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D0106ダブルスタンダード

不老長寿の妙薬。

耳を疑うような言葉だが、オズワルドの表情は自信に満ち溢れ、とても嘘をついているようには見えなかった。


「そんな話を信じると思う?」

「管理人夫婦の年齢は132歳だ」

「僕は65歳と69歳って聞いたけど……」

「見た目に合った年齢を言っているだけだろ。それに二年前、二人が130歳になる記念とかで宿泊客に値引きをしていたのを聞いた」


二年前なら二人は63歳と67歳、つまり夫婦合わせて130歳だったなんてオチじゃないかとすら思う。


「それなら、元旦那様はどうして亡くなったんだよ」


僕が疑いの眼差しを向けても、オズワルドは全く意に介さず飄々と答える。


「だから元旦那様とやらは管理人夫婦と共に毎日飲んでいた命の薬をやめたのさ。そして薬を隠され歳をとり始めた二人が、焦って事件を起こしたに違いない」

「見付けた宝は僕の好きにしていいって言われたけど?」

「それは……、殺して奪うつもりに決まってるだろ!」


コイツ、絶対に今思い付いたな。詰めの甘い推理に呆れて僕が黙っていると、彼は馴れ馴れしく肩に腕をまわした。


「なあ、薬を見付けたら金に変えるのは俺に任せろ。一番高い値段で売り払ってやるから、それで山分けしようぜ」

「王都のオークションに出すつもりなら、ネームバリューのある僕の方が有利だと思うけど……」

「違う、王位継承が予定されている、アルフレッド王子に売るんだよ」


考え無しかと思っていたけれど、彼は存外頭が回るようで驚いた。父親と兄を病で亡くしているアルフレッド王子が、自身の健康問題に関心のないはずがない。

だけど、それは一般論だ。

恐らく地方に住んでいるオズワルドは、アルフレッド王子を噂などでしか知らないのだろうけど、王都を拠点にしている僕は違う。公式行事でお姿を遠くから拝見した時、とても聡明そうな顔をしていたあのお方が、嘘臭い薬に血税をつぎ込むなんて、絶対にあり得ないと断言出来る。


「永遠の命なんて欲しがる人間には思えないね」

「まあ、聞け、ここからが凄い話……、命を与える薬は、使い方を変えれば命を吸い取れるんだ」

「自分の命を延ばす代わりに、他人の命を奪って釣り合いを取る……って、小説の設定みたいだな」

「その薬でエヴァグレーズ公爵令嬢の命を自分に付け替えれば、誰にも気付かれずに暗殺出来るだろ」

「はああぁぁっ、アルフレッド王子が自分の婚約者をッッ!?」


僕が素っ頓狂な声を上げると、手のひらで思いっきり口を塞がれた。


「黙って聞けって、彼女の父親、エヴァグレーズ公爵は存命中だ、義父として政治に口出しされるのを避けたいのならば、子を作る前に娘を殺すしかないだろう」

「むぐっ……仮に婚約に不服があったとしても、自分の婚約者に対して情ぐらい……」

「恋愛結婚でもあるまいし、政略結婚相手に愛も情ないだろう。俺の話術でアルフレッド王子を(そそのか)せば一発だ」


彼曰く、エヴァグレーズ公爵令嬢が抱える左腕の障害は、公務に差し支える可能性が高く、この先の長い人生を思えばサポートするのも面倒だろうとのこと。


「まっ、どうせ即位するなら、兄貴のお下がりと結婚するより、新しい女と結婚したいだろうしな」


胸くその悪さを腹に貯めていた僕も、この言い方はカチンときた。コイツは僕を味方につけたいのだろうけど、女の子を物のように言う奴は信用できない。

僕が青筋を立てているのにも気付かず、彼は下卑た考えを語り続ける。


「兄貴が死んだおかげで廃嫡を解かれた王子に、婚約を拒否出来なかった無能な母親、俺なら相当な金をむしり取る自信がある」

「おい、いい加減やめろ、不敬罪だぞ!」


「えっ、君たち王族の批判でもしていたんですか?」


ギクリとして掴みかけたオズワルドの胸ぐらを離す。声のした方向には、苦い顔で眉を顰めるアレックスが立っていた。どうやら三階と屋根裏の捜索を終え、僕を呼びに来たらしい。

アレックスは憎らしげに目元を歪めた


「僕のリリアをこき使ってくれた割には、暇そうで羨ましいですね。馬鹿らしくて付き合ってられませんよ……」

「馬鹿らしいとはなんだ、オズワルドはアルフレッド王子を侮辱したのに!」


オズワルドが舌を出してすっとぼけてみせると、アレックスは面倒臭そうにため息をついた。


「全ての人間に好かれる者などいないのだから、別に良いでしょう。王宮内や臣下の前で侮辱するでもあるましいし」

「最近の若い子って、愛国心や王族への忠誠心はないの……?」

「ええ全く」

「くそっ、僕の故郷じゃそんなことを言う奴は非国民扱いで村八分だ、国母であるセシリア様を無能扱いするのだって許されないからな!」

「私刑など、おおよそ文明人のする行為ではないかと」


年下のくせに、アレックスは容赦なく正論で心を抉った。理解されない悲しみに、僕は必死に涙を堪える。


「お前が正しいよ、正しいけれど、僕はエヴァグレーズ公爵令嬢を……、女の子を物みたいに言って馬鹿にする奴なんて、絶対に許せないんだよ!」

「次代の国母へ対する侮辱、万死に値するっ、引っ捕らえて八つ裂きにしましょう、この非国民めがッッッ!!」


手のひらを返したように、アレックスは前のめりになった。彼の目は本気だ、冗談でなくやりかねない。

流石に止めようと二人の間に割って立つ。アレックスはしばらく唸り出しそうに歯を剥き出して威嚇していたが、へっぴり腰で僕が宥めるうちに落ち着いた。

そのやり取りを他人事のように指を指して笑っていたオズワルドの脛を、僕は思いっきり蹴りあげる。

再び喧嘩が始まらないうちに、僕は二人を連れて談話室へと移動することにした。







三人で談話室に戻ると、部屋の中央では皆に囲まれ、意識を取り戻したシドニーさんがソファーに半身を起こしていた。


「良かった、シドニーさん気がついたのか」

「僕がリリアと戻ったとき、丁度起き上がっていましたね」

「言えよ!」

「だって僕に聞かなかったでしょう……」

「確かに探偵の奴はお前に聞いてなかったな」


オズワルドが格好つけて前髪を払う。

彼が肩に置いた腕を心底嫌そうにアレックスは払ったが、仲が良さそうに見えるのは気のせいだろうか。三人組で集まると、僕はいつだって二人と一人の、一人側になってしまうのだ……。

ソファーの横で膝を折っていたリリアちゃんが、僕に気が付いて立ち上がった。


「シャーク先生、残念ながらシドニーさんは何も見てないそうです」

「無事だっただけで十分さ」


シドニーさんの元に近付くと、クララさんが僕と場所を変わってくれた。


「状況だけでも教えてもらえますか?」

「音かして窓を開けたのだけど、誰もいなくて……それで振り返ったら突然……」

「薬で気を失ったのかもしれませんね……」


項垂れるシドニーさん顔を上げるように伝え、体勢を変えてトムに体を向ける。


「トム、二人きりで少し話せるかな?」

「あ、ああ、構わない」


僕が何をしようとしているのかを察し、オズワルドは唇の動きで馬鹿野郎と伝えた。

談話室を出て会話を聞かれないように扉を閉める。先に口を開いたのはトムだった。


「一体なんの話だ?」

「シドニーさんが襲われ、グレンが姿を消した、そして僕の部屋にはこれが……」

「……っ!!」


差し出したのは僕の部屋に届いた脅迫状。紙切れを受け取ったトムは、青白い顔で指を震わせる。


「全部僕のせいだ、だから屋敷を出て助けを呼んでくる。君たちは霧が晴れて安全に山越えが出来るまで待機していてくれ」

「なっ、ちょっと待て、 霧の中山道を歩くだなんて自殺行為だ」

「そうだよ、だから僕には期待しないで。……ワット君を頼めるかな」

「……絶対に駄目だ!」


グシャリと音を立て、トムが脅迫状を握りつぶした。紙屑となったそれは僕の胸に投げつけられ、そして床へと転がって消える。


「いいか、この事は誰にも言うな、館を追い出される」

「でも……」

「でも、じゃない。もしも脅迫状を受け取ったのが私だったら何をする?」

「ええと、まずは窓に板を打ち付けて、外からの侵入を防ぐバリケードを作ります……」

「なら、今からそう指示を出せ、絶対に、だ。ほら行けっ!」


追い立てられるように体を押され、僕たち二人は談話室へと戻る。皆の視線を集めるが、何も言えないでいるとトムが僕の背中を叩いた。


「シャーク君と今後の話し合いをしていた、聞いてくれ」

「ひ、ひとまず窓に板を打ち付けてバリケードを作りましょう。皆さん協力してください!」


反対する者はいなかった。アレックスあたりは文句を言うかと思ったけれど、腕捲りをし始めたリリアちゃんの素肌を隠すのに忙しくて、彼はそれどころではないようだ。

管理人のウィリアムズさんに道具の有無を尋ねると、ワインセラーに木箱が沢山あるとのこと。ひとまず脅迫状のことは忘れ、僕は作業に集中することにした。






二日目、夕方。




バリケード作りも一段落を終え、僕は最後の仕上げとして二階自室の窓を塞いでいた。


「ワット君、もう少し板を上に持って」

「はい先生、こうですか?」

「そうそう」


『鳥男』は一日目の夜、この窓の外に現れた。侵入経路にもなりうると感じ、念入りに板を打ち付ける。

窓の外に広がっているのは木々の 生い茂る森だ。犯人が壁から木に仮装したまま飛び移って逃走を図った点を考慮すれば、相当身体能力の高い人物なのが伺える。しばらく黙りこんでいたけれど、ワット君がじっと見つめているのに気が付いた。


「あっ、そうだワット君、ビスケットを持ってきたのだけど、夕食前に二人で食べちゃわないかな?」

「『とっておきの』ですね、先生」

「ああ、他の人には内緒だよ」


僕は鞄から包みを取り出し、ワット君の目の前で広げた。

危ない、危ない。子供というものは察しが良いからね、不安が伝染しないよう気を付けないと。

一つずつ手にとって、ビスケットを咀嚼する。三枚目を掴んだ時、突如響いた大声に驚き、僕はビスケットを取り落とした。


「大変、誰か助けて!! 誰か早くッ!!」


声の主は恐らくクララさん。僕はワット君と共に、慌てて部屋を飛び出した。








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