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通り魔にご用心【4】









 今回も、オスカーはクリスティーナと共に組んでいる。彼女を一番うまく扱えるのが彼だからだ。ハリソンロデリックはいつものように後方待機。アサギとフェイは後方支援。ローレンはおとりとして夕暮れの中を歩いていた。機密情報局本部の近くだが、裏通りなので人通りはほとんどない。

 ローレンはそんな中を一人で歩いている。いつも通りのスラックスにシャツ、ロングコートと言う姿だが、彼女ほどの美人ならどんな目に遭うかわからない場所である。そんな彼女を、オスカーとクリスティーナはつけている。


「なんかストーカーしてるみたいだな……」


 オスカーはつぶやいたが、同行人であるクリスティーナから返事が返ってくることはなかった。まあ、期待してはいなかったが。

 オスカーでも一人で歩くのをためらいそうな道を、ローレンはためらわずに進む。隣でクリスティーナが剣をしまった袋をぎゅっと抱きしめた。


「ん? 何か近づいてきたか?」


 察知能力はクリスティーナの方が上なので、彼女に尋ねた。クリスティーナはオスカーには答えず、きょろきょろとあたりを見渡した。

 と、クリスティーナはオスカーを突き飛ばした。何かデジャヴ! と思い、そしてやっぱりしりもちをついた。


「クリス……っ」


 鞘どころか袋に納めたままの剣で、クリスティーナはその襲撃者を振り払った。相手が距離を取ったところで一気に剣を引き抜く。双剣使いの彼女だが、現在持っているのは一本だけだ。


「オスカー! ローレンは!?」


 クリスティーナらしからぬ大声で言われ、オスカーは立ち上がる前にローレンの方を見た。彼女は平然としたもので、こちらに向かってひらひらと手を振っていた。ちなみに、フェイに治癒魔法で怪我を治してもらい、一時的に怒りも落ち着いたのかいつものようにへらっとしている。


「避けろ~」


 気の抜けるような声で、微妙に離れたところからローレンがオスカーに声をかけた。この余裕が少し腹立つ。フェイが彼女に腹立つと言っている理由が、たまにわかる。とりあえずオスカーは立ち上がって近くの建物の側に寄った。

「ハイ、オスカー。無事?」

「無事だけど……お前、援護に入らなくていいの?」

「うーん……」

 剣をもつクリスティーナは強い。そのクリスティーナと互角に戦う襲撃者は、体格的に男だ。全身真っ黒で、目だけが怪しく赤く光っている。

「……ホントに吸血鬼っぽくない?」

「私、吸血鬼に会ったことないもの。狼男には会ったことがあるけど」

 それも良くわからない話である。ローレンは真顔で嘘をつくので、本気か冗談かわからないことがある。いや、これについてはオスカーも人のことが言えないのだが。


「あ」


 ローレンが声をあげて急に動いた。クリスティーナは見た目に似合わぬ膂力を持って戦うが、ローレンの強みはその速さである。能力を使うと制限に引っかかってしまうが、そうでなくても速かった。

 クリスティーナが剣を引いた一瞬の好きに、ローレンの掌底突きが襲撃者を襲った。一瞬で来た隙にクリスティーナは剣を振るい、右腕を斬り落とす。

 少女二人が身構える。いつも怯えているクリスティーナも、いつもへらへらしているローレンも真剣な表情で襲撃者に相対していた。


「クリス、私がやる。お前のタイミングでいきな」

「わかりました」


 いつもローレンを怖がっているクリスティーナが、はっきりと彼女に対して返事をした。

「はっ」

 クリスティーナが上段から剣を振るう。振り下ろされた剣は縦から横に薙ぎ払われ、それをよけた襲撃者に、ローレンが迫った。がっとその首を締め上げる。残っている左腕は首を絞めていない方の手でつかみ、その細い腕のどこからそんな力が出るんだ、と思うほどの力で締め上げている。そのうち、襲撃者の体から力が抜けた。ローレンがぱっと手を放す。

「……もしかして、死んだ?」

「いや。頸動脈を圧迫しただけだし、気を失っているだけね」

 しれっと何でもないように言うが、それも結構危険なことではないだろうか。クリスティーナがつんつんと剣の先で襲撃者をつつく。

「やっぱり、吸血鬼なんでしょうか……」

「そりゃあ解剖でもしてみないとわかんないね。人の力で倒せたんだから、人なんじゃないの?」

 ローレンが適当に言った。オスカーとしては、クリスティーナとローレンが普通の人間の範疇に入るかはなはだ疑問であるのだが、黙っておいた。


「……まあ、人間の動きじゃなかったけど……何かの薬物中毒とか?」


 あとでフェイに調べてもらった方がいいかもね、なんてローレンが言った時だ。気絶したはずの襲撃者が動いた。ローレンがバッと振り返り、後ろ手にオスカーをかばった。


「っ!」

「ローレン!」


 ローレンはその長い爪での攻撃をよけたが、腕にかすったようだ。二の腕がえぐられ、バランスを崩した。何とか踏みとどまる。さらに襲撃者は俊敏な動きでクリスティーナを襲った。

「きゃ……!」

 受け身をとりそこなったクリスティーナは背中から地面に倒れた。助けに入ろうとしたのだろうローレンだが、彼女はふと動きを止めた。すると、弾丸の雨が降り注ぐ。すっかり忘れていたが、後方支援のロデリックの援護射撃だ。一発だけ、無駄に正確な狙撃があった。これがハリソンの狙撃だろう。襲撃者の頭を貫く。


 ばっとローレンが襲撃者の側を駆け抜け、膝をついたクリスティーナから剣を奪い取ると、下から斜め上に剣を振りぬいた。襲撃者の体が分断されてると言うショッキングなことを彼女はやってのけた。両断してもなお動き続ける胴体に、ローレンは剣を突き刺した。

「クリス、ローレン、大丈夫か?」

「大丈夫です」

「平気平気」

 戦闘員の少女二人はけろりとした表情で言ってのけた。ただ見ているだけの自分に嫌気がしてくるオスカーだった。


「主よ、憐れみたまえ……」


 場違いな神への賛美が聞こえ、三人の視線はそちらに向いた。淡い茶髪に藍色の瞳。目つきは悪目でへたをすれば悪人相にも見える二十代半ばの彼は。

「あ、似非神父」

「誰が似非神父だ、小娘。エクソシストだエクソシスト」

 と、主張したのは少し話題にも上ったジェイク・シスレーである。神父ではないが本物のエクソシストであると言う彼。ちょっと意味が分からない。

「久しぶりだが、相変わらず元気そうだな」

「この状況のどこを見てそう判断したのか教えてほしいわ」

 いつもどちらかと言うとボケているローレンがツッコミを入れた。確かにローレンは怪我をしているし、クリスティーナもよろめいている。元気とは言えないだろう。


「っていうか、なんでシスレー神父がここに?」


 オスカーが尋ねると、クリスティーナを引っ張り起こしたローレンは彼女に剣を返しながらも話に耳を傾けているようだった。

「いや、吸血鬼がいると聞いたのだが、外れだったようだな」

「ってことは、吸血鬼って本当に存在するんだ」

「ローレン、論点ずれてるぞ」

 やはり少しずれたことを言っていて、むしろ安心したオスカーである。

 オスカーはクリスティーナを支える。ローレンはまあ、自立しているしいいだろう。

「吸血鬼は、珍しいがいなくはないぞ。こいつは外れだな。人間でもなさそうだが……」

 ジェイクが首をかしげた。人間じゃないなら何なんだ。


「どうでもいいけど、もう撤収しない? 痛いんだけど」


 ローレンが肩を押さえながら言った。確かに、クリスティーナもこのままにしておくわけにはいかない。

「……そいつ、もう動く危険はないんだよな?」

「三分割したのに動いたら怖いよね」

 ローレンは自分の仕事に自信があるらしかった。まあ、信用していいだろう。

「じゃあジェイクに任せて帰ろうぜ」

「ちょっと待て!」

 落ち着いた声をあげていたジェイクが焦った様子を見せた。それを見て笑うローレンの胆力がすごいと言うか、やっぱりこいつは頭がおかしいと思った。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ローレン毎回怪我してる気がする。


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