大切なもの【3】
裏側。ロデリック視点。
一方その頃の機密情報局である。ローレンがエマージェンシー用のネックレスを引きちぎったことで、第三班には警報が鳴り響いていた。
「これ! これ、どうやって止めるの!?」
「どっかにスイッチあんだろ!」
騒いでいるのはフェイとハリソンだ。クリスティーナとロデリックは戦力外であるし、オスカーは不在である。
そこに、すっとアサギとオスカーが入ってきた。アサギは警報のけたたましい音に顔をしかめると、無造作にスイッチを下げた。警報が止む。
「あ、アサギ」
フェイがアサギを見てほっとした表情になった。気持ちはわかる。ロデリックもちょっとほっとしたし。アサギ、この中では最年少なのだが。
「今の警報はなんだ?」
ロデリックが尋ねると、アサギが淡々と答えた。
「ローレンのエマージェンシーだね。まあ、あいつは常習犯だから」
「……」
ローレン、何でも常習犯である。
「……まあ、常習犯だけど。あいつは無駄なことはしねぇだろ」
「ローレンは今、お兄さんと出かけているんだったか。何かあったのかもしれんな」
ハリソンとオスカーがそれぞれ言う。ロデリックはローレンの兄を見たことはないが、どう考えても異常な妹に比べれば常識的な範疇に入るのだろうと思う。
「ローレンがケイシーさんをかばったのかもね。あいつ一人なら、多少無理をしても自力で帰ってくるよ」
アサギがローレンを信頼しているのか放置しているのか微妙な発言をした。まあ、ロデリックにも少し分ける気がした。
「とりあえずアサギ。発信源は?」
「ニュー・エイベルの百貨店だね。精度が悪くてそれ以上は特定できないけど」
それでいいのか、エマージェンシーシグナル。そこに、ハリソンが首をかしげた。
「あいつの端末は? 最終発信点を確認してみろ」
「わかった」
アサギの後ろからハリソンがモニターを覗き込む。なんだかんだで在籍年数が長いこの二人、頼りになるのだ。
「百貨店の七階、トイレの前かな」
「ああ……いくら中のいい兄弟でも、トイレは別れるよな……」
と、ハリソンが納得した声をあげた。オスカーが受話器を置いて言った。
「早急にローレンを回収して来いってさ。ま、あいつがいないと、機密情報局も困るからなー」
間延びした声でオスカーが言った。やる気なさすぎだろう。まあ、救出するのがローレンと言うだけでやる気がなくなるのはわかる。自力で戻ってきそうだし、骨を折るだけ無駄なような気がするのだ。見た目だけなら囚われのお姫様のようにも見えるのだが。
「全員で行くの?」
「そうだな……アサギとハリソン、ロデリックは百貨店に向かってくれ。クリスとフェイは私と一緒に防犯カメラの方を確認しに行くぞ」
「わ、わかった」
ロデリックがうなずく。何となく、戦闘力が偏っているような気もするが、まあいいか。早速、ロデリックはハリソン、アサギについてローレンのエマージェンシーが発信された百貨店に向かった。
「あ、すみません」
アサギよりも社交力があり、ロデリックよりも経験のあるハリソンが百貨店の店員に声をかけた。そのままハリソンは交渉すると、回収したごみ袋を一つ持ってきた。
「これが七階のトイレ前のごみ箱から回収されたごみ袋だ」
「え、これ、ツッコみいれたほうがいいのか?」
「あとにしろ」
そう言われたので、ロデリックはツッコミは入れないことにした。いや、ツッコみたかったけど。手袋をつけたアサギがその中から見覚えのあるスマホとエマージェンシー発信機を発掘した。
「スマホ、壊れてるんじゃないか?」
「うーん、これくらいなら復旧できるけど。中をローレンがいじってたら難しいね」
画面が割れたスマホを見て尋ねたロデリックだが、アサギから冷静な回答が返ってきた。エマージェンシー用のネックレスはハリソンに渡し、アサギはローレンのスマホを自分の端末につないだ。
「あ、復旧できた。ローレンのやつ、初期化してる……」
アサギが顔をしかめ、さらに初期化を解こうと奮闘する。ロデリックとハリソンは見ているだけだ。
「よし、最後に受信したメールが、脅迫メールだね」
と、アサギは復旧したローレンのスマホに送られていたメールを自分の端末に表示して二人に見せてきた。そのまるっきり脅迫文な文章を読んで男三人は「えー」というような表情になった。
「まるっきり脅迫じゃん」
「でも、ケイシーさんが捕まったんなら行くだろうな……」
アサギとハリソンがため息をついた。ロデリックは二人を交互に見る。
「ローレンのお兄さんは普通の人なんだよな?」
ロデリックはローレンの兄ケイシーに会ったことはない。そのための質問だが、ハリソンは頭をかいた。
「まあ、ローレンに比べれば普通だが、ああ、ローレンの兄ちゃんだなぁって感じの人ではあるな」
「意味わからん」
「ま、身体能力的には僕といい勝負だよね」
アサギのわかりやすい言葉に、ロデリックは何となく納得した。それは助けに行く。ロデリックだって、アサギが捕まったら助けに行かないと、って思うし。
「とりあえず、オスカーたちに連絡入れるか」
ハリソンが仕事用のスマホを取り出してオスカーに電話をかける。その間にロデリックはアサギに尋ねた。
「ローレンたち、まだそこにいると思うか?」
「いるよ。僕たちが行くまで、ローレンが移動するとは思えない」
「なるほど……」
やはり、付き合いが長いからだろうか。ローレンとアサギ、ハリソンの間には信頼関係があるし、お互いの行動をよく理解している。
「おい。この百貨店の防犯カメラにローレン映ってるってさ。店出るところまでばっちりだ。あと、フェイが道路の防犯カメラも確認してくれるらしい」
「ふうん……じゃあ、僕そっち行った方がいいね」
「頼む」
ハリソンとアサギの間でぽんぽんと話が進み、ロデリックはついて行けない。
「……俺はハリソンについていけばいいの?」
「ああ。貴重な戦力だからな」
一応、念動力者であるロデリックは戦力に数えられるらしい。まだ訓練中なのだが、だいぶ操れるようになってきた……と言うのはまあいいか。
「アサギ。気をつけろよ」
「そっちこそね」
「いや、そうじゃなくて痴漢とか」
「余計なお世話だよ!」
ハリソンの心配に対し、アサギはふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。まあでも、ハリソンが痴漢を心配する気持ちはロデリックにもわかる。アサギは可愛いのである。
アサギと別れ、脅迫文にかかれていた場所に向かう。目的地であるビルの前で、オスカー、クリスティーナと合流した。
「ハリソン、狙撃銃は持ってきているな」
「ああ」
オスカーの問いにハリソンがうなずいた。彼は、分解式の狙撃銃を持ち歩いていたのである。
「お前たち二人はそのまま後方支援に回ってくれ。私はクリスと一緒に中に入るから」
オスカーが軽く言った。いや、彼が現場を見る必要があるのはわかるが、怖くはないのだろうか。まあ、ローレンもクリスティーナもいるし、いいのか。
近くのビルの非常階段をのぼりながら耳に通信機をつけると、ちょうど通信が入ってきた。先ほど別れたアサギだ。
『やあ。調子はどう?』
どう? と言いながら棒読みだった。まあ、いつものことだけど。
『早速だけど、防犯カメラを追った限り、ローレンたちはそのビルの中にいるよ。十二階に間違いない』
つまり、ハリソンたちは十二階を狙える場所を陣取る必要がある。ハリソンが意識を集中して、ローレンたちがいるらしい部屋を特定した。
「あいつ、読みにくいんだよな」
精神感応能力の力を持つハリソンが顔をしかめた。テレパシーと言っても、精神干渉による会話はできないらしい。読心術と言った方がいいのかもしれないが、精神的圧力もかけられるそうなので、一概に読心術と言い切れないのだそうだ。
「いた」
ブラインドは降ろしているが、ロデリックにも見えた。たぶん、ローレンがわかりやすいように合図を送ってくれたのだろう。一瞬、何かが反射した光が見えた。
「ロデリックも構えておけ。ケイシーさんのフォローを入れることになるだろうからな」
「わかった」
スコープを覗き込むハリソンの横で、ロデリックはとりあえず双眼鏡をのぞいた。構えると言っても、念動力の使い手である彼には心構えをするくらいしかできないが。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
裏側からでした。




