なんでもない幸せがほしい【2】
なぜか前回投稿時間が間違ってる笑
私は基本的に午前7時に投稿しています。
フェイはローレンの部屋の衣装棚を物色し、本日の気候に合った服を見つくろう。腹立たしいことに、ローレンは美人なので何を着ても似合う。しかし、適当に着せるのはフェイの感性に反するので、彼女に一番似合うであろう服を引っ張り出す。
着替えたローレンと共にフェイ、クリスティーナが向かったのは、フランクの妻エレオノーラが勤めているパティスリーだった。軽食も出しているし、エレオノーラのところならハリソンやフランクも安心だろうと思ったのだ。
「はい、お待たせ」
頼んだサンドイッチやサラダ、スープを運んできたのはエレオノーラだった。彼女は、そのまま空いている椅子に座る。どうやら、このまま話を聞くらしい。
「ハリソンに聞いたけど、あんたがそれくらいでうろたえるなんてね」
「……」
フェイが声をかけても、ローレンは黙ってサラダを咀嚼しているだけだ。クリスティーナがおどおどとフェイとローレンを見比べている。
「あんたなら反撃しそうなもんだけどね。身長体格で負けてても、あんたの方が強いでしょ」
体格で勝るフランクに剣術、体術で迫る勢いのローレンだ。細いアサギに負けるはずはない。まあ、そう言う問題ではないのはフェイにもわかっているけど。
「っていうかあれよね。悲鳴を上げたってわりには、どっちかっていうと機嫌悪いわよね」
「……」
駄目だ。ローレン、かたくなである。これは直球で行ってみるか。
「何よ~。あんた、アサギと仲いいでしょ。キスくらいされてあげなさいよ」
「……じゃあ、フェイがされればいいでしょ」
「なんであたしなのよ。アサギにとってはあんたじゃないと意味ないでしょ」
フェイが切りこんでいくと、ローレンが顔を俯けた。これは怒っている感じではない。どちらかと言うと、照れているのでは?
「何が不満なのよ。いいじゃない。美男美女でお似合いよ。年下なのが嫌なの?」
次々とローレンに話しかける。彼女はパッと顔をあげたが、その顔は赤かった。
「だけど、ずっと弟みたいに思ってたんだよ!」
と言うのがローレンの反論である。いや、言い訳になってないし。ハリソンも言っていたが、意外と乙女なローレンである。
「弟みたいに、ってことは、本当の弟じゃないってわかってたってことでしょ。そりゃあ、いきなり押し倒したアサギが悪いけれど、あんたがそんなに動揺したのはなぜかしらね~」
「……」
フェイのからかいとも取れる言葉に、ローレンは視線を逸らした。うん。同性のフェイから見ても今のローレンは可愛い。アサギはローレンのこういうところに惚れたのだろうか。
「ま、落ち着いたらアサギと話し合いなさいよ」
もちろん、誰かが同席の上でだけど。それにしても、アサギ、いつかやるとは思ったけど本当にやりやがったという感じだ。
エレオノーラがガトーを出してくれる。フェイとローレンはコーヒーを、クリスティーナは紅茶をもらい、それぞれ口をつける。
「そう言えば、エレオノーラさんとフランクはどうやって出会ったの?」
フェイが機密情報局に来たとき、すでにフランクとエレオノーラは結婚していた。結婚自体は二年ちょっと前なのでローレンとクリスティーナは成り行きを知っているはずだ。
「うふふ。フランクはね、私が困っているところを助けてくれたの」
エレオノーラから語られる出会いはとても普通だった。限りなく普通だった。あのフランクがこんなベタな出会いで結婚したとは!
「ローレン、犯罪だーって言ってフランクを殴っていたわね」
「……フランク、まだ根に持ってるよね」
「今頃、アサギもフランクに殴られているかもしれないわね」
「……」
エレオノーラ、いくらおっとりしていても、さすがはフランクと結婚しただけはあると思った。まあ、なんだかんだでフランクはローレンを娘のようにかわいがっているから、アサギを殴っている可能性はある。
「……アサギって、意外と気が強いし、押しも強いですよねぇ」
クリスティーナがそんなことを言った。そう言う彼女は、意外と図太い。
フェイのスマホが着信音を立てる。ハリソンからだ。
「はーい」
その場で電話に出る。なんにしろ、アサギとローレンの話だろうからだ。
『おう、朝から迷惑かけたな。朝食代はアサギに請求しろ』
ハリソンの言葉に、彼の後ろから「ちょっと」という声が聞こえた。アサギだろう。
『ひとまず、ローレン連れて戻ってきてくれるか?』
「了解」
『悪い。頼む』
電話を切り、フェイはローレンに言った。
「ハリソンが戻って来いってさ。説教、終わったのかしらね?」
「……」
ローレンは少し顔をしかめたが、素直に立ち上がる。クリスティーナも立ち上がり、ぺとりとローレンにくっついた。励ましているつもりなのだろうか。なんだか可愛い。
フェイは代金を本当にアサギに付けて店を出た。ローレンとクリスティーナは「いいの?」と言う表情をしていたが、結局何も言わなかった。
官舎に戻ると、部屋の中にはフランクもまだいた。もちろん、ハリソンとアサギもいる。ローレンがフェイの後ろからアサギを見ている。フェイの方が背が高いのでうまい具合に隠れられている。
「ローレン」
フランクがローレンを手招きする。だか、彼女はフランクではなくハリソンの後ろに隠れた。その様子が妙にリアルでアサギが舌打ちした。
「お前、好きな女の前でくらい取り繕えよ」
「……取り繕っても仕方がないでしょ」
アサギが澄まして言った。悪びれないな、この男は。背はだいぶ高くなったがまだほっそり少年の面影を残しているアサギは、見た目に寄らず男前だ。いや、今回はちょっと違うのか?
一方のフランクは自分よりハリソンが選ばれてさりげなくショックだった様子。ため息をついた。ハリソンは無駄に心的ダメージを受けている。なんだかんだでローレンはハリソンを慕っている。その慕っているは、『兄のように』慕っているのだが。
それはともかく。
「ローレン。とりあえずお前は引っ越しだ」
むしろ今まで何故その提案が出てこなかったのか。ハリソン十八歳、ローレン十七歳、アサギ十五歳で何も問題が起きないと思ったのだろうか。いや、今まで起きなかったし、唯一の女子であるローレンがさばさばしていて、三人の中で一番強い、と言うのが効いていたのだろう。
「で、代わりにマイケルをここに入れる」
「げっ」
ハリソンとアサギの声がだぶった。二人とも、あのわがまま少年と一緒に暮らすのは、さすがの二人も勘弁らしかった。
「……まあ、ローレンを引き離すのは賛成だけど、俺らだけであいつの面倒見れると思う?」
ハリソンが逃げ腰である。ローレン、アサギに続き、マイケルという問題児の世話をすることになる彼にははっきり言ってちょっと同情した。
「マイケルはお前には懐いてんだろ。アサギが厳しいから、いいバランスだ」
フランクがそう言った。確かに、アサギはちょっとサディストが入っていると思う。
「とりあえず、ローレンはフェイたちと同じ寮に入れる。明後日までに引っ越し終えておけよ」
「マジでか」
ローレンは顔をしかめた。確かに、三日で引っ越しと言うのは結構きつい。
「あと、アサギとローレンはちゃんと話し合えよ。ハリソンとフェイが同席する」
「ええっ」
今度はハリソンとフェイの声が上がった。何か巻き込まれてる。
「……ケイシーさんじゃダメか」
ハリソンの代案に、「家族に聞かせられる話じゃねーだろ」とまともなツッコミ。もう少しこじれていれば家族に入ってもらうのだが、これはまだローレンとアサギの間の問題にとどまっている。
「まあ、今日明日くらいは兄貴のところに行ってもいいぞ。外泊許可取ってやる」
「……」
ローレンは出張以外でなかなか外泊許可が出ない。だからか、ちょっと嬉しそうで、そんな彼女を見たアサギがフランクを睨んでいた。
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