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雲は花を隠す

「私、ほんとに剣とか武術は無理なんです!」


エリーは顔を覆った。


ミーフェはさっきの様子とは似ても似つかないあまりの変化に唖然とした。


エリーは深呼吸をして話し始めた。


「ある日・・・今から六年くらい前、丁度九歳の時です。

 その頃は病気で亡くなった母もまだ生きていて、食事の手伝いをしてたんですけど、そこで父が仕事から帰ってきて剣を手入れし始めたんです。

 父は騎士をしていたからいつものことだったんですが、その頃私はやったことが無い武術系にすごく興味があって、父に剣を触らせて欲しいと言ったんです。」


「触ったの?」


ミーフェの言葉に対してエリーは首を横に振った。


「いえ。父は私の言葉でスイッチが入っちゃたみたいで、まずは肉体からだー!とかいって私は物凄い量の筋トレをさせられて・・・もう剣に触ることなくそこで終わったんです。」


「ほんとに!?ほんとにそんなんで諦めちゃったの!?」


「じゃあミーフェさんはそこであきらめないんですか?」


「もっちろん!!体力には自信があるわ。だって女専属騎士って私しかいないんだから」


ミーフェは胸をはった。


エリーは目を見開いた。


「え!?そうなんですか?」


「そうよ、剣や斧、槍に武術に空手に太極拳に弓も使えるわ。これもみーんな騎士の仕事で使うから」


「す、すごい・・・あなたって凄いのね。でも私、ほんとに剣は・・・」


ため息をつくエリーを見てミーフェはにっこり笑った。


「あんた、面白いね。リリアンとはまた違ったカンジがあって」


「え・・・それ褒められてるんでしょうか」


「うん、多分。

 それよりエリーは弓をやってみたら?弓は出来ると狩もできるし、面白いのよ」


「でも・・・」


「なにも特別に運動が必要って訳じゃないわ。ただ、馬に乗れるようになれるといいけど、一番大切なのは本人のやる気ね。」


「本人のやる気」


エリーは繰り返した。


「私でも、やれるかしら」


だんだん乗せられていくエリー。


「やれるわよ。勉強も弓も努力よ、ど・りょ・く!!」


ミーフェの言葉の釣られてエリーの心が動いた。


「ミーフェ!私やるわ、弓」


「そうこなくっちゃ!」


ミーフェはやっとできた弓友達にむかってガッツポーズを繰り出した。


「でも、いつやるんですか?練習」


エリーの性格は基本的に計画性なので、一応聞いてみた。


ミーフェは大らかな性格なのであまり深く考えない。


「さあ。午後の夫人の授業が終わってからでいいんじゃない?あと、これからずっと一緒なんだからその敬語やめといてね」


「え!?敬語やっといたほうがいいんじゃない!?」


「私してないけど」


「・・・・・・」


「まあいいや!じゃあ午後の授業終わったらここにくるから、ミーフェもきてくれる?」


「・・・私もほんとは午後の授業出なきゃいけないんだけど、いつも出てないし。いいわ、待ってる」


「そうなの?じゃあミーフェもいきましょ、きっと楽しいわよ。それに私、まだこの宮殿の道とか部屋とか、覚えてないもの」


「うー・・・」


「何事も努力なんでしょ?」


「うー・・・」


「じゃ、決まりね。ミーフェはお昼どうしてるの?」


「食堂でコック達と食べてるわ。・・・仕方ないから食べ終わったら久しぶりに夫人の教室行って待ってるわ」


「夫人の教室?」


エリーとミーフェは暑い日ざしから逃れようと木陰へ歩きながら話した。


「夫人の午後の教室は毎回違うんだけど、今日はたぶん図書室ね。最近は料理教室ばっかりで私行ってなかったから」


「ミーフェって料理するのニガテなんだ?」


「まーね、誰にだってニガテの一つや二つあるわよ」


「そこ開き直るとこ・・・?」


エリーが真剣に悩んでいると、ミーフェは立ち上がり、ポケットから小さい時計を取り出し、時間を確かめる。


「エリー、もうすぐ昼食よ。そろそろ戻った方がいいわ」


「そうね。」


「じゃ、また後で。あ、それから新しいお父さんに会ったこと無いんでしょ?気をつけなよ」


「え??」


「あとで第一印象教えてよね」


それじゃ、といってミーフェは右の方へ歩いていった。


そう言われてみると、確かに、新しい父に会ったことは無かった。


でも、気をつけろ?


そんなに危ない人なのだろうか


エリーの頭に不安がよぎる。


そんなことも考えつつ、エリーも立ち上がってもときた道を歩き始めた。






「公爵様、お帰りなさいませ!!」


「お待ちしておりました」


数々の侍女や執事に迎えられて、一人の男が宮殿の敷居を跨いだ。


一遍見ただけで、その位の高さが伺える。


公爵と呼ばれた男はビロードの帽子と絹の薄い上掛けを執事に預けた。


「来たか?」


公爵の静かな問いかけのなかには重々しい雰囲気が立ち込める。


「はい、二時間ほど前に来られました。」


「そうか。」


公爵はため息をつくと長い廊下を歩き始めた。







「エリー様、貴族専用の食堂はそちらでは御座いません」


「え!あ・・・御免なさい、間違えてしまって」


お腹がそろそろ空いてきたエリーは戸惑いながらウロチョロしていて廊下に立っていた侍女に注意された。


「あの、貴族用はどちらに?」


「ここを左に曲がったところの階段をあがり、突き当たりを右に曲がったところで御座います。」


「ありがとう、私まだ覚えられなくて」


素直に礼を言うエリーに侍女は慌てた。


「そんな、宮殿が広いのは当たり前ですから心配なさらなくても・・」


「そうですね、では・・・」


開き直って歩き始めようとしたその時、侍女が急にひざまづいた。


「え?」


振り返ると、とても背の高い、威圧感のある一人の男がたっていた。


「お前か、養子の娘というのは」


「へ?」


男の言葉にきょとんとするエリー。


すると侍女が呟いた。


「この方が、宮殿の主、メルファン・ニード・グルニエール公爵様で御座います。」


エリーは顔を引きつらせた。

 


こ、この人が・・・



ミーフェの言っていたことが今分かった。



深い群青色の眼差しに白髪混じりの黒髪。


とてもいい人そうに見えない。


というか、こわい。



エリーはただ、その新しい父を見上げた。





これから、こんな人がお父様だなんて・・・





ちなみに・・・

エリーは落ち着いた若草色の瞳に小麦色の豊かな髪が特徴です。

皆さんの意見、お待ちしております!!

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