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正しい力の使い方【9】









 ハリソンの正確な狙撃が敵を撃ち落としていく。それを船の外に叩き出すのがロデリックの主な仕事だ。叩き出せずに船に乗り込んできたやつらは、ローレンによって叩きのめされる、と言う寸法である。

 降下してきたのは十五人ほどであるが、その半数近くを途中で叩き落したため、実際に乗船したのは七人ほどである。その全員が、ローレンによって倒されている。


「この様子なら、中の方が混乱しているかもね」


 ローレンは気絶させた降下要員たちを海に落としながら言った。海に落とす、と言っても、船の近くではスクリューに巻き込まれるため、ロデリックの念動力と、ローレンの物理法則干渉を使って少し離れたところに落としていた。たぶん、あとで回収してくれるだろう。

「まさか本当に力技で来るとは」

「いや、まだこちらが陽動の可能性も捨てきれない」

 ローレンが冷静に言った。その時、背後でばん! 音が聞こえた。誰かが船の落下防止柵にぶつかったらしい。ロデリックとローレンはほぼ同時に振り返る。


「ローレン!」


 ハリソンの声が飛んできた。それとほぼ同時にロデリックはローレンに足払いをかけられて、床に沈んだ。二人の上を銃弾が通過した。いや、今ローレンが反応しなければロデリックは完全に撃たれていた。念動力で防ぐことはできるが、たぶん、反応が間に合わなかっただろう。


「うわぁぁああん!」


 叫び声を聞いた。女性の叫び声だ。見間違いでなければアメリアと、青い宝石のようなものが同時に海に投げ捨てられていた。ローレンが先に動く。

「ローレン!」

 声をあげてからロデリックも立ち上がり、ためらわずに船の外に身を投げたローレンを追った。彼女がつかんだのは、アメリアの手だった。ローレンは身をひねり、アメリアを抱え込むと、頭から海に落下した。能力を使って落下を止めるよりも、スクリューに巻き込まれないように力を使いながら、海に落ちてしまう方が安全だと判断したのだろう。すぐにその海域を離れて行くシルバーウイング。ロデリックは船尾の方に移動して目を凝らし、ローレンとアメリアが海面に浮かび上がってきたのを確認した。

 とりあえず無事であるようだ。救出に向かいたいが、今、ロデリックが船を離れても大丈夫だろうか。

「ロデリック!」

 甲板に出てきたのはアサギだった。船尾にいるロデリックに駆け寄ってくる。

「ローレンたちは?」

「あそこ」

 ロデリックは既に見えなくなったあたりを指さす。たぶん、ローレン一人なら追いついてくるだろうが、アメリアを抱えてでは難しいだろう。

「俺、引き上げに行った方がいいか?」

「そうだね。中は大丈夫だよ。制圧したから。船は止めないから、頑張って追いついてきてね」

「……そうか」

 相変わらず冷静にしれっと言ってのけたアサギに、ロデリックは眉をピクリと動かした。だが、とりあえず女の子二人を引き揚げる方が先だ。いや、片方については全く心配していないけど。


 ロデリックは先ほどのローレンのように船から身を投げると、海面にたたきつけられる前に体を念動力で支えた。背後から、「気を付けてねー」というアサギの声が聞こえてくる。

 ロデリックは海面すれすれを飛ぶように移動する。念動力はうまく使用すれば飛ぶように移動できる。強い念動力と、コントロールが必要であるが、ロデリックも訓練すればできるようになったので、実はそれほど難しくないのかもしれない。

 それはともかく、十分ほどの移動でロデリックはローレンとアメリアの元にたどり着いた。ローレンは、海面を自分の能力で固定し、その上に気絶したアメリアを寝かせている。自分は上着を脱いでそれを絞っていた。髪までずぶ濡れである。

「お待たせ」

「それほどでもないな。船は大丈夫なのか?」

「一応、アサギに送り出されてきたんだが……」

 そう言うと、ローレンはあっさりと「なら大丈夫だな」と請け負った。アサギに対する信頼感が半端ない。

「ロデリック。悪いけど、アメリアを背負ってくれる? 私では背負えなくて」

「言われると思ったよ」

 ロデリックは背を向けてアメリアを背中に乗せてもらう。ローレンの筋力では、どう考えても人ひとりを運ぶことができない。いや、雑に運ぶことはできるだろうが、アメリアをそんな扱いできない。


 ロデリックの念動力と、ローレンの能力は相性が良い。彼女がロデリックが力を使いやすいように周辺環境を整えてくれるので、かなり燃費が良い気がする。少なくとも、思ったより時間がかからずに船に追いついた。

「お疲れ~」

 手を振っていたのはアサギだった。ハリソンとフランクも覗き込んでいる。フランクがいると言うことは、中も大丈夫なのだろう。

 先に、アメリアを背負ったロデリックが引き上げられる。と言っても、自分の念動力で支え、さらに下からローレンが支えてくれているけど。フランクとハリソンに引っ張りあげられたあと、ローレンが自力で上がってきた。差しのべられたアサギの手に掴まり、柵を越えてくる。

「傷口開いてない?」

「もうひと月も経ってるんだよ。大丈夫」

 アサギの心配をローレンは一蹴した。いつもなら笑って言うので軽い感じだが、今日は仏頂面なので放っておいてくれ、と言わんばかりだ。見たところアサギは気を悪くした様子はないが、少し不満そうではある。

「とりあえず、フェイにお嬢さんを診てもらう。ローレン、お前も一応診察するから、先に着替えて来い」

「了解した」

 ローレンがくるりと身を翻す。フランクはアサギを見た。

「アサギ……いや、お前は駄目だな。ハリソン、ローレンを見ておいてくれ」

「はいはい」

 ハリソンは逆らわずにローレンを追って行く。アサギがあからさまに舌打ちした。

「なんで僕は駄目なんだよ」

「自分の胸に手を当ててよぉく考えてみろ」

 ちなみに、前科はないらしい。だが、正しくローレンの弟のようだったころとは違い、今のアサギはローレンより背が高い。さすがに戦闘力では比べるべくもないが、単純な力ではどうだろう。そろそろ、アサギはローレンを凌駕しつつあるのではないか。


 そう思うと、フランクがアサギとローレンを引き離すのは当然のことのように思えた。

「なんていうか、フランクって、お父さんみたいだよな」

 ロデリックが言うと、フランクは「こんなに生意気な息子はいらん」と半ば本気で言っていた。アメリアを抱え上げるフランクに続き、ロデリックは笑う。

 フランクは父、ハリソンは苦労性の兄、ローレンは自由な妹、アサギは小生意気な末っ子。そんな印象だったのに、それが崩れつつある。

 もしかしたら、ローレンはそれに気づいているのだろうか。彼女には、実の兄妹もいたが、こちらにも家族と呼べる存在がいる。クロックフォード、つまり、実の父を討ったことで実の家族が崩れつつあるかもしれないときに、こちらの家族にも変化が現れた。だから、不安定なのだろうか。


 ……考えすぎ?


 ひとまず、考えるのはやめた。ローレンのことは気になるが、自分自身のことではないので何とも言えないので。

「アサギ、膨れてないで行こう」

 すたすたと先に行ってしまうフランクとは逆に、アサギはじっとこちらを睨んでいる。ロデリックは振り返ってそう言った。すると、アサギは本当に膨れてしまった。

「別に膨れてないよ」

 まだまだ反応は子供っぽい。そのことに、何故か少し安心するロデリックだった。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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