声の限り【7】
フランクがやってきたので、作戦会議である。先ほどの会議よりも、より戦術的なことを話しあうことになるが、大まかには決まっている。クリスティーナはライランズを、ローレンはクロックフォードを相手取る。相手にとって不足なしどころか、こちらが負けそうなくらいである。
「よし。まず、俺は前線に出る。指揮はオスカーが取れ。アサギはその補佐」
「了解」
「わかった」
オスカーとアサギがうなずく。一応、第一班班長のフランクが特殊事例対策課長となるのだが、彼は最前線に出てしまうため、全体の指揮が難しい。他の一班や二班の班員ではなく、オスカーに投げた。アサギはさしずめ副指揮官か。
「フェイはそのまま医療班に合流」
「はい」
やはりフェイは医療班になるらしい。彼女もすんなりとうなずく。後は、ライランズとクロックフォードを相手取るチーム分けだが。
「ローレン、いいんだな」
「もちろん。身内の不始末は身内で片をつける」
きっぱりとローレンは言い切った。普段へらっとしている彼女だが、たぶん、こちらが本性なのだろうと思う。
「気負いすぎるなよ。では決まりだ。クリスと俺、シャーリー、ロデリックはライランズ」
三人がうなずく。
「そして、クロックフォードはローレン、ハリソン、ジェイクだ。全員、いいな?」
「了解」
全員が了解したことで、チーム分けが決定した。クリスティーナはもちろんライランズを相手取るわけであるが、フランクと一緒になる。
「フランクさんと一緒なら勝てるでしょうか……」
クリスティーナが不安げに言うと、フランクは笑って彼女の頭を撫でた。
「大丈夫だ。きっとな」
そう言いながら、彼は真剣な表情でこうも言う。
「だが、俺はお前やライランズと違って純血ではないからな。主力はお前になる。できるだけフォローはするつもりだが、覚悟しておけよ」
「……はい」
クリスティーナはうなずいた。フェイがあまり良い顔をしていないが、医者として当然の反応だろう。たぶん。
アイリスの民はずいぶん前に離散している。三十年前、ローレン父の襲撃を受けた村は、最後のアイリス民族の集落だった。
クリスティーナの両親も、フランクの親も、その集落の出身なのだそうだ。フランクの親は外の人と結婚したため、彼はいわゆるアイリスの民のダブルである。
やはり、血が濃い方がアイリス民族としての力は強いらしい。どんなファンタジーの世界、と言う感じなのだが、実際そうなのだからそうとしか言いようがない。
「やっぱり、フランクでもライランズに勝つのは難しいの?」
オスカーが尋ねた。クリスティーナだけでは絶対に勝てないが、フランクだったら。
「微妙だな。実戦経験はあっちの方が上だろうし」
「でも、ライランズって二十代後半じゃねぇの? それで、三十代前半のフランクより場数踏んでんの?」
単純な疑問をぶつけたはずのハリソンであるが、フランクにはたかれた。確かに、一応国家に属しているフランクより、ただの人殺しであるライランズの方が場数を踏んでいるだろう。
「……ちなみに、ローレンだったら?」
「不意を突いて瞬殺ならできるかもしれない」
やっぱりローレン、物騒。
「じゃあもうお前やればいいじゃん」
などと殴られたハリソンが言う。ところが、とフランクが口をはさむ。
「そうはいかないんだよなぁ。正直、クロックフォードには俺たち三人が束でかかっても勝てん」
「え、そんなに強いの、ローレン父」
フェイが若干引いた様子で言った。ロデリックも「どうやって捕まえたの」と疑問を覚えた様子。
「まあ、今から考えると自分から捕まったんだろうな」
「うちの父であればさもありなん」
何やら難しげなことを言われて、クリスティーナは首をかしげるが、とりあえず、クロックフォードがとても強いことはわかった。
「そんな相手に、私たち三人だけで大丈夫なのか?」
ジェイクの尤もな疑問に、ローレンは答える。
「むしろ、人数は少ない方がいい。たぶん、能力に巻き込まれる」
「実際のとこ、ローレンの能力ってなんなの?」
ロデリックが直球で尋ねた。彼も能力の一部を見たことがあるはずだが、全容はわからないのだろう。正直、クリスティーナも良くわかっていない。ただ、ローレンと一緒に戦っていると、ありえないと思えるような現象が普通に起きていたりするので、あれは彼女の能力なのだろうと思う。
「まあいいんじゃねぇか。少し見せてやれ」
と、フランクから許可が出たので、ローレンが「じゃあ少しだけ」とアサギがデスクに置いていた端末に手を伸ばす。赤い円のようなものが彼女の手を中心に展開され、ふわりと端末が浮く。
「……えっと、念動力?」
ロデリックが言った。ローレンは苦笑して、「確かに、そう見えるね」と言った。
「私が干渉しているのは物理法則であるから、念動力に近いだろうね。でも、私は法則そのものを捻じ曲げているんだ」
「……違いがわかんないんだけど……」
と言う主張に、ローレンは少し困った表情になった。基本彼女はポーカーフェイスなのだが、付き合いが長くなると段々表情が読めてくる。
「えーっと。念動力と言うのは、対象物に対して干渉しているんだ。だけど、私が干渉しているのは物理法則。敷いて言うなら、私の方が効果範囲が広いね」
「なるほど、全く分からん」
きっぱりと言ったのはオスカーである。ローレンが「ええー」という表情になる。
「つまり、念動力っていうのはものに働きかけるんだけど、ローレンは場所に働きかけてる。そう考えるとわかりやすいわね」
シャーリーのサクッとした説明に何となく理解した。ローレンはそれがショックだったのか、ため息をついた。
「じゃあ、あらかじめ戦う場所に仕掛けとけばいいんじゃねぇの」
とハリソン。付き合いの長い彼も何気に理解していなかったらしい。たぶん、ローレンの説明が難しかったのだろう。これだから天才は。
「まあそうなんだけど。問題は、この能力は遺伝性で、父も私と同じ能力を持っていると言うことなんだよ」
クロックフォードの強さの要因はそこにあるらしい。場に……ローレンに言わせるなら物理法則に干渉して、自分が戦いやすい場所を作り上げているのだ。
能力自体はローレンの方が強いらしい。しかし、戦い慣れている、と言う面でローレンはクロックフォードに劣るのだ。数で勝っているのに、ライランズに勝てないであろうクリスティーナ・フランクと同じである。
その時、電話が鳴った。内線である。いつも通り、ハリソンが受話器を取った。
「はい、第三班」
ここは第三班の事務室である。言い忘れていたかもしれないが。
「これ……勝てるのか?」
「まあ何とかするしかないよね」
ロデリックの言葉にやはり冷静なアサギが言う。そこにがちゃっと電話を切ったハリソンが口をはさむ。
「ローレン。お前の兄さん、上に来てるって」
「はっ?」
眉を吊り上げた彼女は、フェイを振り返った。
「フェイ、代わりに行かない?」
「えっ!?」
顔を赤くしたが心なしか嬉しそうな彼女に、ハリソンが「悪い。ローレンいるって言っちゃった」とハリソン。ならばローレンが出るしかあるまい。
「お兄さん、車いすだろ。下まで降ろしてもらえ」
「はーい。アサギ」
「はいはい」
フランクの指示をアサギに振るローレンである。うちはだいたいこんな感じ。
「じゃあ、ローレンがいない間に作戦会議の続きだ」
と言うことになった。
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