なんでもない幸せがほしい【4】
ローレンが倒した男をオスカーが調べる。取り出したのは件のネックレスだ。美術館の館長が「おお!」と声を上げる。
「どうぞ」
「ありがとうございます! よかった……!」
オスカーからネックレスを受け取った館長は大事そうにネックレスを箱に納める。ここでフェイは疑問が。
「ローレンが持っている方が本物じゃないの?」
「いや? とられた方が本物だな」
オスカーの言葉にフェイはアサギを見たが、彼はしれっとしていた。ちょっと腹が立った。彼は男をだますために嘘を言ったのだ。むっとしたフェイに対し、アサギは言ってのけた。
「敵をだますならまず味方からって言うでしょ」
「……言うけど」
作戦上、フェイは関係がなかったので真実を知らされなかったのだろう。わかる。わかるが、腹が立つのは別だ。
怪盗たちは捕らえられた。この国の西海岸で有名な怪盗であり、ついに東海岸にも現れた、と話題になった怪盗たちらしい。全然知らなかったけど。
調子に乗って予告状をだし、盗みに入ったのが運のつきだ。もしかしたら、ハリソンやオスカー、ローレンがいなければ捕まらなかった可能性もあるが、それはあくまでも可能性の話。
一方、初仕事は見学だったマイケルは、やはりローレンに引いたらしい。ハリソンに対しては「かっこいい!」と言っていたので、ローレンはむくれて「何それ納得できない!」と言い張っていた。
ハリソンはハリソンで、今までなめてかかってくるような連中ばかりだったので、マイケルに「かっこいい」と言われて感動していた。いい子だなぁ、と。まあ、確かに生意気だけど、ローレンやアサギよりは可愛げがある。
だが、どうしても相性の問題でマイケルはローレンと力の使い方の練習に行くことが多い。ローレンは厳しい。いわく、瞬間移動と言う能力は便利だが、その分危険が付きまとうのだ、と言うことだった。
「過去には空間のはざまに閉じ込められて出てこられなくなったやつもいるんだよ」
と言うのが彼女の言い分である。まあ、確かにそれは怖いけど。
「でもやりすぎるなよ。まだまだ子供なんだからな」
オスカーがそう言うと、ローレンは「わかってるわ」と答える。本当だろうか。しかし、マイケルの訓練は彼女一人でやっているわけではないから、たぶん大丈夫なのだろう。
「フェイ」
そんなある日、国防省附属病院の廊下で、フェイは男性に声をかけられた。振り返ると、そこには杖をついたケイシーがいた。フェイは驚く。
「ケイシーさん!? え、車いすは!?」
「今、リハビリ中なんだよ」
ニコッと笑ってそう言ったケイシーであるが、リハビリって一人でするものではないだろう。
「……ここの病院に通っていたんですね」
深くはツッコまないことにして、フェイはそんな事を尋ねた。ローレンの兄だけあり、ケイシーも食えない人だ。
「ローレンが機密情報局の職員だからね。でも、フェイには今まであったことはなかったかな」
「そうですね」
フェイは医者だ。リハビリ関係にはたまに首を突っ込むが、リハビリの進行状況を確認したり、スケジュールを立てたりするくらいだ。フェイがあまり病院に顔を出さないのもあると思う。知り合って半年は経つが、病院で顔を合わせたのはローレンが入院していた時くらいだ。
「ドクター・フェイ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、時間ある?」
「……まあ」
書類の提出に来ただけなので、時間はある。なので、彼女は白衣も来ていなかった。ケイシーの提案が唐突過ぎて戸惑う。
「じゃあ、少し付き合ってね」
にっこりと笑ったケイシーが杖をついて休憩スペースに向かおうとするのでフェイはあわてて彼の肩を支えた。一応、大学でリハビリの勉強もしている。ほとんど忘れたけど。
「ありがとう」
微笑まれて顔が暑くなった。
ケイシーの妹たちのようにうまくはやれないが、フェイも彼を椅子に座らせる補助をする。
「何か飲み物を買ってきますね」
「うん、ありがとう」
何の話かは分からないが、たぶんローレンのこと? 間が持つかわからなかったのでコーヒーを二つ買ってきた。
「で、聞きたいこととはなんでしょうか」
そう尋ねると、ケイシーはニコッと笑って「うん」とうなずく。その笑みに凄みを感じ、フェイはびくっとした。
「ローレンがアサギと付き合っているって、本当かな」
「……」
もうケイシーの耳にも入っているのか。いや、まだあの事件が彼に伝わったと考えるのは早計か。ただ、二人の雰囲気で察しただけかもしれないし。
「……いや~、そう言うのは本人たちに聞いた方がいいのでは?」
一応言ってみるが、ケイシーはにっこり笑ってのたまった。
「聞いたよ。でも、要領を得なくてね」
「……」
既に実行済みだった。こういうところ、ローレンとちょっと似ている。
アサギは返答しなかっただろうし、ローレンは動揺したかもしれない。いや、沈黙で返した可能性もある。どちらにしろはっきりとした情報は得られない。
「……あたしより、あの二人のことはハリソンが良くわかってると思うけど」
「うん。彼にははぐらかされた。オスカーもあからさまに答える気はないしね」
「……左様ですか」
それで、たまたまフェイを見かけて声をかけてきたと言うことか。ちょっとうれしいと思ってしまった自分が情けない。
「……まあ、アサギもローレンも子供じゃないですし、そっとしておけばいいんじゃない?」
「そうなんだけどね……」
アサギは先日十六歳になったばかりだが、しっかりしているし、ローレンも基本的にしっかり者だ。
そこで、ケイシーはふと気づいたように言った。
「そう言うってことは、結局、あの二人は付き合ってるのかな」
「……正直なところ、あたしにはわかんないんだけど」
だって二人とも表情読めないもん。もしかしたら付き合っているのかもしれないし、そうじゃないのかも。ローレンが引き離されて女子寮に来ているので、そのうち話でも聞いてみようか。
「っていうかケイシーさん、シスコンって言われない?」
「ははっ。言われるし、自覚もあるよ」
ちょっと年が離れているから、可愛いんだよね、とケイシー。ローレンや毒舌なマリアンを可愛いと言えるあたり、さすがである。
ローレンやマリアンと結婚しようと思ったら、ケイシーを突破して行かなければならない。そこら辺の父親よりも強敵な気がする。
「……まあ、フェイが言うように本人たちの問題だからね。あまり干渉するとうるさがられるし」
それは本当に父親と同じ扱いなのでは……と思わないではなかったが、フェイは苦笑を浮かべるにとどめた。
「アサギはローレンをちゃんと気にかけてくれそうだから、それならそれでいいんだけどね」
なんと。お許しが出そうだ。本人から出なくても、兄からは出そうだぞ。
「フェイも、呼び止めて悪かったね。ありがとう」
「あ、いえ。特に役にも立てなかったし」
本当に聞いただけだ。フェイがそう言って首を左右に振るとケイシーは微笑んだ。
「フェイはあの集団の中にいるにしては感性がまともだよね」
「……それ、自分の妹のことをまともじゃないって言ってるってことよ?」
「あはは。そうだね」
まあ、ローレンがまともだったら、空から槍が振ってくるくらいの勢いだけど。
「ケイシーさん、リハビリはもう終わり? 何なら送って行きますけど」
フェイは今日も来るまで来ている。ちなみに、ケイシーも車の免許を持っているらしい。
「いや、大丈夫だよ。そんなに遠くないし、買い物もしていきたいからね。気を使ってくれてありがとう」
「……ならいいけど」
普通に一人暮らしをしているのだから大丈夫だとわかってはいるが、心配になる気持ちを押さえられない。まあ、大丈夫だと思うけど。ローレンのお兄さんだし……。
我ながら、この納得の仕方はどうかと思った。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
あと1話。




