向日葵色の灯火
それは、突然だった。
「お嬢様、朝でございますよ。今日はいい天気でございますねえ。」
一人の侍女がリリアンの部屋へと足を踏み入れ、窓に掛かるシルクのカーテンを大きく開いた。
水差しからリリアンが飲むための水をグラスに注ぎ、大きなフランス窓を開けて風を通す。
―――いつものように
ふと、侍女はいつもならすぐにさむーいと駄々をこねるはずのリリアンがなかなか起きてこないことに気づいた。
「お嬢様、お水を注いでおりますよ。早く起きて―――」
侍女はグラスを持ちながら天蓋付きベッドのなかで眠っているはずのお嬢様を起こしに来た、が。
「パリーーーーーーン!!」
リリアンのあまりの寝顔に、思わずグラスを落としてしまった。
リリアンは静かに微笑んでいた。
暖かな、柔らかな、でも何処か寂しげな。
侍女はしばらく見つめた後、ハッとわれに返った。
「まあいけない!さあ、お嬢様!!!起きてくださいまし!」
落ちたグラスの破片を拾い集めるとさっと雑巾で高価な絨毯を拭く。
「お嬢様、お嬢様!?」
侍女はついに毛布を捲りあげた。
そこで、侍女ははじめて異変に気づいた。
何をしても睫毛一つ動かさないリリアン。
「リ、リアン様・・・?」
ゆっくりと呼吸を確認する。
な、なんてこと―――
「だ、誰か!!誰か来てえ!!」
「こ、これは・・・」
専属の医師は息を呑んだ。
「先生。うちの娘は!?」
公爵は動揺を隠せなかった。
医師は深くため息をつき、公爵と夫人にお辞儀をした。
「残念ですが・・・・」
「そんな・・・そんな・・・!!」
夫人はリリアンの遺体を抱きかかえた。
「リリアンはもう・・・!?」
「なんて、ことだ・・・・・・・」
公爵は顔を覆った。
夫人は訳が分からなかった。
「どうして?どうしてこの子は死んでしまったの!?ねえ、先生!どうして!?」
医師は一枚の書類を夫人に手渡した。
「これが、全てです・・・・・」
夫人は意気込んでその書類を受け取り、目を凝らした。
そして、気づいた。
ああ、なんてこと――――――
公爵は夫人の異変にようやく気づき、書類を覗き込んだ。
これは―――!!
「もう流行が治まったはずの、エルエム病です。おそらく流行期に感染し、最近になって発症したのでしょう・・・。
まだ幼いのに、なんて事に・・・・・・・・」
医師は涙を拭いた。
「そ、んな・・・・エルエム病?なぜ・・・!!なぜ!!」
公爵は泣き崩れた。
なぜ、私が気づいてやれなかったんだ―――――!!
夫人はリリアンの魂が抜けた体を見つめると、ゆっくり額をなでた。
夫人は大分理性を取り戻した。
そして、たった一言呟いた。
「この子、きっと病気に気づいてたんだわ」
公爵は顔を上げた。
「なんだって!?」
夫人は公爵の方を向き、一筋の涙を流した。
「だって、リリアンは最近何時も言ってたもの。私や貴方のこと大好き、ずっと一緒にいてね、って・・・」
リリアンは、何度もそういうことをいう子ではなかった。
「お母さんのこと好き?」
昔はそんなことを聞けば、娘は考え込んで、そして恥ずかしがって答えなかった。
なのに、最近は。
だから、笑顔のリリアンを見たとき、母はおかしいと思ったのだ。
ああ―――リリアン、貴女は見たのね?
私たちの、心を。
貴女の、命の灯火を。
結局エリーが出てこなかった・・・。
ああ、なんてこと―――(引用!?)