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Mission.004 古い友人

挿絵付きです

てか遅れて申し訳ないですゴメンなたい

 


 月軌道外周 四〇〇〇キロメートル

 月面日本艦隊(日本航宙軍第二艦隊) 旗艦ヒュウガ

 後方 二〇キロメートル


「ワイヴァン〇一(ゼロワン)アプローチ(エンタリング )に入る(ザ アプローチ)。」

航行(センド)データを送るナビゲーションデータリンクし(リンクアンド)確認後(カフォーム)復唱せよ(テイク ア リピート)。』

「―――確認した。進路〇時一一分五秒、二五〇度二分四秒。速度二〇ミリsノット(毎秒二.一三六キロメートル)、距離二〇キロメートル。」

『|復唱は正しい《リピート イズ コレクト》。光学着艦装置に従い(フォローOLS)着艦せよ(ランドオン キャリア)

了解(ラジャー)。」


 英次機を含め三〇三航空連隊の機体の殆どは燃料も武装もほぼ使い果たした為、第二艦隊に収容される事にしていた。慣性に物を言わせ月へ“行く”ことはできたが、残燃料の乏しい中、大気のない月で着陸待ちをするのは危険だと考えた英次の判断である。

 元々第二艦隊で運用されていた航空隊は艦隊の直掩任務に当たっていて、三〇三航空連隊よりも燃料に余裕があったため、月面基地に帰投している。


 英次の駆るF-9Aは、扶桑型航宙打撃母艦三番艦ヒュウガの後方にあって、着艦のタイミングを伺っていた。光学着艦装置(OLS)の発するLEDの光はこの距離からでもよく見える。

 機を操り、ゆっくりとヒュウガに近づいていく。左に赤点灯二つ、右に青点灯二つ・・・もっと左寄りか。操縦桿を僅かに傾ける・・・操縦桿にはほんの数ミリ程度の“あそび”がある程度だが、機内コンピューターが判断して必要な分だけの舵が勝手に効くようになっていた。パシュー、と機首の姿勢制御ロケットが僅かに噴射される。

 暫く宙空を滑る様に飛翔すると、肉眼でも第二艦隊の艦艇の多くを見ることが出来た。

「ヒュウガも結構やられてるな。」

 他国艦隊と比して全体的な損害は少ない、という情報だったが・・・旗艦のヒュウガからして左舷側の飛行甲板がブッ飛んでいる。全体的にかなりアンバランスな艦影となっているではないか。

(まぁ、戦闘そのものには然程関わらない部分だから、良いのか?)

 着艦可能機が1機ずつになる制約はあるが、無くても大丈夫な部位ではある。英次としては、フソウ型は航宙打撃母艦などという中途半端な艦種ではなく、純然たる超ド級の航宙戦艦して完成されるべきだったと思っていたのだか。

 艦載機運用能力と砲戦力を両立する・・・つまり“後方から艦載機を飛ばし制空権確保の一助となり、その後前衛にて砲戦に参加する”という名分の下建造された扶桑型。文字に起こせばそれっぽいが、明らかに性能不足とならざるを得ない航宙打撃母艦(扶桑型)は、単艦の万能化よりも単艦の単一任務への低性能化を招いた様に彼には感じられた。

 だからこそ、第二艦隊は扶桑型四隻を全て集中運用しているのだろうが。いやむしろ、扶桑型は集中運用によってこそ真価を発揮するのかもしれない―――そんなことを考えていると、もうヒュウガの艦体は視界のおよそ半分を占める程までに近づいていた。


 角度を合わせる―――F-9Aとヒュウガの進行方向を全く同じにした。

『ワイヴァン〇一、エンジン出力落とせ。』

了解(ラジャ)。」

 LSO(着艦信号士官)の指示通りにスロットルレバーを引き絞りエンジンの出力を落とす・・・エンジンの放つ光はどんどん弱くなり、反対に機首のロケットノズルが仄かな光を放つ。IDCに表示された速度メーターは低下の一途を辿り―――一定の速度になると数値は増減しなくなった。

 ヒュウガの速度と同じスピードである。同時にエンジンの出力を最低まで落とした。これで、F-9Aはほぼ慣性でのみ飛んでいる。

『速度の一致を確認した。ワイヤを放出する・・・三、二、一、フアィア。』

 英次は左に視線をやった。ヒュウガの艦橋の後方には航空管制室がある。そこには宇宙服を着たLSOがおり、そのLSOの合図によって甲板からしっかりワイヤが出ているかどうかを確認するのだ。

 LSOは青の信号灯を振っている・・・“ワイヤは出切っている”の合図だ。


 因みに、他に赤色、黄色、白色があり、黄色は“ワイヤは出切っていない、暫く待て”で、赤は“ワイヤは出ていない”。白は“ワイヤが出過ぎている、暫く待て”である。


EMLS(イームルス)通電開始。』

 EMLS(イームルス)―――Electro()Magnet(磁石) Landing(着艦) System(システム)は扶桑型に初めて搭載された着艦支援システムで、飛行甲板が十分な長さがなかったり、破損して短い分しか使用できない場合に用いるものである。

 母艦側が弧状のワイヤを放出、それを着艦機側が電磁石で捉え、機体のアレスティング・フックに引っ掛ける。あとは母艦側がワイヤを回収して、着艦は完了する。

 通常の航宙母艦への着艦とは全く異なるので、パイロット側の緊張もひとしおだ。


 ―――バチン!・・・ガシャン!


 ワイヤが電磁石によって引き付けられ、フックと結合した時の音である。

『ワイヤの接続を確認、これより着艦作業に入る。』

了解(ラジャー)降着装置(ランディングギア)展開。」

 こうなると艦内に収容されるまで、パイロットは暇だ。精々、不測の事態に備えておく程度である。


 ヴィィィイィーーー・・・


 ワイヤを回収するモーターの振動が、そのワイヤを伝って英次にも聞こえた。回収が完了するまでおよそ一分。暇を持て余し周囲を見ると、着艦待ちの他の機体が飛び回っている他、友軍艦が何隻も遊弋していた。

 ―――ガウゥウン・・・!

『着艦完了。甲板上の機は誘導員の指示に従い移動せよ。』

「了解ーっ。」


 ★


 30分後

 同 艦橋


「三〇三航空連隊の全機収容を確認、周辺宙域に友軍機無し。」

「よろしい。甲板要員を収容せよ。本艦はこれより月面基地に向かう。」

「了解。針路を月へ採ります。」

 第二艦隊は本来、月軌道にある日本航宙軍の月周回軌道要塞衛星ツクヨミに本拠を置く。しかし今回は、収容したF-9Aを月面基地に送り届けなければならないため、月面基地に一度寄ってから帰投する事となっている。


「・・・!レーダー探知!五時の方向、数四。IFFに応答無し!」

「何?・・・敵の残存艦艇か⁉︎」

 周辺宙域にディフトラ軍艦艇はもう存在しない物と考えていた(実際、友軍の各種探知網は全ての敵のワープを確認しているはずだった)。

 まさか、探知漏れか―――と、その時。

『こちら航空管制室、五時の方向より発光信号!』

「・・・なに?」

『読みます。“ワ・レ・ユ・キ・カ・ゼ・ナ・リ・ゲ・ン・ザ・イ・ツ・ウ・シ・ン・フ・ノ・ウ”・・・ユキカゼです!』

「ユキカゼ!・・・林三少将、生きておられたか・・・!」

 ユキカゼは先刻の威力偵察隊迎撃の際、第三〇三航空連隊の攻撃に続きディフトラ軍を攻撃した第八駆逐戦隊の旗艦であった。各艦の被害状況を確認した時には艦名を確認出来なかったので、遂に撃沈されてしまったかと思っていたが・・・。

『光学カメラで捉えました。間違いなく吹雪型宇宙突撃駆逐艦です・・・艦名確認、ユキカゼです!』

「映像をこっちに回してくれ。」

『了解・・・転送しました。』

 モニターを操作し、転送され表示された画面を拡大する。そこには・・・

「これは・・・!」

 艦橋が、ほぼ半分吹っ飛んでいるユキカゼの姿があった。艦尾の超長距離通信用アンテナも根元から千切れている。これではまともな通信は望めまい。きっと、唯一目視探索用の探照灯だけが生き残っていたのに違いない。それでなんとか発光信号を送ってきたのだ。

「ユキカゼに発光信号を送れ、こちらに付いてくるよう伝えるんだ。」

「了解。」


 ★☆★☆★


 月面 日本航宙軍第二月面基地

 同 多目的船渠(ドック)


『第三ドックに損傷の激しい艦をまわせ。第八駆逐戦隊は第五ドックへ―――』『第三艦隊は軌道ドッグへ、第二艦隊の収容を優先するんだ。』

 月面の、空気の無いその空間はしかし、俄かに騒がしさを増していた。

 先の戦闘の折に損傷した艦艇は時間の経過とともに増加し、ドックはその殆どが埋まってしまっていた。

「手酷くやられたもんだ。」

 その様子を見ていたこのドックの責任者、呉井(ごい)はそう呟いた。

 彼は対ディフトラ戦役の始まる以前から此処で勤めていて、今や数少ないベテランの一人だ。

「おまえら、この状況をよぉく覚えとけよ。反攻作戦が始まったら毎日こうだからな。」

「・・・。」

 若い者達が生唾を飲むのが分かった。

 此処にいるものの多くはこの一年で新たに配属されてきた者で、いざ本当に忙しい時、危険な時と言うものを知らないものが多かった。かつて此処にいた熟練者達は、多くが死んだか、別の基地へ転属させられている。

「よし、行くぞ。さっさと治さないと仕事がたまる。」

 ただ、この先の戦局のことを考えると、果たして自分達だけで仕事が回せるのかどうか不安になってくるのだった。


 ★


 月面基地内

 某所


 カツカツカツ、と廊下を踏み鳴らす音が響いた。“彼女”はあるところへ向かっている―――床を踏み鳴らすたびに揺れる長く伸ばした前髪で片目を隠し、後頭部でもポニーテールがフサフサと揺れていた。

 彼女―――国連地球防衛軍第二独立航宙軍第三航空師団所属、名酉(なとり) 九尾(きゅうび)少佐―――の背後には、彼女の部下と思しき数人の男女が列を成して彼女に着いて行っている・・・一様に、顔色はよくない。額に皺を寄せているものもいる。

 カツカツカツ・・・カッ!

 一段と大きく足を踏み鳴らし止まった場所には、でかでかと[三〇三航空連隊待機所]と書かれていた。

「・・・。」

 自動ドアが開くことすらもどかしいように、貧乏ゆすりをして踵を床に打ち付けている。そして開いたら開いたでそこに断りもなく乱雑に踏み入って、しかも上げた第一声は

「伊東 英二中佐ァ!出ぇて来いっ!」


「「「―――⁉︎⁉︎⁉︎」」」


 その場にいる全員―――彼女の後ろで控えている者も含め―――が、彼女の発言に目を剥き、驚愕の面持ちで凝視する。それもそのはず、彼女の階級はどう見ても少佐であり、階級が上であるはずの英二を指して「出て来い」などと言うのは無礼千万、あり得ないことであった。

 しかし、呼ばれた本人の声色は、全くそんな事を思っていないような軽い口調をしていた。

「おう、ここだここだよ。狐ちゃん」

 ―――ピキッ!

 おでこの血管が吹っ飛ぶ音を全員が聞いた気がした。

「・・・・。」


 ガスガスと足音を響かせて撃進した先に、彼女の目的の男―――伊東 英二―――が、どっかりと座っていた。

 彼はカップに半分ほど注がれたドリンクを飲みながら、九尾に目を向ける。

「ていうか、あんまうるさいから、静かにしろよ。」

「あそ。」

 対して九尾の方はというと、そんな彼の言うことなど全く意に介さずガスガスと英二の座っている席の前まで歩いて行った。


 挿絵(By みてみん)


「アンタには見て分かんないでしょうけど、私ぁね、怒ってんのよ。わかる?」

「だろうな。」

 あいも変わらず軽い態度を示す英二に業を煮やしたか、彼女はバシン!と彼の前のテーブルを叩いた。

「・・・あんたね、人に許可なく母艦とんのやめてくんない?」

「お前の上の人には許可貰ったが。」

「私の許可が無いのよ!」

 九尾が言っているのは、今回の戦闘の帰還途上、英二らの第三〇三航空連隊が第二艦隊に収容してもらった事である。第二独立航宙軍第三航空師団の内、九尾の所属する日本軍部隊は第二艦隊の航空隊だったのだが、今回は英二らの三〇三航空連隊が燃料等の関係から第二艦隊に収容してもらっていた・・・その辺りに、相互の認識に齟齬があるらしい。

「別にお前の許可なんかいらないだろってか、お前、一応俺のが上官なんだけど。」

「アンタに限ってそんな事はどーでも良いわ。」

「オイオイ・・・。」

 実はこの二人は昔馴染み同士で、九尾のこう言った生意気とも言える態度を英二も黙認していた。

「それで?態々そんな小言を言う為にここまであくせく部下引き連れてやって来たのか?」


 ツイ、とカップで指しながら九尾の後ろに控えている隊員を見る。どう見ても乗り気では無いあたり、大方この事に関して小言を言っていたところ、不幸にも九尾にとっ捕まって(ほぼ強制的に)連れてこられたんだろう。

「そーよ。・・・ホラアンタもなんかあるんでしょ。」

「いやぁ、あの・・・。」

 べし、とケツを叩かれた隊員はしどろもどろで・・・と言うか顔面に「なんでこんな事になった・・・」って書いてある。この隊員も然り、九尾に引っ張って来られた他の隊員が不憫に思った英二は、「まぁ、今回はすまんかったな。お前ら、帰っていいぞ。」と言ってやった。

 上官の「帰っていいぞ」は「帰れ」と同義である。一応、九尾より上の立場にある英二にそう言われた彼らは、嬉々としてその場を去っていった。

「あ、こら!」

 ぞろぞろ去っていく部下たちを睨んで一喝するが、その九尾の声を無視するように彼女の部下はこの部屋からいなくなった。

「あーー・・・もういいわ。」

 バツが悪くなったか、九尾はぽりぽりと頭を掻き、英二の前の席に座った(・・・・・・・・・・)

「?・・・お前、俺に文句言いに来たんじゃ無いのか。」

「半分はね。久方ぶりに会ったんだから少しは話させなさいよ。」

「・・・そうだな。」


 それから、このお騒がせ者の闖入者と英二の話は弾んだ。

 小中高の学生時代を共に過ごした中である二人は、軍に入隊すると同時に別の隊へ配属され、それから疎遠になっていたからか、会話は途切れなかった。

 が、暫くして・・・


 ズズゥウーーンッッ‼︎


「「「⁉︎」」」

 基地全体を揺るがす凄まじい振動と衝撃!

 不運にも立っていたものは軒並み転倒を強いられ、座っている者たちも全員テーブルか何かに掴まった。

「・・・なんだ、今のは⁉︎」

 感じたことの無い衝撃に戸惑うが、直ぐにそれが敵の攻撃だと悟り―――直後にそれは確信へと変わる。

『総員戦闘配置、総員戦闘配置!月直近にディフトラ軍艦隊がワープアウト‼︎稼働可能な航空機および艦艇は直ちに出撃せよ・・・!』

「まさか・・・こんな短時間で⁉︎」「いや、先月の定期便(・・・)の分だ。溜め込んで一気にぶち込んできやがった・・・!」「戦力ってそんなポコポコ増えるんか⁉︎」

「ちッ、久し振りに話が出来たが、これで終わりだ。お前も、さっさと隊に戻れよ。」

「言われなくても分かってるわよ!」

 九尾が部屋を全速で駆け出ていくのとほぼ同時に、三〇三航空連隊の面々も次々とハンガーへ向かった。待機所とハンガーは隔壁を除くとほぼ直通している。

 ハンガーにあるF-9Aのうち十機ほどは暖機運転を済ましており、直ぐにでも出撃可能だった。

 専用のH(ヘッド)M(マウント)D(ディスプレー)を装着し、耐G・気密服を身に付けた者は順次、愛機に乗っていく。それぞれに専用の物がある理由は、個人によって体格や頭蓋の形状が違うので、最適なパフォーマンスを発揮してもらう為である。

「動ける機は全て上げろ!急げ!」

 整備班長が檄を飛ばす。

 ヒィィィン、とエンジンをふかしてF-9Aがタキシングを始める。ハンガー内の与圧が解かれ真空となる。防護ハッチが開き、F-9Aが滑走路へ躍り出た。

『各機、準備出来次第出撃!』

 F-9Aの凄まじいエンジンの轟が、地面を通して伝わってくる。


 ハッチの向こうに空けた宇宙(そら)は、既に無数の火球の生まれる戦場と化していた。


来月はW×wを投稿する頑張って。


https://21646.mitemin.net/i389287/

↑挿絵のもう1つ別のverです

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