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声の限り【4】









 ロデリックたちが現場に到着すると、先に来ていたフェイがクリスティーナの容体を見ていた。ロデリックは近くで様子を見ているローレンに尋ねた。

「クリスは大丈夫なのか?」

「さあね……出血が多くて、低体温症を起こしてる。それに、頭を打ってるからね」

「そうか……というか、お前も大丈夫なの」

 ローレンも応急処置なのか、頭や腕に包帯を巻かれている。見た目、クリスティーナの方が重症に見えるが、見えるところだけでは判断できないものもある。

「さあ?」

「さあって、お前な……」

 ローレンなので、自分の不調を隠してクリスティーナに優先的に治療を受けさせている可能性はある。


「ちょっとどいて! 病院に移送するわ!」


 フェイが声を張り上げた。とりあえず、異動しても大丈夫なくらいには落ち着いたらしい。輸血もしなければならないだろうし、どうしても大病院……この場合は、国防省の附属病院になる。

「ローレン、あんたも病院で精密検査するからね!」

「はいはい」

 フェイに言われて、ローレンはクリスティーナを運ぶストレッチャーと共に歩き出す。正確には、歩き出そうと、した。


 彼女は突然その場に膝をつくと激しくえずいた。行きかけていたフェイが戻ってくる。


「ちょっと! 全然大丈夫じゃないじゃない!」

「え、何? 妊娠?」

「吐血してるでしょーが! フランクは黙ってて!」

 場を和ませるためか素なのかわからないが、フランクが言った空気を読まない言葉に、天才医師・フェイは思いっきり突っ込む。ロデリックは口をはさむ機会を逸してしまった。

「この子も内臓がやられてるわね。何で黙ってるのよ!」

「いや、大丈夫だと思って」

「大丈夫かどうかは、あたしたち医者が判断します! ごめん、待って! ローレンも乗せる!」

 フェイはレスキューに向かってそう叫ぶと、ローレンの肩を抱いて立ち上がらせようとする。


「あんた、立てる?」


 うなずいたが、さすがにふらついているので一番近くにいたロデリックもローレンを支えた。

 女性陣を乗せた救急車を見送ると、フランクが言った。

「まずいな。回復すっかな」

「二人が、ですか?」

「どちらかと言うと、ローレンが」

 フランクによると、戦闘民族の血を引いているクリスティーナは、見た目によらず肉体が強靭らしい。なので、わりと重症でも回復するのだが、その点、ローレンはただの人である。


「フランク、ロデリック」


 二人を呼んだのはアサギだった。彼は端末を抱えて近づいてくる。フランクが彼に声をかけた。

「おう。ライランズとクロックフォードの行方は?」

「ごめん。撒かれた。たぶん、シャーリーたちも見失ったと思う」

 そう言えば、ヘリがいない。あれにシャーリーが乗っていたのだろうか。おそらく、そのまま逃げた二人を探しに行ったのだろうが、見失った可能性が高い。

 見失ってしまったのなら、ここにいるまでも居続ける理由はない。だが、男どもが向かったのは本部ではなく、国防省附属病院だった。クリスティーナとローレンの容体が気になったのである。


 病院に行くと、一応戦闘に参加したフランクも検査に連れて行かれた。本人的にはぴんぴんしているのだが、念のためだそうだ。

 クリスティーナが緊急手術を受けている手術室の前にどんよりした空気が漂っていた。ベンチに座って端末を眺めているアサギ、ぼんやりしているオスカー、ロデリックは床にじかに座り、膝を抱えていた。


「……手術、まだ終わんねえの」


 やってきたのはハリソンだ。車いすを押している。それに座っているのはローレンだった。車いすに座ったまま点滴を受けているローレンは疲れた目をしていた。

「……輸血用の血液が足りないらしいよ。アイリスの民は、血液型が特殊だからね」

 冷静に答えたのはアサギだ。さきほどから何を見ているのかと思えば、手術状況を見ているらしかった。

「輸血にフランクが駆り出されてる」

「……それって戦力的に大丈夫なの?」

 アサギの追加情報に、ロデリックは思わず口をはさんだ。貧血と言うのは体力に直結するのだ。おそらく最強の部類に入るフランク、ローレン、クリスティーナの三人が万全ではないとは。不安すぎる。


「大丈夫ではないな。あの二人が相手なら、フランクでも勝てない」


 ローレンが重苦しく言った。彼女の声はもともとそんなに高くはないが、低くもない。だが、今の言葉はかなり低く響いた。内容が内容だからだろうか。


 ならどうするのだ、とは聞かなかった。聞けなかった、と言うべきだろうか。


 あの二人を捕らえる、もしくは倒すためには、少なくとも全力のフランク、ローレン、クリスティーナが必要だと言うことである。この三人が使えない場合、非人道的な手段に出るだろう。機密情報局は。

「心配することはない。おそらく、彼らは私たちが回復するまで待つだろう。少なくとも私の父はそうする」

「……なんでそう思うんだ」

 ハリソンが車いすの後ろからローレンに尋ねる。彼女は変わらぬ平坦な声で言った。

「私ならそうするから」

「……どういう理由だよ」

 ハリソンがつっこんだが、ローレンはスルーした。空気が重い。もう嫌だ。

「……まあ、ヘンリー・クロックフォードがダレルやライランズを操ってる感はあるよね。たぶん、あの三人……まだ捕まってない二人もいると思うけど、彼らの中で一番力を持ってるのは彼だ」

 アサギが断言した。彼の第六感は信頼できる。第三班でも、気づいたらローレンが引っ張っていることがあるので、血筋だろうか。

「……まあ、俺もあの人の精神鑑定したことあるけど、謎だよなぁ。犯行理由不明なんだぜ。あの人、三十年前にクリスやフランクの民族を襲撃したことがあるらしいけど……」

「誰かに止めてほしいんだろ。たぶん」

 ハリソンの言葉にローレンは静かに答えたが、ロデリックは別のところが気になった。

「え、それってアイリス虐殺事件っていう? 犯人、捕まってないんじゃ……」

 迷宮入りの事件だと思っていたのだが。もちろん、ロデリックが生まれる前の話だが、大きな事件なので耳にしたことくらいはある。


「犯人、こいつの父親」


 ハリソンが自分の側にある車いすに座った少女を示す。彼女はあからさまに舌打ちした。

「お前、さっきから機嫌悪くねえか?」

「自分の父親に怪我させられれば機嫌も悪くなる」

「いや、絶対それだけが原因じゃねぇよな」

「わかっているならつっこんでくるな」

 いや、ロデリックはハリソンのことをちょっと尊敬している。不機嫌なローレンには話しかけづらいものがあるのだ。

「……お前ら見てると、ちょっと安心するよな。いつも通りで」

 オスカーが苦笑気味に言ったとき、手術室のドアが開いた。出てきたのは黒髪をまとめ上げてキャップにいれたフェイだった。そうしていると、ああ、医者なんだなぁと思う。マスクを外した彼女は一同を見て怪訝な表情をする。

「何してんのあんたたち」

「クリスの手術待ち」

「あんたはぶれないわね、アサギ」

 フェイは苦笑を浮かべて「大丈夫よ」と言った。

「クリスは丈夫だもの。ちょっと貧血気味だけど、フランクが輸血用の血液も提供してくれたから」

「……いや、そんな問題じゃなくね……」

 ツッコんだのはハリソンだ。フェイは気にせずローレンの容体を見ている。


「あたしは医者だもの。人を元気にするのが仕事なの。それ以外は任せるわ」


 確かに。フェイは完全なる非戦闘員である。医者として渦中に飛び込んでいくこともあるが、基本的に彼女は医者なのである。正論だ。

「はい。あんたは立派に重症患者。痛いでしょ」

 と、フェイはローレンの腹をつつく。ローレンは頬をひくつかせたが、何も言わなかった。すごい根性。

「とにかく、あんたも寝てなさい。ドクターストップ」

 フェイに正論を言われ、ローレンも休息に入る。オスカーは言った。

「まあ、この間に作戦会議だな」

 どんな作戦が立てられると言うのだろうか。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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