Mission.002 敵侵攻部隊阻止 Ⅰ
原作(俺と一部しか知らない)とはかなり路線変更を行なっております〜(マジで超どうでも良い情報)
テスト期間に投稿しちゃう作家の鏡()
月面 日本航宙軍第二月面基地
指揮・戦略情報室
威力偵察部隊を殲滅したのもつかの間、予見されていた新たな脅威に対する迎撃準備に、ここは相変わらずてんやわんやだった。
「第二艦隊、月加速スイングバイ実行。防衛線に入ります。」「三〇三航空連隊、全機出撃準備完了。」「トロヤE-ML4より第五艦隊出撃、米中露艦隊も順次出撃を開始。」「連合艦隊、E-Mラグランジュ2にて防衛線を構築。」「敵艦隊、尚もワープアウト!隻数なお拡大中!」
壁一面を覆わんばかりに設えられている巨大モニターは、この切迫した状況の全景を表している。
★☆★☆★
さる一時間前、事態は動き出した。
ディフトラ軍の威力偵察隊を殲滅したのもつかの間、行動中の各部隊に新たな命令が下されていた。
―――敵本隊の襲撃に備え、友軍艦隊と合流しこれを撃破せしめよ―――!
第八駆逐戦隊は応急修理を終えぬまま、本隊たる第二艦隊に合流。先行しスクランブルした第三〇三航空連隊一一機は、第二艦隊で兵装を再装備した後に休む間も無く発艦。後続する三〇三航連本隊と合流している。
月面より六六五〇〇キロ離れた空間点に構築されてゆく地球側の防衛線は、艦艇一〇〇余隻と無数のデブリ群によって構成され、航空機・航宙機に至っては四桁に上る勢いである。
しかし、これは彼らに取って“見慣れた”光景―――否、“見慣れてしまった光景”であった。暗灰色の『月面塗装』と、藍色と白色の『地球面塗装(A)』 、褐色と深碧色に白色の『地球面塗装(B)』など、さまざまな迷彩を持つ艦艇が秩序的に入り乱れている。
一〇〇隻を超える艦隊の中を、一機の航宙機が通り抜けた。三〇三航空連隊の隊長、英次の駆るF-9Aである。彼もまた、この光景を見慣れてしまった一人だ。
一年前からこの月面でF-9Aに乗って戦っているが、月に一度。必ずと言っていいほどディフトラ軍の威力偵察が行われ、その後に五〇〜一〇〇隻規模の艦隊が襲撃してくるのである。その度にこうして艦隊を動員し迎撃を行い、撃退する・・・そんな事が既に一〇回以上繰り返されてきた。
おそらく連中は、こちらの防衛体制を伺っている。
先月も威力偵察があったのだが、その時は敵の大規模襲撃部隊が現れなかったのが、その証左だと英次は思っていた―――当然、司令部も同様の疑念を抱いたようで、今回の艦隊はいつもより数が多く、新艦艇もその足並みを揃え始めていた。
英次はその新しい顔ぶれを俯瞰しようと艦隊の側を通過したのだ。
その彼の目が、欧州連合軍艦隊を通ったところで止まる。視線の先には、月面塗装に身を包んだ艦影―――
「あれは・・・ド級か。」
ド級・・・所謂ドレッドノート級戦艦。制式名称は量産用国連標準共用戦闘艦 戦艦型 UNUW-BBC(United Nations Used together Warship-BB Class) DREADNOUGHT。その中でも、英次の目に留まった戦艦はその基本となる型の『スタンダード・ドレッドノート』と呼ばれるタイプだった。
全長二三八メートル、重量二〇万トンの中規模宇宙戦艦。突起物の少ない直線を多用した艦体、メインエンジンの大型ノズルとその真横に付いたサブノズルという構成は、ひどく凡庸な見た目だ。
主砲に三六〇ミリ三連装パーティカルカノンを三基、副砲に二〇〇ミリ三連装パーティカルカノンを三基搭載し、このうち副砲の一基以外は全て前方に射撃可能な射界を有している。
特別、高い能力があるわけでも機動性に富むわけでも無いこの宇宙戦艦が、最近、急激にその数を増やしている。この欧州連合軍艦隊なんて、既に戦艦の半数がスタンダード・ドレッドノート級だ。
何でも、各国軍が切迫する戦況を打開するため、国家の枠組みを超えた全地球規模共通戦闘艦の建造に踏み切ったのだそうだ。その中で、戦艦級の国際共通艦として採択されたのが、ドレッドノート級という訳だった。
宇宙、航宙戦艦にド級、超ド級という大まかな括りができたのも、このドレッドノート級の存在が大きい。
数ヶ月前からどんどん増えてきたスンダード・ドレッドノート級に加えて、ちょくちょく派生型も姿を見るようになった。
砲戦力を大幅に強化したらしい『カノナー・ドレッドノート』。
別に、魚雷やミサイルの運用量を増加した『ミサイリアー・ドレッドノート』。
後部砲塔を含む数基の砲塔を廃し、航空機を運用可能にした『キャリアー・ドレッドノート』。
さらに、未だ見た事がないが、聞くところによるとドレッドノート級の拡大発展型である超ド級戦艦、所謂『スーパー・ドレッドノート級』なる宇宙戦艦も存在するらしい。
英次的には、“艦隊の拡充”に名を借りた“各国軍艦艇の統一”は戦力の統一や補給、修理の面で有利に働くことは理解していたが、「外見的に華が無い」と思った。正直、“同じ目的を持ちながら微妙に姿形が違う―――たまに全く違う形状のものもある―――各国軍の諸艦艇”を眺めるのが出撃の楽しみでもあったので、(個人的には)あまり歓迎できる事では無かった。
『ワイヴァン〇一、艦隊に接近し過ぎている・・・直ちに針路を変更せよ。』
「ワイヴァン〇一、了解ー。」
気づいたら、艦隊まであと数キロという距離まで来ていた。これ程の距離、宇宙空間ではすぐ隣にいるのと変わらない。
AWACSの警告に促されるまま、直ぐに機を翻し、艦隊から距離をとった。
『英次、貴様〜。これで五度目だぞ。戻ったら覚えていろ。』
「はは、オヤジ殿は毎度怖いこと怖いこと。』
AWACSの管制官と英次は顔馴染みで、度々こうして注意されては帰投して拳骨を食らうのが定番であった。
(宇宙空間では肉眼で距離を測るのは難しいな。)
艦隊から離れた英次のF-9Aは、防衛線の後方、五〇〇キロメートルの空間点で友軍機と合流した。
『隊長、またオヤジさんに怒られたんすか?懲りないですね。』
「最近はド級ばっかで映えねぇけどなぁ。」
『『『(笑)』』』
部下の一人が英次の普段と変わらぬ行動に、笑い込みで言う。
『ワイヴァン全機、無駄口を止めろ!貴隊はコードネーム“コスモアイ”の指揮下に入った。データリンク開始・・・以後、我の通信に注意しろ。以上。』
「了解ー。」
IDCを操作し、友軍とのデータリンクを開始する。
これで、この空間にいる全ての友軍がF-9Aの“目”となり、F-9A自身もまた、全軍の目の一つとなる。
もっとも、前線から六五〇〇キロメートル離れた空間点にいるようでは、流石に目として機能することは無いが。
『零時方向に重力震を観測した!全軍戦闘配置のまま待機!』
重力震―――何もない空間に突然質量体が現出し、周囲の空間を波うたせる現象―――それが観測されたと言うことは即ち、何らかの物体がワープアウトした証拠である、とされている。つまり・・・
『光学観測、ディフトラ軍艦隊ワープアウト!距離、一〇〇万キロ!』
一〇〇万キロ先ともなれば、艦隊の砲雷撃の有効射程圏外だ。砲撃は届きこそすれど、命中などするまい。それに命中したとして、威力は期待できない。
連中の常套手段だった。エネルギーを大量消費するワープ直後は無防備も良いところ。そんな状態で即、戦闘なんていうバカな真似は普通、考え付かない。敵から距離をとった空間点でワープアウトし、戦闘態勢を整えてから襲撃・・・こちらがデブリの陰に身を潜ませて、下手に打って出る事ができないことを見越しての戦法でもあった。
『敵艦隊増速・・・全艦、砲雷撃戦用意。』
★
地球-月間ラグランジュポイント2 防衛線
国連地球防衛軍 混成艦隊 第五情報ハブ艦
月面米防衛第二艦隊 ノースカロライナ級宇宙戦艦 サウスダコタ
情報ハブ艦は、その名の通り「情報の収集、伝達の中継点となる艦」のことを指す。指令部又は大艦隊旗艦からの命令を受け取り、それを麾下の艦艇等に伝達する。また逆に、麾下の部隊から得られた情報を指揮中枢に伝達する役目を持つ。
艦艇一隻から得られる情報だけでもかなり膨大となる現在、それぞれの艦、部隊から無秩序に指揮中枢との情報伝達をやり合っていては、指揮中枢は十全に機能を発揮できないばかりか、最悪パンクする恐れもある。
それを防ぐため、今回のように大規模艦隊が行動する場合、各艦隊、部隊に情報収集、伝達の中心となる艦を設定し、収集された情報は一度そこで整理を行ってから伝達されるのである(ハブ艦には情報整理の為の支援システムが搭載されるので、収集、整理、伝達の間隔は秒単位となっている)。
今回はこのサウスダコタを含め、六隻の情報ハブ艦が設定されている。
そういう事から、サウスダコタには今も多くの情報が舞い込んでいる。
『敵艦隊識別完了・・・全て戦艦です。総数三七!進行速度変わらず。』『敵艦隊の布陣を3Dスキャン。データを艦隊司令部へ送信しました。』「スキャン画像解析完了。データを全艦共有。」
その情報を受け取ったサウスダコタ艦長、ハーラン・K・キャッヂ大佐は顔を顰めた。
「what・・・戦艦だけとはどういう事だ。」
これまでの敵の動きと違う・・・二ヶ月前に襲来した時は、一〇〇隻に迫る艦隊が一挙にワープアウトし、戦艦巡洋艦駆逐艦の区別なく怒涛の如き砲雷撃を加えて来たはずだが・・・。
キャッヂ艦長はサウスダコタ初代艦長としては一年前から、軍人としては五年以上ディフトラ軍と戦って来たが、戦艦だけを戦線に投入するやり方は未だ嘗て聞いたことがない。
確かにディフトラ軍戦艦は頑強極まる厄介な相手だ。しかしそれだけでは戦闘に勝つことはできない。それくらい、連中も分かっている筈だが・・・?
だが、その事について長く考える時間は与えられなかった。
『敵艦隊が魚雷の有効射程圏に侵入した。全艦、ウエポンズフリー。砲雷撃戦始め!連中を良い感じのボイルにしてやれ!』
「だそうだ・・・これより敵艦隊をボイルにする。全砲門撃ち方始めッッ‼︎」
サウスダコタの四一〇ミリ三連装主砲が黄色に輝く光の束を吹き出した。その数一二。サウスダコタは現在、デブリの隙間に身を隠しながら、ディフトラ軍艦隊に対して艦を横に向けている。他のアメリカ軍艦艇もだいたい同様。艦の側面がアメリカ艦の最大火力を発揮出来るからである。
砲撃は一直線に敵艦隊に届き、命中。小さな爆発を幾つも起こした。
さすがに、数十万キロと離れた宙域からの砲撃では、ナウ・マスラー級を仕留めることはできない。
だが亜光速の粒子砲に続いて、サウスダコタの艦首と艦尾から煙が噴き出る。直後、全長にして六メートルはあろうかという重厚長大な鉄塊が飛び出るや、考えられないような軌道を描きながらディフトラ軍艦隊に突進した。
魚雷である。地球では、艦の軸線上から発射するミサイルを、慣例的に“魚雷”と呼んでいた。潜水艦の様なものと思えばいい。
軸線上から撃つという性質上、サイズの制約が少ない魚雷は他のVLSなどから発射されるミサイルとは違い、かなりのサイズを誇る。加速度、電磁欺瞞性、威力共に圧倒的だ。
魚雷は、その圧倒的なまでの加速力を以って敵艦隊に突進する。発射から命中まで、おおよそ一〇秒。
しかし魚雷は敵に届かなかった。
『敵艦隊砲撃開始!』
魚雷の姿は、青い光の奔流の中に消えた。ディフトラ軍艦隊の対空防御網と対艦高速エネルギー弾に飲まれ、片っ端から誘爆する。
数秒後、地球艦隊の潜むデブリ群に着弾。無数の破片を飛び散らし、そのうち何発かは地球艦隊に命中した。
サウスダコタの隷下艦も被弾した。
『ワシントン、被弾した。損害軽微。なに、かすり傷だ。戦闘に支障は無い。』
サウスダコタの同型艦、ノースカロライナ級二番艦だった。
しかし損害は軽微のようだった。デブリ群の壁は、十分にその効果を発揮していた。
『砲撃のタイミングは第二射以降、各艦の艦長に委ねる。よーい・・・!』
「ファイアッ!」
再び砲撃。同時にディフトラ軍も砲撃する。
宙空で交錯する黄色の光線と青白い光弾。数百発のそれぞれの砲撃は拮抗する。
ディフトラ軍の艦艇は、その任務に応じて性能が特化している。駆逐艦は攻撃と防空に分かれそれぞれ恐ろしい性能を発揮する。航宙母艦もその例外ではない。最低限の防御力しか持たず、駆逐艦の砲撃であってもすぐに撃沈出来た。だが搭載する艦載機は優に一〇〇を超え、それを防宙駆逐艦に護られるともう手が出せなくなる。
当然、戦艦は凄まじい砲撃力を持つ。地球側概算で四〇〇〜四六〇ミリ粒子砲級の砲門を、ナウ・マスラーα級は一二門、β級は二〇門備えている。防空力は高くはないが、侮れるものではない。防御性能も破格で、サウスダコタのような超ド級艦が主砲として搭載する四一〇ミリ級砲では、なんと致命打を与えるのが難しい。ので、ナウ・マスラー級の正攻法は、戦艦の砲撃で戦闘力を削ってから魚雷で仕留める、というものだ。
頑強なディフトラ軍戦艦隊は数で圧倒的に地球艦隊に劣るのにも関わらず、果敢に砲撃を繰り返す。
両軍の火力は現状、五分五分。
単艦で地球戦艦より火力、防御力共に優れるディフトラ軍戦艦は、多少の被弾には怯むことなく前進しながら砲撃してくる。
地球戦艦は、デブリ群をうまく盾にしながら、砲撃を繰り返す。更に巡洋艦、駆逐艦の魚雷飽和攻撃で絶え間無い弾幕を繰り出している。
ディフトラ軍戦艦の砲撃がデブリ群を削り、破片が戦艦に命中する。損害は無い。しかし、デブリ群をすり抜けた一発が戦艦に命中し、主砲塔を吹き飛ばした。
お返しとばかりに撃ち放った砲撃は、遮るもののないディフトラ軍戦艦に続々と命中するも致命打には至らない。
双方の砲火は決定打に欠けるまま、続々と閃光を生み出してゆく。そんな状況が、しばらく続いた。
しかし、ついに拮抗が破られる時が来た。
距離四〇万キロを切ったあたりで、地球戦艦の副砲、そして巡洋艦隊が砲撃を開始した。どちらもディフトラ軍戦艦の装甲を穿てる威力は期待できないが、その戦闘力を削ってゆくことはできた。
単純に弾幕の濃さは二倍以上。次々と命中する黄色の光線束に、ディフトラ軍戦艦は光芒に包まれる。
一隻が、遂に攻撃に耐えかねるように姿勢を崩した。原型こそ保っているが、その外観は穴だらけであった。そこに対宙防御網に穴が空く。防御網を潜り抜けた魚雷が、亜光速で満身創痍の戦艦の土手っ腹に命中した。
二発、三発・・・着弾時の凄絶なまでのエネルギーと爆発によって、遂にディフトラ軍戦艦は力尽きる。周囲数キロに及ぶ巨大な火球と化し、無数の破片とともに爆散した。
戦艦一隻分の空いた穴を埋める前に、対宙防御網の穴を見つけた魚雷が殺到する。
その後一瞬にして、六隻のディフトラ軍戦艦が吹き飛んだ。
『敵戦艦七隻撃沈確認。』
「・・・。」
その様子をデータリンクを介して確認したレーダー員が報告する(デブリ群に遮られ、地球艦隊の大部分の艦艇のレーダーは機能していない)。
しかしその報告を聞くキャッヂ艦長の顔は晴れない。敵の動きが余りに妙だった。
・・・確かに、初戦は互いの砲戦は拮抗していた。しかし、所詮は数に劣る戦艦だけの艦隊。距離を詰めるに連れ戦艦以外の艦艇からの砲撃も喰らい始め、次第に数を減らす事は分かっている筈だった。それを連中は・・・一体何を考えている?
『敵艦隊の陣形解析完了。前衛にβ級一三隻、後衛にα級一七隻。データを各艦共有・・・。』「さらに一隻撃沈!」
「・・・?」
妙な陣形だ。
何か引っかかるものがあり、更なる撃沈報告など歯牙にもかけずキャッヂ艦長は敵戦艦の特徴を思い出す。
ナウ・マスラーβ級は全長四六六メートル、全幅二一〇メートルの巨大な双胴艦体を持つ戦艦で、これぞまさに戦艦、という性能を持っていた。
α級は全長四七〇メートル、全幅四一〇メートルの三胴体を持つ戦艦。巨大な中央部、その両翼に小ぶり(とは言っても三〇〇メートルはある)の甲板状部分からなる。この艦は確かに戦艦としても十分に脅威だが、それ以上にこの艦は―――
そこまで思い出した時、彼はある可能性に気づく。
「―――‼︎まさか・・・!」
キャッヂ艦長の懸念を、指令部も感じ取っていた。
『全艦に緊急時回避ルートを伝達する。緊急時には艦長判断のもとこのルートを辿り行動せよ!」
転送されてきたデータをキャッヂ艦長も確認する。
そこにはデブリ群から抜け出すルートが表示されていた。最短で、各艦の進路が可能な限り重ならないルートになっている。
「敵艦隊が・・・!」
わっ、とキャッヂ艦長は目を剥いた。艦長席でも共有し表示されるレーダースクリーン。そこに、今々彼が危惧した事態がまさに起こらんとしていた―――
ディフトラ軍艦隊は距離三五万キロの宙域で進攻を停止し、前衛の陣形を解いた。そして後衛を務める無傷のナウ・マスラーα級が姿を現わす。
左右の小ぶりの甲板状の構造物の下には、前方に突き出た巨大な突起物がある。その突起物と甲板状の部分の先端に光がともり、それは二つの光の中間で収束を始める。
危険を察した地球艦隊はナウ・マスラーα級へ砲撃を集中するが、もはや遅かった。
「後衛敵艦、エネルギーの収束を感知・・・物凄いエネルギー量です‼︎三PJを突破・・・まだ上がります!」
マズい!
「各艦退避!指定のルートに従い現宙域を退避しろ!本艦も転舵反転、艦首艦尾の乗員は横Gに備えろ!」
ズドン!と重い響きを持って艦首、艦尾の高機動ノズルが青白い火を噴き、サウスダコタの艦体を勢いよく回転させる。二七〇メートルを超える艦体が十秒と経たずして反転し、メインノズルが眩い煌めきとともに焔を噴き出す。凄まじいGが身体にのしかかる。
退避と同時に後部砲塔は砲撃を継続しているが、果たして・・・。
「六時方向、高エネルギー体接近・・・!数一六、あと五秒で直撃‼︎」
「形振り構うな!全速で離脱するんだっ!」
艦橋の窓から青白い光が差し込んできた。敵戦艦の放ったエネルギー流だ。射線状にあるデブリ群を蒸発させながら、地球艦隊に近づいてくる。
デブリ群はその殆どが蒸発しプラズマ化した。しかし幸いにも、事前に受け取った退避ルートに従って全艦がデブリ群から抜け出していたので、撃沈艦は出ていなかった。
だが、
「巡洋艦インディアナポリス、戦艦ワシントンが大破!戦線を離脱します・・・エネルギー流の余波の直撃を受けた模様!」『こちら日本第二艦隊、フソウがデブリの直撃を受け戦線を離脱した!』『EU艦隊より全艦隊へ!こちらは戦艦二、駆逐艦三隻が戦線を離脱する。』『中国艦隊は何処だ⁉︎隊形を組み直すんだ!』『こちら指令部!ロシア艦隊、突出し過ぎだ。そのままでは的になるぞ!全艦リンクし、隊形を再構築しろ!』
突然の大規模破壊兵器による攻撃に地球艦隊は混乱していた。被害を受けた艦も少なからずいる。
あの強大なエネルギー流・・・あれこそが、ナウ・マスラーα級の真の恐ろしさだ。あの超エネルギー流砲撃ただ一撃の下に、戦艦数隻を一挙に失った事すらあった。きっと、事前に退避ルートのデータを受け取っていなければ、今頃は艦隊の半数以上を失う結果となっていたかもしれない。
しかし敵の攻撃を免れたからと言って、安心はできない。デブリ群を失い丸裸となった地球艦隊は装甲に不安しかない駆逐艦隊と巡洋艦隊を後退させ、戦艦が盾となり砲撃を再開する。
だが、それに対するディフトラ軍の反撃は散発的だった。ナウ・マスラーα級はあの超エネルギー流砲撃でエネルギを使い果たしたか、殆ど砲撃すらしてこない。β級は砲撃してくるが、もとより損傷が激しいものが多いようで砲撃そのものが疎らだ。
対して、十数隻が戦線を離れた程度の損害で済んだ地球艦隊は苛烈を極める猛砲撃でもってディフトラ軍戦艦の殲滅にかかった。
★
防衛線 主戦より後方六五〇〇キロメートル
予備戦闘部隊 各国混成航空団
先の超エネルギー流砲撃・・・それを察知した混成航空団は、デブリ群に遮られた艦隊よりも素早くその射線上から離れ、何ら損害は無かった。現に今もこうして戦線に介入する時を今か今かと待ちわびている。
「・・・まさかこれで終わりなわけないよなぁ。」
そのなかの一機、前方に煌めく幾重もの光球を眺めながら、英次は言った。
あれは・・・敵の戦艦隊は囮だ。
そうでなければ、連中の動きに説明がつかない。わざわざ全滅の危機を犯してまで戦艦だけを前に出す合理性が全く見つからない。
だが・・・囮が引きつけた艦隊を叩く敵本隊は、何処に―――?
ワープして来るにしても、重力影響圏内にワープアウトするのは危険だし、その範囲外にワープアウトするのであれば、こちらに反撃の時間を与える事になる。
何れにせよ―――いや・・・一つ、一つだけそれが可能な宙域がある‼︎
「まさかっ!」
ラグランジュポイント2に近いこの宙域は、大規模部隊がワープアウトするにも支障がない程度には周辺重力が安定している。しかもデブリ群は先ほどの超エネルギー流砲撃で殆どが一掃されている。あの空間点にワープして来るのだとしたら・・・‼︎
『全隊警告!デブリ群跡に大規模な重力震を観測、敵艦隊がワープアウトする公算大‼︎』
一〇〇〇キロ四方に渡るデブリ群の蒸発した空間に、穴が開く。
文字通り、漆黒の宇宙空間に、青白い穴・・ワームホールが口を開けた。数は・・・数十個にも登る。
青白い穴から蛍を思わせる光球が幾つも飛び出てくる・・・光球は次第にその密度を増やし、まるで光そのものに包まれているかの様にこげ茶色の物体が吹き出た。光の残滓を撒き散らしながら飛び出て来るそいつは、次第にその数を増やす。
表示されるIDCの留まるところを知らない敵艦の識別は、英次に焦りを与えた。オープン回線でとにかく叫ぶ。
「敵艦隊大量にワープアウト!駆逐艦と巡洋艦だ‼︎」
光の残滓を取り払われたこげ茶色のそいつは、ディフトラ軍の攻撃型駆逐艦と、巡洋艦だった。