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願い事【1】

フェイ視点です。











 フェイ・シャムロックは十九歳の女性だ。去年、機密情報局特殊事例課第三班研究所に入ったばかりで、ロデリックが来るまでは一番の新米だった。持ち前の社交力で打ち解けたが、この第三班と言う若者……というより子供集団は問題児ばかりだ。まあ、フェイもその問題児の一人として放り込まれたのだが。


 一番在籍年数が長いハリソンは優秀だがポンコツだし、オスカーはまじめそうに見えてどこか適当。アサギは機械類に強く頼りになるが愛想がなく、クリスティーナは戦闘面で非常に心強いが極度の対人恐怖症である。打ち解けるのに一番時間がかかったのは彼女だ。


 そしてローレン。正直、フェイは彼女が一番食わせ物だと思っている。一見愛想がよく戦闘力も高く知識も豊富な美少女であるが、本心が見えない。正直今いる六人の中で一番頼りになると思う。そんな完璧みたいなところがいけ好かないし、というか、何もしなくても美人、というのが腹が立つ。努力しているフェイは化粧をしてそこそこの美女に見えているが、ローレンは手を抜いているのである。腹立たしい限りだ。


 研究所兼事務室には、珍しく七人全員がそろっていた。全員がそろっていても、やっていることは様々で、クリスティーナとロデリックは勉強をしているし、オスカーとハリソンは何やら話し込んでいる。アサギとローレンは猛烈な勢いでタイピングをしているし、フェイはというと、小難しい医学論文を読んでいた。フェイは十八歳で医師免許を取得した天才である。人体を生きながら解剖した、という不名誉なことをしでかしても、彼女の医師免許が凍結されることはなかった。機密情報局が手をまわした、と考えると腹立たしい限りだが。


 その時、事務室の電話が鳴った。取ったのは一番近くにいたハリソンだった。というか、この部屋の電話はたいてい彼が取る。

「フェイ。お前宛ての外線」

「あたし?」

 フェイは首をかしげながらハリソンから電話を受け取った。

「はい、フェイ・シャムロックですが」

『ああ、こんにちは、フェイさん。私は連邦大学付属中等部で教師をしているグッドウィンと申します。実は、カレンさんのことでお話がありまして……』

「はあ」

 フェイはいぶかしげにしながらもとりあえず話を聞く。どう考えても不自然であれば、ローレンあたりが解析してくれるだろうし。

 とりあえず、連邦大学付属中等部はフェイの末の妹カレンが通う学校であることは間違いない。


 ふんふん、と話を聞いていたフェイは最終的に「え」と声を出した。妙な声に注目が集まったのがわかる。

「いや、その、そう言うのはうちの両親に言ってほしいんですけど」

『それが、ご両親とも連絡がつかず……』

 出張にでも言っているのだろうか。フェイの両親は共働きだ。今どうしているかは知らないけど。フェイとカレンの間にももう一人妹はいるが、彼女はまだ高等学校生で、クラリネットを極めるのだ、と言って音楽学校に行ってしまった。

 そう言うわけで、フェイにかかってきたらしい。まあ、フェイなら機密情報局にかければ絶対いるしね。


「……わかりました。行きます」


 機密情報局がカレンの学校に近いので、断りづらかった。グッドウィン教師もほっとしたように『お待ちしております』と答えた。電話を切ったフェイは一同を見渡す。

「何の話だったんだ?」

 最初に電話をとったハリソンが尋ねた。フェイは答えず、六人を順番に見る。一人一人と目があい、最終的にフェイが選んだのは。

「ローレン。時間ある?」

「ないとは言わないけど」

「じゃあちょっと付き合って。連邦大付属中等部に行くわ」

「何それ。まあいいけどね。ちょっと待って」

 肩を竦め、ローレンは立ち上がる。重要なシステムをすべてロックし、彼女はジャケットを羽織り髪を束ね、帽子の中に突っ込んだ。さらに眼鏡をかける。

「……前から不思議だったんだけど、なんであんた、外出る時変装すんの?」

「フェイ。私もね、自分の容姿が目立つという自覚くらいはあるんだよ」

「……そう言うところ、本当に腹立つ! それじゃあ行ってきます!」

 怒ったまま叫んだので、ハリソンやロデリックが少し引き気味だった。いつも通り見送ってくれたのはオスカーとアサギの二人である。


「なんで私を連れて行くことにしたの?」


 車の助手席に乗り込みながら、ローレンが尋ねた。フェイは運転席に座りエンジンをかけながら言う。

「妹のカレンが、学校で暴力沙汰を起こしたらしいわ。相手の子が怪我をしているから、保護者を呼ぼうとしたけど、両親ともつながらなかったんだって」

「ほう」

「で、あたしも冷静に話せるかわからないから、一人連れて行こうと思ったんだけど、まあ、消去法でローレンが一番かなって」

「……まあ、納得したということにしておくわ」

 ローレンが苦笑気味に言った。フェイはアクセルを踏み込み、車を発進させた。


 本当に消去法だった。まず、何があっても冷静に対応してくれる、という点でハリソンとクリスティーナ、ロデリックは除外される。残ったオスカー、ローレン、アサギの中で、一番腕っぷしが強いのがローレン。しかも女子だ。なんだかんだで、彼女は使い勝手がいいのである。言い方が悪いけど。

 十五分ほど車を走らせ、目的地に到着する。中等部側の事務所で手続きをして来客証をもらう。それを首から下げ、フェイはローレンと連れ立って職員室に向かった。


「すみません。カレン・シャムロックの姉のフェイと言いますが」


 声をかけると、すぐに一人の男性教師が立ち上がった。ほっとしたような顔をしている。

「ああ、お待ちしていました。カレンさんの担任で、グッドウィンと申します。どうぞ、こちらへ……」

 と言い、グッドウィンはローレンに目をとめた。

「失礼ですが、こちらの方は?」

「連れです。一人では心細くて」

 と、フェイは適当なことを言う。ローレンがニコリと微笑んだ。笑ってはぐらかすつもりなのだろう。

「そうですか……申し訳ありませんが、お連れさんにはここで待っていていただいてよろしいですか」

「私は構いません」

 ローレンは快諾すると、フェイに向かってひらひらと手を振った。少し腹立たしいものを感じつつ、フェイはつれられるままに職員室の隣の面談室に入った。


「なんであんたが来たの!」


 フェイを言見た瞬間、カレンがそう叫んでかみついた。カレンがフェイを避けていることはわかっていたので、本当はフェイが来るべきではなかったのだと思う。だが、グッドウィン教師は一応保護者であるフェイが到着してほっとしている様子だった。

「まあまあ、カレンさん落ち着いて。お姉さんも来たことですし、話しあいましょう」

「話し合うことなんてありません!」

 カレンはぷいっと顔をそらして言った。一応椅子には座ったが、取りつく島もないその言葉にグッドウィン教師は困惑した表情を浮かべた。ここは、フェイが燃料を投下してとりあえず口を割らせるべきだろうか。やっぱりハリソンを連れてくればよかった、とちょっと思った。彼ならカレンの心情を察してくれるのに。

「あたしのところには、カレンが同級生に暴力を振るったって知らせが来たんだけど」

「ちょ、お姉さん」

 空気を読まない言葉に、グッドウィン教師は焦ったようにフェイに囁いた。カレンは狙い通り、かちんと来たようだ。

「姉さんのせいよ! あっちが先に手を出してきたんだから! そしたらなんて言ったと思う!? 犯罪者の妹のくせに、ですって!! 姉さんのせいよ! 姉さんがあんなことするから!」

「……」

 フェイはため息をついた。やはり、原因はフェイらしい。


 フェイが行ったことで、家族に迷惑をかけるであろうことはわかっていた。特に、子供の場合は学校でのいじめに発展するだろうことも。特に、カレンは上の妹アリスと比べても気が強い。

「なのになんであんたが来るわけ!? 人の人生めちゃくちゃにしたくせに、姉さん面して学校にまで来ないでよ!!」

 フェイはため息をつきたいのをぐっとこらえた。カレンの言うことは、わかる。フェイが彼女の立場でも同じように怒っただろう。カレンが興奮してきたので、フェイは緩和剤を投入することにした。


「先生、外にいる私の連れを連れてきてもいいですか」


 つまりはローレンのことである。冷静な彼女がいれば、こちらも感情的にならずに済む、という考えだった。一応グッドウィン教師が許可してくれたので、カレンは嫌そうだったがフェイは一度相談室を出た。

「ローレン。……あんた、何やってんの」

「ああ、フェイ。話は終わったの?」

 ローレンは、中等部の生徒たちと何やら楽しげにやり取りをしていた。スマホを出しているので、連絡先の交換でもしていたのだろうか。なじみ過ぎである。

「……悪いけど、ちょっと間に入ってくれない?」

「いいわよ。付き添いで終わりかと思ったよ」

 ローレンは快諾して、話をしていた生徒たちと手をふってわかれた。相談室に一緒に入る。一応、廊下にいる間は帽子も眼鏡もしていたが、相談室に入ってから取った。

「あたしの……えっと、同僚のローレンよ」

「初めまして、カレンちゃん」

 ローレンがニコリと笑って挨拶をする。カレンは美人過ぎるローレンを見てあっけにとられたようだ。これだけでカレンを冷静にさせることができた。どちらかというと、思考停止かもしれないけど。

「……カレン・シャムロックです」

 とりあえず、カレンは名乗ることにしたようだ。名乗られたローレンは、同じように名乗る。


「私はローレン・リドリー。よろしくね。ちなみに女だよ」


 たまに聞かれるから、とローレンは先に暴露した。彼女の性格や外見、好む格好もあって、彼女はたまに男に間違われることがあるのだ。

「まあ、私のことは気にせず話は続けてね」

 ローレンが気安く言う。とりあえず、双方が冷静になるという目的は果たせたので、話を続けることにした。








ここまでお読みいただき、ありがとうございます。



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