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その少年、【5】










 ロデリックが機密情報局に連れてこられたのは年が明けてしばらくしたころだった。それからひと月ほどたち、ようやく、ロデリックは機密情報局特殊事例課第三班研究所所属の最後の一人に遭遇した。


「……誰?」


 ロデリックが研究所兼事務室に入ると、その少年はいた。いや、少年だと思う。かわいらしい顔立ちをしているが……ボーイッシュな少女である可能性も捨てきれないけど!

 亜麻色の髪に大きな菫色の瞳をしたかわいらしい子だ。座っているが、見た感じ華奢だが、まだ十代前半くらいだろうし、顔や体格、下手したら声でも性別を判断できない。


「もしかして、アサギか?」

「そうだけど……。あ、新しい人?」

「ロデリック・リーだ。よろしく」

「アサギ・ノースブルック。よろしく」


 そっけなかった。クリスティーナも素っ気なかったが、彼女は人見知りが関係しているのだろうと思うが、アサギは本当に「興味ありません」という感じなのだ。

「……えっと。他のみんなは?」

「フェイは病院。ハリソンとローレンは家の前で上司に拉致られていった。オスカーはさっき呼び出されて、クリスは今日、資格試験で午後まで来ないよ」

「そ、そうか」

 ツッコみたいところはいくつかあったが、ロデリックは気圧されて何も言えなかった。アサギがかたかたとパソコンのキーボードをたたく音だけが響く。実質、今日はオスカーも含めた三人だけになるらしい。


 居心地が悪い……と思いながら、ロデリックはコーヒーを片手に勉強を始めた。クリスティーナは何の試験を受けに行ったのだろうか。

 どれくらい経っただろうか。ロデリックが化学の問題集を三ページほど終えたころ、呼び出されていたというオスカーが戻ってきた。


「おう、ロデリックも来ていたか。おはよう」

「……おはよう」


 ちょっと変な気はしたが、挨拶としては間違っていないのでロデリックも同じように返した。オスカーはアサギの方を見て言う。

「ハリソンとローレンが拉致られていったやつだけどな、軍の方に訓練協力しているらしいぞ。ハリソンは護衛だと。ローレン、美人だからな」

「むしろ、ローレンの方が強いけどね。わかった」

「ま、二日くらいで戻ってくるってさ。お前も、目の前で拉致られてびっくりしたよなぁ」

「別に」

 やはり、アサギは素っ気なかった。自分にだけではないのだ、とロデリックは少し安心してしまった。

「それと、そうそう。ロデリック。お前のご家族が面会に来てるらしいぞ」

「は? カゾク?」

「なんで片言なんだよ。家族だよ家族。確かに私たちは家族と引き離されるが、全く会えないわけではないんだぞ」

 オスカーが言うように、ロデリックはこの機密情報局に身柄を引き取られて以降、国が管理する寮でほかの寮生と暮らしていた。理由は、能力を国が管理するため。今まで通り家族と暮らしていては、国が何かあった時に対処するのが難しいためである。その寮にはロデリックと同じような事情を抱えた人たちが一緒にくらしている。


 ちなみに、その寮にオスカーとハリソンはいない。二人は別に暮らしているらしい。

 家族から引き離され国に監視されてはいるが、家族と会うのは自由だ。呼ばれているということなので、ロデリックは早速面会場所となっている会議室に向かった。


「ああ! ロデリック!」


 母がロデリックの姿を見て彼に駆け寄り、抱きしめた。少し恥ずかしかったが、心配をかけたのだな、と思って甘んじて受けることにした。

「あなたが連れて行かれた時、もう一生会えないのかもしれないと覚悟したのよ!」

「……ごめん、母さん……」

 だが、断じてロデリックのせいではない、と思いたい。ロデリックにあれだけ強力な念動力があったのは本人にも想定外で、彼は子供を助けようとしただけなのだ。故意にやったわけではない。ちなみに、大破した車の運転手も後遺症なしで現在元気に生活しているらしい。

「とにかく、お前が元気そうでよかったよ」

 と、父。父は「兄さんと姉さんも驚いていたぞ」と付け加えた。ロデリックは三人兄弟の末っ子なのである。


「まあ、自分もびっくりしてるからな……」


 ロデリックはそう言って会議室のソファに座った。目の前のローテーブルにはコーヒーとクッキーが出されている。誰かが先に入って置いて行ったようだ。

「今は? どうしてるの? 困ったことはない? 高校もやめないといけないなんて」

 母がため息をついた。母親として当然の心配だろうが、その辺はロデリックもいまいち把握していなかった。それに、機密事項などは特に口止めされなかったが、どこまで話していいんだ? 下手なことは言わない方がいいだろう、と判断する。

「今のところは大丈夫。みんな親切だし。寮生活も悪くない。高校は残念だけど、高校卒業資格を取ろうかなと思って」


 そもそも、高等教育をあと半年のところまで修めているのだ。それほど難しい話ではない。母は「そうなの」と言いながらも、息子が『普通とは違う』道を進まなければならないことに不満らしい。ロデリックも不満である。不満であるが、最近慣れてきたような気がする。

「まあ、ロデリックがうまくやっているなら、私たちに言うことはない。お前の人生だからな……」

 父は物わかりが良いように見せて、突き放しているような気がする。おそらく、思ったより強い能力を持ったロデリックを持て余しているのだろう。このまま国が預かってくれるのなら、その方がいいと思っているのかもしれない。


 ……ロデリックは、今一緒にいる第三班の者たちの気持ちが少しわかった気がした。


 両親との面会を終えて研究所兼事務室に戻ってくると、人数が増えていた。病院に行っていたフェイが戻ってきた。

「あら、お帰りロデリック」

「ああ……フェイも来たのか」

「ええ。人数が少ないって聞いたから」

 クリスティーナ、ハリソン、ローレンの三人がいないと聞いてやってきたらしい。オスカーも「おかえり」と出迎えてくれたが、アサギはわれ関せずとばかりにパソコンに向かっていた。一応、振り返ってくれたので目はあったけど。

「ご両親が来ていたんですってね。どうだった?」

 フェイが遠慮なく尋ねてくる。ロデリックは少し、顔をしかめた。


「……腫れ物に触るようだった」


 以前と同じように接しようと努力しているのはわかったが、明らかに態度が不自然だった。

「まあ、そんなものよ。あたしの家族もそんな感じだったわ。あたしの場合は怒られたけどね」

「フェイは生きたまま解剖と言うショッキングなことをやらかしたからなぁ」

「まあそうなんだけど」

 オスカーのツッコミに、フェイは肩を竦め「そうやって家族と疎遠になっていくのよね」と言った。やはり、みんな家族とは疎遠になっているのだろう。


 人々に理解されない。してもらえない。あんなに仲の良かった家族にさえ。そんな孤独を抱えながら、オスカーやフェイたちは日々を過ごしている。

「覚悟はしていたつもりだが、実際に対面するとショックなものだな……」

「あたし、『それはこっちのセリフよ!』なんて妹にいわれたわねぇ」

 フェイが懐かしそうに言った。オスカーが声をあげて笑った。

「ま、そう言われるだけましなんじゃないの? 私は母親に『せいせいした』なんて言われたからなぁ」

 どうやら、オスカーは元から母親と折り合いが悪かったらしい。笑って言える彼は結構肝が据わっている。こんなところにいれば、当然かもしれないけど。


「あ、クリスからメール。試験終わったって」


 突然会話に加わってきたアサギがスマホを確認して言った。オスカーが「じゃあ、しばらくしたら戻ってくるな」と言った。ロデリックはふと思って尋ねる。

「そう言えば、クリスは何の試験を受けに行ったんだ?」

「高等教育一年レベル資格試験、国語だな」

 オスカーにそう言われ、ロデリックは「なるほど」とうなずいた。クリスティーナもいつも勉学にいそしんでいるので、さもありなん、と思った。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


みんな、家族なか悪そうだなぁって思う。


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