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その少年、【1】

新連載です。よろしくお願いいたします。









 ロデリック・リーはふてくされていた。何故自分がこんな目に遭わなければならないのか。ただ、子供を助けようとしただけなのに。


「あんまりそんな顔しなさんなって。まあ、気持ちはわかるけどな」


 そう言って肩をすくめたのは赤毛の男だった。オスカー・マクローリンと言うその男は、ロデリックより二つばかり年上で、彼を迎えに来たのだと言った。彼のほかにもう一人、小柄な少女がいた。


「……!」


 目が合うとパッとそらされた。美しいシルバーブロンドの美少女だ。クリスティーナ・ワーズワースというのだ、と紹介を受けた。やや挙動不審の少女で、赤毛の男と銀髪美少女の組み合わせはよく目立った。

 彼らは何の変哲もないビルに入っていった。オスカーがカードを機械に通し、暗証番号を打ちこむと音声確認が流れた。中に入ると、エレベーターで地下に向かう。


 行先は、機密情報局特殊事例課第三班研究所、らしい。研究所と言うから本当に研究施設のようなところなのかと思ったら、そうでもない。第三課、と書かれたプレートの張ってある扉をオスカーが開けた。

「おーい。戻ったぞ」

「おう、お帰り」

 中には明るめの栗毛の少年がいた。たぶん、ロデリックと同世代の少年で、手には情報端末を持っている。オスカーが彼を見て尋ねる。

「ハリソンだけか? ほかのやつらはどうした」

「アサギが栄養失調で倒れて、フェイがそれに付き添ってる。ローレンはセキュリティ強化だとか言って大統領府に連れて行かれた。五日は帰れねぇだろ」

 何だかいろいろつっこみたいところがあるが、さすがに口に出す勇気はなかった。ロデリックはふてくされたままあっけにとられるという器用なことをやってのけた。


「で、そいつが新入りか」

「ああ。ロデリックだ。ロデリック、彼はハリソン」


 オスカーがざっくりと紹介する。ハリソンと言うらしい彼は雑に名乗った。

「ハリソン・オルブライトだ。これからよろしく」

「……ロデリック・リーです」

 むすっとしたまま名乗る。年ごろが近いとはいえ、失礼な態度だとわかっている。だが、愛想よくできるとは思えない。


「ロデリックの席はそこ。まあ、何事もなければうちは基本的に暇だから。クリスとかは勉強してるしな」


 オスカーが空いている席を示し、それからクリスティーナの頭を撫でた。クリスティーナがおどおどとオスカーを見上げる。


「あの、私……」


 か細い声だった。ロデリックは彼女に会ってから、彼女の声をまともに聞いたことがない。オスカーは「人見知りなんだ」と笑っていたが、人見知りのレベルではない気もする。


 連邦合衆国機密情報局特殊事例課第三班は、十代から二十代の若者の集まりだ。年齢を見ると、子供の集まりと言えなくもない。その名の通り、表ざたに出来ない特殊な事例を取り扱っており、そこに所属する六名も特殊な事情を持っている。


 まず、ロデリックを案内してきたオスカーであるが、なんと公文書偽造犯である。クリスティーナは今は失われた戦闘民族の末裔であり、ハリソンは強力な感応能力を持っているとのことだった。

 つまりは、特殊な能力を持ち、犯罪に走った、もしくは走るかもしれない子供を捕獲、保護する場所なのだ。大人ならば普通に収監されるが、子供ならまだ更生の余地がある、飼い殺しにするよりはせっかくの力を利用しよう、というのが政府の意向らしい。ちなみに、この第三班から本当に機密情報局の職員になった者もいないわけではない。


 まだあっていない三人も、それぞれ特殊な事情がある。十八歳で医師免許を取得した天才でありながら生きた人間を解剖したというフェイ。ハッキング常習犯で一晩で乗っ取られた大統領府のコントロールを回復させたというローレン。絶対に精錬できないと言われた鉱物の精錬方法を『偶然』みつけたアサギ。


 ……自分はこの中でやって行けるだろうか。今見たとおり、半数が犯罪者予備軍である。


 そんなロデリックは、強力なサイコキネシスの持ち主である。そもそも彼がここに来たのだって本意ではない。強力な超能力を持つからと言って、必ずしも国の保護を受けなければならないわけではないし、実際、何事もなく普通に過ごしている人物の方が圧倒的に多いはずだ。

 彼の不運は、車に引かれそうになった子供を助けた拍子に力加減を誤り、事故を起こしそうになった車両を大破させてしまったことから始まる。幸い、その大破した車両の運転手は軽傷で無事だったのが、その件でロデリックは危険な超能力を持つとして認識されてしまった。


 そこで、出てきたのが機密情報局である。似たような事情を持つ者を多数抱える機密情報局は、確かに、ロデリックを預かる場所としては最適であろう。

 だが、ロデリックとしては不本意である。彼は超能力を危険思考のために使ったことはないし、犯罪者予備軍として扱われるのはとても不本意だということだ。まあ、相手から見たらそんな違いは分からないのだろうと頭ではわかっているのだが。


 その日のうちには、残り三人に会えることはなかった。倒れたアサギはしばらく入院することになったそうで、フェイはそれについているらしい。ローレンは五日は戻ってこないらしいし。

 オスカーは何事もなければ暇だ、と言っていたが、本当に暇である。学校には通えないし、ロデリックはクリスティーナと共に勉強する日々だ。おかげで、彼女とは少し仲良くなれた。対人恐怖症気味でおどおどしているが、この第三班の中では最も『普通』だ。オスカーもハリソンも、先日会ったフェイもどこかしら変わっている。いや、クリスティーナも変わっていると言えば変わっているのだが。

「ローレンの出張が延びた。昨日の夜の便で西海岸に飛んだらしいぞ」

「あいつも万能だからなぁ。アサギは?」

「栄養失調のくせに全力疾走して足の骨を折った」

「何やってんだよ」

 ハリソンとオスカーの会話である。ハリソンは苦々しげだが、オスカーはけらけらと笑っていた。印象としては、ハリソンはまじめで神経質、オスカーはおおらかで鷹揚、とでも言ったところか。


 事務室の電話が鳴り響いた。事務室と言っても、ロデリックたちを監禁しておくための部屋と言ったところであるが、自由に出入りはできるし牢獄ではない。

 電話をとったハリソンが「仕事だぞ」と言った。オスカーはもちろん、ロデリックとクリスティーナも顔を上げる。基本的に、事務室に常駐しているのはこの四人だ。もしかしたら入院中のアサギが常駐している可能性があるが、少なくともフェイとローレンは飛び回っていることが多いらしい。実際、今日も二人ともいないし。


「保険会社の社長室に侵入者があったんだと。それがどうも魔術師か能力者の仕業じゃねぇかってことでこっちに回ってきたらしい」

「おお。どう考えてもローレンかアサギがいてほしい案件だな」

「どっちもいないけどな」


 オスカーとハリソンのやり取りである。詳しくは聞いていないが、ここは調査事務所のようなものらしい。なんと言うか、通常では解決できない事象の解決策を提供する、と言った方が良いか。ハリソンから大体の話は聞いたが、かなり業務内容が広い。

「じゃあまあ、私と、クリス、ロデリックの三人で行ってくるか。ハリソン、ここを頼んでもいいか?」

「ああ。もうすぐフェイも帰ってくるだろうし、いいぜ」

「では頼んだ。行ってきます!」

「おう。気を付けてな」

 ハリソンがひらひらと手を振る。ぼうっとしていたロデリックは、クリスティーナたちに続いてあわてて事務室を出た。地上に出たオスカーが端末を開いて依頼のあった保険会社の住所を調べている。幸いと言うか、それほど遠くないようだ。


 ロデリックが同行するのは初めてだ。そもそも、まだ連れてこられてから四日しかたっていないし。学校には通えないわ不自由だわでふてくされていたロデリックであるが、四日も経てば慣れてくる。慣れとは恐ろしい。おどおどしたクリスティーナに癒されたのもある。

 その保険会社は、ロデリックでも名前を知っているくらいの巨大企業だった。すたすたと入っていくオスカーとクリスティーナが信じられない。いや、クリスティーナはオスカーと離れないようにするためについて行っているだけの可能性もあるが。


「おーい、ロデリック。行くぜー」


 間延びした声で呼ばれ、ロデリックはあわててオスカーたちについて行った。すでに警察が入っていて、かなり白い目で見られた。同じ政府機関なのに。話をするのはオスカーで、クリスティーナとロデリックは見ているだけだけど。

 侵入があったのは、社長室だった。社長が何やら警察に当たり散らしているが、ロデリックの目に飛び込んできたのは、大きくへこんだ壁だった。しかも均一に丸くへこんでいる。いくらなんでも不自然だ。


「ロックを開けられた跡はない、何をとられたかもわからない、防犯カメラに裳映っていない! だが、確実に侵入され、こんな壁のへこみを残されたんだぞ! 誰かが入り込んできたのは明確だ! とっとと犯人を逮捕しろ!」


 ……偉そうな男である。いや、偉いのかもしれないが、少なくともロデリックはこの会社の保険には入りたくないな、と思った。

 侵入形跡はあるが、証拠が皆無であう状況に警察は困りきっているようだ。オスカーが警察官に声をかけた。


「すみませぇん。特殊事例課から派遣されてきたものなのですが」


 そこで初めて、その場の目がオスカーに向けられた。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


機密情報局特殊事例課第三班の皆さんはそれぞれ超能力を持っています。


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