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俺TUEEEのに無力です  作者:
竜安寺貴子の章
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伝達式3

 式次第は権蔵様の手配なので、お嬢様の身の回りはベアトリクスに任せることにし、私の方は会場の来場者を確認することにした。

 権蔵様の招待した名だたる客人の中から味方となり得る人物とそうではない人物を見分けなければならない。()()()()()()が集めたデータと今回の人となり、そして現在の感情の情報をできるだけ集めたい。竜安寺家になんらかの気持ちを持っていれば、私を前にして感情の揺らぎが観測できるはずだ。公爵家目当てで来て無関心ならそれでも構わない。それも一つのデータだ。

 私が会場に入るとやはり視線が集まった。その多くは戦力外とも言える中規模以下の貴族であり、噂のバトラーを見てみようという好奇の目であった。

その中で一際強い侮蔑の反応を見つけた。その感情を持つ人物は無遠慮に近づいてきた。


「これはこれはバトラー殿。お噂はかねがね聞いております。お初お目にかかります。私はヘウル候ヨーゼフと申します」


 権蔵様の叙任に尽力した先代ヘウル候ヨーステン翁の後継者であった。彼の相続には色々と噂がある(ほとんど事実なのだが)。その最たることは高齢化で側近を失っていった翁を暗殺したことだ。

 既に初老にさしかかってるヨーゼフ様は慇懃無礼に芝居がかった口調で続ける。


「さすがは天下のバトラー殿、お目が高い。貴殿が主とする貴子殿の御母堂は我らの一族出身……と、なっておりましてな。我々は親戚などと欠片も思っておりませんが、そちらからすれば親戚となりますな」


 そう言って下卑た笑みを浮かべた。


「まぁ、聞くところによりますと魔法力がほとんどないとか。本当に誰に似たのだか。よくもまぁ、そのようなどこの馬の骨ともわからない者を主としたものです。ああ、一応は我らの親戚という形になっておりましたな。バトラー殿は北方戦争の折には蛮族共に味方いたしたようですし、物好きというか見る目がないと言いますか……」


 ヨーゼフ様は周囲に見せるように大げさに肩をすくめて呆れた様な仕草をして見せた。


「ヘウル候! 先ほどからの振る舞いは少々度が過ぎますぞ」


 名にし負う大貴族をそう諫めたのは少年だった。


「これはこれはラントット伯ピエール殿。暫く見ない間に随分と大きくなられて。子供は成長が速いですな。……前に会ったときはこれくらいでしたのに」


 この少年は、()()ピエール様だった。ヨーゼフ様は九伯家の御曹司を小馬鹿にするかのように膝辺りに手を当てた。さらに続けて、


「いや、これくらいでしたかな?」


 と、足首に手を当てる。


「しかし、それ以上に口は随分と大きく成長したようですな」


「ヨーゼフ様、その様な振る舞いは先代ヨーステン様の名を傷つけますぞ」


 今度はピエール様の脇に控えていた若き従者が主に代わって諫めた。


「ふん、ロベルトか。ただの従者なら他家であっても許さんところだが、特別に許してやろう。それよりもお主は当家に来ぬか? 九伯家も北方戦争以来色々と大変なのだろう? お主のところも……なぁ? こちらに来れば以前同等になれるぞ」


「私の忠義は既に定まっております。ただ……」


「ただ?」


「その言葉をヨーステン様から聞けたらさぞ栄誉に感じたことでしょう」


「さっきからヨーステン、ヨーステンと貴様は……」


 変人ながらも英雄である先代ヘウル候ヨーステン様にコンプレックを持っているのだろう。ヨーゼフ様の怒りは限界に達しようとしていた。遠巻きに見てる貴族達は大貴族の争いに巻き込まれることを恐れ固唾を飲み込んで見守っていた。その静寂を破る様に鼓を打った様な音が響いた。


「ポポポポポ」


 ファロスを連れて突如公爵様が現れたのだ。


「ん? どうかしたの? ね、ね、ね?」


 既に知っているであろうに、辺りの剣呑な雰囲気を察した様子で聞いてくる。


「公爵殿……何故ここに?」

 

 ヨーゼフ様は公爵様の出現に驚いている。


「マサラ子爵の伝達式にきたんだよ? よ、よ」


「公爵殿が来るようなものでは……」


「なんで? ボクの娘が使者役をやるんだよ? 変かな? な、な、な」


 ヨーゼフ様は唖然とした。純粋に貴子様を嘲笑いに来ただけだったのだ。誰が使者をやるかなど頭になかった様子で、メアリー様が使者をやるという話は聞いたことがあるはずでも別の伝達式の話とでも思っていたのだろう。そしてようやく絞るように言葉を出した。


「それはそれは……。いや、しかしよりによって……」


「何か問題があるの? の、の、の?」


 公爵様は輿入れの経緯も知っているであろうに素知らぬ顔だ。ヨーゼフ様も親戚として送り込んだ女性が実は血族ではありませんなどと言うわけにもいかず引き下がる他になかった。もっとも、ヨーゼフ様の思い込みと異なり貴子様の母は全く別である。

 赤っ恥をかかされたと思ったのかヨーゼフ様はその矛先を私に向けてきた。


「いや、そもそもの話としてこの逆賊、いや逆臣がのうのうとここにいるのがおかしいと思いませんか?」


 次にロベルト様に同意を求める。


「お主もそう思わんかね? この裏切り者がおらねば蛮族の討伐など容易に終わっていたのではないかと。九伯家は宿願を果たし、お主らも諸侯の一人となっていたはずだ。いや、この裏切り者が正しく処罰されておれば、お主の場合は、新たなバトラーを選ぶ『執事の穴』に行っていたかもしれんな。それがどうだ? 九伯家の後継者として最も遠い子供(ガキ)のお守りだ」


「さきほどから『蛮族』は兎に角として『裏切り者』とは誰のことを言っておられるのですか?」


 ロベルトは素知らぬ顔で受け流した。


「は。爵位持ちの執事バトラー以外に誰がいる。そいつさえいなければ王のお力で北の地は更地になっていたものを」


「ポポポ。それは聞き捨てならないの、の、の。いかにバトラーをもってしても、王の力を防げるかの様に捉えられる言動は不敬になるのね、ね、ね?」


「あ……。そ、その様なつもりで申したわけでは……」


 ヨーゼフ様は興奮から一気に醒めた様子で大人しくなった。


「それに、ね、ね、ね。罰則もあったんだよ、よ、よ? 軽くなるように求めたのはボクだしね、ね、ね。なにせ『祖を同じくする者は助け合わなきゃいけない』し、ね、ね、ね」


 公爵様の言を聞き会場がざわついた。何のつもりか公爵様は私と親戚であると公言し始めたのだ。


 会場の貴族達は「ああ、バトラーの出身は謎だったが、公爵家(ゆかり)の者なら実力も納得だ」とか、「そういえば、バトラーが竜安寺商会に用意したと噂されてる馬は公爵家の馬に似てると噂だったしな。ハガン候の馬など聞いたことがなかっただけに納得だ」とか銘々に言い始めている。


「でもね、これは内緒にしておいて欲しいの、の、の」


 公爵様の一言で先程までの喧騒は一転して静寂に変化した。ヨーゼフ様の表情も媚びとばつの悪さが綯い交ぜになったものとなった。


「いやぁ、バトラーも人が悪い。それならそうと言ってくれればいいのに……」


「それは内緒だからね、ね、ね。ピエール殿も親戚を大事にね、ね、ね」


「『新しい家』ではそういう文化があるらしいですね」


 話を振られたピエールが呆れた様子で短く返した時だった。



「たのもーーー!!」



 子供の声で突然叫ばれるのとドアが乱暴に開かれたのは同時だった。いや、正確にはドアが破壊されたのと同時だったというべきだろう。

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