花と騎士と王と <下>
「きゃあああぁぁぁ!いやあぁぁぁぁ!」
エリーは声の出る限り叫んだ。
ミーフェは飛び上がり、まだ重い瞼を擦りながら何事かと辺りを見回した。
「ひ、姫・・・?」
エリーの叫びが木霊する中、一人の優しい声が響いた。
エリーは震えながらもハッとして、目を開いた。
「うそ、なんで・・・なんであなたが居るの・・・・・・?」
エリーは呟いた。
ミーフェは呆れて頭を抱えた。
エリーの目の前には、何とあろうことか王が不安げに突っ立っていたのだ。
「姫、もしかして、驚かせてしまいましたか!?」
「あ・・・・・・・・・・・あの・・・・ご、ごめんなさい!!!」
エリーは王の姿をまともに見ることができず、そのまま跪いた。
「ああ、私何てことを!もういっその事死んでしまいたいわ!」
エリーは心の中だけで叫ぶことが出来ず、思い切り声に出して嘆いた。
ミーフェはその様子を見、だんだん込み上げてくる笑いを押し込めようとした。
「・・・ぷっ・・・ぷーーーー!あはははっはは!あはは!あははははは!」
が、出来なかった・・・。ミーフェはエリーにむかってお腹が痛くなるほど笑いこけた。
エリーはその笑い声で正気を取り戻した。
「って、そうよ、どうして王様がここに居るの?もしかしてここってお城!?」
王はエリーに駆け寄りながら答えた。
「いや・・・ここは、いわゆる・・・私の隠れ家的なものです。今は定期的にここに来ていて・・・今日は勉強に飽き飽きしたからここに来たのですが、途中から雨が降り出して・・・」
そういえば王もびしょ濡れだった。
「あ・・・そうだったんですか。御免なさい王様。私ったら何を・・・。あ、じゃあこの飲み物なにか知ってます?」
エリーは急に普通の口調に戻ってあのビンを掲げて王に訪ねた。この態度は王に対してどうなのか。
王も王で何か納得し、うんと頷いた。
「それは勿忘草の朝露を絞って凝縮させた高級飲料です。確か私がここに持ち込んだのです。」
「へえ・・・高級飲料・・・私今まで飲んだこと無かった。」
エリーはビンを不思議そうに覗き込んだ。ミーフェはビンのコルク栓を開け、一口その飲み物を口に含んだ。
「あらららら、意外といけるねコレ!美味しいよエリー、飲んでみなーよ」
エリーはミーフェに習って飲んだ。
「なんか、これ蓬みたいな風味があって、飲みやすいわ。さすが勿忘草!」
「そうでしょう?・・・それで、姫と騎士殿は何故ここに?」
エリーは丁寧に今までの経緯を説明した。
「そうですか・・・ではどちらも雨宿りなのですね。」
王はふっくらと微笑んだ。エリーは顔を赤くした。
「はい・・・私、ここがあなたの隠れ家とは知らなくて、あの・・・雨があがるまでここに居てもいいですか?」
「ああ、勿論ですよ。・・・・・・・・それで、あの・・・」
王は何故か急にたじろいだ。
「どうか、しました??」
「・・・その、あなたは、王妃に、なるのですか・・・?」
エリーは王の急な問いに驚いた。もう王に知れ渡っているとは。
「えー・・・ええ!そう。私、あなたにお嫁入りします。えっと、宜しく・・・」
二人はぎこちなく握手した。ミーフェはまた笑いこけた。
「どうしてあなたは、王になったの?私のお父様の方が年上だけど?」
エリーは暖炉に薪を投げ入れる王を覗き込んで聞いた。前から気になっていたのだ。
ふつう王家は年が上の者から順に王になると聞いていた。
「ああ、それはあなたのお父さんが王になるのを強く拒んだからですよ。兄さんは、駆け落ちしたんです。」
エリーは何かの聞き間違いかと思った。
「駆け落ち!?お父様が?」
「はい、そうですよ。駆け落ちです、今のあなたのお母様とね。」
王は頷きながら話し出した。
「当時お母様は下級貴族のお嬢さんで、兄さんとは、社会的に・・・つりあわなかったんですね。でもお兄さんは夫人のことが大好きだったから、勝手に今の屋敷を建ててそこに住んだんです。」
「へー、凄いのね、お父様達・・・!」
「ええ。私がそれを知ったとき、本当に笑いましたよ。」
王はエリーに、紙に包まれた何かを差し出していった。
「これ、魚を蒸し焼きしたものです。どうぞ、お腹空いたでしょう?」
エリーは二つ受け取り、一つをまた眠り込んだミーフェの頭に置いた。ミーフェはぐっすり眠り込んでいて、二人で笑っていても起きなかった。
魚は、潮のいい香りがしてとても美味しかった。エリーは二つおかわりした。
その後もいろいろと話し込み、気がついた時にはもう三時間が経っていた。
「大分時間が経ちましたね・・・一旦朝まで寝ますか?」
王は瞼を擦っていたエリーに声をかけた。エリーは返事をして藁の寝床に潜り込んだ。
「王様も寝ますよね?ここあいてますよ・・・。では、おやすみなさい・・・」
エリーは半分寝ぼけて、王が棚から引っ張り出してきたシーツに体を包ませた。
「おやすみなさい、姫。よい夢を・・・」
王はそう言いながらも、自分もシーツをかぶった。