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通り魔にご用心【3】









「ローレン、お前、制限がなければ捕らえられたってことか?」

「始末はできた」


 さらっと恐ろしいことを言うローレンである。しかしその答えは、ローレンが手加減できない、と言うことでもある。

「……とりあえずフェイは病院行って来い」

「え、ローレンは?」

 フランクに指示を出されたフェイは、彼と顔の半分を包帯で覆ったローレンの顔を見比べる。フランクは「この馬鹿はあとでいい」と言い切った。ローレンも特に文句を言わなかったので、フェイは一旦病院に被害者の様子を見に行くことになった。

「アサギ、監視カメラの映像出せ」

「了解」

 アサギが防犯カメラの映像をモニターに映す。一時間ほどさかのぼると、ローレンたちが本部に帰還したときの様子が映った。ローレン含め三人で行って来たらしい。

 本当に、本部前で襲われたらしい。所々見きれているが、ローレンと襲撃者の激しい攻防が見て取れた。オスカーはじっと襲撃者を観察する。


 怪しい。とても怪しい。昼日中……まあ、もう夕刻だけどその時間に真っ黒な姿なのはどう考えてもおかしいし、動きも人間のそれではない。動きが不自然なのだ。


「うわ……」


 声をあげたのはロデリックだ。今、第三班でこんな素直な反応をするのはロデリックだけだ。彼もだいぶ機密情報局色に染まってきているので、だいぶ図太くなってきているけれども。

 ローレンは左半身を主に怪我したようだが、その代わりに襲撃者の左腕をあらぬ方向に曲げていた。力づくである。この辺りで制限がかかったのか、ローレンの動きが止まった。ちょうど本部から人も出てきたので、襲撃者が逃げていく。そこでアサギが再生を止めると、ローレンに視線が集まった。

「……左をくれてやる代わりに、腕をもらっただけだ」

「きっちり報復してるじゃねーか……」

 ハリソンは呆れた調子でツッコミを入れた。オスカーは目を閉じて少し考える。

「だけど、ローレンが素手かつ制限有であそこまで戦えたんだ。武器を持てば?」

「一瞬で両断できるな」

「……」

「さすがに冗談だよ」

 だいぶ戻りつつあるが、ローレンの雰囲気が殺伐としているので軽口もたたけないのである。

「フランク、ローレンの制限って解除できるの?」

「難しいな。武器すら持たせられないだろう」

 フランクの回答に、オスカーは苦笑を浮かべた。まあ、わかっていたことだ。ローレンがさりげなく舌打ちした。


「クリスなら勝てるか?」

「ひっ」


 名指しされたクリスティーナがひるむ。ローレンは「可能だろう」と即答した。

「人間離れした動きをしているけど、決して勝てない相手じゃない」

「それ、ローレンだからじゃなくて?」

 アサギが遠慮なく言った。ローレンとクリスティーナを比べると、戦闘民族であり驚異的な膂力や回復力を持つクリスティーナの方が化け物じみているが、実は、何も能力なしでそのクリスティーナと互角に戦えるローレンの方が化け物である。


「というか、そいつって吸血鬼なんじゃないの?」


 ロデリックが首を傾げて言った。みんな、「あ」という表情になったが、一人、件の通り魔事件の時にはいなかったローレンは「は?」と首をかしげた。

「何それ」

「えーっとだな。お前が大統領府に行っている間に、通り魔事件を解決してな」

「通り魔って、警察の仕事でしょ」

 ローレンの冷静なツッコミである。事情を知らなければ、そのように思うだろう。ハリソンが「そうなんだけどな」とため息をつく。

「こう、首筋に牙の痕みたいなものがあって、すわ吸血鬼かってことでこっちに回されてきたんだよな」

「何それ。某公爵夫人みたいな若返りを狙ったの? それともただの変態?」

「ただの変態の方だ」

 さすがのローレンも引いたようだ。彼女も若い女性なので、無理もない。


「その流れで、吸血鬼ってわけ?」

「ま、そう言うことだな」


 一通り説明を受けて何となく納得したらしい。ハリソンは口を開いた。

「でも、吸血鬼って鏡に映らないんじゃなかったっけ。カメラにも映らねーんじゃないの」

「あー、確かに」

 主張したロデリックがうなずいた。ローレンは首をかしげる。

「吸血鬼ってなんで鏡に映らないんだっけ」

「さあ……シスレー神父に聞けば分かるんじゃないか」

 ジェイク・シスレーは機密情報局に所属する本物のエクソシストだ。神父と言うのは愛称である。教会系の学校で学んだらしいが、いろいろやらかして神父にはなれなかったそうだ。でもエクソシストである。


「むしろ、やつを呼んでくるか」


 などとフランクも言っている。そこに、アサギが「ねえ」と相変わらず抑揚に乏しい声で言った。

「そもそも、こいつどうやって見つけるの」

「……」

 誰も考えていなかった。もちろん、オスカーも。一人冷静なアサギは「まあいいんじゃない」などと言う。

「こいつもローレンにやられたなら、ローレン前に出しておけば食いついてくるんじゃないの」

「それだ」

 オスカー、ハリソン、フランクの声がだぶった。ローレンは一番近くにいたフランクの肩のあたりを殴った。

「どっちにしろ、フェイが帰ってきてからだなー。情報持ってくるだろうし、ローレンの怪我も治してもらわないとだし」

 ハリソンが伸びをして言った。フランクが「そうだなぁ」と腕を組んだ。

「まあ、お前ら好きにやっておけ。念のため、ジェイクにも声をかけておく」

「了解。ありがとう」

 フランクも仕事があるのだろう。その場を後にする。ハリソンたちも、フェイが戻ってくるまでは待機だ。だが、決めておくこともある。


「とりあえず、クリスとローレンは前衛な」


 近距離戦ができるのは、この二人の少女だけなので必然だ。ローレンは武器を持てないし能力も使えないが、それでもオスカーたちより強い。

「ハリソンには狙撃銃を用意してもらって、ロデリックも重火器揃えておけ。……銀の弾丸を使うべきか?」

「それなら、ちょっと試してみたい弾丸があるから、それ試してよ」

 アサギが何気に怖いことを言う。要するに実験だ、実験。ハリソンも「いいぜ」などと言うので、オスカーはもうどうなっても知らない。

「アサギはフェイと一緒に待機だろ。私は……一応行こうかな」

 年齢が一番上と言うだけだが、一応指揮官であるオスカーは現場に出ることにした。


「……吸血鬼ってさぁ、いると思う?」


 オスカーはそう尋ねてみた。反応はそれぞれだ。

「俺はいても不思議ではないと思う」

 言い切ったのはロデリックだ。というか、この主張結構最近にも聞いた。

「まあ、世の中俺たちが知らないこともたくさんあるからな」

 ハリソンも特に否定しないようだ。ローレンも「まあ突然変異体みたいなやつはいるかもね」と言った。

「吸血鬼がいるかはわかんないけど、このままにしておくとまた被害者が出るよね」

  アサギは意見を保留にし、そんなことを言った。アサギが言うとあたるような気がするから怖い。

「まあ、ローレンを出しておけば相手は食いついてくるし、被害があってもローレンだけで済むよ。まあ、ローレンに剣でも持たせておけば確実に始末できるだろうけどね」

「無理だね。そこまで差し迫ってないから」

 ローレンはそう一蹴した。第三班一の戦力で、機密情報局内でも上から数えたほうが早いほど強いローレンだが、オスカーは彼女が武器を取ったところを数えるほどしか見たことがなかった。

「そんじゃ、ローレンはフェイが戻ってきたら怪我治してもらって、リハビリしとけよ」

「了解」

「クリスも、覚悟決めとけよ」

「わかり……ました」

 まあ、ローレンもクリスティーナもやるときはやる。第三班では文字通り、男より女の方が強いのだ。








ここまでお読みいただき、ありがとうございます。



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