表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/61

0202薔薇

ノエルの母親エリンはエストレスタ男爵であるホレスに愛されてきたが、不幸なことに長年子宝に恵まれなかった。そのため、男爵家内外からの圧力によって離婚を迫られたことで、男爵は妻と話し合い、一人のメイドを妾にすることとなる。

それがラルフの母親ライラだ。


エリンと親しかったライラなら、それで上手くいくはずだった。しかし、何の因果か、エリンの腹が膨らんできたころに、ライラの腹も膨らみ初め、二人同時懐妊をしてしまう。その上、生まれてみれば、本妻の子が女児、妾の子が男児、ということでノエルの母親は気を病んでしまったそうだ。娘に男装を強要し、次期当主の座を奪うことだけに固執するようになってしまうほどに。


そんな身の上話をしながらノエルは現在、感動に打ち震えながら、追加で注文したイチゴタルト堪能して食べている。


「う、旨い……やっぱり噂通りの味だ!」


先ほどから口元は緩みっぱなしで、彼女に出会った当初の面影は無い。シャーロットはその豹変についていけず、目を閉じて考える事をやめた。

ノエルはキラキラした目で、リリーの事を上から下までゆっくりと眺めると、ため息をつくようにうっとりと頰を緩ませる。


「あうあぁぅっ、リリー嬢のドレス、本当にかわいいな。ピンク色が特に、良い。私も着てみたいものだ」

「着たいなら着ればいいんですよ」

「似合わないだろうし……」


肩を落とすノエルにフォローを入れるリリーだが、私は着たくなかったけどね、との本音は言わないでおいた。ノエルはリリーに背中を摩られながらも、小刻みに震える。


「私はそんな人生諦めたはずだった。でも最近悲しくなるばかりで……」

「着たい服も着れないなんてお可哀想。……今の服も、とても似合っておいでですけど」


正気に戻ったシャーロットもノエルを励ますが、彼女の発言は語尾が沈んで消えていった。リリーはそんなシャーロットからノエルに視線を戻し、考える。

やはりノエルはゲームと同じ性格のようだ。簡単な話、そうなればやる事は一つだけ。


「……とりあえずラルフと話し合いかな」

「一体何をだ?」


リリーの独り言を、自分に向けられた言葉と思ったノエルが返す。


「私、女の子になるから家督譲ります、って」

「うっ、……しかし、私の話を聞くだろうか。目の敵にされているぞ」

「穏便に解決するならそれが一番。ダメなら次の手。どこに行けば会えるの?」


リリーの問いに、ノエルは人差し指を顎に当て、片目を閉じ残った瞳で頭上を見上げる。


「おそらく、母親の家だろう」









ラルフの母親、ライラが住んでいる家は、王都からかなり離れたところにある。昔は住み込みのメイドをとして屋敷内に住んでいたが、色々あって郊外に移り住んだらしい。


三人が辻馬車を降りると、目の前には林が広がっていた。その木々の間には、一本の道が続いている。ライラの家はこの道の先にあるようだ。

ノエルはリリーとシャーロットの服を林と見比べる。


「……その服では少々きついかもしれないな」

「動きやすい方だとは思うのですが……」


ヒラリと一回転して、シャーロットは軽快な動きを披露する。

そんな二人のやり取りを脇目に、リリーはドレスの内側を豪快に破る。


「あらよっと!」


その行動に、ノエルは「そんな……」と悲しそうな声をだし、シャーロットは「ちょっとときめきましたの!」と興奮を伝えた。

服なんて、リリーにとっては見てくれさえ取り繕っていれば良いのだ。

ドレスの動きを確認しながら、彼女はシャーロットに問いかける。


「シャーロットは残ってく?」

「いえ、私も女の子の自由のため、協力いたします!」


彼女は胸を張って答えた。

辻馬車には夕刻にまたくるように言い付け、三人は林の中の小道を進む。一応、獣道では無いようで、歩きやすいようにはなっている。


しばらく行くと、開けた場所にこぢんまりとした家が姿をあらわした。茅葺きの屋根に煙突が一つ。いたって普通の庶民の家だ。煙突からはモクモクと1本の煙が立ち上り、パンを焼くような香ばしい香りがほんのり漂っている。どうやら留守ではなさそうだ。

玄関に続く石段の脇には花壇あり、色とりどりの花が区画ごとに整理され咲いて、随分と手入れがされていた。


「綺麗な花だな」


ノエルがピンク色の釣鐘状の花を手に取り、表情を綻ばせかけた途端――。




「それに触るんじゃねえ!!」





不意に玄関の方から大声が飛んできた。

扉が荒々しく開き、長身でがっしりとした体つきの少年が、ズカズカと歩いてくる。赤よりも橙がかった短い髪、ノエルと同じ金色の瞳。

それは目的の人物ラルフ・エストレスタだった。








ラルフ・エストレスタ。


ゲームでは跡目争いに敗れ、ノエルに立場を奪われた男。それにより、本人はハイラント学園に通う事を渋ったが、エゼルバルドの護衛役を親から命ぜられ入学した、といった事情がある。

鍛練中に腹を空かせて倒れているところを、通りがかった主人公の自家製パンを食べて復活。そのまま安易に惚れてしまう、お馬鹿食いしん坊キャラだ。

無邪気な主人公に励まされ、徐々に自信を取り戻していく物語。


トゥルーエンドでは、子供のころの夢を思いだし、もう一度挑戦することを決意する。その時にお前が隣で笑っていてくれよな。というセリフは多くの女性に「お前成長しやがって」と言わせたものだ。

バッドエンドでは、無謀にもノエルを挑発し、勝利したものの、ノエルは隻眼になり、ラルフは利き腕を壊してしまう。そして失意のまま学園を去り、主人公の前からさえも姿を消してしまうというもの。



――――と、いったことを知っているので、二人の戦闘は避けたかったのだけれど。


回想を終えたリリーが目を開いて状況を見ると、この空気は一触即発。ノエルの表情は変わり、出会ったばかりに見せた次期エストレスタ家跡取りの顔を見せる。

対するラルフは不敵に笑うが、その表情はどこかノエルに似ていた。


「聞こえなかったのか? は、な、せ」

「妾腹の分際で、次期当主対して随分無礼な物言いだな」


彼の売り言葉を見事に買ってしまったノエルを止めに、リリーは二人の間に割って入る。


「ストップ、冷静になってください!」

「次期当主様は、コソコソと裏工作しに来たんですかぁーッ?」

「黙れッ、お前の声は耳障りだ!」

「私たちはっっっ、話し合いにっっ、来たんですぅっ!」


リリーは精一杯二人を押しとどめようとするが、彼女の頭上で当の本人達はいがみ合いを続ける。そして、まるでサンドイッチでも作るかのように、密着された体の間にリリーはどんどん埋もれていった。

ラルフがノエルを睨み続けながら、ベッと唾を吐く。


「棄権するっていうなら聞かないぜ。全員の目の前で叩き潰してやるから」

「奇遇だな、私も同じ感想だ。当日はその言葉覚えておけ」

「むぎゅうぅぅーーーっ」


バチバチと火花を散らしたあと、ノエルは身をひるがえす。ようやく解放されたリリーは、地面に手をついてハアハアと荒く呼吸を繰り返した。


「私たちはもう帰る!」


ノエルは一声叫んでそのまま来た道を歩き出す。ラルフもその後ろ姿に「おー、もう来んな」と捨て台詞を吐いていた。

二人の激しい剣幕に固まってしまっていたシャーロットだったが、気を取り直すとリリーの腕をそっと引く。


「リリー様、私たちも行きましょう」

「こ、こんなのリリーの立ち位置じゃ無い……」

「リリー様?」


そんな不思議なやりとりをしている二人に、ラルフは「おい」と声をかけた。


「話があるんだろ、入れよ」


クイと顎で小屋を指し、中へ入る事を促す。その顔は不機嫌そうではあるものの、先ほどの怒気を含んだ威圧感のあるものではなかった。

ラルフに言われるまま、リリーたちは彼に連れられ敷居を跨ぐ。


「お邪魔します……」


部屋の中は、乾燥した植物の葉や茎がいたるところに吊るされていた。シャーロットは怖がっているのか、さっきからリリーの腕にしがみついたままだ。しかし、好奇心は抑えられないようで、あたりをキョロキョロ見まわしている。

石造りの竃で料理をしている女性がライラのようだ。背が低く可愛らしい顔をしているが、全体的にふっくらとした女性らしい印象を受ける。

なるほど、確かに安産型だ、とリリーは一人頷いた。


扉の音を聞いたのか、ライラはリリー達の方を向かないまま、ラルフに声をかける。


「ラルフ、あんた何言い争いしてたんだい?」

「それより飯は?」

「まだ昼過ぎだよバカ」


軽くラルフを小突くと、彼女はリリーたちの存在に気づき声のトーンを上げる。


「あら、可愛らしいお嬢様方……!」

「おー、話があるらしい」

「嫌だわ、お恥ずかしいところをごめんなさい」


ライラは慌てて、壁際の机に二人を案内し、椅子への着席を促す。木製それは手作りらしく、作りは荒い。揺らすとガタガタ音が鳴るのを、シャーロットは不思議そうにしていた。


「汚いところですみません」


申し訳なさそうにするライラにリリーは「いえ、お構いなく」とだけ返して早速本題に入る。


「私たちは、エストレスタ男爵家の家督を、ラルフさんにお譲りする話し合いをしにきました」

「試合で負かすと、あれだけ大口叩いておいてか?」


ラルフは目を細めて笑い崩れる。しかし、鋭く形作られた目元に収まる金の瞳はギラギラと光り、全く笑っていなかった。

彼はしっかりとリリーの目を見据え、犬歯を見せつけながら口を開く。


「断る」


タイトルが何故薔薇なのか深読みしてしまうから説明して、と友人から苦笑いされました。

前回百合だし、トゲトゲしているから薔薇で良いか、との安易な判断です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ