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花と騎士と王と <上>


果樹園の中で、桃の木が蕾を開かせようとしている。


エリーとミーフェは葉や花が消えて颯爽としている果樹園の中を歩いていた。




「ふーん、だから王と仲良くしようって訳ね。」


エリーから事情を聞いたミーフェは、灰色の空を見上げて言った。


エリーは頷いた。


「そう。ミーフェと一緒に居たいもの。」


それを聞いてミーフェは驚いて顔をエリーに向けた。


「そうなの!?」


「え?うん、そうだよ。・・・もしかして、先客でも居た?」


エリーは首をかしげた。


それを見たミーフェは呆れた。


「先客って・・・居るわけないじゃない、そんなの。誰よ」


「・・・バース?」


「!!・・・アンタねえ、いい加減にしてちょうだい!」


ミーフェにカツンと一発叩かれたエリーは後頭部を摩った。


「いたっっ!もうミーフェの馬鹿!」


「ふんっっ」


ミーフェはそっぽを向いてからエリーをチラッと見た。


「・・・そういえば、バースとの手合わせだけど、今年の夏じゅうに決まったから。」


「あら、そうなの!じゃあ、私は王様と見物するわね♪」


「いいわ、今回は特別よ。私、勝つ自身あるんだから」


ミーフェはエリーに手を軽くあげた。


「うん、ミーフェはきっと強いよね。剣の素振りしてるときでも気迫を感じたわ!」


エリーは手を合わせて嬉しそうに笑った。


そして、ふと舞踏会のあの時を思い出した。


「そういえばミーフェ、なんでバースとダンスしたの?」


「え!?」


ミーフェは不意打ちをくらった。


「だーかーら!バースの方から誘ったの?それともあなたが誘ったの?しかもあなた凄く楽しそうに踊ってたわよね」


ミーフェは苦笑いするほか無かった。


「う・・・まあ誘ったのはバースなんだけど、踊り始めたら私も楽しくなって、随分と踊ったわ。」


「おー!!これぞ恋の予感よねぇ〜!ミーフェったらいつの間に〜!?」



その後エリーはミーフェに肘鉄を食らった。ミーフェはしかり格闘技も強いのだった。






二人はその後もあれこれと討論をし、気づけば果樹園の端っこまで来ていた。


「なんか、もう日が暮れそうね。馬に乗ってきていないから帰るの大変そう・・・」


エリーは暗褐色の空を見上げながら、不安げに呟いた。

ミーフェもブルブルと肩を震わせた。


「雨も降りそうよ。なんだか寒いし・・・」


「うん、とりあえず・・・どっか暖かいところ探そうか?」


エリーの提案に、ミーフェは素直に頷いた。



が。



見つけるのは、容易いことではなかった。


空はどんどん暗くなり、やがて雲で覆われ、挙句の果てには大粒の雨が降り始めたのだ。


「うわー!ちょっとミーフェ!どうしよう!?お母様やお父様も心配してるのに!!」


エリーはどんどん雨で濡れていく髪を巻き上げ、ドレスの裾を持ち上げてワンピースのようにしながら走った。


ミーフェはどこからとも無くおおきなマントを取り出して、エリーと自分に被せた。


「どうしようじゃないわよ!とりあえずこのマントに包まって、何処か屋根の下で一夜を過ごすしか・・・!」


「そんなこと言ったって屋根なんて何処にあるのよ!?」


エリーは吹き荒れる風に負けないように声を張り上げて叫んだ。


ミーフェも負けじと叫ぶ。


「そんなの知らないわ!って・・・あれ、なんか小屋じゃない!?」


エリーはミーフェの震える指が指すほうを見た。たしかに、掘っ立て小屋らしきものが見えた。


「とにかく、あそこへ行きましょう!」


エリーが声を張り上げ、雨が更に激しくなる中、小屋へと近づいた。





「バタン!」


ミーフェが警戒しながらも勢いよく薄いドアを開け、小屋の中へ流れ込んだ。


エリーは暗い中蝋燭を見つけ、灯りをともすと、ゆっくりと質素な狭い床に倒れこんだ。


「ふう・・・なんだか、一瞬にして凄いことになったわ・・・」


「ほんとに・・・・あ、これ置いてあったからもってきたわ」


ミーフェは小屋の中を物色し、勿忘草のような色の液体が入ったビンを二つ手に持って、蝋燭の火を移した暖炉の近くにコトンと置いて、自分も座った。


エリーは、暖炉の前で手を摩りながら、ビンを見つめた。


「・・・何かしら、この飲み物。勿忘草をそのままジュースにしたみたい。」


「ええ。なんか美味しそうだから持ってきたわ・・・ああ、大丈夫よ。もし飲んで死にそうになったら、解毒剤もってるし」


エリーが不安げにミーフェを睨んだので、ミーフェが付け足した。


「う・・・なんか喉乾いてるけど・・・飲んだ瞬間死んだりしたらどうしよう・・・」


「うん、すぐ死んだら解毒剤意味無いわね。」


ミーフェのさめた感じにエリーは眠気から現実に引き戻された。


「そうよ!私王の嫁になるのよ!?こんな所で死んでなるものですか!」


エリーは立ち上がって小屋の中に重ねて置いてあった藁を暖炉の前に敷き、簡単なベッドを作った。


「さっミーフェ!ここで一日過ごしましょ。蝋燭もったいないから消すわよ」


ミーフェは驚いて藁に飛び込んだ。


「エリーったら、こうと決めればやりぬくタイプよね!」


「ええそうよ。さあ、あなたのマントを掛けて、藁を被せて。お休みなさい」


エリーはミーフェの手元にあった蝋燭を吹き消した。


ミーフェはエリーにも藁を被せなおした。


「ええ、何だか私も眠くなったわ・・・お休み。エリー・・・・」




エリーは、日光のいい香りがする藁に潜り込みながら、王と結婚したら自分はどうなるのだろうと考えていた。




王妃になるのよね・・・ってことは、私の働き次第で、国も良くなったり悪くなったりするのかしら。


エリーは雨に打たれて今にも割れそうな窓を見つめた。



私、昔はこんな家に住んでいたのよね。お父さんと・・・



変わったなぁ、私。



エリーは俯いて途方もない事を考え込んでいたせいか、小屋の外でなにやら足音が聞こえたことに気づかなかった。





「ゴトン!・・・・キイィィィィー・・・」


小屋のドアのほうから、何か音が聞こえる。



エリーは心底ビビった。


『な、なに!?』


心の中では恐怖と不安で自制心を抑えきれない。




『ミ、ミーフェ・・・!』




咄嗟にミーフェのほうを見るが、ミーフェは疲れのせいか気持ちよさそうに眠っている。



その間にも足音はどんどん近づいていき、次第にエリーたちが寝ているほうへと歩み寄ってきた。



エリーは金縛りにあったように動けなくなり、大きくなる足音に怯えながら乾いた口を開いた。



そして、とうとう目の前にまでやってきた人影に向かってエリーはあらん限りの音量で叫んだ。



「きゃあああああぁぁぁぁぁ!!!!」







別にホラーではありませんが、この雰囲気はホラーっぽいです。

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