声の限り【3】
もう11月もおわりますね…。
「こっちよ!」
クリスティーナはジェイクの運転する車から降りると、一目散に警察を切りつけているヴィクター・ライランズに向かって走った。すでに双剣は抜いてある。切りかかると、ライランズはクリスティーナの双剣を受け止めた。
「おや、これはまたかわいらしいお嬢さんだ!」
思いっきりふり払われそうになり、クリスティーナは自分から後ろに下がる。剣を構え直した。ライランズはクリスティーナを眺めて、おや、と言う表情をした。
「もしかして、同郷か? いやはや、こんなところで同郷のものに会えるとは」
「……覚えてないのね」
クリスティーナはその可愛らしい顔をしかめた。彼女には珍しい表情である。つまり、彼は、クリスティーナの家族を殺したことを覚えていないと言うことだ。
「さて。なんのことだ?」
彼がクリスティーナを怒らせようとしているのなら、それは成功した。クリスティーナは彼に思いっきり斬りかかる。軽くいなされた。
クリスティーナは、自分の実力がフランクどころかローレンにも劣っていることを自覚している。潜在能力はクリスティーナの方が高いのかもしれないが、現時点では、それが事実だ。
今の彼女の役割は、アスクウィス島からフランクが戻ってくるまで、ライランズの足止めをすること。それなら何とか、と思うが、殺すつもりで戦わなければ、クリスティーナが負けることは目に見えている。手を抜いている場合ではないのだ。
攻撃は最大の防御とばかりに、クリスティーナは攻勢に出る。軽くいなされている感は、ある。
「惜しい……もう数年すれば、もっと強く成れただろうにな!」
「がっ!」
剣の柄の部分で鳩尾のあたりを突かれ、クリスティーナは地面に転がった。一瞬息が詰まったが、転がっているわけにはいかないので立ち上がる。だが、すぐに近くのビルの壁に叩きつけられ、その腹を剣が貫いた。
「惜しい、本当に、惜しい……」
ライランズはにやりと笑って、剣をひねった。傷口が開かれるような感じがして、強烈な痛みを覚えた。こらえて、クリスティーナはライランズを蹴り飛ばした。ずるりと、剣が抜かれる。
立ち上がったクリスティーナは、あまりの痛みに腹を押さえたが、余計に痛かっただけだった。時間は確認できないが、フランクが到着するまでまだ時があるはずだ。
と、ライランズが背後からの襲撃を受けた。彼は素晴らしい反射神経で、一撃でことを終わらせようとしたその剣を弾き飛ばした。
「ちっ」
顔に似合わない舌打ちをしたのは、ローレンだ。彼女はライランズから距離をとると、クリスティーナの側まで来た。
「無事?」
「……何とか」
「そう。悪いけど、もう少し頑張って」
ローレンも、一人ではライランズに勝てないと言うことか。
「人が一人増えたところで、そんなに変わらないんだけど。しかもまた女の子ときた」
「あんまり舐めすぎると痛い目見るわよ。それにしても、お久しぶりね、ヴィクター・ライランズ」
「あれ、どこかで会ったか?」
彼はローレンとも直接顔を合わせているはずだが、記憶にないらしい。彼にとって、本当に些末なことだったのかもしれない。
クリスティーナは忘れたことなどなかったのに、そう思うと、腹が立つ。
「まあ、確かに、私はあんたと直接やりあってないけど。だからこそ、興味があるよ。ヴィクター・ライランズと言う人殺しにね!」
「ローレン!」
そう言えばこの人戦闘狂だった! と今更思い出すクリスティーナであるが、たとえ万全であっても、彼女にローレンをとめることはできない。さらに言うなら、ローレンが全力で戦った方が時間稼ぎになる。
と、ローレンが身をひねる。今の今まで彼女がいたところを、弾丸が通り過ぎた。狙撃だ。ハリソンだろう。クリスティーナの時は援護射撃がなかったが、たぶん、ローレンとは組み慣れているから援護できたのだろうと思っておく。
「あいつ、私になら当たってもいいと思ってるな」
苛立ち気にローレンは言ったが、むしろ信頼なのではないだろうか。ローレンなら避けるだろう、と言う。クリスティーナもぼうっとしている場合ではない。引いたローレンの代わりにライランズに斬りかかる。そして、二人同時に。
ここまで来て、生死を問うことはないだろう。さすがにローレンが参戦して、ライランズも無傷ではいられない。いや、クリスティーナもローレンも無傷じゃないけど。
「ああ……思い出したよ、お嬢さん! 俺が捕まった時の子たちだな!」
ライランズは地面に口の中の血を吐きだして言った。思い出したようだ。見たことのある娘たちだと。
「大きくなったもんだ。だが、まだまだ子供だな!」
クリスティーナとローレンは、ライランズの剣先をよけて左右に別れる。あまり意味はないかもしれないが、挟み撃ちだ。
だが、同時攻撃とはならなかった。先ほど襲撃を仕掛けたローレンが、今度は自分が襲撃されたからだ。クリスティーナは急遽両手を交差させ、いつかローレンがやっていたように剣を左右に思いっきり振ったが、避けられた。これは一撃で仕留める必要があり、そうできなかった場合には大きな隙が生じることになる。当然、クリスティーナは逆に斬りかかられ、何とか致命傷は避けたが右腕を斬られた。力が入らず、双剣のうち一方を取り落す。
一方のローレンは、別の男とつばぜり合いをしていた。五十歳前後に見える、壮年の男性だ。というか、ローレン父ではなかろうか、この人。
とはいえ、クリスティーナもローレンのことを気にしている場合ではない。片腕は使えないし、出血が多くて意識がもうろうとしてきたし、これは本気でまずい。
ローレンの援護は期待できない。考えたところで今度は肩を貫かれた。考えている場合ではなかった。
「さて。あまり苦しませるのもかわいそうだから……ん?」
ライランズが空を見上げる。上空に、ヘリが停滞していた。そのヘリの下に、魔法陣が浮かび上がる。クリスティーナは目を見開いた。
「ぼさっとするな!」
ローレンが駆け寄ってきて、クリスティーナの体を抱えるとその場から飛びのいた。瞬間、水の刃がその場に落ちてきた。おそらく、シャーリーの魔法だろう。
しかし、これくらいの攻撃で彼らがひるむとも思えない。魔法が終わるころにクリスティーナはローレンと共に再び駆け出す。と、一つ影が増えた。
「フランク!」
「遅い!」
安心の声をあげたクリスティーナに対し、ローレンは素直に文句を垂れる。フランクは「うるせえ」と言いながらクリスティーナの援護に入った。ローレンはいいのだろうか。
「まーた、同郷か」
ライランズがフランクを見て言った。確かに、フランクも半分だがアイリスの民の血が流れている。
「こいつは面倒だな……おーい、ヘンリーさん」
ライランズがローレンの剣を受け流している壮年の男性に声をかけた。男性はうなずく。
「ああ。分が悪い」
引くぞ、と男性。ローレンが逃すか、とばかりに斬りかかる。
「逃げられると思ってんの!?」
「ああ。悪いな、ローレン」
男性がローレンの体を思いっきり吹き飛ばす。さらにどこからともなく煙幕。シャーリーが風魔法で吹き飛ばすころには、二人の姿はどこにもなかった。ローレンが剣を地面にたたきつける。
「くそっ!」
「……ま、仕方ねえよ。俺たちも、初めからお前ら回収して逃げるつもりだったし」
「はあ!?」
完全にローレンのキャラが崩壊している。クリスティーナとしても、ここで逃がしてしまったのは痛いと思う。
だが、それどころではなかった。クリスティーナはその場にくずおれた。げほげほと咳き込むと、吐血した。フランクとローレンが駆け寄ってくる。
「クリス! 大丈夫か!」
「ちょっと待って。今、医療班を……」
ローレンが電話をかけている姿を見ながら、クリスティーナは目を閉じた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
ローレンキャラ崩壊笑。クリスちゃんは重症です。




