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正しい力の使い方【6】









 翌日、ハリソンとローレンが茶髪の少女と話しているのを見た。仕立てのよさそうなワンピースを着たその少女が、世界的企業グループのお嬢様、アメリア・デネットらしい。年はローレンと同じで十七歳。同じ十七歳でもこれだけ違うのか、とちょっと思ってしまったのは内緒だ。

 甲板デッキからバルコニーを見上げていたロデリックはローレンと目があった。アメリアがハリソンと話をしているので、彼女は待機モードだったらしい。

 二、三秒こちらを見つめた後、ローレンは目をそらしてアメリアに話しかけた。ややあって三人の姿が船内に消えた。


「ロデリック?」


 息を吐いたロデリックに、クリスティーナが首をかしげる。この二人は現在、緊急対応要員だ。要するに、何も起こらなければ暇なのである。

 オスカーは相変わらず乗員の確認をしているし、フェイは何故か医務室で船医の手伝いをしている。まあいいけど。アサギはローレンから引き継ぎ、積荷の確認だ。

 積荷って結局関係なかったのでは、と思わないでもなかったが、念のためすべて確認しておくそうだ。

「いや……俺たち、戦力外だなって思って」

「……そうですね……」

 二人とも、どうしても能力が戦闘よりなのである。仕方がない、と言えばそれまでなのだけど。一応、プログラムなどの勉強はしているが、ローレンどころかアサギにも及ばないと言うこの現状。天才って本当にいるんだなぁ、と思った。


「ロデリック、クリス」


 声がかけられてそちらを見る。別に飛びぬけて背が高いわけでもないのにその存在がわかるローレンが近づいてきていた。

「あ、ローレン……と」

 彼女の背後にハリソンと、アメリアの姿がある。

「二人とも、紹介する。アメリアだ。アメリア、私たちの同僚のロデリックとクリスティーナ」

「初めまして。アメリア・デネットと言います」

 ローレンからざっくりとした紹介をされたアメリアは、にこっと笑って手を差し出した。握手か。

「……ロデリック・リーです」

「く、クリスティーナ・ワーズワース……です……」

 ロデリックに続いてクリスティーナもアメリアの手を握った。人見知りと言うより対人恐怖症気味のクリスティーナはおどおどとしていたが、アメリアは気にした様子もなく朗らかに笑っている。

「ローレンが同僚も私と同じくらいの年だからって。お友達になってもらえるとうれしいわ」

 と言ったアメリアに、ロデリックは無難に「自分で良ければ」と答えるが、クリスティーナはちらっとローレンを見ていた。まあ、言いたいことはわかる。友達になった後に戦闘を見たら、完全に引かれるだろうなぁ、と言うことだろう。


 結局、五人で飲み物を飲みながらおしゃべりをした。クリスティーナは完全に戦力外であったが、いることに意義があるのだろうと思っておく。ローレンはローレンで自称詐欺師なので、こういうことは得意らしい。そつなく会話をしていた。ハリソンは相変わらずのツッコミだ。

 結局昼食まで一緒にとり、それから四人はアメリアと別れて作戦会議である。集まるのはやはり、オーガスタスの一等船室。ちなみに、フランクと相部屋だ。でかくてむさくるしい、と局長様は文句を言っていたが、安全面を考えると仕方がない。


「これが乗客名簿だ。私が記憶した限りだから、もしかしたらぬけがあるかもしれないけど」

「オスカーの記憶力に関しては信頼してるから大丈夫」


 ローレンがきっぱりと言った。偽名などを使われていたらどうしようもないが、そうでもなければオスカーの記憶が間違っているはずがない。


「積荷も調べたけど、正常の範囲内。まあ、爆弾を作る材料がすべてそろっていることと、劇薬をいくつか確認した。それから、インテリアとしていくつか刃物が乗せられてるね」


 わざわざアサギが報告すると言うことは、武器としても使用できるのだろう。物騒なものを積んでいるものだ。


「薬を確認してきたわ。酒は、医療用のアルコールは確認してきたけど、バーとかにある酒は確認できなかったわ」


 フェイが言った。法律上、十八歳から飲酒ができるが、この客船は様々な国家の人物が集う。飲酒可能年齢が二十歳である国も多いので、十九歳のフェイは断られたらしい。


 集まった情報を元に、対策を練る必要があるが、対策のしようがあるのだろうか。とりあえず、ローレンが乗客名簿の写しを見て言った。

「偽名が何人かいるな」

「ああ、やっぱり?」

 オスカーも気づいていたらしく、苦笑を浮かべた。飛行機ほど搭乗手続きが厳しくないので、こういう事例も発生するらしい。


「……とりあえず、今日の夜、春の間でパーティーが開かれる。そちらに赴く者、それと、人が減った船内を見回るものに分けよう」


 割と合理的な提案をしたのはオーガスタスである。もちろん、彼はパーティーの出席する側だ。となれば、護衛はフランクだろう。

「あとは、ハリソン、オスカー、ローレンだな」

「ちょっと戦力過剰じゃね」

 ハリソンがつっこんだがフランクはどこ吹く風で無視した。しゅんとしたハリソンの肩を、アサギが軽くたたいた。

「確かこの船には衣装室があったな。ローレン、そこで化けて来い」

「……言い方は引っかかるけど、了解した」

 オーガスタスの言いようにさすがのローレンも引っ掛かりを覚えたらしい。


 船内を見回る方に分けられたロデリックは、最年長のシャーリーの指揮下に入った。と言っても、やはり考えるのはアサギだった。

「ま、僕らがするのは不審者を探すことだよね。酔っぱらいも多いだろうから、不審者と言ってもすぐに見つからないかもしれないけど」

 アサギ、相変わらず辛辣である。でもまあ、その通りだ。いつもと違う空間、というのも羽目を外す原因になったりする。


「どーよ。自信作」


 夕刻、そう言ってドヤ顔をするフェイの隣でローレンの眼は死んでいた。気持ちはわからないではない。

 ウィッグだかエクステだかわからないが、現在ショートカットに近いローレンの髪が伸びている。やや濃いめだが、金髪であるローレンの髪色にあうウィッグを探すのは難しくなかっただろう。

 紅のドレスがローレンを大人びて見せている。胸の下に切り替えがあり、スカートにはスリットが入っている。フェイほど背は高くないが、スタイルがいいのでよく似合っている。というか、基本的に彼女は何を着ても似合う。いや、いつぞや遊びで来ていた少女趣味の服は似合っていなかった。


「……似合っていると思うが」


 ロデリックは絞り出すように言った。似合っているが、ローレンの表情が死んでいるのがすごく気になる。

「当たり前よ。あたしが見立てたんだからね」

 あ、やっぱり、と思った。フェイがローレンを飾りたてたらしい。ローレンは何がそんなに不満なのかと言うと。

「動きづらい」

 とのことだった。確かに、スカートが足にまとわりついて動きづらそうではある。

「ちなみに、ほら」

 フェイが勝手にローレンのスカートのスリットをめくる。さしものローレンも「ちょっと」と苦言を呈する。太ももに拳銃が仕込まれていた。

「スパイ映画とかであるやつだな」

「……ローレン、拳銃撃てるの」

 アサギが不思議そうに言った。そう言えば、以前、ローレンは銃が撃てないと聞いたことがある。正確には、撃っても当たらないのだが。


「大丈夫。威嚇用の空砲だから」


 とフェイはあっさりネタバレした。まあ、ローレンだし、いいか。

「とりあえず……」

 クリスティーナがすっとスマホを取り出した。

「写真撮りませんか」

 その顔が妙に真剣だったのでちょっとおかしかったロデリックである。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


最後の方のローレンの格好、10年前にやっていたガ◯ダムの紫色の人を思い出す。


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