表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/61

通り魔にご用心【1】

第4章。オスカーの話。










 機密情報局の『表向きの』窓口にあたる場所で知り合いが騒いでいると聞き、オスカー・マクローリンは気乗りしないながらもそちらに赴いた。

 表向きの窓口は、本当に表向きでしかない。機密情報局本部から窓口には出られるが、窓口から本部に再度入ることはできず、本当に窓口の機能しかない。もう一度本部に入るには、隠された入り口をもう一度通るしかない。

 そんな面倒な窓口に出たオスカーは、その顔をしかめた。どこか適当でへらっとしたところがある彼にしては珍しい反応だ。


「……何しに来た」


 まるでハリソンのような不機嫌な声が出た。オスカーの声を聞いた女性はパッと顔をあげた。その顔に媚びるような表情を浮かべた。


「久しぶりねぇ、オスカー。すっかり大きくなっちゃって」


 たぶん、美人の範疇に入るのだと思う。毎日超絶美人を見たりしているのでよくわからなくなってきた。


 鮮やかな赤毛に青みがかった緑の瞳の女性だ。何となくオスカーに似ているのは当然で、彼の母親なのだ。認めたくないけど。


「何をしに来た」


 本当に、自分でもびっくりするくらい冷たい声が出た。怒ったローレンもびっくりだろう。

 派手な化粧に香水。彼女は、昔から自分を飾りたてることと男にしか興味がなかった。シングルマザーの母は、一人でオスカーを育てたわけだが、決していい母親ではなかった。

 オスカーも美形と言うほどではないので、母も似たようなものだろう。化粧はうまいのだが派手すぎる。フェイと引きあわせたら、彼女が怒りだしそうな化粧だと思った。これで母は、男に媚びている。息子も媚びる男の一人らしい。

「ね~。ちょっとでいいからお金貸してくれない?」

「まだそんなことを言っているのか。いいから帰れ。どうせ貢いでくれる男がいるんだろ」

「ええ~。あたしあんたの母親でしょ。いいじゃない。必ず返すからさ~」

 オスカーの母はたまにこうして金を無心に来る。オスカーはいつも通りすげなく追い返した。

「貸したところでろくなことに使わないだろう。いいから帰れ。もう来るな」

 何とか母を窓口から追い出し、ため息をついたところに話しかけられた。


「今の人、お母さん?」

「……一応な」


 フェイだ。空気の読める彼女は、目を細めて言った。


「珍しいわね、オスカーが機嫌悪いの」

「……母には、いい思い出がない」

 幼少期から育児放棄されていた。やせ細っていたところを保護され、児童保護施設に入れられるが、母が迎えに来るので施設側もオスカーを帰さなければならない。

 それからオスカーは全寮制中学に入り、同系列の高等部に進学。このころに公文書偽装事件を起こした。いや、大学に入ろうとしたのだが、保護者の証明が得られなかったので、政府の許可証を偽装したのだ。いや、あの時は本当にどうかしていたと思う。後悔はしていないけど。


 母と不仲と言うと、ローレンが強烈であるが、オスカーの母は彼女の母のように罪を犯しているわけではない。もちろん逮捕なんてできないし、そもそもオスカーに母を差し出すような度胸はない。十二歳のローレンにはあったのに。

「……あんたのお母さん、アルコール中毒ね」

「……やっぱりそう思うか?」

 母は酒に逃げる人だった。医者で、確かな観察眼を持つフェイだから気づいたのだろう。

「まあねえ。まだそこまで進行してないみたいだけど、早めに病院に行った方がいいわよ」

「……」

 そこまでする義理はない、と思ったが、フェイの前では言えなかった。だが、彼女は察したようだ。

「ま、いいわ。あんたが後悔しないならね」

「……フェイ、カウンセラーにもなれるんじゃないか?」

「こんな適当なカウンセラー、いないわよ」

 フェイは苦笑して窓口から出た。一度出なければ、本部に戻れないのである。


「誰かしらね、こんな仕組みにした人……」


 それは知らないが、管理しているのはローレンとアサギだったと思う。
















「通り魔?」


 珍しく、電話ではなくフランク自身が仕事を持ってきた。ちなみに、七人のうちフェイは国防省の病院、ローレンは大統領府に連れて行かれた。


「そう、通り魔だ。若い女性が狙われている。首筋にこう……かまれた痕みたいなものが」


 とフランクがタブレットで写真を見せる。確かにこれは噛み傷だが。

「これ、牙の痕じゃねぇの……」

 ツッコミを入れたのはハリソンだった。いつもならフェイもツッコミを入れてくれるのだが、今は出張中。オスカーはこの通りだし、クリスティーナとアサギにツッコミは期待できない。ロデリックは「そうなのか?」とローレンの嘘も真に受けてしまうくらいだ。

 と言うわけで彼は今、ツッコミ一人と言う過酷な状況なのである。


「……吸血鬼?」


 ロデリックが首をかしげた。確かに、そう見える。被害者の後ろ首筋に二つのかまれた痕……牙が突き刺さったような痕があるのだ。

「……かもしれん。実際に、血を抜かれた形跡がある」

「彼女たちは無事なのか?」

「それを確認するためにフェイを病院にやった」

 ハリソンの問いに、フランクはさらっと答えた。理由事情を説明してくれないので、こういうことが起こるのである。


「まあ今更吸血鬼がいたところで驚かないですけど……」


 ロデリックが眉をひそめてフランクを見上げた。


「被害者、何人でしたっけ」

「今のところ三人だ。三人目が襲われた時、近くに警官がいて後を追ったんだが、俊敏すぎて追いつけなかったって話だ」


 一応、目撃者がいたらしい。ハリソンが声をあげた。

「ローレン呼び戻せー。おとりさせろ!」

「おー、それいいな。今までの被害者も美人だし、ローレンなら絶対食いつかれるだろ」

 オスカーも適当に言った。でも、いい案のような気もする。ローレンは若い美人な女性だし、生身で戦わせても絶対生還してくるし。そんな感じの信頼が、ローレンに対してはある。


「それは無理だ。あいつは二、三日は絶対に大統領府を動けねぇ」


 フランクがさくっと言い切った。そうか、駄目か。ローレンはやらせると割と何でもできるので、いてくれると心強いのだが。しかし彼女は、不在にすることも多い。この案が駄目だと言うことは。

「……となると、クリスか」

「ふぇっ」

 クリスティーナがびくっとなった。彼女はどちらかと言うと、幼い印象であるが、フェイを行かせるわけには行くまい。アサギを女装させてもいいが、戦闘力皆無であるし、しかも幼すぎるだろう。

「……ハリソン、女装してみるか?」

「……んで俺なんだよ」

 不機嫌そうにハリソンは言った。何故って、戦闘力があって女装が似合いそうだからである。オスカーも整った顔立ちをしている方だが、いかんせん戦闘力がないし、ロデリックはどちらかと言うと男らしい顔をしている。

「というか、なんでおとりを使うことになってんだ」

「だって、そうでもしないと吸血鬼に会えないじゃん」

 フランクのツッコミにオスカーはそう返したが、この微妙に混とんとした中、一人冷静なアサギが指摘を入れてきた。


「そうでもないかもしれないよ。吸血鬼が出る場所は、だいたい決まってる。もう少し詳しく解析で来たら、張ってるだけで見つかるかもね」


 などとアサギは言い切った。解析してみるよ、とその可愛い顔で男前なことを言う。彼は姿はどうあれ中身は男である。第三班は、アサギとローレンがいなくなったら回らなくなるだろう。


「……ちなみに、さっきから吸血鬼吸血鬼って言ってるが、通り魔だからな。吸血鬼と決まったわけじゃないからな」


 フランクがツッコミを入れたが、誰も聞いていなかったと思う。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ