正しい力の使い方【8】
ハリソンのテレパシーは、普段は制限されている。ローレンは手首にブレスレット型の制御装置を付けているが、ハリソンはネックレス型の制御装置を付けている。つまり、ハリソンの能力も普段は全開ではないのだ。ローレンの方が制限が厳しいので、忘れがちだが、精神感応能力を警戒するのは当然だろう。
ハリソンが全力を出せば、相手の考えが簡単に読めてしまう。相手の心が拒否していても、だ。しかし、制限がかかっている今は違う。相手の同意があるか、考えが表層に出てこなければ読み取れない。
そして、ハリソンが心を読むために使うのが、尋問と言う方法だ。もっと穏便に質問と言ってもいいが、質問と言うにはちょっと首をかしげたくなる方法でもある。
「さて。まず、お前の名前を教えてくれ」
命令口調で言われると腹が立つが、それでも、人間と言うのは問われたことを反射的に考えてしまうことが多い。そうすると、ハリソンに読み取られる、と言うわけだ。時々、それでも読み取らせないローレンのような人もいるらしいが、そのタイプは珍しいらしい。
ちょっとじれったくなるくらいの時間をかけて、ハリソンは青年を尋問した。途中で飽きてきたのか、アサギとクリスティーナはおしゃべりをしていた。この二人も、なんだかんだと仲が良い。
ハリソンが尋問を終えると、青年は解放された。逃げるように走り去っていく彼は、たぶん、そのまま自分の船室に引きこもるのだろう。そして、次の寄港地で降りると見た。まあ、その寄港地に到着できるかも怪しいけど。
ハリソンが聞きだしたところによると、青年は、自分に依頼してきた相手の顔も名前も本当に知らなかったとのことだ。ただ、声から男だろうとだけ思われる。そして、送り出した情報の中身も知らない。
時間をかけて聞きだしたわりには、あまり情報は得られなかったが、青年の記憶によると、彼に依頼してきた男(仮)は、船員らしき人物とやりとりをしていたらしい。と言うことは、船員の中にも敵がいるのかもしれない。
「アサギ、どう思う」
オーガスタスが話しを振ったのはアサギだった。たいていの場合はローレンに振られるのだが、あまり情報がないこの状況では、予知能力のあるアサギの方が適任であろう。
「……まあ、僕だってはっきりとわかるわけじゃないし……でも、戦闘準備はしておいた方がいいと思う。順調に行けば、明日にはフレイドルに着く予定だ。今日が駄目だったなら、明日、力技で来るだろう。と、思う」
あり得そうだと思った。穏便に行かなかったのなら、力技で来るのは道理だ。
「なるほど。一理ある。フランク、ローレン、クリス。前衛を頼む」
「了解」
フランクと少女二人もうなずいた。さらに後衛にシャーリーとハリソン、それにロデリックだ。ハリソンなんかは「俺、いる?」とか言っていたが、いらなくはないだろう。それよりも、退院したばかりのローレンを戦わせていいのだろうか。
その日はそのまま解散となった。四人部屋の二等船室に戻ると、ハリソンが言った。
「何か釈然としねぇな。船に爆弾はない。大金を用意しろ、と言ったわりにはその後音沙汰もない。ただの嫌がらせか?」
「そんなことはないと思うけど。なあ」
とオスカーがアサギとロデリックに話をふる。アサギがスルーしたのでロデリックが「さあ?」と首をかしげた。
「……まあ、何かあるよりない方がいいじゃん」
アサギ、今夜もクールだ。端末で何やら作業をしている。こうしてみると、かわいらしいのは相変わらずだが、ずいぶん大人びたなぁと思う。ロデリックが機密情報局に来てからまだ半年であるが、こんなに成長を見ることになるとは思わなかった。
「……何」
アサギが不審げにロデリックを見る。ロデリックは「何でもない」と首を左右に振る。
「ただ、初めて会った時よりも大人びたなと思っただけだ」
「……まあ、成長期だしね」
アサギが何とも言えない表情を浮かべてそう返した。ロデリックは「そうだな」と笑う。少し成長期が遅い気もするが、まあ人それぞれだ。
「昔はこんなに小さかったのにな」
と、ハリソンが一メートルくらいを示す。いや、さすがにそれはないのではないだろうか。アサギも「そんなわけないだろ」と突っ込みを入れているし。
「ま、私たちは成長がわかるくらいの時を一緒に過ごしていると言うことだな」
とオスカーが集約する。まあ、その通りである。
「とにかく、何事もなければ明日はフレイドルに到着。何かあったら戦闘だから、今のうちに休んでおこう」
オスカーはそう言うと自分が使っているベッドに横たわった。この部屋はベッドが横に四つ並んでいる。寝台列車のように二段ベッド式ではないのだな、とロデリックはひそかに思った。
「確かにな。じゃ、お休み」
ハリソンも割り切って横たわる。ロデリックはアサギと目を見合わせ。
「お休み」
「あ、ああ。お休み」
アサギにも言われ、ロデリックもちょっと戸惑いながら寝ることにした。
△
翌朝も快晴であった。良い天気であるが、ロデリックたちは朝から戦闘待機である。豪華客船にこんなにピリピリしながら乗ることになるとは。
しかし、その侵略は静かなもので、初めは気づかなかった。
「……!」
一緒にいたクリスティーナがびくっと反応する。ロデリックが「どうした」と問いながら彼女を見て、その視線の先を見た。しばらく見ているとわかった。ロデリックは船べりに預けていた体を起こす。
「クリス!」
「はいっ」
ロデリックの声に、クリスティーナが反応した。静かに次々と甲板にいた乗船客を片づけていた男たちにクリスティーナが襲いかかった。と言っても、手ぶらなので力任せに引き離しているだけだ。
クリスティーナたちの反応で、逆に乗客たちは騒ぎに気付いたらしく、徐々に混乱が広がり始めた。まずいな、と思った瞬間、ハープの音色のような音が頭の中に響いた。何故かちょっと落ち着いた気がする。見ると、騒いでいた乗客たちも不思議そうに首をかしげていた。
「順番に、中に入ってくださぁい」
クリスティーナが指示を出している。それをぼんやりと眺めていたロデリックに、頭上から「おぅい」と声がかかった。見上げると、上のバルコニーからローレンが顔を出していた。
「ローレン?」
「おう。今のはハリソンの精神干渉能力な。警告する暇がなかったから、ロデリック、もろに食らったと思うけど、大丈夫?」
「……一応は」
無駄に気分が穏やかであるが、ひとまずは平気だ。あとで聞いたところによると、対魔法能力装置として付けさせられたネックレスの効力が多少効いていたらしい。そして、クリスティーナにはもともと精神干渉が効かない。
「それは何より。クリスにはそのまま乗客たちと中に入れって伝えて。フランクが指示を出してくれる。私とロデリック、それにハリソンは外で敵さんを迎撃だとさ」
言われてみれば、ローレンの手には一メートルほどの棒が握られている。彼女の本分は日本刀を駆使する殺人術であるが、基礎的な身体能力の高い彼女だ。習えば大体の武器は使用できるのだろう。銃は除くが。
「もうどこからつっこめばいいかわからないけど、ローレン、体は大丈夫なの」
一応、心配してみる。だが、思った通り「平気」との回答が返ってきた。まあ、そう言うだろうと思った。たぶん、フェイから無理は禁物、と言われているだろうが、クロックフォード戦をした時よりはだいぶマシらしい。
「で、敵は?」
「あそこ」
とローレンが海の方を指さす。
「……何あれ。ヘリ?」
「だね。たぶん、人が降下してくるからできるだけ海に叩き落としてよね」
ローレンがしれっと言った。しかも結構容赦ない。いや、今更か。
「と言うか、なんで俺達だけなの」
「空中戦が可能なのが私とロデリックだけだから」
なるほどね! ハリソンは建物内では真価を発揮できない。消去法か!
中では中で騒動が起こるだろうが、ロデリックはひとまず忘れることにした。フランクとクリスティーナとシャーリーがいる。大丈夫。たぶん!
「ほら、来るよ」
ローレンが器用にバルコニーの手すりの上に立つ。ロデリックは今まさに降下してきた敵たちに念動力をたたきつけた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
そろそろ第8章も終了です。




