正しい力の使い方【2】
目の前でローレンのものより濃い金髪の少年が掻き消えた。クリスティーナがその後ろから追ってきているのが見える。ロデリックは舌打ちすると方向転換する。クリスティーナはロデリックとぶつかる前に右折する。ロデリックもそちらに視線をやると、マイケルの金髪の頭が見えた。
ロデリックは先回りするように回り込む。ロデリックの念動力を使えば難しくないのだが、しかし、目の前に来るとマイケルは掻き消える。しかし、二十メートルくらい向こうに現れるのでクリスティーナはすぐに見つけて彼を追う。それを見て、ロデリックは先回りする……と言うのも、もう五回目だ。
「アサギ、さすがに無理だぞ」
『もうちょいがんばってよ』
アサギはやっぱりクールに言った。人が多すぎて追いづらいし、人に紛れ込まれるとまだ小柄な少年であるマイケルは見つけにくい。
『クリス、ロデリック。セント・テレーズ通りの方に誘導できる?』
『任せて』
ロデリックが返事をする前に、クリスティーナが力強く返事をした。ロデリックは「もう!」と心の中で毒づきながら走る。セント・テレーズ通りはロデリックの進行方向から見て少し戻る。ロデリックは方向転換する。目の前に大きな教会が見えた。
『ロデリック! そこで、前斜め四十五度に念動力出力四十パーセント!』
「微妙!」
とにかく、あまり強く無い力で念動力を放てと言うことだろう。斜め上に。
ロデリックは壁になるように念動力を展開した。すると。
「ぎゃっ」
マイケルがぶつかってきてロデリックの方がびっくりした。
『クリス、確保!』
「はいっ」
クリスティーナがマイケルを押さえつける。彼女の馬鹿力で抑え込まれれば、逃げることはできないだろう。
「放せっ。放せよ、この暴力女!」
「は、放しません!」
クリスティーナは暴力女、と言われたことがショックだったようだ。それはそうか。それにしても、口の悪い少年だ。
「おい――」
さすがに一言言ってやろうと思ったのだが、その前にマイケルはクリスティーナの手の中から逃げ出した。瞬間移動だ。
「しまった!」
「ざまぁみろ!」
マイケルが子供っぽく言い捨てたが、脱出することだけを目的として、遠くに移動しなかったことがあだになった。
「はい、確保」
という言葉が聞こえたかと思うと、ガシャン、とマイケルの手首に腕輪がつけられた。
「……アサギ」
「うん、僕だね」
マイケルを捕らえたのはアサギだった。彼の手の中でマイケルが「はーなーせー」と騒いでいる。
「……アサギ。代わろうか」
「うん。お願い」
と言うわけで、マイケルがロデリックに引き渡された。
「この腕輪何?」
「能力が使えなくなる腕輪」
アサギがけろりとして答えた。彼だから、こういうものを作っていても不思議ではないのだが。
「どうでもいいけどお前ら、そろそろ本部に戻ろう。警察には上から説明が行く」
バイクを押したジェイクがそう声をかけてきた。規制が張られていたのか、この辺りに人通りはないが、いつまでも通行止めにしているわけにはいかない。
「っていうか、バイクで来たの?」
「アサギが乗せてけって言ったからな」
アサギも一緒に乗ってきたらしい。ひとまず、マイケルを連れて本部に戻ることにした。マイケルは暴れまくったが、クリスティーナも一緒なので容易に抑え込まれている。
「なんで俺がこんなところに連れてこられないといけないんだよ! 帰せよ、家に! 児童虐待だぞ!」
マイケルが騒ぐ騒ぐ。とりあえず第三班の研究室に連れてきたのだが、マイケルは隙を見て逃げ出そうとドアに向かって突進したが、ドア前にはクリスティーナが立っていて簡単に捕まえられた。
「何なんだよ、お前ら!」
「悪いことをしたら捕まるのは当たり前でしょ。何言ってんの」
アサギが正しいが結構きついことを言うと、マイケルは涙目になった。アサギは彼の額をつん、とつつく。
「泣いても駄目だよ。僕らは別に、君を責めたいわけじゃない。もちろん、君がしたのは悪いことだよ。だけど、僕たちが興味があるのは、君のその瞬間移動の力の方。もちろん、君がしたことに対する説教はするけどね」
「責めてるじゃん!」
「責めてないでしょ。叱ることと説教をすることは別なんだよ」
などと小難しいことを言うアサギ。マイケルもぽかんとしている。
ノックがあった。ドアの前に立っていたクリスティーナがドアを開ける。自動で開いたドアに、中に入ろうとしていたジェイクがびくっとする。
「お、おう。ありがとう」
ジェイクが中に入る。クリスティーナはドアを閉めて再びその前に立った。
「ひとまず、マイケルのことはうちで一時預かりと言うことになった」
「親御さんには?」
「話は通してある」
さすがに手慣れている。ロデリックの時もこんな感じだった。尤も、ロデリックの時は先に警察に保護されたのだが。だから、マイケルの気持ちもわからなくはない。
「とりあえず、マイケルのことは俺達が処理しておく。それで、お前たちには別件の依頼がある」
と、ジェイクが端末をアサギに差し出した。ロデリックは後ろから覗き込んだが、クリスティーナはドアの前に立ったままだ。
「了解」
ざっと目を通したアサギがロデリックに端末を渡した。そこに、数日前にオスカーたちが乗り込んだ豪華客船シルバーウイングが何らかのサーバー攻撃を受けたことが示されていた。ロデリックは端末を持ってクリスティーナの元へ行く。
「……なんなの?」
「僕が君の相手をできなくなった、と言うこと。ジェイクたちの言うことを聞いて、ちゃんと待っていてよね」
「……なんだよ。ちょっと年上だからって大人ぶりやがって」
「君は口が減らないね」
アサギはマイケルの頭を撫でると、立ち上がって言った。
「じゃ、ジェイク。後はよろしく。出発はいつ?」
「明日午前九時だ。本部屋上のヘリポートから出発だ。内容が内容だから、ローレンも同行する」
「わかった」
アサギが了承を口にする。本当は現在一番年上であるロデリックがやるべきなのだろうが、在籍年数などから見ても、アサギの方が手慣れていた。
「というか、ローレンは連れていっても大丈夫なのか?」
「……まあ、向こうにはフェイもいるし」
ロデリックの質問に、アサギははぐらかすように答えた。それはそうだけど。しかし、サイバー攻撃に関することなら、たぶん、ずっと座っているし大丈夫……なのか?
「一応武装していけ、だと」
「はーい」
マイケルが物騒な会話に引いているような気がしたが、ロデリックも気にしないことにした。機密情報局に来てから、だいぶ自分が図太くなった気がする。
「よし、マイケル君。行こうじゃないか」
「どこ連れて行くんだよ、おっさん!」
「お……っ」
二十六歳であるジェイクに、この暴言は堪えたらしい。ロデリックをはじめ、クリスティーナ、アサギの三人は笑いをこらえるのに必死だったが。
「……さて。僕らも準備しようよ」
「そうだな」
アサギの言葉にロデリックはうなずいた。クリスティーナは廊下の方を気にしている。
「クリス?」
「……マイケルは大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だよ。ジェイクは似非だけど、神父だからね」
その慰め方もどうかと思うが、確かに大きく間違っていないような気もするロデリックだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
どうしてもこのメンツだとアサギが引っ張ることに。他の人がいれば、アサギはなにもしないけど。




