伝達式4
声の主であり、破壊の犯人は幼稚園児程度に見える子供だった。平服姿の子供は辺りを見回すと真っ直ぐにこちらへと向かって来た。
その子供に向かってヨーゼフ様が歩いて行った。
「おい、お前無礼だぞ」
「お主もやるな! 勝負じゃ!」
言うが早いか子供の頭突きがヨーゼフ様の腹部に刺さった。いきなりの攻撃にヨーゼフ様は対処できず、呻きとともに跪いた。
「おい」
「ピエール様、お待ちを!」
その様を見ていたピエール様が少女に向かうと、子供も反応し一気に駆け寄り右フックを繰り出した。
それをピエール様は辛うじてかわした。
「無礼者!」
攻撃を受けた主の代わりとばかりにロベルト様が子供に掴みかかるが、逆にロベルトが投げ飛ばされた。
あわやテーブルと激突というところでそれを捕まえて防いだのは縮地でやってきたスチュワートだ。
「なんですか? 騒がしい」
「次から次へと面白そうなのが来るわ! なんとも豪勢よのぅ」
子供は不敵に笑うと目先を公爵様に向けた。
「だが、今宵の目的はお主じゃ! 腹が膨れる前に頂いてくれるわ!」
飛びかかり拳を繰り出すが、ファロスが間に入りそれを難なく受け止めた。
「これはおイタが過ぎますね」
ファロスが手を捻ると子供の体が空中で一転した。そのまま勢いを付けて床に叩き付けられるかと思いきや優しく手を離した。子供の方も軽やかに着地する。
「これは……勝てぬか……」
そう言うと子供は床にドカリと座り込んだ。
「ええい! 煮るなり焼くなり好きにせぇ!」
「言われんでもそうさせてもらうぞ」
ようやく立ち上がったヨーゼフ様は怒り心頭の様子で子供に近づく。
「姫様ーー!!」
その間に入り込む様に甲冑姿の大男が叫び声を上げて駆け込んできた。
「下郎! 下がってろ!」
ヨーゼフ様が一括するも大男は怯む様子を見せない。それどころか辺りをキョロキョロと見回す。そして私と目が合った。
「あ、バトラーの旦那! どうせ姫様が暴れちまったんでしょうが勘弁してくださいよ」
そう助けを求める大男は、カガチ様のところにいた男だった。
「ポポポ。名前を教えて、ね、ね、ね?」
一方で公爵様は座り込んだ子供に話しかけていた。
「我か? ルゥ・ドゥー・カガチである」
「ポポポ。ハガン候の息女なのね、ね、ね」
今にも飛びかかろうとしていたヨーゼフ様の動きが止まった。
「ほぅ、よくわかったな」
何故か偉そうなルゥ様に対して公爵様は恵比須顔を崩さない。
「ポポポ。自分で『ドゥー・カガチ』と言ってるのね、ね、ね。『カガチの娘』って意味だよね、ね、ね?」
会場が再びざわつく。闖入者と思いきや大貴族の令嬢が乱暴狼藉を働いたのだ。
「『ね、ね、ね』『ね、ね、ね』と五月蠅いぞ」
この公爵様への暴言で会場の貴族たちは混乱したことだろう。
「ポポポ。子供は素直でいいよね、ね」
公爵様は次の「ね」を出さないように口を押さえた。そして珍しく恵比須顔を崩し、しょげ返った表情でファロスに目で合図を送った。
「散々に蛮族などと陰口を叩かれていたのです。彼女が怒るのも無理ないことでしょう。むしろ侮辱に対しての抗議、この歳で中々できることではありませんよ。皆さんもそう思いませんか?」
公爵様の代わりにファロスがそう言った。
もちろんルゥ様がその様なことを考えているはずがない。単純に強そうなの、偉そうなのがいたから殴りかかっただけだ。ハガン候を蛮族呼ばわりしていない公爵様をメインターゲットにしていたことからも明らかだった。
そんなことを百も承知で述べるファロスの詭弁に対して、公爵様は大袈裟にうんうんと頷く。それを見て場に居合わせた貴族一同も同意したように頷いた。
「ヨーゼフ様も子供の頭突きくらいで怒ることもないでしょう。むしろ表沙汰になれば恥をかくだけですよ。ハガン候を散々に馬鹿にしていたら、その子息の一撃で悶絶したなどと言われたくないでしょう?」
ヨーゼフ様にも言いたいこともあるだろうが、場の空気がそれを許さず、立場を失い首をうなだれた。
「さて、それでは式次第を進めさせて頂きます」
スチュワートは先程の騒動などなかったかのように一同に告げた。
「待て! 我はどうしたらいい!」
それに幼女ルゥ様が待ったをかけた。
「本日は当家の式に参列して頂きありがとうございます」
スチュワートはそう言って能面の様な笑顔を作った。
「いや、そうではなくてだな……」
「姫様、当初の目的通り式を観てたらいいんですよ」
大男が囁くとルゥ様は納得してない様子で立ち上がった。




