら問題ない。
俺は半身ずらしてよけると同時にすれ違いざまに剣を振り下ろす。
頭を刎ね飛ばされた動物はそのまま壁に激突して止まる。
体からは勢いよく血が噴き出していたが徐々に弱まっていく。
死後痙攣後は動かなくなり、血が止まるのを見届けた俺は、
よく観察してみるため近づいていく。
「やはり見れば見るほどカピバラに似ている。前歯も15cmほどで
前脚の爪同様かなり鋭いな。刎ねた断面を見る限りでは猪のような肉質に見えるが…
食えるか?」
そう思いつつこいつが食べていたものの方も見に行ってみる。
「こっちは、ウサギのようだがサイズがおかしいな。中型犬サイズもある。
それに半ばで折れてはいるが額に大きな角もあるな。
ウサギならやはり食えると思うが、奴が食い散らかしてるから食う気はせんな。」
カピバラもどきの死骸に戻り腰に付けたさやからナイフを抜き
解体をしてしまうことにする。
戦国時代や昭和のころも狩りをしていたため解体には問題がない。
刎ね飛ばしたところからナイフを入れて捌いていく。
毛皮を剥ぎ、腹を裂いて内臓を取り外していると
心臓の裏あたりで固い手ごたえを感じる。
慎重に取り出してみると赤子のこぶし大の石が出てきた。
瓢箪の蓋を開け水をかけて体液を洗い流すとエメラルドのような緑色の石だ。
「ふむ、ゲームだと魔石とかだろうが...目覚めた部屋にあった袋にも
大きさと色は違えど色付きの石が入っていたから貴重なものだろう。」
ポーチに石をしまうと、内臓は先ほどのウサギ?の死骸のある場所に捨て
再び解体作業に戻る。
1時間ほどかけ、手ごろな大きさの肉塊を切りだして完了する。
「さて、焼けば何とか食えと思うがまずは火だ。」
部屋に散らばっていた木片を集め火打石を取り出して手早く火をおこす。
木片をくべつつ、塊から一口大に肉を切り出しナイフの先に刺し火で肉を
炙り口に運ぶ。
「鹿や猪よりも獣臭く固いが食えなくはないな。」
食えることが分かった俺は切っては炙りを繰り返す。
そうだ、岩塩があったな。俺はポーチから岩塩の入った袋を取り出し、
岩塩同士をこすり合わせて塩を炙った肉にかける。
塩があったほうが食べやすい。それからは岩塩をかけつつ腹を満たしていく。
「ふう、腹も満たされた。肉は大分余っているがどうにもならんな。勿体ないが、
持っていく分以外は放置だな。」
早速ナイフでブロックを切り出して塩をまぶし、最初の部屋にあった布で包んで
袋に詰めておく。
雑菌がいるかわからないが、食う時に削ぐか、焼くのだからまあ大丈夫だろう。
「さて、これからだが、いったん最初に戻るか。それともここで休んだ後、
先に進むかだが」
方針を考えていると不思議な光景が目に入ってきた。
先ほど解体して残っていたカピバラもどきの遺体から
細かい光の粒子が徐々に立ち上り始め、遺体が徐々に薄くなっていく。
だんだんと薄くなりものの数分でなくなり、残ったのは10㎝程の前歯と前爪のみだ。
噴き出していた血だまりもすでに無い。
「ウサギもどきの遺体は同じか?」
ウサギもどきのあった場所を見れば予想通り遺体とカピバラもどきの内臓も
同様に無くなっており、残っているのは先が折れて無くなっている角と
親指第一関節分ほどの大きさの青い石だけとなっていた。
先ほどブロック来るんだ布を取り出してみるが、こちらはブロックが残ったままだ。
「一定時間放置すると一部を残して消える?しかし、こっちの毛皮は残ったのに
ウサギもどきのは残らなかったのはなぜだか?ふむここで考えても仕方ない。
一度最初の部屋に戻って状況を整理するか。」
俺は、前歯と前爪、折れた角と石をポーチにしまい、剥いだ毛皮を丸め込んで
ボロ紐で固定。
部屋の前に石を積み重ねて目印とし最初の部屋の方向を戻っていく。
何事もなく最初の部屋に戻った俺は、荷物を降ろし自分の寝ていた石の台に腰を下ろし
て瓢箪を一口飲み先ほどのことを考える。
まずは異世界で間違いないだろうな。しかもここはダンジョンだろう。
やつらの特徴的な部分と石だけまるで{定められた}ように残っているからな。
ポーチから拾った歯や爪、角、石を取り出し手で確かめる。
ただ・・・・丸めて持ってきた毛皮を見る。
うさぎもどきの毛皮は残らなかったのに、俺の剥いだ毛皮は残った。
そして包んだ肉の塊もだ。
違いといえば、て・も・とに置いていたか放置していたかの差だ。
何故死骸がなくなるのは不明だが、手元に置いておけば消えることはないらしい。
ここを出るまでどれくらいかかるかわからない。
次また獲物を見つたら、なるべく手元に残すほうがいいだろう。
そういえば、この部屋と外では若干違うな。
部屋から出て歩き回ったから気が付いたが外に比べ若干清浄な気を感じる。
ゲームでいう安全地帯というやつか?
俺は立ち上がると扉の前に崩れた石を移動して開かないようにし、
1時間ほど襤褸を引き裂いて縒ってはひも状にしてを繰り返して荷物運び用の
紐を作りをしたのち、瓢箪を雫の場所に設置してから壁際に陣取り、
片膝を立てて壁にもたれかかる様にしていつでも対応できるように
しながら眠りにつくのだった。