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声の限り【2】










 オスカーとロデリックは大統領府へと駆け込んだ。途中で別れたクリスティーナは、ヴィクター・ライランズを押さえに行ってしまった。聞いたところによると、ヴィクター・ライランズはクリスティーナと同じ戦闘民族の一人であり、その獲物は双剣であるという。

 銃や超能力などで対抗しようにも、剣で軽くいなされる。超弩級の魔法でも落とせば避けられないだろうが、それをするには市街地、と言う場所はリスクが高すぎるのだ。


「ローレン、アサギ!」

「あ、オスカーとロデリックだ」


 屋上に上がったロデリックたちを待ち構えていたのはアサギとローレンだった。他にも、同行していたらしい局員が数名いる。反応したのはアサギで、ローレンは双眼鏡で戦闘が行われている方向を見ていた。


「どうだ、様子は」


 オスカーが尋ねると、アサギは「芳しくないね」と肩をすくめる。


「民間人にかなり被害が出てる。一応、もう避難は完了してるけど」


 名目上は、と言うことだろうか。オスカーはさらに尋ねる。

「ヴィクター・ライランズは一人か?」

「いや、何人か手下を連れていたみたいだけど、そっちは先に片づけた。だから、クリスにはライランズの相手をしてもらうよ」

 アサギが冷静に言った。正直、ロデリックが彼が取り乱したところを見たことがない。実は、彼は第三班一冷静なのかもしれない。

「で、クリスは勝てると思うか?」

「……うん、まあ、難しいだろうね……」

 アサギが言った。やや予知能力があるという彼が言うのなら、そうなのだろう。


「そもそも、フランクが戻ってくるまでの時間稼ぎだからね」


 アスクウィス島に行っていたフランクが戻ってきているらしい。ということは、シャーリーも一緒なのだろうか。とにかく、フランクが戻ってくるまでの間、クリスティーナが時間を稼ぐ必要があるようだ。

「……フランクの到着まで、どれくらいかかるんだ?」

 ロデリックが尋ねると、アサギはPCのキーボードをうちながら「三十分くらいかな」と答える。それまで、持つのだろうか。


「駄目だな。クリスが押されてる。フランクの到着まで持たないだろう」


 冷静に言ったのは様子を見ていたローレンだ。局員の一人がロデリックに言う。

「ロデリック、援護はできるか?」

「……距離的に、難しいかな」

 ロデリックの火器管制系の念動力は強力だが、射程が短い。一応ローレンに双眼鏡を借りて確認したが、大統領府から戦場が遠すぎる。

「僕が狙撃してもいいけど、ハリソンほどの精度は見込めないし」

 そもそもハリソンが狙ってるしね、とアサギ。というか、ほぼ戦闘力皆無だと思っていたのに、狙撃ができるらしい。


「というか、ローレンが援護に行けばいいんじゃ?」


 ロデリックの発した言葉に、ローレンの纏う空気が一気に鋭いものに変わった。

「行けるものならもう行っているよ。許可が下りないからね」

 そう言えば、出撃許可が下りないと言っていたか。

「ただし、私が行ったところで状況が変わることもないかもしれないけど」

 そう言いながらローレンは再び双眼鏡をのぞいた。アサギがローレンに声をかける。

「ローレン。大統領府のセキュリティシステムに侵入者」

「……うん」

 ローレンはロデリックに双眼鏡を押し付けると、自分はPCの方へ向かった。そのままハッカーをたたくのだろう。状況からして、ダレル・スコットニーだろうか。


 ロデリックはローレンに代わってクリスティーナの様子を見た。遠いので小さいが、見える。ただし、クリスティーナとライランズは視認できるが、その動きまでは追えない。だが、何となく、クリスティーナの方が押されているのはわかる。


「追跡終了。信号はアスクウィス島から発信されているけど……まあ、ここにはいないだろうな。ただの中継点。もっとさかのぼって行けば、海外サーバーも経由してるし」


 ローレンが投げやり気味に言った。かなり苛立っている。ロデリックはクリスティーナから目を放してローレンを見た。表情が抜け落ちているのが怖い。

「こっち、監視カメラの映像出たよ」

 アサギが空気を読まずに言った。普段のローレンもそうだが、アサギも結構空気を読まない。

「あ、これちょっとまずい?」

 監視カメラの映像を見ていたアサギが声をあげた。ロデリックはあわててクリスティーナの様子を見る。ロデリックが見たのは、建物の壁に叩きつけられた様子の彼女がライランズに刺されたところだった。


「ちょっと貸して」


 ローレンがロデリックから双眼鏡を奪い取り、それを覗いた。それから言う。

「ねえ、剣を貸して。クリスのところに行く」

「はあ!?」

 声をあげたのはアサギと一緒に計器を見ていた局員だ。

「ちょ、お前に武器持たせるなって命令だし」

「だからと言って、クリスを見捨てるっていうの? フランクが到着するまで、まだ二十分ある。クリスは持たないわ」

 残酷なことをローレンが言う。たぶん、彼女が言うのなら事実なのだろう。

「いや……だけど、命令に逆らうわけには……」

 自分に累が及ぶのを気にしているのか、及び腰だ。気持ちはわかる。ローレンに対する制限は厳しい。下手をすれば、彼女に武器を持たせることを許した人間にも処罰が下されかねない。

 すでにイラついていたローレンは、ついにキレた。普段のへらへらした彼女しか見たことのないロデリックはその剣幕に引いた。


 ローレンは自分より背の高い局員の胸ぐらをつかむと、抜け落ちた表情のまま目だけかっと見開いた。

「人の命より、命令の方が重いか? このままクリスを見殺しにすれば、フランクが到着する前に、ライランズに逃げられてしまう」

「だ……けど、お前が行ったところで捕まえられるとは限らないだろ!」

 おお、局員気丈である。ロデリックなら萎縮して、何も言い返せないだろう。ローレンの言いたいこともわかるが、局員の言うことも事実である。ローレンを投入して、それでもなお捕らえられなかった時のリスクは、この場にいる者たちが背負うには大きすぎた。


 どちらも正しい。フランクたちがライランズを捕まえる準備をしているのなら、ローレンが言うようにそれを待つべきだし、ローレンを投入してもライランズに逃げられた場合のリスクをかんがみ、クリスティーナを犠牲にするのも間違っていない。どちらかと言うと、ローレンの方が感情的だろうか。

「わかりました。では、私が許可します」

 そんなことを言いながら姿を見せたのは。

大統領プレジデント

 五十をいくらか過ぎたかくらいの小柄な女性だった。アイリーン・サリヴァン、この国初の女性大統領である。

「ローレン・リドリー。この国の代表たる私が許可します。クリスティーナ・ワーズワースと共に、ヴィクター・ライランズを止めてきなさい」

「……いいんですか」

 実際に許可が下りると戸惑うらしい。アイリーンはうなずく。

「ええ。その代り、私とあなたで責任をとるのですよ」

「……承知しました」

「え、じゃあ……」

 局員の一人がローレンに予備の剣を渡す。ローレンはそれを受け取ると、屋上の端に足をかけた。

「っていうか、どうやって行くんだ? 送って行こうか」

 だいぶ念動力を操れるようになってきているロデリックが提案するが、ローレンは颯爽と笑って言った。


「いや、いいよ。ロデリックはここで大統領たちを守ってて」


 と、言い終えるが早いか彼女は大統領府の屋上から飛び降りた。ロデリックは驚いて下を見下ろすが。

「……っていないし」

「あいつのことは心配するだけ損だぜ」

 オスカーが膝をついて下を見下ろしたロデリックに向かって言った。自分も膝をついて指さす。

「ほら、もうあそこ」

「え、なんで!?」

 素直に驚くロデリックに、ローレンの制限を解除していたアサギが言った。

「それがローレンの能力だからね」

「え、何? 加速能力? 俺に近い感じ?」

 てっきり念動力かと思ったが違った。

「僕もよくわかんないけど、物理法則に干渉しているらしいよ」

「……ねえそれホントにただの能力?」

「だからみな、あの子が怖いんでしょうねぇ」

 のんびりとアイリーンがつぶやいた。人の足で行くには結構距離があったが、ローレンは既に戦場に到着しているだろう。ロデリックとオスカーは、アサギが映している監視カメラ映像と、ドローンから送られてくる映像の方を見るべく、彼の側に寄った。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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