正しい力の使い方【3】
翌朝、ロデリックが本部の屋上まで上がると、すでにヘリは待機していた。
「よう」
聞き覚えのある声で呼びかけられ、振り返ったのだが、その人が一瞬誰かわからなかった。
「……ああ、ローレンか。久しぶりだな。怪我は大丈夫なのか?」
「おかげさまで」
なんだかテンションが低い。ロデリックの知るローレンは、どこか達観したところがあるテンションの高い少女だ。それも表面的なものでしかないのだろうが、今までの彼女と違うことはわかる。
ひとまずそれには触れず、間まで通りに接すると決め、それから尋ねた。
「お前、眼鏡なんてしてたっけ」
「してなかったね」
「……視力さがったの」
「そんなとこね」
あとで詳しく聞いたところによると、どちらかと言うと目を保護する目的が強いらしいが、視力が下がったのも確からしい。正確には、左右の目で視力に差が出た。
ついでに言えば、ローレンの髪も少し長めのショートカットヘアのようになっているが、これは事前に聞いていたのでツッコまなかった。見なれないので、一瞬誰かわからなかったけど。
髪を切っても彼女は美人だ。理不尽だ。髪を短くしたことで、中性的な印象が増している。眼鏡も相乗効果か。本当に理不尽だ。
「あ、ローレンだ」
やってきたのはアサギとクリスティーナだ。時計を確認すると、九時十分前である。時間通りだ。
「久しぶり、ローレン。似合ってるよ」
「それはどうも」
と言いつつ、ローレンがアサギを見上げた。
そう。見上げた。
「……アサギ、背が伸びた?」
「うん。今はたぶん、フェイと同じくらいあるよ」
ロデリックは毎日のように会っていたからなかなか気づかなかったのだが、ここ二ヶ月ほどでアサギは十五センチは身長が伸びている。成長期と言うやつか。すでにローレンより五センチほど背が高く、アサギは嬉しそうだ。
まあ、好きな女の子より背が高く成れればうれしいだろうな。
対してローレンは何やら真剣な表情で言った。
「なんかショック」
「なんでだよ」
「わかります、ローレン!」
何故かクリスティーナが全力で同意していた。いつも避けられていたクリスティーナに全力で同意されて、ローレンは戸惑いがちに「お、おう」と答えた。
「クリスまで何。何でそんなに僕の身長を気にするの」
まあ、アサギは可愛いかったし。今では可愛い、と言うのはちょっとためらう。女顔なのは間違いないが、中性的な顔立ちの青年と言った感じだ。しかし、ローレンにとっては何より。
「弟が急に成長した気分」
この言葉に、アサギも打撃を受けていた。ロデリックが見る限り、アサギはローレンのことが好きだが、ローレンはアサギを弟のようにかわいがっている。この擦れ違い。ロデリックはひそかにアサギを応援していた。
「おーい、ローレン嬢ちゃん、行くぞ~!」
「了解した!」
ヘリのプロペラが回り始めたので、操縦士もローレンも叫んでいた。今までアサギが何となく指揮を執っていたが、ローレンが戻ってきたので自動的に彼女に指揮権が移行されたらしい。それでよいと思う。
四人ともひょいとヘリに乗り込む。身長でちょっとクリスティーナが苦労しそうだったが、彼女は運動神経がいいので心配する必要はなかった。
ヘリに運ばれること約三十分。大きな客船が見えてきた。クリスティーナが身を乗り出して「わあ」と声を上げる。
「すごいです。あんなに大きな船、初めてみたかもしれません」
「氷山にぶつかって沈むかもね」
有名な映画の内容をアサギが口にした。クリスティーナがはっとする。
「そうなったらロデリック、支えてください!」
「いや、無理だし」
そもそも、こんなところに氷山はない。今は夏で、シルバーウイングは割と南の方を航行しているのだ。
ヘリはロデリックたちを下ろすと、そのまま飛び立っていった。取り残された風の四人の元に、フランクがやってきた。
「よく来たな! ローレン、無事か?」
「うん」
ローレンがこくりとうなずく。こういう反応はアサギとよく似ているなと思った。
「アサギ、ローレン、早速で悪いが」
「ん、了解」
フランクがアサギとローレンを連れて行くのに、ロデリックとクリスティーナもついて行く。役に立たないのは明白だけど。
「あ、来たわよ」
「おーう、よかった。俺、もうお手上げ」
艦橋のシステム管理席に座っていたのはハリソンだった。フェイとオスカーもそのそばについている。システムに苦戦しているようだった。
「やあローレン。久しぶり。その髪型、似合ってるよ。眼鏡も素敵だね」
などとしれっと言うオスカーである。ハリソンは「ますます少年めいたな」などと言ってローレンを呆れさせていた。
「ハリソン、お前、この船のお客さんに失礼なことを言ってないだろうね」
「言わねーよ!」
ハリソンは公私が割とはっきりしている方なので、たぶん、本当だろう。たぶん。
ハリソンの代わりにローレンがシステム管理の席に座る。まあ、普通にオペレーター席らしいけど。
ローレンが次々とモニターを切り替えていく。その指はものすごいスピードでキーボードをたたいている。
「アサギ、機関室見てきてくれる? ロデリックとクリスを連れて行っていいから」
「わかった。行こう」
「勝手に貸し出すなよな……」
ロデリックがつぶやきながらクリスティーナと共にアサギについて行く。船員の一人が機関室に案内してくれた。
「あの~。ここに何があるんでしょうか。機械は正常に作動してるんですけど」
「みたいだね」
計器を確認していたアサギがうなずいた。とりあえず、何しに来たんだろう。
「アサギ、ここに何があるんだ?」
「それは調べてみないとわからないけど……ん?」
アサギがしゃがみ込んで何かを拾い上げた。
「何それ」
「通信機みたいだけど」
アサギは小さなそれを、無理やり開く。赤いランプが点滅していた。
「正確には中継器と言うべきなのかな。この船と陸のネット回線をつないでいるんだ」
「それって必要なのか?」
「普通に回線をつなぐだけなら、必要ないね。ただ、攪乱の意味はあるけど」
「……そうか」
よくわからないが、アサギがそれを解体して破棄したのはわかった。耳に付けたインカムからローレンの声が聞こえてきた。
『システムをすべて復旧した。さらに保護システムを構築したから、もう戻ってきていいよ。中継地点は発見した?』
「うん。よく気づいたね、ローレン」
『電波の発信が不自然だったからね』
それだけでわかるものなのか? と一抹の疑問を抱いたが、とりあえず三人して艦橋に戻る。そこではなぜか、ローレンが操船の手ほどきを受けていた。
「……ローレン、何してんの?」
ロデリックは近くにいたフェイに尋ねた。フェイは「ん?」と首をかしげる。
「いや……なんかローレンが気に入られたみたいなのよね」
まあ、あの子頭いいしね……と微妙に的外れなことを言うフェイだ。彼女よりローレンとの付き合いの浅いロデリックでもわかる。ローレンは何かを探している。何を探っているのか、わからないけど。
アサギはローレンが行った作業を確認したようだ。ローレンは万能であるが、たまに思う。彼女の能力は高いが、彼女の代わりはいるのだ。頭脳面ではアサギが、戦闘面ではクリスティーナがローレンに取って代われる。
だから、たとえローレンがやりたいことを見つけて職を変えても、第三班はやっていける。まあ、ローレンの経歴を考えれば、そんなことはありえないのかもしれないが。
「ま、あれが何を考えていようと、しばらくお前たちは船上生活を楽しめ」
この状況で楽しめ、とはフランクも難しいことを言う。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
大晦日前日ですね。『連邦合衆国機密情報局』の2017年の投稿は、今回が最後です。
皆様、よいお年を!




