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涙の後ほど強くなる心



「さて、王様。私が言いたいこと、分かりましたね?」


王に事情を説明したミーフェは、物分りのよい王に確かめた。


「あ、ああ・・・分かったが、それではそなたは・・・」


王は心配そうにミーフェを見た。


「・・・・そうよ、さすが王ね。私は・・・

 エリーの専属騎士を辞めて、決着をつけて来ます。サラは、昔の主人でしたしー・・・一応行っとかないと。

 その間エリーには相応しい騎士を数人集めておきますんで、いいですか?」


ミーフェの言葉の中には、悲しみと責任感に満ちていた。


「分かった・・・それでは、早めに決着をつけて来るように。」


王はそれだけ言って、ミーフェの瞳を見つめ、ミーフェの決心を再度確かめた。


ミーフェは少しだけ笑って、さっさと歩いて王の執務室を出て行った。





「では行ってきます。エリーの元に送る騎士団は今日中に到着しますから、ご心配なく」


ミーフェは最後にグルニエール公爵と公爵夫人に挨拶に来た。


公爵と夫人は納得が出来なかった。


「でも、サラって・・・あの人でしょう!?止めときなさいミーフェ!!」


「エリーはミーフェに守ってもらうんだ!駄目だ!」


「・・・いいんです。エリーは、何が何でも死にません。だから私も、安心して行けるんです。

 いつか必ず戻ってきますから・・・。では」


ミーフェはそれだけ言うと、二人の反対を押し切り走って部屋を飛び出した。



「あの子・・・・・・どうしましょう!エリーが心配するに決まってるわ!」


「ああ。だが・・・・これでいいのかもしれない」


公爵の言葉に夫人は驚いた。


「なんですって?」


「ミーフェは、過去の後悔と悲しみに決着をつけにいったんだ。

 私達は、見守ってあげることが一番いいと思う。」


公爵の言葉は、どこか安心できるものがあった。


夫人は、王城の門をくぐり抜けていくミーフェの小さな人影を見つめた。



ミーフェは、最後までエリーと会おうとしなかった。



「サラ・・・待ってなさい。私があなとのもとに行ったこと、後悔させてやるわ!」


ミーフェは意気込んで叫んだ。








木々が生い茂り、草花がそよ風に揺れる、広い中庭に、人影が見えた。


「爺や、ミーフェは来るかしら?」


上質なベンチに座る一人の女性が、白髪の腰が曲がった赤い目の老人に話しかけた。


爺は顎に手をあてた。


「どうでしょうな。あの方は約束は守るが・・・この度は来るかはまだはっきりとはしないでしょう。」


「そうよね・・・どうしましょう。やっぱり今の主に矢を放ったのはいけなかったのかしら」


「いや・・・あの方とはいずれ争うことになります。これでよかったのです。もしミーフェ殿が来なければ、こちらから攻めればよいのですから」


日光のまぶしさで額に手をあてていた女性は口を開かず、目を伏せた。


「そうよね、私とエリーさんは、決して仲良くはならないんだわ。きっとね・・・」




「だって私は、カルビナ帝国第四十七代女王なんですもの・・・きっと私の血筋は、ヴィアナ王国との争いを好むわ」


そのとき、遠くから侍女と護衛がやって来た。


「女王様!ある少女が、あなたに会いたいと・・・!!」


「護衛を振り切って、走ってやってきて―――」


「・・・やってきたのね、ミーフェ」


サラは口をぎゅっと結んで、立ち上がった。



向こうから、多くの護衛を押し切って走ってくる一人の少女が見える。


サラは微笑んで出迎えた。


「お久しぶり・・・御機嫌よう、ミーフェ。待っていたわ。」


跪いたミーフェに、女王サラは声をかけた。


しかし、顔が見えないのでミーフェの表情は読み取れなかった。


「・・・・・・・カルビナ帝国女王・サラ・アリエンテイル・カリオナ・デイビス殿。

 お約束と聞き、参りました。」


ミーフェは冷静な声音で言った。


サラは笑った。


「そう堅苦しい言葉で話しかけないで、ミーフェ。まずは、歓迎しなくてはね。爺や、部屋に案内して頂戴」


「畏まりました。」


爺やの言葉で護衛兵は女王とミーフェを囲むようにして進み、二人も王城内へと歩き出した。



部屋に案内された二人は、無言でロイヤルソファに腰掛けた。


しかし、サラは微笑を浮かべて。


「さあ、お飲みになって、ミーフェ。私の好きな紅茶なの。わざわざ遠くの国から取り寄せてるのよ。」


女王の言葉に従わないわけにはいかず、ミーフェは琥珀色の温かい飲み物が入った王室色のロイヤルカップを手に取った。


「美味しゅうございます、女王陛下。」


ミーフェは冷淡な声で棒読みした。


一方サラは気を害した様子も無く、美味しそうに自分も紅茶を飲んだ。


それから、茶菓子のベリータルトを食べてから少し落ち着くと、女王サラの方から切り出した。


「ミーフェ、今の生活はどうかしら?楽しいの?」


「今までに無いほど楽しいといえるでしょう。」


ミーフェは出来る限りの憎しみをこめて冷たく言い放った。


「・・・そう。それは、良かったわ。それで、考えてくれた?」


「何のことでしょう?」


しらじらしく聞き返したミーフェにサラは当然のように笑った。


「ふふふ、決まってるじゃない!ここに、来るかどうかのことよ。あなたは、ここに来るのよね?」


ミーフェの顔は、まだ無表情だった。でも、顔の筋肉を引き締め続けるのは難しかった。


「私は―――――」












「ミーフェ・・・」


エリーは、塔の最上階から、カルビナ帝国の方角を見つめた。


「エリー様、包帯の巻き直しをさせていただいても宜しいでしょうか?」


医師免許を取得していた公爵家での仲の良かった侍女・セトは、エリーの傍に居るお付役として、また治療の手助けとして、派遣されていた。


セトはエリーが頷いたのを確認すると、扉に鍵をかけ、衝立を置き、しっかり準備してから作業にかかった。


「腕はまだ痛みますか?」


「少々ね。でも大分良くなったわ。セトのお陰ね。ありがとう」


エリーはセトに礼を述べた。


セトは、微笑むとエリーのに巻いてあった古い包帯をくるくる外して、消毒液を染み込ませたガーゼを軽く腕に当てた。


「エリー様。ミーフェ様はきっと・・・戻っていらっしゃいますよ。ミーフェ様は、エリー様のことを本当に慕っていられたのですからね」


セトは、エリーの曇る心のうちを見抜き、優しく、そして心強く言ってくれた。


エリーは、消毒液のジメジメした痛みと、ミーフェのことで顔をゆがませた。


「本当に、そうかな・・・」


ミーフェは、本当に私の大切な人。


それは、間違いない・・・・・・・けれど。


本当に、ミーフェは私のこと好きだったの?


もしかして、まだ昔の主人が忘れられなくて、やっぱり昔の方がいいなんて思って・・・?


エリーは、空笑いした。


セトに、心配をかけたくなかったのだ。


「あ・・あはは!そうよね、セトの言うとおりだわ!私、どうかしてるわよね。もう・・・・・・・」


泣くな。



泣くな、自分。



でも、もうその時には、目から滝のように、どっと涙が溢れたきた。


「ど、どうしたのかしら、私ったら・・・」


「・・お嬢様。それで宜しいのです。王妃になると言えど、感情は表に出し、常に心を開け放つのです。」


セトは強く話した。


「で・・も、私、いつも泣いてばかり。いったいどうすればいいのよ?」


「・・・泣きたいときは、思い切り泣いて、笑い出したいときは思い切り笑えばよいのです。それが、感情を表に出す、ということなのです。」


エリーの顔に伝う大粒の涙を手ぬぐいで拭いながら、セトは言ってくれた。



それが、エリーの壊れかけた心に、どれだけ染み渡ったことか・・・


エリーはセトに心から感謝した。


「・・・・・。」


「お嬢様、何かお飲みになりますか?」


無口で黙り込んだエリーを見て、セトは茶器を取り出した。


「決めた。私、決めたわ。セト!」


エリーが、腕を庇いながら叫んだ。


セトは、こんなにも早くエリーが立ち直るとは思ってなかったので驚いたが、とても喜んだ。


「お嬢様、どうなさるのですか?私もお手伝いしますわ」


「セト・・・」


エリーが意味深に呟く。



「私、行動派なのよね!!行くわよ、行ってやるわよ、ミーフェの元へ!!」


セトは、あまりの行動の早さに、思わず笑い出した。






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