声の限り【9】
一方のクリスティーナとフランクは、市街地に出てきていた。ローレンがいる公園もそうだが、このあたりには避難命令が出ていて、一般人は今は入れなくなっている。能力も使って戦うことになるので、周囲の建物にどれくらい被害が出るか、は未知数である。
すでにライランズと遭遇し、戦闘を開始している。主力はクリスティーナで、それをフランクがフォローしている。普通に考えればこちらの方が有利である。
「クリス!」
「はい!」
作戦通りに、目標地点に誘い込む。ほぼ防戦一方だったクリスティーナは、ここにきて大きく飛びのいた。
と、弾丸の雨が降った。ロデリックの火器管制系の念動力である。しかし、その弾丸の雨をライランズは軽くいなす。
「マジかよ。あれホントに人間?」
つぶやいたのはフランクであるが、クリスティーナは彼も自分を狙った狙撃を軽くかわしていたのを知っている。
弾丸の雨が止んだ瞬間、クリスティーナは双剣を持ってライランズに振りかぶる。しかし、ライランズは同方向から振り下ろされた双剣と打ち合い、クリスティーナは吹き飛ばされる。なんとか踏ん張り、転倒は免れた。
今度はライランズから剣が襲ってきた。クリスティーナの前にフランクが割り込み、その剣を受け止めた。
「クリス、次!」
「はい!」
当たり前だが、作戦はいくつか用意している。むしろ、ほぼ無作戦で飛び込んでいったのはローレンの方だ。クロックフォードを始末する方が難しいはずだが、彼女はほぼ無策で出て行った。
とはいえ、人の心配をしている場合ではない。それまで剣で戦っていたクリスティーナは、ライランズの後ろに回り込んで彼を蹴り飛ばした。バランスを崩しかけた彼に追い打ちをかけるようにフランクが剣で彼を殴った。それでも倒れなかったライランズはにやりと笑う。
「やはりお前らは甘いな!」
と、ライランズはその場で振り返りクリスティーナとフランクに襲い掛かろうとしたが、彼はその場から動けなかった。わかっていたので、クリスティーナもフランクも冷静である。
「なんだ? 魔法……?」
ライランズがさすがに戸惑う。それを眺めながら、フランクが通信機に話しかけた。
「シャーリー、成功だ」
『それはよかったわ』
クリスティーナの耳にも通信機からシャーリーの声が聞こえてきた。
ライランズの足元には、シャーリーが事前に用意した魔法陣が敷かれている。足止めのポイントはいくつか用意してあるが、その魔法陣に足を踏み入れる必要がある。たまたまそのポイントが近かったので、クリスティーナとフランクは彼を蹴りつけたのだ。
「ライランズ捕獲。移送班を」
「フランク!」
背後で気配を感じたクリスティーナが振り返ると、異様な光景が広がっており、とっさにフランクを呼んだ。フランクも同様に振り返る。
「なんだ、これ……」
なんと言えばいいのだろうか? これが機械兵と言うやつか? 二足歩行の、金属むき出し。大きさはクリスティーナより大きい人間大。手には銃を持っている。明らかに戦闘用である。
背後で、ライランズが笑った。
「ははは! ダレルだな。お前たちの負けだ」
ライランズの言葉が終わらないうちに、銃撃の音が聞こえた。着弾した、ライランズに。
「な……んで……」
口から血を吐き、ライランズはその場に倒れた。足止めの魔法陣が効いていたから、場所は動かなかったのだが。
「……っ」
驚いたクリスティーナが足を後ろに引く。
『あはははは! やはり僕の勝ちだ! ざまぁみろ、お前ら!』
ダレル・スコットニーの声が通信機から響いた。だが、すぐにノイズが混じり、アサギの声が聞こえてくる。
『ごめん、突破された。僕がダレルを相手するから、みんなはそっちをお願い』
「って、待て! 何だこれ!」
フランクが尋ねたが、アサギは既に通信を切っていた。相変わらずである。
『ダレル・スコットニーが作った、戦闘用機械兵だそうだ』
代わりに返答したのがローレンだった。とりあえず、生きているらしい。
「戦闘用機械兵? お前、無事なのか」
『なんでちょっと残念そうなんだよ。無事だよ。今のは父さんから聞いたの』
何故か共闘しているような気がする。ローレンの『おらぁ!』という声が聞こえてきているし。
「……仲間割れ、と言うことでしょうか」
クリスティーナが言うと、どうだろうな、とフランク。
「そもそも、仲間だと思ってなかったのかもな」
「……」
沈黙し、クリスティーナは周囲を囲む戦闘用機械兵を見た。全部でに十体ほどか。厳しいが、突破できないほどではない。ロデリックやシャーリーも援護してくれるだろう。むしろ、二人が中心にいなければ、シャーリーが一撃で何とかしてくれる可能性だってある。
「……ローレンたちが戦ってるってことは、剣でも何とかなるってことですよね」
「まあそうだろうが……あいつは機械と相性がいいからな」
確かに、物理法則に干渉できるローレンは機械兵と相性が良いだろう。逆に、対人戦はローレンより相性の良いクリスティーナたちは、逆に、機械兵は相性が悪いと言うことになる。
「でもまあ、アサギが何とかしてくれると信じて」
「やるしかないですね……!」
クリスティーナも覚悟を決める。二人は身構えた。とりあえず、自分の身を守れば取りこぼした分はロデリックとシャーリーが始末してくれると信じている。
クリスティーナは前を、フランクは後ろの機械兵の集団に突っ込んだ。銃、というか、あとで確認したら機関銃だったが、それを乱射されるがむしろ数の多い機械兵仲間にあたっている。これらは使い捨てらしい。
「! 意外ともろい……?」
片方の剣で切り捨てると、意外と簡単にその機械兵は機能を停止した。同じ要領でクリスティーナはどんどん切り捨てていく。
簡単に破壊できるので油断したか。背後にまで気が回らなかった。そして、武器は銃だけだと思っていたのが甘かった。
「い……っ」
肩の後ろに激痛が走った。何かで刺されたらしい。クリスティーナは振り返るとその勢いのまま背後にいた機械兵を切り捨てる。それから肩の後ろに手を回し、刺さっているものを引き抜く。細い錐のようなものだった。
「クリス! 大丈夫か!?」
「平気ですっ!」
クリスティーナが動きを止めたことに気付いたらしいフランクから気遣いの言葉が飛んだが、クリスティーナは返答する。実際に、大丈夫なのだ。ちゃんと腕も動く。
破壊し損ねた機械兵たちは、ロデリックの銃撃やシャーリーの魔法が飛んできて粉みじんに破壊している。原型をとどめていないのは、彼らが破壊したものだ。ロデリックも、始めは自分の能力を使うことにためらっていたくらいなのに、今ではためらいなど見せない。ちょっとやり過ぎ感があるくらいだ。
機械兵をほぼ倒し終えたと言う頃、残りの機械兵が動きを止め、そのまま倒れた。クリスティーナは目をしばたたかせる。
「……えっ?」
「んだぁ?」
フランクも不審な声を上げる。そこに、通信機から声が聞こえた。
『待たせてごめん。ダレル・スコットニーを捕縛したよ』
「…………えっ?」
アサギの声だ。え、何? ダレルを捕まえたから、この機械兵が止まったのか? しかも、捕まえたとは?
『正確には閉じ込めたんだけど』
「……」
アサギ、今日もクールだ。
『その機械兵とやらはもう大丈夫だよ。それより、ライランズを捕まえたなら、ローレンの回収に行ってくれない?』
「……シャーリー」
『了解』
フランクの一言で、シャーリーがローレンの回収に向かったようだ。幸いと言うか、彼女の作戦地点はここからそう遠くない。立ち入り禁止区域を限定するためだ。
機械兵に埋もれてしまったライランズの確認に行く。念動力で近くまで降りてきたロデリックも確認に加わった。
「……死んでるな」
脈をとったフランクが言った。ロデリックが「仲間を殺したってこと?」と首をかしげている。クリスティーナも眉をひそめた。
「さあな。そもそも、仲間と思っていなかったのかもしれん」
ため息をつくと、フランクは立ち上がった。
「とにかく、俺たちは撤収するぞ」
「はい」
クリスティーナとロデリックがうなずく。なんだかあっけない幕引きだった。
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