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D0110犯人はアレックス

あれから僕はアレックスを談話室のソファーに座らせ、各部屋をまわって人を集めた。

その間、リリアちゃんの失踪について何か知る者はいないかと尋ねてはみたものの、手がかりはなし。全員が集まったところでなんと声を掛けようか悩んでいると、トムがシドニーさんと共にこっそりと話しかけてきた。


「部屋に来る気配がないから心配していた」

「探偵さんに何もなくてよかったわ」

「でもリリアちゃんが……」


言い淀みながら、アレックスへと顔を向ける。怒り任せに親指の爪を噛む姿は、今にも苛立ちを爆発させそうだ。

僕はしゃがんでワット君に目の高さを合わせた。


「ワット君、僕たちはこれから話し合いをするのだけど、危ないから離れていてね」

「はい先生、分かりました」


彼はトコトコと部屋の隅へ移動する。

とりあえず子供は避難させたが、あの爆弾小僧が何かを仕出かす前に手を打つ必要がある。だけど、少し目を離した隙に、クララさんが力強い足取りでアレックスへと歩み寄った。


「あらあら、昨日までは我関せずな態度だったのに、随分と深刻そうな顔をしているのね」

「………………黙れ」

「大切な人がいなくなって、ようやく人の気持ちが理解できるようになったのかしら?」


まるで、マッチを油でフォンデュするような物言いだ。

アレックスが無言で立ち上がる。一歩、クララさんが後退った。彼女は強気な表情を変えなかったが、引き結んだ唇は震えている。

緊迫した空気の中、管理人夫婦が二人の間へと割り込んだ。


「落ち着いてください、きっとお腹が空いて皆さん気が立っておられるのです!」

「話し合うにしても、まず食事をしてからにしましょう、デザートもご用意いたします!」

「リリア様も匂いにつられて出てみえるかもしれません!」


食いしん坊キャラじゃないんだから、そんな理由でリリアちゃんが見つかるはずがない。どこかで囚われている状況でお腹が鳴るなら、見つけやすくなるのかもしれないけれど。

そうこうしているうちに、二人は鍵束を取りだし慌てて部屋を出ようとするので、僕は思わず引き留めた。


「食材にも毒が入っている可能性があるんですよ!?」

「では、最後の晩餐に相応しいお料理を作ってまいります!!」

「お代は結構ですのでお気になさらずに!!」


そう言い残し、二人は老体とは思えぬスピードで姿を消した。おそらく、落ち着けと言いつつも彼らが一番取り乱している。

クララさんから伝線した不安に、ピリピリとした雰囲気が漂う。

不意に、オズワルドが同意を求めるように疑問を投げ掛けた。


「おい待て、確かアレックスのアリバイを証言していたのはリリアだったよな、まさか用済みになったから、嘘がバレる前に消したのか?」


トムがシドニーさんを抱き寄せ、庇う仕草をみせた。


「まさか、最初から殺すつもりで彼女を連れてきたのか」

「心配しているのも、全て演技だってこと……?」


次の瞬間、僕は堪忍袋の緒が切れる音を聞いた。アレックスの口が開き、僕は思わず顔を逸らした。

だが、飛び出したのは怒声ではなく、寒気の走るような猫なで声。


「あれれー、おかしいぞー、こぉぉぉんなところに人形使いと腹話術師の夫婦がお揃いで、一体何を企んでおいでなのでしょうか?」

「……!!」


時の流れが止まった。

脂汗を流し、トムとシドニーさんがガタガタと震える。アレックスはニタリと笑って、二人の周囲をハゲタカのようにゆっくりとまわった。


「ああ、そうか、今回の講演は夜の部と昼の部で、演題は『宝探しに邪魔な探偵を追い出そう』ですかね、うっかり見逃してしまいました。あははっ、やって見せて下さいよ腹話術、唇を閉じて言葉を話すなんて、くぅっっだらない芸をね」


つまり、あの『デテイケ』という声がした時に、シドニーさんの口が動いていなかったのは腹話術のせい?

皆の困惑をよそに、アレックスはよく回る舌でベラベラと事実を述べる。


「悲鳴が聞こえた後、物音がしたので窓から様子を伺ってみれば、あらビックリ、隣の空き部屋で冴えない男が人形を回収しているじゃありませんか、もう本当にあの時は、呆れるを通り越して腹立たしかったですよ。大方、酒盛り開場から僕達の部屋を跨いでロープでも張って、下の部屋の人間を脅かしていたんだろうってね」


彼は指で輪を作り、その下で人形を引く動作をしてみせた。糸で人形を引いて回収した後、輪にしたロープの片側を切れば全てを空き部屋から回収出来る。

だがしかし、あり得ない。知っていたのなら、何故言わないのだアレックスよ。彼は更に、良い大人が他の宿泊客に迷惑をかけるな、三人の酒盛りが煩くてムードが無くなったなど、関係ない文句までをつけ始めていた。

僕はたまらず口を挟む。


「大事な情報は、ほう・れん・そう、だろ、報告、連絡、相談しろよッ……!」

「だから昨日僕は話したくないと言ったでしょうっ!!」

「ヒャッ!」


ピシャリと言い切られ、僕は顔を覆った。だけど、一度向けられた攻撃の矛先は変わらず、僕の心を言葉の暴力が襲う。


「ハッ、どうせ君は馬鹿だから、襲われている人間の顔なんて確認しなかったでしょう。鍵穴から襲われているのを見ただなんて、ベッドの上にカツラを置き、鳥男に扮して一人芝居売っていただけの、やっっっすいトリックですよ、どうして騙されてしまうんですか、どうしてですか!?」

「えっ、えっ、えっ、馬鹿、だからです、ゴメンナ……サイ……」

「あはははははっ、ようやく認めましたか、結構、結構。でもあの時は少しだけ楽しかったですよ、狸寝入りしていると踏んで、小汚ない男の口の中にあの女性の手を突っ込んでやったら……ふふっ、気絶してる設定なのに、ふふふっ腕に鳥肌がびっしりと」


さも愉快そうにシドニーさんを指差し、アレックスはゲタゲタと笑う。彼女がよろめくと、トムがすかさず腰を支えた。


「甘酸っぱい青春の味、ですっけ、一体どんな味がしたんでしょうね、あんなに美味しそうにしゃぶられるなんて……キャンディみたいに、まあ……」


シドニーさんの顔からは血の気が引いていく。感覚を思い出してしまったのか、彼女の腕にはブツブツとした凹凸が現れていた。

一人片付いたとみて、アレックは手拍子でトムを囃し立てる。


「はい、はい、はい、はい、どうなんですかね、鳥男サン、鳥男サン、口を割ったらどうですか、まだしらばっくれるつもりなら部屋でも探させて頂きましょうかねェッ、自分から吐くか、吐くまで僕に罵られるか、お好きな方を選んでくださいよ!!」


「先生、言いつけ通り、『鳥男』を持ってきました!」


突如、大きな音と共に談話室の扉を開け放ったのは、随分と背が縮んでしまった『鳥男』。口から心臓が飛び出しかけたが、よくよく見れば、特徴的な嘴をした黒い人形と、長いマントを抱えたワット君だった。


「一階の天井裏に隠されていたのを見付けました」


真っ黒な羽を通った道に残しながら、トムの目の前へ人形とマントを置く。そうしてワット君が黙って人の輪から離れるところを、僕は手招きして呼び止めた。


「僕そんなこと言ったっけ?」

「はい、危ないから離れているように言われたので、安全を第一に考え行動をしていました」

「それについては僕、言ってたぁ……!」


僕が納得して頷くと、視界の端ではトムが両膝を床につくところだった。


「そうだ、『鳥男』の正体は私の人形、バードちゃんだ」


とうとう彼は犯行を自供し、聞いていないのに今までの経緯まで語りだした。



曰く二人は、ワーバートン伯爵領内を渡り歩く生活をしており、今までは細々と路上パフォーマンスの収入で食べてきたが、とうとう立ちゆかなくなった彼らは、パトロンを得ようと賭けに出たそうだ。


なけなしの金を使い果たし王都へと向かうと、アルフレッド王子の乗る馬車の前に立ちはだかった。

本来であれば即刻打ち首。だが、王位継承者である王子のお抱えになりさえすれば一生安泰と思い、彼らは必死に身の上話をしながら芸を披露した。

その結果、王子は従者を通して彼らにこんな言葉を伝えた。


「我が婚約者との神聖な逢瀬を汚したくない故、今回の件は不問としましょう、下らない芸に身を費やすのは止め、小作人として労働の務めを果たしなさい」


あまりの無情さに茫然自失としているうちに、故郷に帰るには十分すぎる量の金貨が詰まった袋を渡され、王子達一行は消え去った。


「アルフレッド王子にも見捨てられ、もう死ぬしかないと悟った。それで自殺の名所と名高いグラーヴィア湖に向かう途中、この館で宝の話を聞いて、どうせ死ぬのなら金が尽きるまで宝探しをしようと……」


そこまで語って、トムはとうとう鼻を啜りだす。追い討ちをかけるようにアレックスが「人のせいにしてないで、真面目に働きなさい!」と罵った。

自分から吐いたのに、結局の罵っているじゃないか。弱った相手にも容赦がない。

だけど二人も二人で、今さら農業をするくらいなら死ぬと言い張り、断固として意見を受け入れようとはしなかった。

シドニーさんが僕のズボンにすがり付き、トムも拝むに指を組む。


「シャーク君、酷いことをして悪かった、ただ帰ってほしかっただけなんだ。グレンが失踪したと知っていたら、あんな事件を起こさなかったし、脅迫状も送らなかった」

「ごめんなさい、言い出そうか迷っていたらヴィクターまで殺されてしまって、私達が犯人にされると思ったら言えなくなってしまったの……」

「霧の山道に追い出すつもりもなかったんだ、全部タイミングが悪かっただけだ、どうか許してくれ」


ここまでされたら叱るに叱れない。僕が狼狽していると、クララさんがアレックスの胸に人差し指を突き立てた。


「『鳥男』の件は解決したけれど、ヴィクターとグレンの件はどう説明するのよ、私はグレンが失踪する直前、アレックスが彼の部屋に入るのを見たわ、二人と揉めていたアレックスをね!」


ほぼほぼ犯人呼ばわりだが、アレックスは怒るでもなく、目を細め冷たい視線を向けただけだった。


「へーーっ、貴女が見たんですか、僕を……」

「そうよ」

「なら僕は、甘酸っぱい青春おじさんの部屋に、瞳の色の件で揉めていた女性が入るのを見ましたぁーー」


苦し紛れの言い訳かと思われたが、意外にもクララさんはダメージを受けているようだ。両肘を抱え目を逸らす動作は、真実だと言ってしまったようなもの。


「ちょぉーーーっとお話がしたくて彼のお部屋に行ったら、先客がいたんですよね、それで自分の部屋で時間を潰していたら、貴女が泣きながら飛び出してきたんですよ。開いた口が塞がらなかったですね、わざわざ泣かされたい性癖なんですか?」

「……」


言い返さない様子をいたぶるように楽しむと、アレックスは下唇に指を当て、再び猫なで声を出す。


「あれれー、そういえばおかしいなー、失踪した酔っぱらいの部屋だって一階の一番奥なのに、どうして二階に部屋を取っている人間がウロウロしているんでしょうね、あれれー」


ため息をついた後、クララさんは観念して話し始める。


「私がグレンの部屋に近付いたのは、お金を与えてヴィクターから遠ざけるため。ヴィクターと二人きりで話をする時間を作りたかったの」


彼女の指が自らの瞳を指し示した。


「ヴィクターは私の父親よ、フルード公爵領出身の母は旅行中に彼と恋に落ちたけれど、あの人は奔放な人だったから、私の妊娠中に父を置いて同郷の男の元へ去ったの」


つまり彼女の瞳は、ヴィクターご自慢の灰色と母親の青が混ざった色だった。そして更に言えば、間男が金髪に青い目をしていたから、ヴィクターはリリアちゃんとアレックスの仲を苦々しく思っていたのだろう。

完全なる八つ当たりだ。それに関してだけはアレックスに同情する。


「どうしても会いたくて父の故郷を訪れたら、一財産築いた後に道楽がてら半年もこの館に引きこもっていると聞いて、後はこの通り。……娘だと名乗ったら、金の無心にきたと思われて追い返されてしまったけれどね」


しんみりとした空気の中、唐突にアレックスが手を叩いた。


「ハイッ、動機がはっきりしましたね、父親を恨んだ娘の犯行、終わり!」

「だから殺すわけないでしょう、私の話をちゃんと聞いてた? あんなのでも父親なのよ、もう一度二人きりで話したくなって部屋を訪れたら殺されていたの! 」

「話を聞く限り、父親というよりただの精子提供者ですよね……?」

「もうやだこの子、どうして話が通じないのよ、私は殺しにきたんじゃない……」


ポロポロと涙をこぼし、クララさんが天井に向かって叫ぶ。


「私はただ、バージンロードをパパと一緒に歩きたかっただけなのに!!」

「疑って悪かった……娘よ……っ!」


聞き覚えのある酒枯れした声に耳を疑った。あまりの事態に全員が肝を潰す。


そこには、殺されたはずのヴィクターが、昨日のままの出で立ちで談話室の扉に寄りかかかっていた。






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