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太陽は過去に別れを告げる




エリーとミーフェとバースは、ようやく王城へたどり着いた。


ミーフェは力を込めて自分の剣を握り締めた。


「………」


三人共に、思い思いに黙り込んだまま、門を通り抜けようとした。


しかし―――


「貴様らが女王殿下に敵対する奴らだな!俺達をまず倒してから行くことだ」


門兵や衛兵が、エリーたちの情報を聞きつけ、三人に向かってきたのだ。


三人は素早く馬から降りると、バースとミーフェは素早く剣で敵を叩き斬った。


そして、エリーが見守る中、二人は間もなく敵を片付けてしまった。


「すごーい!!やっぱり二人は強いわね」


エリーは馬を柱に繋げながら二人に笑いかけた。


ミーフェは顔色ひとつ変えずにまた歩き出した。


「当たり前でしょ。何年騎士やってると思ってんのよ」


「うん、そうだね。」


二人で話していると、先を急いでいたバースが遠くで呼びかけた。


「おーい!こっちだ。早く!!」



二人は足早に声の先に走り出した。








「女王様、ご覧になりましたか?あの女がヴィアナ王国の次期王妃だそうですよ。」


「うふふ、なんだか面白そうな子ね。でも、ミーフェはあの子に使えるべきではないわ。」



サラは、大臣と共に門の傍に佇む塔でエリー達一行がやってくる様子の一部始終を見ていたところだった。


遠くからでも三人の様子は、はっきりと見えたのだ。


「ねえ大臣、そろそろ行った方がよくてよ。もう直ぐにでもあの子達はやって来るでしょうから。」


「そうでしょうな。さあ、参りましょうか、女王殿下」


そういって大臣が後ろへ下がったとき、サラの体に異変が起きた。


突然咳をしたかと思うと、サラは体を抱え込むようにして窓辺に倒れこんだのだ。


「ごほっごほっごほっ…大臣、いつもの、あれを…」


大臣が大急ぎで女王の口元に薄紫の紙に包まれた薬を運ぶ。


サラは苦しそうに息を詰めながら、窓に手をかけて支え、ゆっくりと薬を水で流し込んだ。


「大丈夫ですか、女王殿下!」


「はぁ、はぁ、はぁ…ありがとう大臣、大丈夫よ。もう直ぐミーフェに会えるのですものね。楽しみだわ。ミーフェを手に入れるのは私なんだから。」


二人はゆっくりと階段を下りた。玉座へ向かうと、整列した軍の列の向こうで、アルデンヌが騎士団長と雑談を交わしていた。


アルデンヌは女王に気づくと、話をやめて女王に敬礼した。


「女王陛下、お待ちしておりました。丁度これから、客人が参られるとのことです。」


「ああ、ミーフェたちのことね。さっき塔から見ていたわ。あの令嬢も居てよ」


ミーフェと会えることが嬉しいのか、女王は嬉々とした様子でアルデンヌと共に玉座への階段を上った。


しかし、アルデンヌはそれよりも嬉しいことがあるかのように、女王に切り出した。


「いいえ、それが違うのです―――女王陛下のご病気を治す御薬がようやく作れたと、薬師から連絡がたった今入ったのでございます!!」


アルデンヌの言葉を聞いた女王は、目を見開いた。


「なんですって!それは本当なのですね?」


「ええ、勿論でございます。間もなくその薬師が此処へ参ります」


「まあ…今日はなんて日なのでしょう。私ばかりがこんなに幸せになっていいのかしら」


女王は心からそう思った。


アルデンヌは首を振り、女王に笑いかけた。


「陛下だけではありませんわ。私も、ほんとうに幸せです!」


「アルデンヌ、有難う。あなたが居てくれて、本当に良かったわ。これで、やっと私は万能になれる。病気などに縛られなくて済むのね…」



サラは、幼い頃から発作や肺炎の持病に悩まされていた。


今までに何度肺炎になったのかは数え切れないが、今までずっとこの病気によって悔いを残してきたことは覚えている。


国中の医師や薬師に呼びかけ、一時的に発作を直す薬は開発されたものの、今までこの原因不明の病が完全に治ることはなかったのだ。



「大臣殿、只今客間にて薬師がお持ちです。通しますか?」


大臣の下に一人の兵士がやって来た。大臣は頷くと、女王にそのことを短く伝えた。


「まあ、直ぐに通して頂戴」


サラは手を合わせて喜ぶと、大臣にこう付け加えた。


「大臣、ミーフェたちは放っておいてあげて。私は忙しいけれど、せめて城の中で遊ばせてあげましょうね」


「はっ。」



大臣が玉座の傍を離れると、直ぐに薬師を呼ぶための準備が始まった。


薬を携えてきた薬師には、褒美をとらせよとの女王の命からである。


女王の玉座の横にそれぞれ金や宝石が積み上げられ、女王の化粧直しが終わり、ようやく薬師が呼ばれた。


呼ばれた薬師は男女の二人組みで、薬師が着るゆったりとしたローブを頭まですっぽり被っていた。



「女王陛下、薬師のシルデモンとドリムでございます。どうか、お見知りおきを」


薬師の一人が顔を上げ、それだけ言ってまた礼をした。


サラは冷静を保とうと深呼吸をし、二人に声をかけた。


「よくやってくれました。あなた達にはそれぞれ有り余るほどの褒美を取らせましょう。

 それで、薬はどこにあるのです?さあ、早く見せてくださいな。」


「では、早速…こちらが、我々の開発した新薬に御座ります。お手にとってご覧下さい。」


薬師はそういい言いながら、厳重に守られた木箱を丁寧に開け始めた。



サラは早く薬が欲しいという思いから、うずうずと玉座から身を乗り出し、その様子を見守った。


薬師が最後の鍵を外し、ようやく箱の蓋を開けようとしたとき―――――


ふいに、玉座の間の大扉が派手な音を立てて開いた。いや、開いたというよりは、むしろ蹴破ったに近い破壊的な音だった。


そして、エリーとミーフェとバースが、サラとの対面を果たすこととなった。


エリーははじめて見るサラに少し心が揺らいだ。



ミーフェは昔この人に仕えてたのね…



エリーは晴れない面持ちで、ミーフェだけを見て嬉しそうにするサラの横顔を見据えた。


本当にこの女王はミーフェを愛しているように見えた。ミーフェを監禁することが無かったのならば。


サラはミーフェを見、一瞬エリーとバースに目を移すと、ミーフェに呼びかけた。


「――ミーフェ!!来てくれたのね、ありがとう。今日は最高の日よ」



サラは嬉しさのあまりとうとう玉座から立ち上がって、段差を降りてきた。


ミーフェは微笑み、そしておもむろに口を開いた。


「何が最高の日よ!もうちょっと学習能力がある人間だと思ってたけど、こればっかりは直らないのね。呆れたわ。」


しかし、ミーフェは微笑む顔とは裏腹に、女王に対するものとは思えない爆弾発言をサラリと言ってのけた。


サラは微笑んだまま、段差を降りた直後に止まった。


「何に呆れているというの、愛しい私のミーフェ。私は呆れることだなんて何もやってないわ。」


その口ぶりは、前にまして愛しさが篭ったようだった。ミーフェはほくそ笑んだ。


「あら、笑わせちゃって。いい、あんたのその考え方が可笑しいって言ってるの。あんたはそれが正しいと思ってるから、変えれる事に気づけない、本当の馬鹿だわ。私、昔こんな人に仕えてたなんて。危うく私まで洗脳されるところだったじゃない。何かあったらどうしてくれるつもりだったの?」


「ミーフェ、それは誤解よ。私の考えは正しいの。あなたは、隣にいる娘に洗脳されかかってるだけ。今からなら遅くないわ。さあ、私の元へいらっしゃい」


サラはクスリと笑い、そんなことがあるはずないとばかりに肩をすくめた。


一方、ミーフェの双眸は次第に冷たくなっていくのを、隣にいたエリーは感じ取った。



ミーフェ、目茶苦茶怒ってる…



ミーフェもなお微笑んだまま、サラに向かって宣戦布告をした。


「サラ、あんたには失望したわ。心を改めてくれたらもうちょっとお話してあげてもよかったのに。本当に、残念無念ねー。

 私が仕えるべき主人はあんたじゃない―――!狂ってまで私を奪おうとする人間じゃないのよ!!!」


エリーは、ミーフェのきっぱりぶりに驚き、そして実感した。


本当に、自分とミーフェは…二人は繋がっているということを。ただの思いあがりかもしれなくても、そう思うほかなかった。


サラは、遂に笑みを消し去り、暫し黙り込んだ。再び開いた口からは、氷の刃のように冷たい言葉がミーフェに降りかかった。


「私はあなたと生死を共にするために生まれてきた。ミーフェ、あなたがその女とヴィアナへ戻ろうものなら、必ず後悔することになるわよ。私はあなたを取り戻すまで、諦められない」


「いいわ、望むところよ。これであんたが私を愛してないってことが明確になったわけだし、もう私も悔いはないから」


ミーフェの呆気ない言葉に、サラは口をワナワナと振るわせた。


「………私は、ミーフェを愛してる!!愛してるが故に、そのために―――!!!」



そのために、此処まで来たというのに。


幼き頃、二人過ごしたときの記憶が消えてゆく。


灰のようにほろほろと零れ落ち行くその記憶の欠片は、もう一時の温もりさえも、失っていた。



サラの大きい瞳に、初めての泪が浮かんだ。


今まで、一度も悲しいことなんてなかった。


隣にはいつも、最愛の騎士が居たから。


だから、その騎士を守るために、自分が最高権力者になった。他人や王族は必要さえあれば凶手を雇って殺しもした。


けれど―――――


騎士の心には、今や私の面影は無い。


心から笑いかけてくれる日は、もう無いのだろうか。


心から自分を信頼してくれていた一人は、もう彼方へと別の道を歩んでしまうのか。


いつまでも、一緒にいると思っていた、あの少女は……



「ミーフェ、私が何をしてでも手に入れたかったもの…それはね、永遠の心なのよ。

 小さい頃、誰からも愛されなかった私を導いてくれた人がミーフェだった。心から私を慕ってくれた人はミーフェだけだった。

 もう失いたくなかったの、あなただけを。それを、忘れないで―――」


サラの言葉に、ミーフェの顔から表情が掻き消えた。


「ミーフェ、サラさんて…」


エリーの言葉に、ミーフェは手で制止した。


「…エリー、これで終わるわ。もう、終わり。繋がらないのよ。私とサラの間には、最初から絆なんてないの。必要も無いのだから。」


言葉を切って呟いたミーフェは、再びサラに笑いかけた。今度は、本当の笑顔で。


「サラ、ほんと言うとね、昔は楽しかったわ。でも、今は進むべき道に従わなくちゃならない。これは誰にでもある天命なの。あなたにもあるわ。

 だから、あなたもこれから自分の歩む本当の道を見つけなきゃ駄目よ。見つけられたら、また会いましょう――今度はお友達としてね。」


ミーフェの優しい言葉に、サラは泪で濡れた顔を上げた。


「ミーフェ………」


サラは、衝撃を受け止められないように、また屈みこんだ。


けれど、今度は少しだけ、肩の重荷が消えたように心が軽かった。







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