芽吹く花と朝露
「貴女、ミーフェに会ったのね?」
夫人は魚のソテーを切り分けながらエリーに尋ねた。
今、エリーと夫人はあのグルニエール公爵と共に食堂で昼食をとっていた。
公爵はさっきから一言も喋っていない。
エリーはわざわざ公爵に話しかける気も無かったので夫人と話していた。
「ええ。ミーフェはとてもいい人だわ。私に弓術を教えてくれることになったの」
「まあ貴女、弓術ができるの?」
驚く夫人とは裏腹にエリーは首を横に振った。
「いえ、それどころか武術系は全く駄目で・・・」
「あら、そうなの。私も出来る武術って言ったら弓術ぐらいね。狩によく行くから」
「それって何時なの?」
いつの間にかエリーは敬語を使っていなかった。
「毎週日曜日の、九時からだったかしらね」
「私も行っていい?」
エリーの問いかけに夫人は笑顔で答えた。
「ええ。いいわよ、一緒に行きましょう」
「駄目だ」
公爵の太い声が聞こえた。
少しして、夫人の声が食堂に響いた。
「どうして?良いじゃない、貴方。折角エリーがやりたいっていったんじゃない」
グルニエール公は毅然とした態度を崩さなかった。
「いや、駄目だ。幼い少女が狩になど連れて行けるか」
「貴方・・・」
「・・・ご馳走様。さて、私はまた仕事に行くとする。」
公爵は静かに立ち上がると、スッと食堂を後にした。
夫人は公爵の出て行った方に目を向けると、ため息をついた。
「いつもはあんなのじゃないのだけれど・・・エリー、御免なさいね。」
「いいえ、大丈夫。まだ私も狩やったことないし。ミーフェに教えてもらうわ」
夫人はエリーの頭を優しく撫でた。
「御免なさい・・・あの人、きっとまだ―――亡くなった娘のリリアンの事が忘れられないのね。私が養子を、貴女を引き取ったばかりに、貴女に迷惑を・・・」
「ううん。私、宮殿好きよ。だって新しいお母様がいるし、それにミーフェだって」
ミーフェのことを思い出してニヤニヤ笑っているエリーを見て、夫人はお淑やかに微笑んだ。
流石貴族。笑ってもお淑やかである。
「貴女は本当にやさしい子ね。頑張って父上にお認められるようにお成りね。」
「うん!!私、ミーフェと待ち合わせしてるから、行くね」
「ええ・・・午後の授業ね?」
「うん。行ってきまーす」
エリーは元気よく食堂を出て行った。
「・・・御免なさいね、リリアン、エリー・・・」
夫人は悲しい過去に目を伏せた。
短くてすみません〜!