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D0109死亡フラグ

談話室へ戻るまでの間、僕は一人で考える。

一番怪しいのはアレックだ。だけど、一度目の『鳥男』襲撃時、彼にはリリアちゃんといたアリバイがある。怪しいからという理由だけで、魔女狩り的に拘束するなんて出来ない。

そうして談話室の扉を開ける頃には、僕は心を決めていた。


「全員の話を聞いた結果、内部の人間による関与を否定できないものの、確実に犯人側だと言い切れる人物もいませんでした」


僕の言葉に、クララさんはショックを隠しきれず口を押さえた。

頼むからこのまま何も言わず、僕の提案に従ってくれと願う。何故ならば、同じ状況で僕の提案に反発し、殺された人間を三人ほど知っているからだ。


「……外から『鳥男』が侵入する可能性があります、今夜は全員談話室で夜を明かしましょう!」


その瞬間、僕の願いを裏切って、クララさんの口から手が外れた。


「ちょっと待っ…………」

「こんな信用ならない人達と一緒に寝られるわけがないでしょう、僕は部屋に戻ります!」


クララさんの言葉を遮り、特大級の地雷を踏み抜いたのはアレックス。アイツは死んだ、なんて若すぎる死だ……。

クララさんは絶句して、お前が言うなとでも言いたげにパクパクと口だけを動かす。直ぐにリリアちゃんが前言を撤回させようと、アレックスの体を揺さぶった。


「それ小説とかで死ぬやつだから、言ったら駄目、『鳥男』に狙われるでしょ!」

「あー、あー、はいはい、では少し耳を貸してください」

「へっ、なに?」


ゴニョゴニョと何かを囁かれるうち、彼女の顔色は瞬く間に変化していく。


「………………えっ、まっ…………ええっ、アーーーッ、やめっやめっ、言っちゃ……やだやだやだやだやだ……ネタ……バレ、やめ……てぇっ」


耳を覆い隠していた手が離れる頃になると、彼女は茫然自失といった状態で床にへたりこんでいた。アレックは彼女を抱き上げて回収し、そそくさと自室へと姿を消す。

呆気に取られる面々を前に、僕はなんとか空気を変えようと声を上げる。


「と、取り敢えず、残ったメンバーだけでも集まりましょうか」


辺りはシンと静まり返り、僕の苦笑だけが虚しく響いた。沈黙を破るようにクララさんが重い口を開く。


「どうしてアレックスが犯人だと皆の前でハッキリと言わなかったの?」

「リリアちゃんが昨日の夜は彼といたと証言していて、その……、証拠や自供もないのに犯人扱いはちょっと……」

「分かったわ、私の証言が信用できないのなら、私も信用しないことにする。自分の身は自分で守ります」


感情を押し殺した声で彼女はそのように告げ、談話室から出て二階の自室へと向かう。追いかけようと僕が一歩足を踏み出すと、誰かが肩を掴んで引いた。


「悪いが探偵は囮になってくれ。談話室にいると思われている今なら、俺は部屋に隠れていた方がよさそうだからな」


オズワルドが人差し指と中指で投げキッスの仕草をして去っていく。よろけた僕がバランスを取り戻した時、既に彼はいなかった。


残されたのは6人。そのうち老人と子供を除けば、男手は僕とトムだけ。仕方がない、プランを変更しよう。

僕は静かに息を吸う。だけど、見上げるワット君と目が合い、ため息をつくのはやめた。


「あのー、ウィリアムズさんたちのお部屋はどこですか?」

「三階の屋根裏部屋につながる階段の下です……」

「では、そちらで朝まで待機を」


次に、僕はトムへと顔を向ける。


「トムたちは僕の部屋を使ってください」

「構わないが……君はどうする」

「万が一、犯人が外部の人間だった時に備え、一階の玄関前で寝ずの番をします。ワット君の事だけ頼めるかな?」


ワット君を引き渡そうとするが、彼は僕のズボンを掴んで離そうとしなかった。

トムも眉を八の字に寄せ、返す言葉に窮する。彼はこめかみを掻くと、僕に耳打ちをした。


「眠ったら連れてきなさい」


去り際にシドニーさんが僕の手を握る。


「探偵さん、ごめんなさい、気を付けて」


談話室の施錠をしがてら、トムたちが部屋に入るのを見守って、僕はワット君と共に三階へと管理人夫婦を送り届けた。






玄関前の広間に辿り着くと、暗さが気になり背筋が震えた。

二人で黙って銅像の台座を背に腰を下ろす。館の主を象った像の目が気になり、思わず膝を抱えた。ワット君は僕と反対に、絨毯に足を伸ばし寛いだ格好をしている。


「取り調べはどうでしたか、先生」

「クララさんとの話で少し出たけれど、一番怪しいと思っていたアレックスには、リリアちゃんといたアリバイがあったんだ」

「どんなアリバイでしょうか?」


こんな話を寝物語にするのもどうかと思うが、それで眠ワット君が眠れるならいいだろう。全員の会話を包み隠さず伝え、持論を展開しきった時、僕の目の前は何故か真っ暗になっていた。











三日目、早朝。




物音に気が付いて目を擦る。天窓からは光が漏れ、霧も晴れているようだ。

慌てて涎を拭いワット君を探すと、姿勢を正して僕を見つめていた。正確には僕の背後にいたアレックスを。


「昨夜からここにいたのなら、見たもの聞いたもの全てを言え!!」

「わっ、突然なに!?」

「いいから早くしろ!!」


アレックスが僕の襟首を掴み、体を揺する。爪先が絨毯から浮き上がり、僕は腕を離させようともがく。

すると、目の前の顔が苦しそうに歪んだ。


「リリーが姿を消した」

「くる……し……ぃ」

「目覚めた時には既にいなかった、ベッドの温もりも……。行方を知っているのなら言え!!」

「ふにゃ……」


昇天しかけていた僕を救ったのは、ワット君の一声……。


「誰もここを通ってはいません、二階から下りてくる人影もありませんでした」


僕の体は床へと落ちた。アレックスは自らの髪を引きちぎりそうなくらい強く掻く。


「ああ、クソッ……」

「殿下、お気を確かに……。誰かの部屋に向かっただけの可能性もあります」


いくらか冷静さを取り戻したらしく、アレックスは前髪を掻きむしるのを止めた。

何が何だかさっぱり事態を飲み込めないが、女の子の危機を本能が理解する。プルプルと小鹿のように震える足で、僕はようやく立ち上がった。


「と、とにかく、皆を集めて話を聞きましょう!」






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